2020/09/01 のログ
雨見風菜 > 「社会人の方も大変ですね」

彼の学生時代を惜しみ今の境遇で学業との両立が難しい嘆きを聞きつつ。
そして彼の姿は何年か、十何年か先の自分かもしれないとも思いつつ。

「命短し恋せよ乙女、光陰矢の如し……などとも言いますしね。
 学業に遊びに、悔いをなるべく残さないのは大事ですね」

真乃 真 > 「そう!!そういう事が言いたかった!」

上手くまとめてくれた、ありがたい…。
流石の名探偵……。

「残り短い夏休み!!楽しみなよ!!」

もう殆ど終わっているが夏休みは眠るまでが夏休み……。
まだ全然時間は残っている!

「じゃあね!!」

最後に無駄にかっこいいポーズをとると一気に駆け出し飛び降りる!!

「あっ!!!!異能で助かるから心配はしないでーーーーーーーー!!!」

その叫びがどんどん遠く離れていった。

ご案内:「大時計塔」から真乃 真さんが去りました。
雨見風菜 > 「いやもう夏休み今日で終わりなんですが。
 あ、行ってしまいましたね……」

呆然と見送る。
彼の異能を知らない以上、無事に着地できるのかを少し心配するが。
まああの無駄なテンションならきっと大丈夫なのだろうと思い直す。

「……まあ、愉快な方ではありましたね」

雨見風菜 > 「さて、そろそろ私も帰るとしましょうか」

言って、時計塔の縁から身を投げだし。
『糸』を使って空中を自在に飛んで、時計塔を後にするのであった。

ご案内:「大時計塔」から雨見風菜さんが去りました。
ご案内:「大時計塔」に227番さんが現れました。
227番 > 時計塔の上の方。テラス部分に少女が現れる。

「……ここか。どれくらいぶりか」

蒸し暑いが……前よりは過ごしやすい。

227番 > 持ち物を確認する。
ポーチの中に端末を持っていた。スマートフォンというやつだっけ。
研究機関(あっち)に居た頃は、魔術アプローチ…、
いわゆるテレパシーで通信していたので、無縁であったのだが。

「20XX/09/01……」

ああ。あれから4年も経っているのか。
その割には、自分の体は変わっていない。なぜだろう。

落下防止の柵にもたれかかり、街を見下ろす。
4年もあれば様変わりするというものだ。
研究所が無くなっているのも、納得するというもの。

227番 > 端末の使い方はよくわからない。
ロックがされているらしく、PINというものを入れないと何の操作も受け付けないようだ。
当然心当たりがないので、その画面から先にはいけない。
パスワード破りはやったことがあるが……そこまで必死にやる必要もないだろう。
なにより手がかりもない。総当りは通用しないのは当然の話。

この画面でわかるのは…時間と、ごく一部の通知表示だけだ。

「ニーナ、か……"私"はそう呼ばれてるんだな」

刀のような彼はナナと呼んでいたが。
これは…227番からあだ名を決めて呼んでいる、ということだろう。
普通に考えれば、番号の名前は忌避されるものだ。
そんな名前がつけられる子供に、良い境遇は思い浮かばないから。

227番 > つまり、ニーナは自分の名前ではないようだ。
実感もない。思い出したい名前ではない。

彼は調べてくれているだろうか。
淡い期待は抱いているが……。
仮にそうじゃなくても、残念には思わないだろう。
結局信じて良いのは自分の爪だけだ、という話で終わるのだから。

ご案内:「大時計塔」に水無月 沙羅さんが現れました。
水無月 沙羅 > スラムの争いから数刻もたたないうちに、傷だらけの制服のままこの場所にやってきた。
報告書を何とかいた物か、そう思いながら今日も日課のように星を眺めに来た。
疲れ果てた身体に少し癒しが欲しくなった、それだけの行為の筈で。
長い長い階段を上って扉を開けた先に、見知った少女が居た。

星を見上げていないというのが、少し不自然に思ったが。

「ニーナ?」

首をかしげて少女の名前を呼ぶ。

227番 > 嗅ぎ慣れた臭いが嗅覚を刺激する。

――血の臭い。

振り返って、やってくるものを待ち構える。
その人は、自分をニーナと呼んだ。

「ニーナ。……"私"の知り合いか。」

星空をバックに逆光のようになった少女が、青い瞳を光らせ、そちらを見た。

水無月 沙羅 > 「……あなた、誰……?」

少女の言葉に、にわかに警戒心を上げる。
見た目はニーナそのもののように見える。
しかし、漂わせる気配に言葉遣い、何より気配が異なる物だった。

まるで、戦場に居る時の、昔の自分の様な。

227番 > 声を聞くと、頭痛がする。
どうやらこの人とも私は縁が深いようだ。

「……227番と呼ばれていたもの」

その声は聞き慣れた少女のものだが、
どこが淡々としていて、たどたどしさはない。

無表情で青く冷たい視線は、赤を見据えている。

水無月 沙羅 > 「別の……人格?
 227番……、そう。
 あなた、大丈夫?」

ゆっくりと近寄って、少女を心配そうに見つめ返す。
それはニーナではなく、227に対するアクション。
今此処に存在するだれかにかけた言葉。

227番 > 攻撃に備えて目を使っていたが、その様子はなさそうだ。
血の臭いに警戒して光らせていた青い瞳は、いつもの青い瞳に戻る。

「……人格。確かに、そうかも知れない。
 大丈夫、か。"私"は大丈夫だけど……
 あまり体に負担はかけたくないね」

精神は眠っていても体は起きているのだ。
ニーナといわれている自分に迷惑はかけたくなかった。

水無月 沙羅 > 「……優しいんだね。 貴女は。
 私は、水無月沙羅。 ニーナのお友達。
 えっと、227番って、呼んだほうが良いのかな?」

少し失礼かなと思いながら、携帯デバイスを取り出した。
家で待っている同居人が心配するであろうし、少し長くなるかもしれないだろうからメールだけでも送っておこう。
星を見てから帰る、其れだけで彼女にはどこにいるかは伝わるはずだ。

「……私にしてほしいこと、ある?」

別人格で、記憶がないということは、唐突にこの場所に居て混乱している可能性もあるだろう。
何か、自分に出来る事はあるだろうか。

227番 > 「優しい、というか……。
 今を生きてる私に迷惑をかける資格がない、そう思うだけ」

今の自分はこの星に近い場所から離れられない幻の一部でしかないから。

「227番以外の呼ばれ方は知らない。
 でもまぁ、好きに呼んで良い」

別に大事なことでもない。そう思うから。
奇しくも227と名乗っていたころのニーナと同じ言い方をする。

「してほしいこと、か。特に無いし、私に望む権利もない。
 でも……私はいい人に囲まれてるみたいだ」

水無月 沙羅 > 「……悲しいこというなぁ。
 望んでもいいんじゃない? 貴女は貴方で、今ここに生きて居るんだし。
 感情もある、痛みもある。
 それって生きて居るってことでしょう?」

転落防止用の柵に寄り掛かって、北極星を見上げる。

「そうね。ニーナがポラリス……ポーラだから。
 貴女は。 そう、ノース、なんてどう?
 227だと長いし、呼びにくいし。」

隣の少女にそう提案する。
いわば同じ存在の裏と表の様なものだ、なら、彼女にちなんだ名前が良いだろうと思った。
星に関わる名、彼女が気に入ればいいのだけれど。

「そうだね……、良い人に囲まれて、愛されてると思う。
 平和に過ごしてるんじゃないかな。
 友達も増えたみたいだし。」

227番 > 「……殺しの道具が抱いていい望みなんてない。
 抱いた所で潰されてきたから、今更……いや、
 私に迷惑がかからないのが望みかも知れない」

自分も柵により掛かる。空は、見上げない。

「ノース……北だっけ。それでいい」

その呼び方を許容する。
227は確かに呼びにくい。管理用途でなければ尚更だ。

「そう。それは、よかった」

短く、安堵の声を返した。

水無月 沙羅 > 「……やっぱり、貴女もよく似ているね。
 ううん、貴女が、似ていたのかな。
 私も、そういう人間だったよ。
 でも、それを望んでもいいって、教わったから。」

この場所で、とある少女に教わった。

「今の貴方は、殺しの道具じゃないみたいだし、さ。」

血の匂いのする、少々汚れた服で言っても説得力がないかもしれない。
少し気になって自分の服をすんすんと嗅ぐ、鉄クサい。

「……そんなに、ニーナが心配?」

安堵する様子のノースのその安堵の声を不思議に思う。
彼女がそこまでニーナに対して気遣っている理由はどこにあるのだろう。

227番 > 「……沙羅さんも、何処かの機関に──」

自分が居た所以外の機関があったのは知っている。
この手で壊したこともあるから。

「……私は変わってない。
 使われてないだけで、殺しのやり方しか覚えてない道具」

そう言って、もう一度青い瞳を光らせて、沙羅を見る。
冷たい視線が、殺し方を探る――
……が、どうやらこの人は今の自分には殺せないらしい。


「でも、別の私……ニーナは、違うから」

水無月 沙羅 > 「水無月……そういう異能を研究する施設があってね。
 そこも、もう私が壊してしまったけど。
 ……そこからは、まぁ、裏でいろいろ、ね。」

単独任務に出るときは、非人道的な事でもためらいはなかった。
そう作られたと思っていたし、そうあるべきだと思っていた。

「変わりたいとは、思わないの?
 いまは、自由なんでしょう?」

ニーナが自由なら、ノースを縛る存在も今は居ない筈だ。
もしそれが残っているというのなら、それを探し出しすのも自分の仕事なのだろう。
一瞬、瞳が金に濁る。

熱を持ち始めたのを自覚して、首を振ってはその衝動を振り払った。

「……そっか、ニーナが大切なんだね。
 ありがとう、あの子を守ってくれて。」

ノースをそっと抱き寄せて、感謝の言葉を述べる。
自分を蔑ろにする少女を、少しだけ悲しく思う。
彼女に殺されない自分なら、その温もりを伝えられるだろうか。

227番 > 「よその名前は知らない。でも沢山有ったことは知ってる。
 今もほかの所はまだあると思う。
 私のところは、無くなってたけど。あるいは移動しただけかもしれない」

7歳の暗殺兵器はいつだって単独任務だった。

「変わりたい……そう望めたら良かったとは思う。
 それに……自由ではないかな。
 私は、そこの階段を降りられない」

じっと見ていた瞳が、相手の瞳の変化を見逃さなかった。
金の瞳。正しい使い方は知らないが、"私"も持っているもの。
しかしそれに反応をする前に、抱き寄せられる。
落ち着いていた頭痛が激しくなったが、それは表に出さない。

「……ある意味、そのニーナが私の望みなんだと思う」

抱き寄せる腕にされるがまま。

水無月 沙羅 > 「もしも、移動しているのなら。
 私が、ニーナを守るよ。」

再び、瞳が金に濁り出す。
少しだけ、体が熱を持ち始めた。
チカチカとし始める視界に、またゆっくり首を振る。
完全には制御しきれないこの衝動を、いつか克服しなくてはならない。
少しだけ起きる頭痛に、少女をそっと離して片目を抑える。
しばらくすればこの衝動も収まるだろう、今は未だ、使う時ではない。

「確かにそれは、自由とは、言えないね。
 ごめん、知った風に言って。」

其れではまるで地縛霊だ。
たしかに、悲観的にもなるかも知れない。
せめて縋れるのが、ニーナくらいになってしまう。

「ニーナが、貴女の望み……?
 それは……道具では無い貴方、という事?」

227番 > 「……それは、そのニーナがそうして欲しかったらそうして」

少しの熱を感じ取って、相手の体の負荷に気付く。
ニーナのことは何も知らないが、親しい相手に何かあれば、
普通のこどもなら何も思わないことはないだろう。
それぐらいの知識は持っている。

濁る瞳を見て、こちらも金の瞳を向けてみる。
無理に動かしているので頭痛はひどくなるが……これも抑えられるものだ。

「星空が消えたら、元に戻る。前もそうだった。
 でもそれでいい、私はきっとここに居るべきではないから」

自分は夢でしかないのだと、小さく笑った。

「……そうなのかも。
 弄られる前を覚えていない私が思う、道具ではない私……」

水無月 沙羅 > 「そう……あなたも、いや、ニーナも、ノースも、そうなんだね。
 いいよ、無理に使わなくて。 私は制御ができないだけだから。」

苦笑いをして、よく似ていると零した。

「……そうだね、今度、聞いてみるよ。
 たとえ話になってしまうかもしれなけれど、勝手にするのは、良くないもんね。」

それはニーナを傷つけるんだろうと、顔を伏せた。

「ノース……寂しくは、ない?
 もっとここに居たいとは、思わないの?」

少女の笑いが悲しく見えて、それは、見て居られないと思った。
けれど、解決する方法だって、自分にはわからない。

227番 > 「私も正しい使い方はわからないけど」

そう言って元の瞳に戻す。
動かすことは出来るが、使い方がわからないので
何の"結果"も得られない。

「ニーナのこと、よろしくお願いする。
 これが私が貴方にしてほしいこと、ということにしておいて」

他に望むことも、無いだろう。そう思う。

「……寂しい、か。
 私には、縋るものも、友達といえるものも、
 何も残ってないから、わからないけど。
 もしかしたら、この感覚は"寂しい"なのかも」

そう言って、空を見る。
無表情であるが、その目に感情は見えるかも知れない。

水無月 沙羅 > 「ニーナの事は、分かった。」

約束だ、今ここにしかいられないかもしれない少女との大事な約束。

「……じゃぁ、私が。
 今だけは、隣に居るよ。
 ニーナが、私にそうしてくれたから。
 貴女が眠るまで、傍に居てあげる。」

同じように空を見上げて、北極星を仰ぐ。
ニーナも、ひょっとしたらこの空を見に来たのだろうか。

「ノース、お友達になろう?」

だから、言えるのはその程度。
なんの慰みにもならないかもしれないけれど、ニーナを大切に思う者同士。
そうなれると思うから。

227番 > 「……悪いね、ボロボロなのに」

怪我してるようには見えないが……
殺せないことを考えると、そういう「体質」なのだろう。
似たような能力を、研究機関で見たことがないわけではない。

「私、友達っていうのわからないけど、それでもいいなら」

研究機関の知り合いはいくらかいたが、
情を持ったところであっさり死んでいった。
だから最初の頃以外、ろくに覚えちゃいない。
……ただ、今ここは研究機関ではない。

抱いていた感情が和らいだ。


しばらくそうしていれば、白んでいく空。
昇る日の光が星の輝きを塗りつぶしてゆく。
呼応するように少女の反応が薄くなり……やがて意識を失うだろう。

水無月 沙羅 > 「……おやすみ、ノース。 またいつか、逢おうね。」

白んだ空を、あぁ、しぃ先輩に怒られるなと考えながら仰いで。
ニーナを送っていかないといけないな、と過る。
ノースは、ゆっくりと眠りについた。

眠った少女を起こすのも忍びない、そっと抱えて、そのまま彼女の自宅に送り届けることにしよう。

ノースの抱えていた寂しさを、少しでも和らげられたならばいい。
またここで出会った時は、どんな話をしよう。
そんな事を考えながら、時計塔を後にした。

ご案内:「大時計塔」から水無月 沙羅さんが去りました。
ご案内:「大時計塔」から227番さんが去りました。
ご案内:「大時計塔」に紫陽花 剱菊さんが現れました。
ご案内:「大時計塔」にニーナさんが現れました。
紫陽花 剱菊 >  
夜の帳が落ちた常世島。
大時計塔の上に佇む影法師。
黒糸のような髪が涼風に揺れ、男の黒い双眸は街を見下ろしていた。
炎暑も終わり、寒露の香りが涼風に含まれているそんな夜。
公安の"休暇"も開け、仕事終わりに偶然足が動いた。
或いは、是は『虫の知らせ』とも言うべきか。
多くの出来事が、まさに時計針の如く此処では流れていった事を知っている。

「…………」

唯、背を向け、其の"予感"を待っていた。

ニーナ > 規則的な鉄を叩く音。螺旋階段が踏まれ、響く音だ。
やがてそれは近づいてきて……外につながる扉が開けられる。
外の涼やかな風に、ふぅと一息ついてから、周囲を見渡し……先客の姿を認めた。

「……こんぎく」

少女はその見慣れた姿に駆け寄っていく。

紫陽花 剱菊 >  
背から感じる気配は、知っていたものだ。
扉が開かれる音がしても振り返る事は無かった。
だが、剱菊の表情は仏頂面からほんの少し、緩んだ。
宵闇にはやや不釣り合いなら、朗らかで穏やかな表情。

「……なな」

確かに何かが起きる予感はした。
それを彼女だと知っていた訳ではない。
駆けよってきた少女を横目で見やり、二本指を口元に立て一礼、会釈だ。

「其方もよくよく、高所を好むようだ……。
 昴まる星々の煌々夜に惹かれてか……風情を理解する気持ちも、私も持ち合わせている……」

今宵の夜空は満点の星々。
雲一つなく、淀みなく綺麗な星空だ。

ニーナ > 「……うん。星、見に来た」

会釈に手を挙げて答える。

最近此処に来る頻度が増えている気がする。
入ってはだめと言われているので、少し後ろめたい気持ちもあるが。

「ここ、星、きれい、だから」

しかし代替になる場所は知らないし、知っていたとしても、
そこは夜に一人で向かうには難しく危険な場所である。

紫陽花 剱菊 >  
「……然り。此処はより夜空に近く、星々の瞬きがよく見える……」

恐らく、街の中で最も空に近い場所。
手を伸ばせば届くような錯覚さえ覚えてしまう。
少女の言葉通り、煌めく夜空の美しさは斯様夏の終わりの美しさ。

「……然れど、余り出入りは好ましくない、気には掛けて頂きたく……」

とは言え、一応立ち入り禁止区域。
其処を注意する立場とも成ればぴしゃり、と一言添えておいた。
夜空を見たままその場に静かに腰を下ろした。
凛然と腰を真っ直ぐ伸ばした、綺麗な座禅。
数回、己の膝をニーナへと叩いて見せた。

「今宵は語らいの肴が欲しい所だった……なな、おいで……
 私では些か役不足であろうが、久しぶりに其方と語らいたい」

ニーナ > 「……うん……気をつける」

注意を受ければ、分かってる、といった素振りで。
今日来たのは、公園で見えなくなっていた星はここでも見えないのか。
それを知るためだった。

「お話…」

ただ、まぁそれは今日でなくてもいい。
彼が話したいと言っているなら、そちらを優先する。
叩いた膝の意図を察すれば、近寄って座るだろう。

「わかった。わたしも、話したいこと、ちょっと、ある」

ここなら、彼の前なら、帽子を脱いでも問題ないだろう。
帽子を脱いで、胸元に抱いた。

紫陽花 剱菊 >  
一入剱菊は決まりに厳しい訳では無い。
人の気持ちに疎い方では在るが
其の心意気に水を差すほど、無粋では無いのだ。
故に、其れ以上言及はする事はなく
隣に座れば薄く笑んで見せて、軽く其の頭を冷たい手が撫でようとする。
文字通りの"猫可愛がり"と言う奴だ。

「……私に?如何様な話か……何なりと申して見せると良い……」

思い当たる節はない訳では無いが、さて。

ニーナ > 夏も一区切りついたとは言え、気温が急に低くなったわけではない。
冷たい手は、未だ心地よいものだ。
撫でる手に反応して、目を細めて体を揺する。

「お話。……星の、勉強はじめた」

星を見ていることは恐らく知っているが……
勉強をしていることは、まだ話していなかったはず。

「そしたら……北極星、調べてる時……なまえ、思い出した」

良いことが有ったのを共有したい子供のような明るい調子で。
星空を見上げる。北の空にある、動かない星を、真っ直ぐ見る。

紫陽花 剱菊 >  
「星……天文には私は門外漢では在るが……学びを得るのは、良き事……」

知見を得るのに分野は関係なく、学ぶ行為が大事な事。
そして、話を続けようとし矢先……。

「然るに、如何様な師を……、……何?」

少しばかり、眉を顰めた。
名を思い出したと、確かにこの少女は言った。
何とも、巡り合わせ、"虫の予感"とは此の事だったのか。
水底のように暗い黒の双眸が瞬き、少女の視線の先へと移った。
遥か北の彼方、不動に輝く星の先。

「北星……なな、其方の名は、なんと……?」

ニーナ > 「うん。べんがく?っていうの」

初めて会った時に言っていたことだ。
一つは、それを得られる様になったことを報告したかった。
そして、もう一つは。

「えっと、パウラ。
 北極星、えいご?でぽーらすたー、っていう、らしい」

驚いた様子に少し視線をそちらに向けて、また星に向ける。

「それで、パウラが、ポーラって、読める事、教えてもらって。
 誰がが、わたしの、名前のこと、そう言ってたの、思い出した」

「パウラ・エストレーヤ。それが、わたしの、まえの名前」

紫陽花 剱菊 >  
「……パウラ……」

其れが彼女の本当の名前。
数字の裏に秘められていた、雲隠れの瞬き。
よもや、思わぬ形で聞くとは思わなかった。
ある種、近しい状況で聞くとは。
探していた輝きは、此処にある。

「パウラ・エストレーヤ。成る程……では、なな、ではなく、パウラと呼ぶべきか……」

其れが本当の名で有るならば、仮名はもう不要だろう。
剱菊は大変律儀な男だ。故に、坐したまま二本指を立て、静かに頭を下げた。

「パウラ、改めて……私は紫陽花 剱菊。つつがなく、今後とも、一つ宜しく申し上げる……」

改めて"対面"した少女に自己紹介。
大層律儀な男だ。それが終われば、少しばかり力が抜けたような笑みを浮かべた。

「然れど、この様な形で聞くとはな……其方の名を、探し物として頼まれた矢先、僥倖と見るべきか……」

ニーナ > 「ううん。名前、思い出して、ゆーりと、話して」

改めての自己紹介に応じる前に、
パウラとは名乗っていないということを説明しなければ。

「今のわたしは、ニーナ・パウラ・エストレーヤ、って、名前に、なった」

「だから、ニーナとして、よろしく。
 ……こんぎくが、呼びやすいなら、なな、でもいい。
 そう呼ぶ人も、まだ、居るから」

そう言って、小さく頭を下げた。

「……名前の、探しもの?誰に……?」

紫陽花 剱菊 >  
「其れは失礼……些か、心が先走った……。
 然るに、成る程……では、ニーナと呼ばせて頂く」

其れを名乗るので在れば、彼女の名は其れだ。
故に、己の仮名は無用で在る。
素直に喜ぶべき事態だ。彼女の会釈に、今一度自分も応じた。
さて、彼女の疑問はある種当然とも言うべきか。
自身が探していたものを、他の誰かが探している。
無論、正確には"誰か"ではないが。
ともすれば、隠し立ては要らぬ誤解を招く。
少女の言葉に、小さく頷いた。

「川明かりの如く……金色に瞬く瞳の持ち主。
 ……何を隠そう、他でもない"其方"だ。
 正確には、夢浮橋の彼方に漂う、過去の亡霊……で、在ろうか」

飽く迄、言うなれば、だ。

ニーナ > 「……わかった」

ニーナ呼びで了解する。

さて、続く話ではあるが……当然心当たりはない。

「わたし……?」

自分以外に自分がいるということ?
どういうことだろう……いや、もしかして。
前に剱菊とここで会った気がする。
明け方に見る夢のような感じだったが、確かに外に居た気がする。
つまり……自分が寝ている間に何かをしている自分が居る……。
そこまでは理解できた。

「そのわたしは、なにか、言ってた?」

紫陽花 剱菊 >  
訝しげな少女。当然だ。
まさにあれは一夜の夢幻。
否、断続的に続くと在れば、朧月夜が見せた奇蹟か。
少女の疑問に頷き、言葉を続ける。

「……己の名を探してほしい、と。故に、僥倖では在った」

棚から牡丹餅とまでは言うまい。
然れど、隠し立てすまいと言ったとは言え
少女の不安を煽ったのは間違いない。

「……私が見た中では、彼女もまた其方成れば、何れ其方も直面する時が来るやも知れない。
 受け容れ難しとは思わないで頂きたい。斯様に彼女も、夢に暗れ惑っているだけに過ぎない」

何方が何が、来し方行く末と言問うつもりは無い。
何方もパウラで在る事には違いない。
唯、一つ不安成れば彼女の腹心算が不透明な事のみ。
疑ってかかるのは簡単では在るが、人としての紫陽花剱菊は、一重に夢の少女を信じていた。
……何の因果か。如何様にして薄氷のようなあえかなる手弱女に出会うのか。
斯様、あの夕暮れの少女が、忘れ難し、懸想人の笑顔が脳裏を過った。
持つべきではないと分かっていようと、一度掴んだ此の情は分かち難い。

「……突拍子も無き話で驚かせた事は済まないと思っている。
 だが、私は此処で彼女に二度、出会った。或いは夢だろうが、夢で終わらせるには余りにも尊い」

少女の青い瞳を覗き込むように、剱菊は語る。
……"彼女"は今も、こうしてニーナの奥で、己の声を聞けているのだろうか。

「……『二二七番』……」

其の口は無意識に、夜風に攫われるようなか細さで口走った。

ニーナ > 「名前を、探して欲しい……」

そうか。自分と同じことを思っていた。
だったら、届けたほうがいい。
その気持ちは、苦しいほどにわかるから。

「大丈夫……」

それに、居るのはなんとなく分かっているのだから、
疑うつもりも、あまりない。教えてくれてありがたい、とも思う。
ただ、剱菊がそれを知っているとは、思っていなかったが。

「……どう、やったら、会える……」

彼が番号の名前で呼ぶ。それはきっと"自分"に向けられた物ではない。
ただ、自分が起きていては、彼女は目覚めない。それだけはわかる。

「──そうだ」

一つだけ、彼女を呼び起こす方法に、心当たりがあった。

星空を見上げる。

――金の瞳が北極星を見つめる。

――少女は、星空に手をのばす。

ニーナ > そして、少女は目を閉じて……。

少女の気配が変わる。
腕がゆっくりと下がる。

やがて、目を開く。

紫陽花 剱菊 >  
「左様か……」

そう言ってくれるだけありがたいものだ。
己が心配するよりもやはり此の少女は強いのかもしれない。
否、幾度と邂逅を重ねていく内に、彼女また見ない内に成長している。
何度も実感していた事だが、旅路の半ば、終わりは近いのやも知れない。

「……?ニーナ……」

少女が夜空へと手を伸ばす。
遥か来たの彼方へと伸ばされるあえかなる片手。
其の目の色は、星の輝きを宿すような"金"。
僅かに表情が強張った。
……やがて、目が開かれる頃には、少女の気配が変わっていた。
知っている、気配だ。

「……おはよう、とも言うべきか……"『二二七番』"」

ニーナ > 青い瞳が、状況を確認するように辺りを見回して、
見覚えのある姿が横にあることを認識する。
頭痛は特に無い。

「コンギクさん」

並んで座っている。
いつもなら、誰も居ないこの場に突然現れて、
その後に誰かが来るのだが。

「これ、どういう状況?……私と話してた?」

そう言いながら、ポーチの端末を見て、日付を確認した。

紫陽花 剱菊 >  
如何やら相違無く、まずは改めて少女へと小さく頭を下げた。会釈だ。

「……如何にも。彼女と……ニーナと語らいを……
 其方の事も、ニーナは少なからず感じてはいたようだ。
 私の与り知らぬ……否、ニーナが其方を呼んだ、とも見るべきか」

あの時見据えていた北星の先。金の瞳の瞬き。
恐らく、呼んだのだろう、ニーナ自身が。
静かに頷き、少女の顔を見据えた。
夜風に互いの髪が僅かに揺らぐ。

「……其方に会いたかったのも在る。其方に伝えたい名を……。
 『二二七番』……"パウラ・エストレーヤ"、其方の名を、告げるために……」

ニーナ > 「そう、ニーナが……」

ニーナ。その名前は前の夜に違う人に聞いていた。
どうやらお互いに"居る"というのは分かっているらしい。
自分の記憶を持ってほしくない私は、複雑な気持ちではあるが。

「お願い、果たしてくれるんだ」

青い瞳が視線を合わせる。

「パウラ、エストレーヤ」

ああ、そうだ。
星好きのあいつが「君の名は北極星みたいで好きだ」といっていた。

「間違いなく、私の名前だ。……ありがとう、コンギクさん」

首を少し傾け、切なく笑った。