2020/07/28 のログ
カラス >  
黒い耳羽根は、そこから翼が生えてる訳ではなかった。
本当に羽根が集合しているのだ。
大きな一枚の羽根を軸に、根元に行くにつれて細かい羽毛が密集している。

それは、それぞれが音の感覚器だった。
触れられればぴこっと跳ねる。

「そう、なら……良かった……。」

"死ねない"にせよ、まだ少女が生きてくれると思うと、
失礼であっても青年は安堵するしかなかった。


「………わから、ない。俺も消えたいって思ったけど…。
 けど、俺は、やっぱり……生きて欲しいって、思ってる。
 悪いことかもしれない、でも。

 消えちゃったら、………のこされるのは、いやだから。
 のこされたヒトを、見るのが、いやだから。
 その子が見るかもしれない、"次の世界"が見られないのが、いやだから。」

大切な友達が今は何かまだ分からない。

けれど、もしそれが、己が失ったことのあるモノと同じなら。

神樹椎苗 >  
 椎苗は、その答えに視線を横に流すように青年をみた。

「いやだから、いきてほしい――」

 それはきっと、ただの我儘なのだろう。
 誰かの望みを足蹴にできるような、そんなものではないのだろう。
 けれど、遺されるのはやっぱり、いやなのだろう。

 本当なら、椎苗だって――

「――お前はやっぱり、それでいいんでしょうね」

 そして、どこか寂しそうに眼を閉じる。

「ならお前は、お前自身が消えないように、前を向くのですよ。
 前を向いて、考えることを、歩むことを止めるな。
 怖くても、一歩踏み出すことをやめるな」

 ふう、と長く息を吐いて、肩を落とす。

「それがお前に、いつか必ず。
 迷って悩んだだけの答えをくれます。
 この超絶可愛い美少女ロリが、保証してやりますよ」

 そんなことを、本気で、冗談のように言った。

カラス > 「…俺、お母さん、消えたから……。」
カラス >  
「……うん。俺は、そう思う……ごめんね。」

足蹴にしたい訳じゃ、ない。
だから少女には本気で言えずに、中途半端に言いかけて、言葉を切り取った。

「……ありがとう。」

少女の言葉に、青年は呟いた後、下手くそな笑みを浮かべる。

これは我儘にもならない。
願いですらない。祈りにも似た何か。

失われた誰かにもどうか、永遠に残ることは叶わずとも。

神樹椎苗 >  
 小さなつぶやきは、風に流されるだろう。
 それでもわかる、それくらいは。
 青年もかつて、大切なモノを失ったことがあるのだと。

「――ほら、いつまでもこんな場所にいるもんじゃねーですよ。
 いつまでもしいに構ってると、お前が泣くまで意地悪するかもしれねーですよ」

 そう言って、もう話は十分だろうとばかりに、左手で追い払うようなしぐさをして見せる。

カラス >  
「う、…君に、泣かされるのは…やだな…。」

精神年齢でいえば逆転状態と言えなくすら無いのだが。
見た目だけでいうと少女と青年である。

そして彼女はやると決めたら容赦しなさそうである。
いや、印象だけで述べているのだが。

「……ん、じゃあ…気を付けてね、しいなさん。」

困ったように笑う。
とりあえず今日は生きてくれるというなら…と。


「"またね"。」

けれど、青年は少しだけズルい言葉と共に、その場を去った。

――羽音がする。

ご案内:「大時計塔」からカラスさんが去りました。
神樹椎苗 >  
「はいはい、気を付けますよ。
 ――そうですね、また」

 と、一息、言葉に詰まりそうになりながら返して。
 見送る事もなく、羽ばたく音が去っていくのを聞いていた。

神樹椎苗 >  
 羽ばたきが聞こえなくなって、再び時計塔は静かになる。
 椎苗はまた、虚空を見上げながら、『演算』を続けた。

 『のこされるのは、いやだから』

 『その子が見るかもしれない、"次の世界"が見られないのが、いやだから』

 泣き出しそうな青年の言葉が、耳に残っている。
 吐き出した吐息は、床に吸い込まれそうなほど、重い。

「またね、また――また、ですか」

 ぽつ、ぽつ、と。
 去り際の言葉を繰り返す。

神樹椎苗 >  
 『またね』と言えなかった相手がいる。
 『またね』と言いたかった相手がいる。

 空を仰いだ目の上に、左腕を載せた。
 目を覆うように、零れ落ちるモノがないように。

『――――――』

「後悔なんか、してませんよ」

 椎苗はすべきことをしたのだ。
 『友達』として、椎苗に出来ることを。
 そして今も、やろうとしている。

神樹椎苗 >  
 自分は間違っていたのだろうか。
 本当は止めるべきではなかったのだろうか。
 もっと一緒に居たいと、わがままを言うべきだったのだろうか。

 ――答えは出ない。

 そして、今更なのだ。
 もうすべては終わって、たった一人の『友達』は終わりを遂げて。
 『友達』がいた痕跡はすべて消え去り、誰一人として悲しむ人はいない。

 遺されてしまったと思うのは。
 置いて行かれたと思うのは。
 ――連れて行ってほしかったと思うのは。

 ただ一人、椎苗だけなのだ。

「ほんと――バカですよ」

 溢れ出した声は、泣き出しそうなほど弱弱しかった。

ご案内:「大時計塔」に橘 紅蓮さんが現れました。
橘 紅蓮 > 「……。」

煙草をふかしながら扉を開ける、何やら泣きそうな声が聞こえて、忌々し気に携帯灰皿に煙草を押し込んだ。
もうそろそろ筒上のそれも中に入りきらなくなる。

「ちっ……これだからガキは嫌いなんだ。」

完全な八つ当たりを少女に聞こえないように独り言ちり、歩を進める。
子供は嫌いだ、ずうずうしくて泣き虫で、ついでに分かったような口をきくから。
まぁしかし、それでも放置してやるのは職務怠慢というべきなのだろう。
仕方なく、仕方なく少女の背後に立った。

「ダチでも死んだのかい? そんな泣きそうな声出して。」

少女を見下ろして、尋ねる。
今は慰霊祭の真っ最中だ、そういう事があってもおかしくはない。
軽いジョークのつもりではあるが、いや、この年代の子供には少々重いだろうか。

神樹椎苗 >  
 扉を開ける音がする。
 今日もどうやら、ここは人気のスポットのようだ。

「――なんですか、お前は」

 左腕を降ろして、怪訝そうな青い目を向ける。
 目の前の人物には見覚えがなかった。
 学園の教員、関係者であることは間違いないのだろうが。

「ああ、別に嫌々構ってくれる必要はねーですよ。
 しいも、誰かさんのお節介なんか望んでねーですしね」

 降ろした左手で、木乃伊の右腕を叩きながら情報を拾う。
 名前と所属、仕事――この女はカウンセラーのようだ。
 それにしては、不愉快そうな様子を隠そうともしないのはどうかと、同じように不愉快そうな顔を向ける。

橘 紅蓮 > 「口の効き方がなっていないガキもいたもんだね。 人がせっかく見に来たっていうのに。
 質問の答えもなしかい。
 ずうずうしいガキだよまったく。」

怪訝そうな目を見返す、邪険にされるのは慣れているつもりだ。
そう、慣れている、こういう子供もよく見た事がある。
異能があるかないか、という違いは大きいのだろうが。

「お前が望んでいようが居まいが関係ないんだよ。
 私が興味を持った、お前は無視できずに答えを返した。
 それが全てだお嬢ちゃん。
 お節介が要らないというのなら、あぁ、しないとも。
 私も好きにするだけさ。」

少女の隣を通り抜けて、時計塔の縁に立つ。 飲むつもりだった安物の赤ワインを取り出して、コルクを無理やり引き抜いた。
いつかのように、またそれをただ真下に流す。
血の雨のように降り注ぐワイン。
この高さなら、下に届くころには霧か雨粒か。
まぁ、下の連中には精々べたついた気分を味わってもらうとしよう。

神樹椎苗 >  
「それは悪かったですね、しいは口の利き方なんか、習ったこともありませんので」

 好きにするさと言われれば、椎苗もお好きにどうぞとばかりに肩をすくめる。
 女の行動も特別、気を引くものではない。
 少々、奇抜な行いではあったモノの、その意味を問うほどの関係性は椎苗と女にはないのだ。

「――それで、こんなところまで何しに来てんですか。
 仕事をさぼるんなら、邪魔でしょーから消えてやりましょうか」

 『消えて』と言葉にしながら、自嘲するように笑いつつ。

橘 紅蓮 > 「だったら誰か教えてくれる先生でも探すんだね。」

墜ちていく雫を見ながら、あぁ、勿体ないと呟く。

なんとも不愛想で、その上無駄に自分を卑下するものいいをする少女の言葉が背中を突き刺してくる。
別にそれに何かを感じるというわけでも……ない。
少なくとも、彼女は私に救われることを望んではいないのだから。

「これも仕事の内さ、この学園一人ひとりのメンタル状況を逐一確認しておく。
 まぁ現実的には無理な話だから? こうして一応は見ておきましたよ、っていう形式的な物言いをするための。
 あぁ、高みの見物ってやつさ。」

最後の一滴がしたたり落ちて、空になった瓶を適当に転がした。
高い場所だからか、風に白衣が引っ張られる。
バタバタと騒がしい音は、不思議と心地がいい。

「消えたいならお好きにどうぞ、止めもしないさ。
 質問にくらい答えてほしいものだがね。」

神樹椎苗 >  
「なんだ、仕事熱心な事ですね。
 高みの見物ご苦労様ですよ」

 それも仕事のうち、というのだろう。
 質問に答えろという女に、椎苗は腰を上げながら――『友達』の顔がちらつく。

「――別に、ただ、最近お節介が多すぎて、死ぬ事もできないと嘆いてただけですよ」

 柱に結んだロープを示して。
 スカートの下に収めていた短剣を抜き、柱の結び目を切り落とした。

橘 紅蓮 > 「そりゃぁ気の毒なこと。 なんだい、お前死にたいのか?」

バカですよ、と聞こえた言葉に、何か関係があるのだろうかと思案して。
いや、そう考える必要もないなと首を振った。
もし、そのバカの願うことが彼女が死なない事だとしたら、それはもう十分に叶えられている。
死にたいからこそ、そんなロープを括っていたのだろうが、それも彼女にはできなかった様だ。

「別に、死にたければ死ねばいいんじゃないか?
 あの馬鹿共、日ノ岡あかねがおこしたみたいに、お前も『真理』とやらに頼めばいい。
 そうじゃなくてもそのロープを使えばよかったじゃないか。
 他人に遠慮する必要あるのかい?」

ふと、代案を提示する。
死ぬ方法が零なわけではないのだろうと。
何かにつけて反論は還ってきそうなものではあるが。
おそらく本当に死にたいのであれば、そうするはずだ。

神樹椎苗 >  
「真理――口にするとなおさらあほらしいですね。
 トゥルーバイツでしたか。
 連中はしいからすれば――『生きてる』くせに、贅沢なやつらですよ」

 ロープを片腕で、少しばかり苦戦しながら巻いていく。
 作業をしながら、酷く疲れたように息を吐き、頭が下がる。

「しいは死にたいですが――他人の泣き顔を見たいわけじゃねーのです。
 半べそかいて死なないでほしいと言われれば、その気も失せるってもんですよ」

 先刻やってきた青年の顔が浮かんで、一度手を止めた。

「――しいのこれは癖みてーなもんですから。
 死ねないくせに、死ぬ事がやめられない、でも我慢は出来る。
 お前がタバコを吸っているのと変わんねーですよ」

 そう答えて、再びロープを片付け始める。

橘 紅蓮 > 「あぁ、確かにアホらしい。仕事の増えるこっちの身にもなってほしいね。」

ヤレヤレと首を振る。
……少し苦戦している様子の少女の腕かたロープを取り上げて、せっせと引き上げていく。
この少女は大人に頼るという事を知らないのか、頼る理由がないだけか。

「そういうもんかい。 分からんね、生死観の狂ってるやつのいう事は。
 半べそをかかれる程度で失せる『死』か。
 まるで娯楽感覚だな。 私の煙草と同じっていうなら尚更。」

たばこ臭いかね、と自分の体臭を嗅ぐ。
確かに、少々酸味のある煙の臭いはするかもしれない。

「生きているくせに贅沢……か、生きているからこそ悩めることもあるんだろうがね。
 死んじまったらそれもできなくなる。
 あぁ、私には奴らの気持ちはわからんよ。
 お前のこともわからん、まったく、難儀な時代になった物だ。」

昔なら、もう少し寄り添いあうこともできただろうに、そう口にこぼす。
人類には、互いに分かり合えなくなる要因が増えすぎた。
だから、誰もが見て見ぬふりをして、そして誰かが死にたがる。
紅蓮の仕事は無くなることはない。

神樹椎苗 >  
 ロープを取り上げられると、複雑そうに表情をしかめながら、左手でひったくる様に奪い返した。

「――まあ、感謝はしてやります」

 と、むすっとした釈然としない様子で目をそらした。

「他人の事なんて、結局どこまで行ってもわかりはしねーでしょう。
 理解したつもりにはなれても、相互理解なんか夢物語です。
 それでも、ほんの一部だって理解しあえたのならそれは――」

 『友達』と呼ぶのだろう。

「――、なんにせよ、しいにとって自殺は『そんなもの』なんです。
 生死観、狂ってるんでしょうね。
 まともに道徳も学んでませんからね、初等教育の敗北ですよ」

 撒いたロープを左肩に担ぎ上げる。
 椎苗の体格には随分と不釣り合いだが、それをなんでもなく担ぐのは、魔術か異能の恩恵だろうとわかるだろう。

「それで、質問には答えましたが。
 せんせーさまにはご満足いただけましたかね」

橘 紅蓮 > 「ふぅん……」

ひったくられたロープが担がれるのを見送る。
そこまで不機嫌そうにしなくてもいいだろうに。
どうしたら10歳そこそこに見えるこの少女がそこまで歪んでしまうのか。

「……世の中には、そんな一部すら見ようとしない奴らであふれてる。
 見ようともしないから、見逃して、後で後悔する。
 理解することを拒むから……、手遅れになって気がつくんだ。」

ふと、例の『真理』の一件に巻き込まれた少女を思い出す。
同じ年ぐらいだったな、とそれだけの理由。
死を視たショックによる気絶だったか、そんな報告書があったっ筈だ。
まぁ、この子には関係あるかないかもわからないが。

「そう思うなら学べばいいだろうに、ここは学校なんだからな。
 ……その狂った倫理観に巻き込まれた女子児童が居るらしいよ。
 ちょうどお前ぐらいの年の女の子だったか。
 何を考えてあんな場所にいたのやら、それこそ、誰を理解したかったのか。」

だから子供は嫌いだ、誰かが心配するという事を考えないから。
この子も、その子も、どいつもこいつも、救えない。

「あぁ、満足だよ。 私はこれで、視て見ぬふりをしたわけではなくなったからね。
 お前の価値観に触れることぐらいはできただろうさ。」
 

神樹椎苗 >  
「なんだって、気づいたときには手遅れなんですよ。
 ――違いますね、気づいてほしいとサインが出た時には、もう遅いのです」

 そして、サインが出なければ――気づくことは難しい。

「これでも、理解しようとは務めてるつもりですけどね。
 それでもわからない事だらけだから、頭を抱えたくも、嘆きたくもなるのですが」

 他人よりも、よほど多くの情報と高い処理能力を持つ椎苗ですら。
 他人どころか自分の事すら、解らないのだ。
 それでどうやって理解しあえるというのだろう。

「学んでますよ、現役学生ですし。
 ぴちぴちの一年生、十歳、美少女ロリです。
 しいのステータスの高さに驚きやがれですよ」

 ふん、と鼻を鳴らしながら、より一層不遜な態度で女を見上げた。

「まったく、不運なやつがいたもんです。
 カウンセラーなら、そういうやつのところへ行くべきなんじゃねーですかね」

 そう答えながら、踵を返す。

「せんせーさまも、難儀な商売ですね。
 しいみたいな歪んだクソガキなんて、ほっときゃいーでしょうに。
 ――それじゃ、どうぞごゆっくり」

 そんな言葉を投げ捨てて、椎苗は時計塔から去っていこうとするだろう。

橘 紅蓮 > 「……ほっとけ、というには会話に付き合いすぎなんだよ。クソガキ。」

去っていく子供を見送って、再び階下を見下ろした。

「大人ぶっちまって……かわいそうな奴もいたもんだ。 言うと怒るんだろうけど。」

煙草に火をつけて、ぼんやりと光る赤い灯を見る。
彼女の命は、この小さなものか、それとも大樹に燃え移った大火なのか。
まぁ、どちらでもいい。
此処から飛び降りないというのであれば、自分の仕事が増えることもいない。

「……理解しようとしている、か。」

わたしには、そうは見えないけれどね。
独り言は、煙と共に宙に消えて行った。

ご案内:「大時計塔」から橘 紅蓮さんが去りました。
ご案内:「大時計塔」から神樹椎苗さんが去りました。