2020/08/28 のログ
ご案内:「大時計塔」に水無月 沙羅さんが現れました。
■水無月 沙羅 > この場所に来ることも随分と久しぶりだ。
もうすぐ夏も終わり、秋が時期に屋ってくる。
夏の大三角形もそろそろ見納めだろうか。
毎日のようにここにやってきていたころのことを思い出す。
この場所にやってきた理由は様々だ。
星に願いを託してみたり、思い悩んで考えに来たり、誰かに逢えることを少しだけ期待したり、学園を眺めに来たり。
本来立ち入り禁止のこの区域にここまで足しげく運んでいる人間もそう多くはないだろう。
それとも自分が知らないだけでそれなりに人数が居たりするのだろうか。
その人たちにとって、この場所はいったいどんな場所なのだろう。
沙羅にとっては、行き詰った時に来る場所になりつつあった。
もちろん、単純に景色を楽しみたいというときもあるが、おおよその場合、自分の進むべき道に迷ったり、覚悟が決まらなかったりするときに、心の整理をする場所だ。
理由はいくつかあるが、『水無月沙羅』が産まれた場所で、『水無月沙羅』が様々な転機を迎えた場所だからというのが大きい。
ここに来れば、何か解決策が見つかるような気がしている。
『星に祈る』だけの自分はもうやめた。
今は、自分で考えなければならない。
それでもやはり難しいことはいくつもある。
そのどうしようもない難しい問題を、少しでも軽くしてくれることを星空に期待する。
もしくは、誰かに手を伸ばされることを期待して。
……随分と、自分は弱くなった。
そう、思う。
■水無月 沙羅 > 転落防止用の柵に背中から少しだけ寄り掛かり、夜空を見上げた。
天の川―ミルキーウェイ―はここからでは見えない。
山中から見るのならばそれは明るく輝いているのかもしれないが、直下に明るい街並みのあるこの時計塔から視認するのは難しい。
視力の良い生き物ならその川も見えるのだろうか、例えば、猫のように光を集めやすい動物とか。
そのまま真上を見上げると、夏の代表的な星座の一つ、ヘルクレス座が見える。
全天で5番目に大きい星座で、おそらくは誰もが一度は目にしたことのある、ギリシャの大英雄をなぞらえられた星座。
いや、英雄ヘーラクレースが神になって星座に迎え入れられたのだったか、まぁ順番など些細なことだ。
三等星より暗い星が多いばかりに、他の星に埋もれてしまい、見つけるのが少々難しい。
星座の本には、逆さまの巨人などと書かれていただろうか。
曰く、ヘーラクレースは十二の功業を成し得て神に迎えられたという。
もともとは大神ゼウスの実子だというのに、神として受け入れられなかったというのも妙な話だが、神様というのは色恋沙汰の修羅場が多かったらしい。
それもこれもゼウスの女好きの災いという事だろうか。
自分の想い人を思い出したが、彼はそんなことはしないだろう、たぶん
兎に角、そのヘーラクレースは並々ならぬ努力の末に、父親たちに認められたという事なのだろう。
誰かに認められるという事は、それほどの大業の成さねばならないという戒めの物語にも聞こえてくる。
私は、後幾つの成功を得られたら、誰かに認めてもらえるのだろう。
そもそも私は、何かを成し遂げてこられたのだろうか。
あの英雄のように、誰かに何かを誇れるようなことをしてきたのだろうか。
分からない。
ご案内:「大時計塔」に霧島 孝介さんが現れました。
■水無月 沙羅 > 「どうすればいいのかなぁ。」
思わずため息が漏れ出る。
全力で生きてきて、全力で走ってきたこの道を振り返る。
この作業ももう何度目だろう。
想えば、自分は誰かの為にと何時だって全力で走ってきたつもりだ。
『神代理央』という個人に向けてのことがその最たるものだが、基本的にはそのスタンスを崩した来た事は無い。
誰に対しても、助けを求めるモノにならいつだって。
時には、そんなことは望んでいないという頑固な仮面を叩き割ってでも。
だが、それはいつだって苦難の連続だった。
心苦しいことの連続で、間違いも多く重ねてきた。
もしその道が間違っていたのだとしたら、自分はどうすればいいのだろう。
今はそういう考えばかりが過っている。
少女はいつだって『独り』だった。
『水無月沙羅』としてこの場所で新たに生まれ変わるまで、『独り』で生きてきた。
ひとりで生きるためには、何時だって全力でいなければいけなかった。
生きるために必死になって、必死に己を殺し、感情を殺し、全てを諦めて、全てを受け入れる。
しかし、今の『水無月沙羅』は一人ではない。
独りではなくなった。
それはつまり、彼女が想う人、彼女を想う人が居るという事だ。
それは喜ばしいことでもあって、同時に悩みの種でもある。
決して、彼らが悪いという事ではない。
人間として生きて行く上での、コミュニケーションという問題が彼女に立ち塞がったというだけの話。
今までそんなものを必要としなかった彼女にとって、その距離感は難しい。
何時だって自分の我儘を通してきた、しかし、それは許されないのだと気が付き始めた。
誰かを心配にさせる。
誰かの心配をする。
そんな感情に振り回されている。
全力しか知らない少女は、自分が傷つかない方法を、誰かが傷つかずに済む方法を、知らなすぎる。
■霧島 孝介 > 大時計塔からの眺めは幻想的で。
人々の営みの灯りは正しく絶景と呼べるに相応しい代物である。
風が吹く音以外は静寂に包まれたその場所へ。
高速で近づく光が一つ。
「――――ぁぁぁあああああ!!!」
静寂を突き破るような叫び越えと共に青年が飛んでくる。
その背には光と炎を吹かし、推進力を生みだしているジェットパックが背負われている。
時計塔に近づくにつれてそのエネルギーは途切れ途切れとなり、やがて消える。
彼女の頭上、時計塔の頂上付近の壁にぶつかるように止まり、壁にしがみ付く。
「し、死ぬ…もうダメだ!死ぬ!死ぬ!!絶対死ぬ!!」
完全に青ざめた顔でブルブル震えながらそう叫び散らす。
目いっぱい壁にしがみ付いて、ガチガチ体を硬くしながら、目は今にも泣きだしそうなくらい涙目になる。
その叫び声は下にいる彼女にも聞こえるだろうか。
■水無月 沙羅 > 「えぇ……?」
星座を見ながら想い耽っていたと思ったら、聞こえてくる叫び声。
流星のごとく生み出される焔はやがてぷすぷすと情けなく途絶えて、白い煙を上げている。
推進力は失われ、慣性の力だけで時計塔にたどり着いた其れは、壁に張り付くように止まった。
空から落ちてきたのは、女の子ではなく、男の子。
眼鏡をかけて、真面目そうで、少し気弱そうな、絵にかいたような文科系っぽいその子は「死ぬ」と連呼し涙声だ。
蒼く震えている少年を見て、悩んでいるのも少し馬鹿らしくなる。
「何をしているんだか……。」
今の自分は風紀委員ではないが、困った人を助ける為に動くことを咎められはしないだろう。
まぁ、あそこから落ちたとしても精々骨折で済むだろうが……一応救命行為という体で行けるだろうか。
そんな事を考えながら、自身の体に『身体強化』の魔術を付与する。
少女としての能力を大きく逸脱した力を、全身にみなぎらせる。
リミッターを外し、全身をばねの様に変えて、少年の元まで、『跳ぶ。』
大きな音がして、地面が少し凹んだだろうか。
壁にめり込むように拳を突き立てて、体を固定させて、壁に張り付いた。
「捕まってください。」
少年に手を伸ばす。
今の自分なら、少年を抱えて下に着地することぐらいはわけもない。
もちろん、五体満足で済むわけではないが、どうせ自分の怪我は癒えるのだから、大した問題ではない。
――また、保険医に怒られるだろうか。
■霧島 孝介 > 物思いに耽っているところにこんな存在が来たのならば、困惑の声が出ても仕方ない。
背中のジェットは完全に停止しているようで、というか壊れたように白い煙を出しているようで。
壁から落ちて地面にたたきつけられないように必死になる少年。
なんともまぁ、誰から見てもみっともない光景だろう。
「ヒィ…!?え、、え、あ、あ…」
どこからともなく現れた美少女が、その体格に似つかわしくない怪力を発揮して
めり込むほどのパワーで拳を壁に突き立てた。
その一連の動作だけで少年はビビらせるには十分であり、圧倒的陰キャチキンモードに突入。
でも陰キャチキンモードでも、ちゃんと聞き分けはいい方ではあり、ゆっくりとブルブル震える手で彼女の手を取る。
■水無月 沙羅 > 「良い子。」
少々、驚かせすぎただろうか。
更に震え上がる少年の手を取り、抱き寄せる様に引き寄せる。
魔術を使っていない自分では、こうもスムーズにはいかないだろう。
引っ張られる腕が、ちょっと痛いかもしれない、背中のジェットパック……? で下に引き寄せられる力もあるだろうし。
というか、この少年が大きいのもあるし、結構重量があった。
自分の腕もミシミシと音が鳴っている。
「降りますから、しっかりつかまってくださいね。」
自分より一回り大きな少年を、片手でお姫様抱っこのように持ち上げる。
背中の邪魔なそれは、大切な物かもしれないしそのままにしておこうか。
めり込んだ拳を、壁を蹴る反動で引き抜く。
二人の体は宙に浮いて、自由落下を始めた。
■霧島 孝介 > 「は、はぃぃ…」
彼女にされるがままに、引き寄せられる。
まず陰キャのくせにいっちょ前に図体がでかい。
身体もそこそこ鍛えているから、筋肉もあるし、背中の最早邪魔なアクセサリーの重量もそこそこ。
飛ぶ分には問題にならないだろうが、持ち上げるには、少しパワーが必要になるだろう。
彼女にお姫様抱っこをされながら自由落下する。
最早怖くて目を開けられない少年はずっと力強く目を閉じてた。
これはもうヒロインとそれを助ける王子様の図だろう。
ヒロインがデカすぎて腑抜けているのが難点だが。
■水無月 沙羅 > 女子のように震える少年を横目に苦笑いをして、真下を見る。
ビルの屋上から地面に落ちるような高さではないにしても、180cm近い男性を抱え、なおかつ重量の在りそうなアクセサリー付きともなれば、高さ、落下速度、重さ、合わせる事の衝撃は考えるまでもなく膨大だ。
「ちょっと目を瞑っていてくださいね……!」
落下途中で、しっかりと少年を抱える。
目をつぶらせるのは、これから起きる惨劇を少年に見えないようにするため。
自分の体はリミッターは外せるし、強化もできるが、決して頑丈になるわけではない。
地面が近づく、片手と、両足の三点で少年を上にするように背中から着地を図る。
グシャッ……と嫌な音がして二人は着地するのだろうか。
手と足は可笑しな方向に折れ曲がって、あばらも重みに耐えきれずに折れている。
少年が目を瞑ってさえいれば、その少女の惨状を眼にするまでもなく、沙羅の体は数秒で修復されるが。
「ガッ……ゲホッ……!」
そういう、うめき声だけは確かに聞こえるだろう。
■霧島 孝介 > 本来なら、背中に背負っているゴミを消し去るのが彼の仕事。
しかし、高所という恐怖にその発想は思い浮かんでおらず、背負ったままにしている。
少年よ。どこまで腑抜けているのか。
彼女には本当に申し訳ないことをした、と後悔する図が容易に想像できる。
「くっ…」
彼女に言われるまでもなく、少年はしっかりと目を瞑っていた。
どのような惨劇があるのか、というか惨劇があること自体知らない少年は
落下する浮遊感に体を縮こませながら、その時が終わるのを待っていた。
「っ…!」
聞えた。確かに聞こえた不快な音。
骨が砕け、肉が千切れ、皮膚が突き破る音。
その音を聞いて痛みがない…ということは彼女のものだろう。
咄嗟に瞼を開き、彼女の方を向き直る。すると、恐らく一般人では重傷となる傷だ。
「だ、大丈夫ですか!?あぁ、なんて、俺の、せいで…!!」
瞬間、壁に張り付いていた時以上に青ざめる。
この少年ならばきっと、彼女が自力で治るより早く、痛みも傷も消し去れるだろう。
しかし、この少年は『こういう経験』には乏しい。
ただひたすらパニックになって、彼女を見据えることしかできず。
■水無月 沙羅 > 「みて、しまいましたか。
だい、じょうぶ、ですっ、すぐに治ります、からっ……」
中途でゲホゴホと、血を含んだ咳を零すことになるが、それを言葉にし終える前に少女の体は時間を逆行するように修復を開始する。
砕けた骨も、ちぎれた肉も、皮膚も、零れ墜ちた血液さえも少女の体に吸い寄せられるように。
その修復も、ほんの数秒で終わりを迎える
後に残るのは、少女の衣服に滲んで混ざってしまった血液だけだ。
痛みに顔をしかめるも、傷がふさがれば残っているのはその余韻程度。
幻肢痛の様に響く痛みが全く無い訳ではないが、いい加減に慣れきってしまっている。
「あなたは、怪我はないですね……?」
傷が修復されたのを確認して、少女は『水無月沙羅』は立ち上がって、汚れた衣服をパタパタと叩いた。
何事もなかったかのように。
青ざめた少年に手を伸ばして
「私は、風紀委員の水無月沙羅。
貴方は?」
名を聞いた。
一応、建物に被害が出たのだから報告書は書かなくてはいけないだろうし。
被害者の少年に事情も聞かなくてはいけない。
■霧島 孝介 > 「あ、…あの…俺は…」
完全に焦って、冷や汗をかいている少年。
その彼の焦りを差し置いて彼女の体は治っていく。
千切れた紐が自分から繋がっていくように、骨も肉も骨も治っていく。
その光景に驚きと、不謹慎ながら心に本の少しの興奮と興味を覚える。
「…はい」
彼女の声掛けに少し間をおいて返答する。頭に一応包帯を巻いてはいるが、今回とは別件の傷であり、彼女の思惑通り、無傷で少年を救出することができた。
しかし、彼が驚いているのは少女のことだ。
海外ドラマやアニメなんかで見たことある。
『再生』、あるいはそれに近しい異能なのだろう。
何事もなく立ち上がった彼女に気圧されつつ、自己紹介を聞けば
「風紀…!…あ、いえ、き、霧島、孝介です…えっと、1年生、です」
タジタジになりつつもそう返す。
まさかこんなところで出会えるとは…
『風紀委員』。校則に違反する学生の逮捕や拘束、違反部活の取り締まりなどを行う組織のメンバー。
彼女が、そうなのか…!
■水無月 沙羅 > 「……あまり落ち込まないでください、パニックになった人間に取れる行動はそう多くはありませんし、この場合に限って言うなら。
『勝手に助けた』私の責任ですから。」
間をおいて答える少年に、少し悪いことをしたかなと思い言葉を添える。
余り他人に見せるような光景でもないし、自分のせいでそうなったと思えば抱えるモノもそれ相応だろう。
しかし、まさか自分の異能に興味を持たれているとはつゆほどにも思ていない。
自分の異能には、戦いと自己犠牲以外に意味などない、そう思っていればこその少女の反応だ。
「風紀委員と言っても今は謹慎中なんですけれどね。
それももうすぐ解けるんですけど。
一年生なら、私と一緒ですね?
よろしくお願いします、霧島さん。」
明らかに挙動不審なその姿に、あまりいい噂の無い風紀委員のメンバーと自分のしでかしたことを思い出して苦笑する。
怯えているのか、風紀という肩書に思う所でもあるのか。
どちらにしても、少女にできるのは気を遣わせないようにほほ笑みを浮かべる程度の事だけだった。
「あの、ところでどうしてあんな事態に。
一応確認取っておきますけど、許可取りました……?
日常生活における異能使用は認められてますけど、余り危険なものは、ほら、取り締まらないといけないので。
実験とか、そういうのだと、ね?」
とはいえ、死にかけた少年の所業を見逃すわけにも行かない。
一体何を思ってこんな夜空を焔を蒸かして飛んでいたのか。
ヘリだって飛ぶのにはたくさんの書類が必要だというのに、身一つで空を飛ぶのはそれなりに危険だろう。
ましてや背中のあのバックパックに安全装置のような、例えばパラシュートでもあったのなら、こんな事態にはならなかったはずだ。
安全を考慮していないというのは目に見えていた。
■霧島 孝介 > 「…でも、…いや、ありがとうございました。助かりました」
あんなになるまで助けてくれるなんて。
彼女には申し訳ない気持ちでいっぱいになりながらも、礼を伝える。
本来ならあんな自体になっても自力で何とか出来るはずだった。
本来なら彼女を不必要に傷つけることは無かった。
本来なら…
発想が無かった。出来なかった。
焦った、恐れた、任せた、それが結果として、彼女を傷つけてしまった。
彼女自身はそんなことを気にしてないみたいだが。
「そうなんですか‥‥先輩だと思ってました。こう、余裕的に」
少し落ち込みながら彼女にそう伝える。
彼が挙動不審なのは家族以外の誰に対してもである。
何故ならコミュ障だから、根暗だからである。
しかし、そのコミュニケーション能力も落ち込んでいるせいで逆に普通になっていて。
「許可は…すいません。取ってません。
危ない実験とかそういうのではないんですよ。
ただ、異能の練習の意味も込めて…家に帰るまで飛ぼうかと。…本当にすいませんでした…」
まさかあそこまでのパワーがあるとは思わなかった。
自身の異能の可能性に少しは期待するが、今は後悔と反省だけ。
背中の壊れたジェットに気付けばそれを青い光にして消し去って、深慮不足の自分に落ち込んだように下を俯く。
■水無月 沙羅 > 「どういたしまして。」
にこりと微笑んで、少年を助けられたことに安堵する。
これもまた、自分も身勝手なことだと自覚しながらも、やはり止められない。
もはや呪いの様なものだ。
自分は助けられたから、誰かに対してもそうあらなければならない。
いつか自分を助けた少女も同じことを言っていただろうか。
「余裕……ね、あるわけじゃないですよ。
いつでも必死で、何時でも全力なだけです。
どうやったら最善の一手をつかみ取れるのか、そう考えているだけで。
まあでも、今回は死ぬ事は無いと思っていたので、そういう意味での余裕はありましたね。」
誰かが死んでしまうような事故や事件なら、もっと取り乱すかもしれないが、自分の多少の怪我程度で済んでしまうなら、確かにそれは余裕があると言えるのかもしれない。
死ななければいい、そう考えている自分が居ることにすこし身震いして。
「あぁ……異能がコントロールしきれていない、と?
では、その背中の荷物は異能で作り出したものなんですね。
察するに何かを生み出す能力?
ある程度自分の望むとおりに生成できる、と考えると、なるほど、使い方によっては便利ですが危険にもなり得ますかね。
……私も人の事は言えませんが、気を付けて下さいね。
異能の練習なら、演習場を使うといいですよ。
あそこならセーフティもありますから、よほどのことが無ければ命を失うこともないでしょうし。」
自分よりも幾分大きな、うつむく少年にそっと手を伸ばして頭を撫でる。
自分はそうして何度も救われてきたし、慰められてきた。
こうされることで安心するという事を学んで来たから、落ち込んだ人にはこうすることにしている。
反省しているのなら、二度同じようなことは起きないだろう。
今回は厳重注意という事にしておいて、後は適切な練習場所を教えてやればいい。
風紀としての仕事はそれで十分の筈だ。
■霧島 孝介 > 彼女の笑みとは裏腹にこちらは未だに落ちこみ気味で。
「はぁ…」と無意識にため息をつく。
助けられたことにはかなり感謝をしている。本当に。
しかし、その結果として彼女を傷つけてしまった罪悪感はある。
「すいませんでした。重ねてお礼を…
し、死ぬ事がないってまるで、死線を潜ったかのような経験が…」
…いや、彼女にはあるのだろう。
死線を潜った経験が、同い年にして、命のやり取りをした経験が。
彼女の言葉に様々な意図を感じて、自分ではどうすればいい返答が出せるか考えた結果、ここは踏み込まないように言葉を止める。
「あ!あぁ、えぇええ~~っと!まぁ、そういうことになりますかね!
…『武器生成』。便宜上、そう呼んでます。想像すれば銃とかナイフとかを作り出せます。
武器以外も作れますけどね。盾とか…
安心してください。よっぽどのことが無い限り、その…想像しているようなことはしませんから…
こう見えてもちゃんと道徳の授業は受けてきましたし
それと一応、演習場を使って練習はしたんですけど…
『この』有様で…」
一回り小さい女子(しかも美少女)に撫でられる16歳男性。
対人経験値の深刻な不足から、女子に撫でられただけで顔が赤くなって、言葉に詰まる。
少し間をおいて、自分の能力の説明と、危険は無いことだけ伝える。
それ同時に練習した結果どうなったか。頭の包帯を示して彼女に断片的に教える。
■水無月 沙羅 > 「謝らなくていいですよ、本当に。
お互いに"結果的に"怪我はなかった、それで十分じゃないですか。」
言葉を濁した少年に、自分の兄を重ねた。
彼らにとっての日常を『非日常』で侵してしまうのは良くない事だろう。
普通は、命がどうとか、そういう考え方はしないものなのだ。
踏み込まれないのなら、それ以上言うのは彼にとってもよくない事だろう。
ただ普通の日常を過ごす、彼らにとっての価値観を知らないといけない。
「『武器生成』……ですか。
言葉だけ聴くと印象に捕らわれがちですけど、なるほど。
先ほどの代物から考えても、応用がかなり効くみたいですね?」
だとすると、妙なネーミングだと思う。
『武器生成』
まるで最初から、武器を生成し、使用することを念頭に入れているようなその異能の名前に違和感を感じる。
「あぁ、能力が高すぎて体がついてこないとか、性能が自分の思っていたものとは違う、みたいな。
……武器生成……か、勿体ない名前ですね。
えっと、、良ければ魔術で治療しましょうか?」
素直に、そう思う。
その名前に引っ張られて生み出すものが『名前相応』のものになっているのだとしたら、そのネーミングはナンセンスだ。
第一印象から見るに、彼にとってそれが必要だとも思えなかった。
必要な時に、税として生み出せる程度で十分だろうに。