2020/08/29 のログ
■霧島 孝介 > 「そうですけど……わかりました」
腑に落ちない。
しかし、これ以上グダグダと続けるのは彼女の名誉が傷つく。
ここは言葉の飲み込んで、彼女の優しさを受け取る。
いつか、この礼をすると心に決めて。
「えぇ…どこまで出来るか試してはないですし
いずれ試してはみたいんですが…
こう、やっぱり水無月さんの言う通り、演習場で試した方が良さそうですね」
乾いた笑いで彼女に答えて。
ちなみに『武器生成』は彼のネーミングセンスだ。
『創造』とは違うし…うーん、と唸りながら考えた名前だ。
我ながらひどいのは、重々承知しているが。
「そ、そうですね。
タケコプターをイメージしてたらロケットエンジンが出来ちゃった、みたいな感じになってて…
まぁ…『創造』ほど万能ではないので…
あぁ、大丈夫です。これは…その、初めて模擬戦をして、負けた時の傷なんで」
彼女の言葉に同意しつつ、そのように答える。
ネーミングに関してはもっといい名前が欲しい所ではある。
出来れば彼女に名前を決めてほしい所だ。
治癒に関しては、少しだけ笑顔を取り戻して、彼女の提案を丁寧に断る。
■水無月 沙羅 > 「うーん。多分、現実に即したものか、それなりにイメージとして定着していないといけないんですかね。
異能って、結局イメージや願いが形になった物って聞いたことがあります。
その人の異能の根源……みたいな。
あぁ、いえ、これはあくまで私の知り合いの一説に過ぎないので気にしないでください。」
そう考えるなら、やはり彼の『武器生成』では少々重い名前だろう。
どう見ても善良そうだし、戦いを望んでいるようには見えない。
なんならさっきのことでパニックになるぐらいだし、そういう事とも無縁に思える
それならば……。
「青い光で消えてましたよね、なんだか宙を思い出したんですよねぇ。
ほら、私さっきまで星を見ていたから。
『蒼装』とか、どうですか?
えっとほら、身に着けるモノを作ることが多いみたいですし。
蒼に、装備の装で、蒼装-ソウソウ-
なーんて、ちょっとクサいですかね?」
単純な話、彼の異能の終わり際をちらりと見た時、綺麗な光だと思った。
星が手元にあれば、あんなふうに輝くのだろうか、何て考えたりして。
子供っぽいかなと、ニシシと笑ってごまかす。
「模擬戦の傷……? あぁ、所謂勲章みたいな。
なるほど、霧島さんも『男の子』なんですね。
わかりました。 でも、余り怪我ばかりしてはいけませんよ?
ご両親とか友達とか、心配する方もいるでしょうし。」
自分がそういう資格がないのは100も承知だが、生身の少年なら尚更。
危険なことはあまりしてほしくないと思う。
出合ったばかりの人間に言われることでもないか。
■霧島 孝介 > 「そうですね。例えば架空の武器…レーザー銃とかも一応作れますけど、水無月さんの言う通り、想像力が必要なんですよね。
願いやイメージ…あぁ、もしかしたら
幼いころからSF映画とか戦争映画とかよく見てたからですかね?
そういうの好きなんですよ~こう、派手な演出とか!例えば近年だとおすすめは…
あ…、か、関係ないですかね?」
彼女の言葉を聞けば、もしかしたら映画の話が関係あるのかもしれないとなり
考えられないほど饒舌に喋りだす。
性根はオタク。得意分野の話になると饒舌になるのはこの生命体の特徴だ。
しかし、一応引き際を分かっているようで、途中で話を止める。
「えぇ、綺麗ですよね。何の光かわからないですけど。
宙?『蒼装』…なんですかそれ…
めちゃくちゃかっこいいじゃないですか!!!」
手元に青い光を出す。
青い光は火の粉のように掌を舞い、現れては消えを繰り返していく。
ニシシと笑う彼女にこっちは目を輝かせて幼い子供のように興奮する。
他人に異能の名前を決められたのと、単純に異能名がかっこよくて痺れている様子だ。
「えぇ、そうなんです。結果は負けちゃいましたけど次は必ず!
そうですね…気を付けます。
…心配してくれる友達がいればいいんですけどね…」
この傷は名誉の負傷と言わんばかりに胸を張ってドヤ顔をする。
完全に警戒が解けたのか、いつの間にかどもるような口調はなくなって、彼女に対して『普通』に話ができていて。
と思っていたら、友達の話になればなぜかまた落ち込むように顔に陰が差す。
なんというか、忙しい男である。
■水無月 沙羅 > 「ふふ、そうですね、意外と関係あるかもしれませんよ?
例えば。貴方がそういう映画の登場人物みたいに活躍出来たら、という想いが昇華して形になったのが、その異能なのかもしれません。
私はあんまりSF作品にはなじみがないので、詳しいことは語り合えなくて申し訳ないんですけど。」
少年の顔がその手の話題になると、途端に明るくなることに笑みを漏らして、自分の講釈が少しでもプラスになったのだとわかると少女も柔らかに笑う。
今までの作ったようなものではなく、楽しそうに。
「宙って青いでしょう? 今は暗く見えますけど。 昼になると綺麗に澄んだ色になるし。
蒼穹、っていうんでしたっけ。 大空の事なんですけど。
貴方はそこから落ちてきたから、ぴったりかなって。」
はしゃぐ少年を子供を見る様にほほえましく見ている。
男の子というものは、こんなくだらないことでここまで喜ぶものかと思いながら。
馬鹿にしているわけではない、ただ、それがとても尊いものだと感じた。
その名前が、彼の自信の一つになるのなら提案した意味もあったのだろう。
と思いきや、今度は友達が居ないと嘆きだす。
友達と言えば、自分も友達と言える人が居ないんだったなと思いだす。
尊敬する人や、大切に思ってくれる人、家族のような人はいるが、『対等な友達』というものは居ないように思えた。
だから。
「なら、私とお友達になりませんか? 私も、対等な友達って、居なかったから。」
友達の作り方は分からないけれど、自分から一歩踏み出すことは大切だって、もう何度となく教わってきたから。
提案するのも悪くない。
少年は、どんな反応を返してくれるだろうか。
自分の腰の後ろで手を組んで、少し見上げる様に屈んで紅い瞳で覗き込んで見せる。
■霧島 孝介 > 「なるほど…異能って奥が深いですね…
いえいえ、大丈夫ですよ!初心者にお勧めの作品もあるので!興味あればぜひ!!」
フンフンと鼻息荒く、目には星が出ているかのようにキラキラさせる。
無理に薦めないオタクの鑑。そう、この手のオタクには珍しくマナーを守る方らしい。
彼女の笑顔に自然と、こちらも笑顔になってしまって。
「ははは、飛行石もなく、しかも男の子ですいません。
でも良いですね!蒼穹…なんというか、こう詩的センス抜群で!」
少し冗談を交えながらも、彼女のセンスを手放しで褒める。
さっきからはしゃぎっぱなしの少年。
こうやって語り合える存在が今までの人生レベルで、家族以外にいなかったようで。
本当に嬉しそうに目を細める。
「…え、いいんですか?俺と?」
自分を指さして、きょろきょろと周りを見る。
自分以外には居ないだろうにわざとらしい反応をする。いや、するしかなかった。
何故なら、そんなこと言われたの初めてだったから。
物心ついた時から自分は周りと比べて、異能(ちがい)があって
それのせいで馴染めなくて
楽しめなくて
嬉しくなくて
でも、異能を持つ同い年の少女から思ってもみない言葉が飛んできたら
途端に嬉しくなって、笑顔のままに、少し大きな声になってしまう。
「よ、よろしくお願いします!」
見上げる彼女に手を差し出すながら、深く礼をする。
■水無月 沙羅 > 「貴方みたいな人は、そう、初めて。
ふふ、本当に子供みたい。 そうですね、おすすめのものがあったら、ぜひ。」
眼を煌めかせて、自分お好きなものを自信をもって主張できる。
そんな少年が眩しくて、とても好ましいものに思えて、ついつい笑ってしまう。
押し付けられないことも、居心地よく感じる。
SFというなら、星空に思いを馳せることもあるだろう。
「本を読むのは好きなんです、特に星空とか、空の事とか、そういう事を中心に。
だから、そう言ったことしか持ってこれないかもしれなくてちょっとあれですけど。
喜んでもらえたならよかった。」
はしゃいではしゃいで、疲れないのだろうかと心配しそうになる。
そんなにうれしいのだろうか、ただ異能に名を付けただけなのに。
少し不思議に思いながら、少年を見つめて。
そして、誰もいない周囲を見渡して、本当に自分でいいのかと、まるで警戒する様な少年の
その反応にも覚えがあった。
自分は他の人ととは違うからと、自分から遠ざかる人間を良く知っている。
自分から遠ざけようとする人間を良く知っている。
何よりも、自分自身もそうだったことを思い出す。
『自分なんかを』、そう思っていることは、今だって数多い。
だから、彼が受け止めてくれたことが、何よりもうれしかった。
「えぇ、此方こそよろしくお願いします。」
どうしてそんなに深く礼をするのかと、おかしくなってまた笑う。
向日葵のように、16歳の割に少し小さめの少女は、年相応に笑って見せた。
風紀委員と自分を縛らずに、対等の友達として、一人の女の子として。
■霧島 孝介 > 「こ、子供…はは、そんなことないですよ~」
一応誉め言葉として受け取って、照れ臭そうに手を振る。
片手は後頭部に持っていって、自然と笑顔になっていって。
「なるほど…すいません。俺は活字ってのはちょいと苦手でして…
ラノベよりアニメ派なんですよ。いつか読みたいとは思うんですけどね。
そういう学があるのめっちゃ羨ましいです」
さっきまでガクブルしてたとは思えないほどの元気っぷり。
同じ16歳の男子でも彼ほど元気なのはそうそう居ないだろうか。
不思議そうに思われつつ送られる視線に対し、こちらは尊敬が混じった視線を送る。
「やったぁ!…な、なんか告白みたいになってしまった
すいませんね」
差し出された手を取られなかったことと、今の状況に少し恥ずかしくなる。
若干赤くなりつつも、手を引っ込めて顔を上げる。
友達が居ない陰キャとは言え、さすがにそこまで勘違いするほど童貞臭くはない。
自分の立場は弁えて…普通の友達として彼女とこれから接しよう。
そう決意する少年であった。
というか目の前の美少女に彼氏が居ないわけないもんね。
■水無月 沙羅 > 「アニメ、ですか? 娯楽としての存在は知ってますけど、実際には見たことないんですよね。
今度私が好きそうなのがあったら教えてください。
学……なんですかね、好きだから調べてるだけですよ。
あなたのアニメや映画と変わりません、興味の対象が違っただけ。
私が知らないことをあなたは知っている、だから、きっとお互いに教え合えることもあると思います。」
沙羅の星空への情熱を『学』だというのならば、彼の『SF映画』『戦争映画』『アニメ』なども同じことだろう。
突き詰めていけばそれもまた『学』になる。
尊敬されるほどの事ではないし、興味の対象が多岐にわたる少年の方がよほど学があるのかもしれない。
「あはは、ごめんなさい?
一応付き合っている人が居るから、ね?
でも、お友達が初めてというのは初めてだから、とてもうれしい。」
紅くなった少年に笑いかけて、肩をポンポンと叩いた。
距離感がわからないから、どこまで踏み入っていいのかもわからない。
「っと、ここは一応立ち入り禁止だし。 もう夜も遅いから家まで送りますね。
謹慎中とはいえ、緊急事態という事で許してもらえるでしょう。」
いつも持ち歩いている風紀の腕章を、私服に通してピンで止める。
ここからは、"形だけ"風紀委員だ。
この街の中ではめったな事件もないだろうが、示威行為は無いに越した事は無い。
あくまでも保険の様なものだ。
「さぁ、いきましょ……あー。
行こう? 霧島くん!」
友達に敬語はおかしいかなと、親しい人にそうする様に、砕けた言葉を向けて。
少年に手を伸ばした。
やはり、この場所は私に様々な贈り物をくれる。
良いことも悪いことも、何時だって星空と一緒に。
これもきっと、宙からの送り物。
■霧島 孝介 > 「是非是非、見てください!…水無月さんが好きそうなアニメかぁ…
ちょっと探しておきますね。何かいいのがあるかどうか!
ふむ…確かに言われてみれば。俺も映画とかアニメで銃とかの知識は付けましたし…
そうですね!お互い知らないことを教え合えるようになりたいもんです!」
子どもの頃から、いろいろなものに情熱を注いできた。
しかし、特に情熱が注がれたのはアニメや漫画やゲーム、映画だ。
それらの娯楽は彼にとってはとても真新しく、友達の代わりと言っても過言ではなかった。
「まぁ、そうですよねぇ~
大丈夫です。彼女はまぁ、その…友達沢山作ってから、考えようと思います。
俺もめっちゃ嬉しいです!こう、真っ当な友達は初めてなので…」
落ち込む感じではなく、むしろ彼女と仲良くして彼氏さんは怒らないだろうか
そこに少し心配しつつ、頬をかいて苦笑いをする
一応、友人みたいな…変人みたいな知り合いはいるものの、しっかりとした普通の友達は初めてで、それが余計に嬉しい様子だった。
「おぉ、かっこいい…あ、お願いします!
えっと、は…うん!水無月さん!」
風紀の腕章をピンで止める様子を見て、呟くようにそう言う。
気になる単語はあるものの、とりあえず今は突っ込まずに、お辞儀をして送ってもらうことに同意する。
友達は初めてで、こちらも慣れない様子で砕けた言葉遣いを用いて答える。
伸ばされた手を取って、友人として彼女とともに帰路につく。
不幸が起きたと思ったら友達ができて、いろいろ話せて、今日はいい日だった。
毎日でなくともいい、たまには、こういう日が訪れてくれれば…
最期には大勢の友達が周りにいるだろう。
ご案内:「大時計塔」から水無月 沙羅さんが去りました。
ご案内:「大時計塔」から霧島 孝介さんが去りました。
ご案内:「大時計塔」に水無月 沙羅さんが現れました。
ご案内:「大時計塔」にニーナさんが現れました。
■水無月 沙羅 > 「長かったなぁ……10日間。」
例の事件による処分、10日間の謹慎も今日で終わりだ。
結局異能学会では血液検査とカウンセリング程度しかする事は無かった。
自分の異能が基本的に、ダメージを前提にしなければ効果が発揮されないものなので、非人道的なことは行えないという判断によるものが大きい。
二重人格に対しては、はっきりとした結果は出ていない。
カウンセリングのさなかにその人格が出てくることもなかったからだ。
当時の記憶が無いらしいという診断だけが確定したものの、結局分からない事の方が多い。
分かったことと言えば極度のストレスは避けるべきということぐらいだ。
言葉にたがわず、爆弾を抱えていると言っていいのだろう。
そして、そんな爆弾が風紀委員に復帰する。
本当にそれでいいのか、自分自身に問いかけている。
『誰かに心配をかけない』
というのは難しい。
いっそ、風紀委員を止めたほうがその約束を守れるのだろうけれど、それでもそれだけは譲りたくはないのだ。
それが通していい我儘なのか、しばらく考えなくてはいけない。
もう数え切れるほどしか見れないであろう、夏の夜空を見上げている。
ちなみに、今日は奉仕活動の一部として、自分が破損させた時計塔の応急修理を終えたところである。
いつかと同じように、今日も腕章は付けていない。
■ニーナ > カツンカツンと螺旋階段を上がる音。
一番上の階段までたどり着いて一息。
毎度のことだが、この階段は結構な運動である。
籠もった熱気で居心地は良くない。早く扉を開けて外に出よう。
そこに居たのは、星が好きな友達の姿。
「ぁ──」
声をかけようとして、どちらで呼んで良いのか悩む。
■水無月 沙羅 > この空間は開けている割に、他の乱雑な音が混ざりにくいために声がよく通る。
当然、扉を開ける音も、少女の発する小さな声も、沙羅の耳にはきちんと届いていた。
随分久しぶりに感じる、星を好きだと聴かせてくれた、同じ『好き』を持った小さな友達に。
「ひさしぶり、ニーナ。 元気だった?」
転落防止用の柵を背もたれにして振り返りながら、その少女の名前を呼んだ。
夏の大三角形を教えたあの日から、どれくらいの月日がたったのだろう。
あれから、どれぐらい星の名前を覚えたのだろうか。
星座を知ったのだろうか。
少女の成長に少し心を躍らせて、優しそうな微笑みで少女を迎える。
■ニーナ > 「……ひさしぶり……」
塔で会ったときからも、商店街で会ったときからも一ヶ月ほどが過ぎている。
当時こそ日付の感覚はなかったが、今はそれも何となく分かるようになっていた。
それはそうと、どちらにもニーナと名乗ったので、結局どちらで呼んでいいかはわからない。
「うん、元気」
扉を閉めて、柵のところまで寄っていく。
■水無月 沙羅 > 「んー……?」
なんとなく困っている様子の少女に首をかしげる。
昔に自分に似て少々表情が出にくい、おとなしいイメージの少女の考えていることは読みにくい。
なんとなくそうなのかな、という事が察せられる程度。
ここは素直に聞いてみようか、読心術があるわけじゃないのだし、分からないことはとりあえず聞いてみることに限る。
「えっと、どうかした? 何か困ったことでも。」
自分より小さな少女に目線を合わせる様に少し腰を落して、紅い瞳を青い瞳に合わせる様にして尋ねる。
まさか自分を何て呼んでいいか分からないなんて思っているとは、つゆほどにも考えていなかった。
■ニーナ > 惑っているのが伝わってしまった。
あの日の幻が再度現れたのか、それとも単に久々にあった友達か。
そんなことを迷っているとは言いづらく。
「……今日は、どっち?」
なら、これで伝わるかだろうか。伝わってほしい。
少し俯いて、青い瞳は上目遣いにそちらの様子を伺う。
■水無月 沙羅 > 「え? あぁ……。」
そういえば、初めて会った時は『星空お姉さん』と名乗ったのだっけ。
あの時は、あそこに居てはいけないから、咄嗟に偽名を使ったのだ。
今でもそれは変わらないのだけれど、あの名前は、あの時だけの幻で、安易に多用したくはなかった。
あの時の思い出は、目の前の少女にとって唯一のものであってほしい、だから、これからあの名を使う事は無いだろう。
「沙羅でいいよ。 あれは、あの時だけの一時の幻。
あの夜だけの特別だから、ね?」
未だに覚えていてくれて、気にかけてくれているのは嬉しかった。
そっと少女の頭を撫でる。
彼女もまた、星が繋いでくれた一つの縁だ。
そう思うと、やはりこの場所は思い出深い。
■ニーナ > 「わかった」
頭を撫でられれば、思わず目を細めて、体を揺すった。
名前にたどり着くためのきっかけになった、あの特別な夜。
出会った場所がここだったから、少し悩んだのだった。
答えを得れば、思い出はしっかりと仕舞っておくことにして。
それはそうと。
「さらは、今日は、どうしたの?」
自分と同じ様に、星を見に来たのかなと思い、聞いてみる。
■水無月 沙羅 > 「うん? どうしたの、かぁ。 難しい質問だなぁ。」
目を細めて身体を揺する動作が、何処か猫のようなしぐさを思わせる。
顎下でも撫でたくなるけれど、それは流石にどうなのかと躊躇われた。
撫でるのをやめて、ゆっくり立ち上がっては策のほうに向きなおって、もう一度空を見上げる。
星を見に来た、というのも間違っていないが、どちらかと言うと考えごとをしに来たという方が正しいのだろう。
けれど、此処まで小さい少女に話すことなのかなとも思う。
『殺し屋』事件の時はつい頼ってしまったが、今の彼女は『平和な日常』に住む側の人間だ。
『嘘をつくことも覚えたほうが良い』
スラムで育った少女の言葉が頭に過る。
『嘘』
まだ自分には受け入れがたいその言葉を振り切るように答える。
「ちょっと悩み事……かな。 星にね、すこし一緒に考えてもらう……というか。
ここに来れば少しは軽くなるかな……って。」
実際に軽くなるわけでもないし、これは単なる気休めで。
いつかの様な無重力に頼るロマンチシズムに変わりは無い。
少女にも、そんな話をした覚えがある。
あの時は、そう、星に願いを託す、そういう話をしたのだっけ。
■ニーナ > 「難しい……?」
そんなつもりはなかったのだが。複雑な理由でもあるのだろうか。
何か有ったのなら、聞いてどうにかなるのなら、聞きたいとは思うが。
無理に聞き出すつもりはもちろん無い。
話したくないことを強要するような性格ではない。
自分で良ければ聞く、と言おうとおもったが。
「悩み事……星に、一緒に……。
じゃあ、私も、一緒に考える?」
名字であるエストレーヤは星を意味している。
相手にはまだ話していないが、自分はそれを知っているので、じゃあ、と聞いてみた。
■水無月 沙羅 > 「一緒に考えてくれる? それは、頼もしいなぁ。」
実際のところ、自分にはわからないことが多い。
たぶん、この少女にとってもそれは同じではないのだろうか、そんな気がする。
自分より幼い少女に聞くことではない、とやはり思うけれど。
独りで考えるよりはいいのかもしれない。
一緒に悩むというのも、また共に生きるという事なのだろうか?
「んー……、無茶をするな。心配をかけるな。
って、怒られちゃって、どうすればいいのかなって。
私にとって、それはずっと当たり前のことで、そうじゃなければどうしたらいいのかもわからなくて。
全力じゃないと、誰かに置いていかれちゃいそうな気持になる……って、やっぱり少し難しいかな?」
詳しいことまで、特に自分の起こした暗い事件まで明かすわけにも行かなくて。
随分わかりにくい説明になってしまったとおもう。
言える範囲でいうとしたらこのくらいだろうか。
■ニーナ > 「何も、できないかも、だけど」
友達が悩んでいる。なら、力になりたい。
自分バカだから分からねえけど、ではないが、
知らないからこそ言えることもあるのかもしれない。
「無茶をするな……」
言われたことは……ない気がする。
心配をかけるな、は近いことを言われた気はする。
全力でやるのも、わかる。自分も昔は生き延びるために全力だった。
でも、力を抜く時は抜いていた。
「置いていかれる……沙羅の、ほはば?を、合わせたい人は、さらを、置いていく人?」
自分は色んな人に支えられて生きている。
此処2ヶ月で分かったことだ。
■水無月 沙羅 > 「考えてくれるだけでも、十分。 その気持ちだけで。」
首を振って、何もできないという事を否定する。
今だって、彼女の言葉で多少なりとも救われているのだ。
自分の悩みを、星空ではなくて、星が導いてくれた少女が一緒に考えてくれている。
自分は幸せ者だ。
「……分からない。 今までは置いていかれちゃうことばかりだったから。
私は、一緒に歩みたい人たちの隣に居たいだけなのに、みんなすごい人達ばっかりで。
いつまでたっても追いつけない。
そう考えたら、立ち止まるのも、休憩するのも、いけないことに思えたの。
あの人も、何時だって走っていっている、そんな気がして。」
自分は、本当の意味ではきっと彼らを信用していないのだ。
それは、悪いことなんだろうという自覚があるから、少し目を伏せる。
目線は星空ではなく、珍しく直下の街並みを映し出した。
夜の街は、星空以上に明るい。
其れもまた美しいと言えるのだろうけど。
■ニーナ > 「……そう?」
それならよかった、と小さく笑う。
自分を下げているわけではないので、力になれているとわかれば十分だ。
「……」
目を閉じて、少し考え込む。
語れるほど、自分は経験を持っていないのだから、想像するしかない。
それは相手もそうなのかもしれないが……。
「さらだけが、走らなきゃ、いけない?
追いつけないなら、連れてって貰う、とか……。
それに、走り続けられる人、見たこと、無い。
無理して、転けたら、走れない」
自分だって全力で動いたらすぐに動けなくなる。
自分の限界があったから誰かに助けてもらって、今此処にいる。
一緒に歩むというのは、結局のところ譲歩するしかないのだ。
お互いが。相手だけでなく、自分にも。
■水無月 沙羅 > 「連れて行って、もらう……?
それは……怖くないの? ニーナは。
誰かに任せてしまうことは、怖くない?」
その考え方は、初めて聞く物だった。
自分の力だけで何とかしないと思っていた、誰かに頼る事っていうのは、走ることを支えてもらう事だと思っていたから。
走らなければいけない、というある種の強迫観念に突き動かされて。
誰かに牽引される、連れて行ってもらう、そういう風に考えたことは、無かったように思う。
「……私の知り合いも、言ってた。
ずっと走り続けていたら、いつかそれもできなくなるって。
壊れてしまう前に、少し休憩しろって。
そうなったら、追いつけないって思ったら、怖くって。
でも、みんな、そうなのかな……みんな、少しづつ休んでいるのかな。
私は、休むって、それ自体も怖いと思うんだ。
怖いばっかりだね、私。」
休んでもいい、誰かに頼っていもいい、そう思えない事こそが、実のところ一番の問題なのだろう。
休むことを覚えろ、と幾度となくかけられた言葉の意味を、沙羅自体が理解していない。
実際どうしたらいいのかわからないのだ。
生きるということが全力を出すという事とイコールになっている沙羅にとっては、理解することが難しい。
生きて居る事を、休めと言われているようで、怖いと思う。
柵を強く握りしめて、震えるのを隠すように。
家族にも、友達にも、自分を任せられない、歪さに沙羅はまだ気が付いていない。