2020/08/02 のログ
ご案内:「大時計塔」に水無月 沙羅さんが現れました。
水無月 沙羅 > 落第街やスラム街にある、提供された幾つかの隠れ家を転々とし、風紀委員から、あの人から逃れてきた。
それも今日で終わり。
現実から目を逸らして、月に願うのは今日でおしまい。
ロマンチシズムを、幻想をあの人に押し付けるのはもう終わりにしよう。

幻想は現実にはなりえない。
どんなに願っても、星に願っているだけでは意味がないのだ。
ロマンチシズムに思いをはせるのが悪いと言いたいわけじゃない。
其れに寄り掛かって、其れを誰かに押し付けてしまうのは、それはもうエゴイズムでしかないのだ。
それを、在ろうことかエゴの塊とでもいうような人に教えられた。
でも、ある意味必然だったのかもしれない。
エゴで動いてきたからこそ、彼は彼女を救えたのだ。
我儘という名のエゴイズムを突き通したからこそ、あの事件は大団円とは言えずとも、最悪の中の最善をつかみ取った。

「でも。」

それは、許されるのだろうか。

水無月 沙羅 > 星空を見上げながら想う。
自分の『我儘』は、誰かに押し付けてもいいモノだろうか。
それは負担にはならないだろうか。
誰かを傷つけてしまうのではないだろうか、誰かを壊してしまうのではないだろうか。
『我儘』、言い換えれば、自分のしたいことを他人に『強要』しているともいえる。
それは暴力と何が違うというのか。
誰かを説得するということは、それは何かを諦めさせるという事だ。
それは、その人の抱えている何かを『殺す』という事だ。

侍の様な彼は。

『"知るか、そんな事"』

そう言ったけれど。
それを言うのは、それを通してしまうのは、とても怖いことなのだ。
他人を傷つけるというのは、とても怖いことなのだ。
それは時に、人の人生を大きく変えてしまうから。
お互いの関係を大きく変えてしまうから。
変化は破壊からしか生まれない。
それを痛いほどわかっているからこそ、それに恐怖せずにはいられなかった。

水無月 沙羅 > 「難しいね、『我儘』を貫き通すのって。」

『生きたい』 ただそれだけの我儘を通すために、自分は多くの命を奪った。

『隣に居たい』 ただそれだけの為に、多くの命が失われていくことに目をつぶった。

『お人形にはなりたくない』 ただそれだけの為に、彼を独りにしてしまった。

何かを成すという事は、何かを失うという事とセットなのだ。
一歩間違えれば、取り返しのつかない結果になるかもしれない。
もう二度と戻れない。 失ったモノは還らない。
消えた命がもう一度灯る事は無いように。
過ぎてしまった時間は戻らないのだ。

時間を遡る自分の異能は、本当の意味で時間を戻してくれるわけではない。
そうあったという記録をもとに、上書きしているに過ぎない。

水無月 沙羅 > 「それでも。」

それでもと言い続けなければ、どんなに苦しくても、どんなに辛くても。
それでもと言い続けなくては、何も変わらない、何も変えられない。

「やらなくちゃいけないんだよね。」

「決めたんだから。」

「あの人を『助ける』って、決めたんだから。」

どんなに遠回りでも、どんなに空回ったとしても。
そう決めたのならば。
『我儘』を通すと決めたのならば。
その痛みを胸に、傷つける事を覚悟して、傷つくことを覚悟して。
前に進むしかない。

「だから、見守っていてくれますか。」

星空に願う。

今度は、『幻想』ではなく、『現実』にするために。

ご案内:「大時計塔」から水無月 沙羅さんが去りました。
ご案内:「大時計塔」に水無月 沙羅さんが現れました。
ご案内:「大時計塔」から水無月 沙羅さんが去りました。
ご案内:「大時計塔」に水無月 沙羅さんが現れました。
ご案内:「大時計塔」に神代理央さんが現れました。
水無月 沙羅 >  
 
―――A few minutes after that.
 
 

神代理央 > 謹慎の処罰を受けての週末。
昨日と同じ様に自宅での事務処理を片付け、あてどなく徘徊する様に外出した。
あの広い部屋に一人で閉じこもっている事が、想像以上に、辛かったから。

多くの人々で賑わう学生通りや商店街を横目に。
彷徨い歩いた足が向かった先は――島を見下ろす大時計塔。
孤独になりたかった訳じゃない。
ただ何となく。本当に何となく。静かに夜空を見上げてみたくなったから。

「……とはいえ、此処に来るまでが一苦労ではあるがな…」

僅かに吐息を乱して。
立ち入り禁止になっている大時計塔の展望台への扉を開いた。
大きく金属が軋む音と共に足を踏み出せば、吹き抜ける夏の夜風が頬を撫でる。

――そして、視界の先に。
一番会いたかった人が。
一番会いたくなかった人が。
其処には、居た。

水無月 沙羅 > この街で一番高い場所。
全てを見渡せるその場所で、不意に風が吹いた。
巻き上げられる髪を抑えながら、風の吹いてくる方へ振り向く。
いつの間にか星空に吸い込まれていた意識が、開かれていたドアに向けられる。

誰が来たのだろう。
あの小さな先輩か、それとも星空の瞳を持った少女か。
そんな想像は思いもよらぬ訪問者によって打ち砕かれて。

「理央さん……?」

本当は、自分が連れてきたかったこの場所に。
いつか連れて行くと約束したその場所に。
この街で一番『重力』の軽いこの場所に。

今は一番来てほしくない人物が立っていた。

「……奇遇ですね。」

驚く心を胸に隠して、彼を見つめる。
目を細めて、笑いかける様に。

神代理央 > 「……ああ、奇遇だな。本当に…まさか、此処でお前と会うとはな」

彼女の視線を受けて。彼女の言葉を聞いて。彼女の笑みを見て。
己は果たして、どんな表情を浮かべているのだろうか。
少なくとも、きっと自然に笑えてはいない。
真面目な表情を、意識しているつもりなのだが――

「……にーな、と名乗る少女から、生活に困窮していると聞いた。
不便にしている事があれば、多少は協力するが」

コツ、と革靴が床を叩いて、彼女の元へと一歩踏み出す。
何時もに比べて随分と重たい足を意志の力で引き摺りながら、少女から数歩離れた展望台の端。手摺に身を預けて、夜空を見上げる。

「とはいえ、資金援助程度しか出来ないがな。大手を振って、行方不明扱いのお前を援助するのは、色々と勘繰る者がいるからな」

表情を変えぬ儘、彼女に顔だけ向けて言葉を紡ぐ。
己でも判断のつかぬその表情は――泣いている様な、笑っている様な。様々な感情が無秩序に注がれ、溢れ出しそうな。
そんな表情の儘、彼女に向けて静かに言葉を紡いだ。

水無月 沙羅 > 「私は、良くここに来ますから。 立ち入り禁止ですけど。」

少しだけ苦笑する、本来学生は立ち入り禁止であるこの場所に、風紀委員という秩序を守る者が二人して並んでいる。
誰も気にしてはいないが、問題がないというわけでもない。
何より、こんなところまで来た彼が未だに物調面なのがどこか可笑しくて。

「……先輩。 やっぱり馬鹿でしょう。
 スラム街や落第街で、あんな大金持って歩けるわけないですよ。
 お札やらなにやら、あそこでは有名人になった私は、ほとんど相手にされませんよ。
 なにしろ、神代理央の恋人、ですからね。」

目の上のたん瘤、関わりたくない相手。
手を出したら、関わったら、どんな仕打ちが待っているかわからない。
それも自分たちを散々ないものとして扱ってきた人物の関係者。
袋叩きにされないだけマシだったともいえる。
少し考えればわかるだろうに。

紅い革財布を、塔の下に落ちないように彼の足元に滑らせる。

「泣きたいような顔、してますね。 独りは、辛かったですか?」

何処か強がってみせる少年に、昔の自分が重なった。
空を見上げる彼に倣うように、先ほどまで見上げていた星空をもう一度眺めた。

月は明るく二人を照らしている。

神代理央 >  
「…感心しないな、と言いたいところだが。私自身もこうして訪れている身だ。バレない様に、程々にしておけ」

淡々と、注意――というより忠告の色合いが強い言葉で彼女に応える。
それは正しく『部下を注意する上司』『後輩に忠告する先輩』を守る様な。意識して、一線を引く様な。

「……そうか。アナログではあるが、電子決済の必要無い現金であれば、と思ったが、役には立たなかったか。すまないな。
……お前は、命を狙われている身だ。その理由が、私の恋人であるから、という訳では無かろうが、一因である可能性は高い。
余り広言するな。自分の身を守る事を、第一に考えろ。
…本当は、此処で会うとも思っていなかったし、会いたくはなかったよ」

感情という水が、縁一杯迄溜まった様な表情が一変。
苦虫を噛み潰したような表情へと変われば、その言葉は責め立てる様な色すら浮かぶ。
足元に滑り込んだ紅の皮財布。それを一瞥すると、黙って拾い上げ、懐へと収める。

「……冗談を言うな。私は、一人でいる事の方が長かったのだぞ。
今更、今更独りが辛いなどと思う訳がなかろう。
私は『鉄火の支配者』と呼ばれる男だ。孤独に揺さぶられる様な柔な精神なぞ、しておらぬ」

フン、と高慢な色の滲む吐息と共に、吐き捨てる様な。彼女を遠ざける様な言葉を投げつける。
そのまま、視線は再び輝く星空へ。穏やかな月光へ。

優しい月光すら、今は忌々しかった。

水無月 沙羅 > 「……。」

少年の言葉を一言一句聞き逃さないように聴いていた。
窘める様に、高慢な男のように、孤独が辛くないように、そう見せかけるその少年の声を聴いていた。
あぁ、どこまで言っても彼は、私の前でさえもまだ、その仮面を脱げずにいる。
『鉄火の支配者』、そう望まれる形を保てるように。
自分を偽るのだ。

――――風の音が、沈黙を許さないかのように鳴る。

何処か気まずい雰囲気が続く中で、少女は、沙羅は口を開いた。
もう、『ごっこ遊び』は終わりにしよう。

「そうやって、何時まで強がっているんですか?」

「そうして、何時まで泣き顔を仮面で隠し続けるんですか?」

「私を突き放して、守っているつもりなんですか?」

「本当は、泣きたくて仕方ない癖に。」

少なくとも、水無月沙羅に垣間見せていた神代理央は。
『鉄火の支配者』の仮面から覗いていた小さな少年は。
そんな人間ではなかった。

神代理央 >  
「……分かった様な口を、聞くな」

手摺を握る掌に、力が籠る。

「……もう、私の仮面は癒着して剥がれない」

「演じる事が楽だからな。求められるが儘にいる事の、何と気楽な事か」

「その結果が、あの道化師紛いの殺し屋なのだから、笑い話にもならぬが」

ゆっくりと、少女に顔を向ける。
その顔は――少女の言う通り。思う通り。
泣きだすのを堪える様な、子供の様な表情で。

「今更戻れないんだよ。私が何人殺したと思っている。どれだけの人の物語を、終わらせたと思っている」

「今更『これからはいいひとになるからゆるしてください』などと戯言を吐けるものか」

「もう許しは請わない。もう切り捨てる事を躊躇ったりはしない。
私はシステムの守護者。多数派の幸福を維持する者。『秩序ある社会』を守る者」

ギシリ、と鉄柵が軋む音がする。
魔術について、少年よりも造詣の深い少女であれば分かるだろうか。
半ば暴走めいた形で、肉体強化の魔術がその躰から滲みだしている事に。握りしめた手摺が、悲鳴を上げて歪み始めていた。

「……だからもう、俺の傍に来るな。俺は、独りだってやっていける。
今迄上手くやってきた。今日までだって、上手くやっている。
だからもう、来るな。もう、俺の傍に、俺の、隣に――来るな!」

吠える様に叫んで、手摺を拳で叩き付ける。
不安定な形で発動した魔術は、金属が拉げる音と共に鉄柵と己の拳を平等に傷付けた。

――不慣れな激昂の後。
息を荒げながら俯く。
少女と視線を合わせない様に。合わせられないと、いうように。

水無月 沙羅 > ――来るな。

その言葉が発せられるのと同時に、いつかの時と同じように。
魔力を込める、肉体を強化する、自分の体が傷つくことをいとわない魔術を行使する。
そして。
鈍い音が、神代理央の頬に突き刺さる。
振り上げられた拳だけ、強化は使わずに、少女の等身大の強さで。
万感の思いを込めて。

「甘えないで。」

冷え切った声で、其れこそ、突き放すように。

「甘ったれたこと言ってんじゃないですよ。」

胸倉をつかんで、睨むように額同士を強くぶつけて。

「逃げるな!!!」

少年の仮面を、文字道理殴りつけた。

神代理央 >  
頬に走る鈍い痛み。
それと同時に、視界が揺らぐ。
少女に、文字通り『殴られた』のだと気付いたのは、胸倉を掴まれてからだった。

「……な、にを…!」

咄嗟に向けようとした反論の言葉は、ぶつけられた額からの衝撃で打ち消される。
それでも、彼女を睨み付ける様な視線を向けて。
胸倉を掴む彼女の手を解こうと、その手を強く掴んで。

「……逃げて何が悪い!求められる事を演じて、かっこうをつけて、何が悪い!それが望まれているんだ、そうしていればいいんだ!」

抗っているのか、泣き叫んでいるのか。
最早己にも、判断がつかない。

「………もう、期待させるな。お前がいなくなった時、俺は少しだけ安心したんだ。
見限ってくれたんだと。逃げてくれたんだと。これでもう、俺はお前を傷付けずにすむんだと」

「なのに、お前は『鉄火の支配者』から俺を取り戻す、などと言伝だけ残して。腕章を残して」

「お前も狙われていると、まことしやかに噂が囁かれているというのに、そんな馬鹿な事をして」

「………頼むから、もう俺を独りにしてくれ。誰かと一緒にいる事が出来る、なんて期待を、もう俺に、抱かせないでくれ」

彼女の手を掴んでいた己の手は、いつの間にか解けて垂れ下がっていた。
視線を合わせず、俯いた儘。ぽつりと、言葉を零した。

水無月 沙羅 > 「悪いに決まってるでしょう!!」

眼すら合わせようとしない少年の顎を掴んで、無理やりに向かい合う。
あふれだす感情を、もう抑える事をしない。
感情とはこう出すのだと見せつける様に、怒りと、悲しみを溢れらせて。

「求められることを演じて? じゃぁあなたは、私の望みが見えてないというんですね!」

大衆の望みなんて知らない、私を視ろ。

「もう忘れたんですか? 私は貴方と傷つきたいと願ったんだ。」

そうやってあなたは、また私から目を逸らして、自分の心からも目を逸らす。

「もう忘れたんですか? 私は殺されてなんかやらないって、言ったはずだ。」

殺し屋がどうだというのだ、私は生きて居る、こうして、生きて居る。
死んでなんかやるものか。

「バカなのは貴方だ、そうやって、一人で全部抱え込んで。 独りになろうとして。
 貴方の本当の気持ちから逃げてばかりいる。」

「仮面の裏にこそこそ隠れて、それが剥げないっていうなら!!」

「私が、『鉄火の支配者』を殺してあげます。」

少年の首を、少女の力とは思えないような力で締め上げる。
気道を抑え、呼吸を止める。
少女の目は冷たく少年に突き刺さる。
底冷えするような、少女の殺意が確かにそこにはあった。

水無月 沙羅 > 「私を視ろ。 神代理央。」
神代理央 >  
「……か……はっ……」

首に、少女の指が絡まり、締め上げられる。
酸素を求めて手足が揺れる。塞がれた喉が、懸命に酸素を得ようと少女の中で震える。
向けられた明確な殺意。生命の危機。


【ほら見た事か。こういう事に成る筈だ、と常々警告していたというのに】

【出来損ないの仮面を被っているからだ。非情になりきれぬ癖に、非情であろうとするからだ】

【苦しいだろう?息も出来ず、心が軋み、何もかもが辛いだろう。私は、全て分かっているよ。何せ、生まれた時から、お前は私の大事な大事な――】


酸素が途切れ、視界が点滅し、昏くなっていく。
その最中。己の内奥から声が響く。動かない筈の手足に、奇妙なまでに力が籠る。
今なら、容易に彼女を振り解ける。それに、少し疲れた。
暫く眠っていても、バチは当たらないだろう――


【だが、まあ、良いだろう。さあ、ゆっくり休め。後は私に任せよ。先ずは此の忌々しい女を、お前の目の前から排除してやろう】

神代理央 > 「……そ、れは。だ…め、だ。こいつは、おれの、おんな…だからな…」

万能の力が満ちた様な手をゆっくりと持ち上げて。
虚ろな視線と、呼吸の儘ならぬ喉から、漸く単語として成立する様な言葉を零して。

神代理央 >  
 
 
「……かわいいな、おまえ。ほんとうに、さらは、かわいいな」

そっと、彼女の頬を撫でる。
神が宿ったかの様な力は、もう満ち足りてはいなかった。