2020/09/02 のログ
紫陽花 剱菊 >  
「……頼み事と在らば、叶えるのが道理……」

自分一人では如何様にでも困難で在り
此度の願いはある種、"運が良かった"のも合った。
叶うなら、其れで良い。其の名に間違いはない。
間違いは、無いのだろう。唯、其の笑顔は心に引っかかる。
切なげで、儚い笑顔。其れ以前に何か彼女自身に引っかかるような雰囲気。
嗚呼、杞憂で在れば、其れで良い。だが、如何してだ。
其の、霞の様に掴んでも消えてしまいそうに見えてしまうのは、何故だ。
自然と剱菊の表情にも不安の色が混じる。

「……パウラ。此れで、其方もまた名を得た。其方は、此れから如何する心算だ……?」

ニーナ > 「本当に、感謝してる」

視線は街へ向く。

願いは叶ってしまった。
名前は取り戻せる物だったから、期待せずに願ってみた。

だが、これ以上は何も望まない。望むべきではない。

私の記憶を消す誰かはもう存在していないけど。
思い出してしまっては、きっと苦しい気持ちになってしまう。
すでに失われた物だから。何も残ってないから。
ニーナはきっと他人の記憶として受け入れられる。
でも、私は、すべて取りこぼしてきたものとして受け取ってしまうと思う。

本当に、これ以上は、何も望めない。私は、思い出さないほうが、良い。

「どうするか……なにも思いつかない。
 ニーナが、ちゃんと歩めることを願うだけ、かな」

心残りはいくらでもある。あるけど、考えるほど勇気は引っ込んでいく。

紫陽花 剱菊 >  
「…………」

剱菊は人の心の機敏に疎い。
斯様、激動の中で生きてきた。そも、人として生きてきた生のが短い。
だが、あの騒動の中で彼は唯一つ、因果にも感じる事はある。
憂い、哀しみ。そんな感情が、人の押し殺す感情だけが何となく、理解出来た。
ともすれば、是は同情だ。そして此れは、恐らく彼女の憂い。
畢竟、口に出さない方が良いのやも知れない。
だから、だから。


──────"知るか、そんな事"。


「……パウラ。其方"は"良いのか……数奇とは言え、今は自由の身。
 ……私が言えた義理では無いが、如何様にでも在るだろう……」

……これは間違いなく、"ニーナ"にとって重みになるだろう。
二者択一とすれば、罷り間違えば其れは一人の少女の心を押し潰す可能性成りえる。
理解している。わかっている。だが……。
自然と其の手が、パウラの頬へと伸びた。
鉄の様に冷たき手が、少女の頬に添えられる。

「────……何なりと申すと良い。きっと、ニーナは其方も受け入れる。自らを押し殺す事は、望まない……」

「恐らく、では在るがな。……其れに、私自身は、パウラがしたい事も、ニーナがしたい事も叶えたいと思っているよ」

……斯様、独りの少女に我儘を願う事は、間違いなのだろうか……?

ニーナ > 「わからない。私だって、道具じゃない生活を想ったことはある。
 ただ、論理的に考えても、私が諦めるほうが、絶対正しい」

頬に添えられる手にそっと触れ、それを降ろそうとする。

「私だって、過去を知りたい。そればかり考えてる!
 でも知ったところで、何も取り戻せない!」

ニーナのときであれば想像出来ないほどに声を荒げる。

不自由だった頃は気にならなかった不要だとして削られた記憶が、
自由になった少女を後ろ向きにさせる。

「今だって、これからのことを考えても。
 思い浮かぶのは、あの箱の中に繋がれている自分の姿だけ」

他を思い描くための記憶は持ち合わせていないのだ。

「……だったら。だから。
 せめて、別の私が、幸せにあることを願いたい」

紫陽花 剱菊 >  
添えられた手が、下ろそうとされた。
其の手を逆に、握ろうとした。
此の手は多くを切り捨て、そして取りこぼした血濡れの冷手。

「───────……」

何とも悲痛な声だ。耳朶に痛いほど染みていく。
愁眉に表情が至るのも無理は無い。
そう、少女は"ニーナ"にとっての"過去の残滓"。
"無いもの"としてしまった方がきっと、"ニーナ"の重みはなくなる。
今の幸せに陰り差す事も無い。……だが、パウラの犠牲は、許せなかった。

「過去は……変わらぬ。斯様、私も大きく痛感している……。
 其方の過去と比べよう等と、烏滸がましい事は考えない……」

其れは互いそれぞれの重みだ。比べるのも、ましてやひけらかす事でも無い。
故に、パウラの事を見過ごせはしなかった。
畢竟、是は"我儘"だ。目の前に在る"一人の少女"を見捨てる事を出来やしない。
其れが仮に、"ニーナ"の負担に成り得るとしても、其れは──────。

「……成ればこそ、"パウラ"の幸せも"ニーナ"の幸せ。
 節に折るには、些か早い。過去を取り戻せずとも、其方の"未来"を掴む事は許されるはず……」

「……私では不足足るや、欠かれた男だ。過去を変える程、因果を捻じ曲げる力を有してはいない」

「然れど、其の痛みを和らげる事も、想いを馳せた未来を掴む耳目と成る事は出来る」

「……"パウラ"。其方が幸せに成る権利さえ、在るだろうに。
 "ニーナ"も、きっと受け入れてくれる。分かち難い痛みもあり得るだろう。
 然れど、何方が欠けても、其方達は其方等足り得ぬと私は思うよ」

「……良いでは無いか、二人分の幸せが、一つの体にあったとしても。だから……」

紫陽花 剱菊 >  
 
      「──────……諦めるな、"パウラ"。是に其方の幸せを願う男が要る」
 
 

紫陽花 剱菊 >  
握った手を手繰り寄せるように、己の体にか弱い体を抱き寄せようとした。
そう、是は我儘だ。故に、その他合切を無視した己の願い。
少女の幸せを、願い、其の手助けをしたいだけだ。
冷たい、鉄のような体温。然れど確かな、人の温もり。

ニーナ > 手を取られれば、それは振り払わない。振り払えない。

分かっていた。
私が名前を思い出したがるように、ニーナが名前を探していたことを。
私が過去を思うということは、ニーナもそれを取り戻そうとすることを。

「貴方の願いはわかった。ニーナは、本当に出会いに恵まれている」

自分とは違って、とは言えなかった。
自分がニーナの幸せを勝手に願うように、彼が私の幸せを勝手に願うことは阻めない。

冷たい体に抱き寄せられ、そのまま固まる。
しばらくじっとしていて……口を開いた。

「……多分、怖いの。もう取り戻せないものに、向き合うのが。
 私が耐えられるか、わからない」

ニーナのような意思の、精神の強さが、少女には備わっていなかった。

「……まぁ……貴方がそこまでいうのだから、少し考える」

少しだけ、前向きな返事を発した。

紫陽花 剱菊 >  
「……私はニーナに何かした訳では無い。ともすれば、友の力で在ろう……」

恵まれた出会いか如何とは言えまい。
世話をした覚えは在るが、其処から先はきっと彼女自身の歩みだ。
自分が何かした覚えは無い。

「…………」

そっと、少女の後頭部を撫でた。
其れは子をあやす様に静かで、優しい手つき。

「……かつて、多くの生命を切り捨てた、取りこぼした。
 衝に当たる覚悟を持ち得ても、焦眉ではすり抜けるばかり……。
 切望した人は、何とか此の手に握る事は出来た。」

「私なりの、ケジメを付けるべく、其の遍く生命と"向き合う"事にした。
 ……面映ゆい話、思わず一人では立てぬ程の重みだ。故に、わかるとも……」

其の恐怖が。直面した時、心が砕けてしまいそうなか細さが。
きっと、一人で在ればそうなるのも頷ける。
然れど、其れは一人で在れば話。

「私も居る。向き合う時は、私も一緒だ……」

強くあれと言わない。強くないなら、支える事も出来る。
其れが人だ。人が持ち得る強味成れば、此より関わる己が支えるのが道理。
頼りない男と言う自覚は在るが、其れでももう、取りこぼしはしない。
パウラの返事に静かに頷き、はにかみ笑顔を浮かべた。

「……そうして頂けるので在れば、重畳。パウラ……少し、歩こうか」

少しだけ身を離せば、その場から立ち上がる。

「其方が時を得ても、良いだろう。つかの間の自由やも知れぬが……」

「夜の街も、悪くはないぞ……?」

静かに手を、伸ばした。

ニーナ > 「ニーナは貴方を信用してると思う。
 じゃなければ、目の前で私に変わろうとはしない」

まぁ、推測でしか無いが。
自分のことだが、ニーナのことは又聞きでしか知らない。

固まったまま、頭を撫でられる。
それにも特に反応は返さないが、拒んだりもしない。

「……誰かと一緒に向き合う、か。
 まだ、わからないな……。」

任務の時は全て一人での行動だった。だから、誰かとやるというのも、いまいち実感がわかない。
しかし、ニーナが慕う、お願いを聞いてくれた相手だ。無下にはできない。
故に、相手の言葉は聞き入れる。
しかし……。

「お誘いはありがたいけど……。
 今の私は、ここから降りられない」

数段螺旋階段を降りれば、頭痛を伴って意識を失う。
言うなれば、少女は星空に縛られていた。

少女は、手を取れなかった。

紫陽花 剱菊 >  
「…………」

言われれば得も知れぬ存在に成れと言ったようなものだ。
無論そうだ、とは断言できない。
信用されているかは、今一実感も沸かない。
"後ろ向きなのは、お互い様"だ。

「……此れから、分かれば良い。私も其の様に変わっていった。
 車軸の流すが如く、激動に急く必要は無い……」

其れほどの猶予が在るかは分からない。
とは言え、急いて変わるので在れば苦労はしまい。
少女の手を取り、共に夜へと行くつもりだった。

「……!パウラ……!」

崩れ落ちる少女の体を支えるように抱きかかえた。
何かに拒まれるかのように、パウラの意識は途絶えてしまった。
……星の呪縛か、地上に降りる事を許されないのか。
一人の少女を、如何様に縛ろうと言うのか。
運命とは、残酷だ。知っていたはずなのに、如何にも。
愁いを帯びた表情を二度、三度、静かに首を振る。
黒糸は細かく揺れた。

「……おやすみ、夢の瞬きの少女よ。必ずや其方を、地上へと連れていく」

「約束だ……」

もう、聞こえはしないだろう。
其れでも此の誓いは違えれない。
ニーナの意識が戻るなら共に、戻らぬので在れば、例の如く彼女の家まで送り届けるだろう。

ご案内:「大時計塔」から紫陽花 剱菊さんが去りました。
ご案内:「大時計塔」からニーナさんが去りました。
ご案内:「大時計塔」に鞘師華奈さんが現れました。
鞘師華奈 > 公安の仕事も一段落――とはいえ、自身が所属する部署は”遊撃隊”みたいなものだ。
調査ばかりかと思っていたが、時には”それ以外”もある――まぁ、そんな事はさて置き。

「――さて、ここは相変わらず眺めが良いけれど…。」

大時計塔。基本的に生徒の立ち入りは禁止されているが、警備員が居る訳でもないので入るのは割と容易い。
実際、入り込んでいる輩は自分も含めて結構多いのだと思っている。
ある意味で人気スポット、というやつなのかもしれない――まぁ、自分にとっては一服に丁度良い場所の一つだ。

「――裏常世渋谷も探索をしないといけないし…あー…睡蓮連れて行くべきかなぁ」

連れて行く、と決めた筈なのに未だに迷いがある辺り、私も女々しいなぁと嘆息。
気を取り直すように懐から煙草の箱とジッポライターを取り出せば。
片手で箱の蓋を開き、指でトントンと箱を叩いて1本だけ煙草を浮き上がらせる。
そのまま、それを口に咥えてからライターで火を点けるのが何時もの流れだ。

「ふぅ~~~……仕事終わりの一服は最高だね…っと」

欄干へと歩み寄れば、ひょいっと身軽にそこに飛び乗り…そのまま腰掛けてしまおうか。

ご案内:「大時計塔」に鞘師華奈さんが現れました。
鞘師華奈 > ゆっくりと紫煙を蒸かしながら今後の事をぼんやり考える。

――裏常世渋谷の探索。これは地道に時間を掛けて続けるつもりだ。
自身の目的――黄泉の穴の探索――を、磐石にする為にも異界の情報やアイテムは欲しい。
――公安の仕事。現状、色々情報は雑多に入り混じっているが、今の所は表面上動くのみだ。
まぁ、うちの部署のボスから何か明確に指令を受けるまではフリーに動くつもりだ。

(公安、というか何でも屋みたいなイメージになってるなぁ、何か…まぁいいけどね)

適度に頭を使う、適度に体を動かす。そのくらいが丁度いい。

「――焦りが無い訳でもないけど…まぁ、地道に一歩ずつ、か…」

正直、今自分が生きてるのか死んでるのかもよく分からないのは気持ち悪いが、焦って解決する問題でもない。
――結局、自分が一度死んだあの場所にまた訪れなければ真相は分からないのだ。

「――まぁ、蘇りにしろ何にしろ。私は”生きてる”…そう思いたいな」

私は死人やゾンビじゃない――鞘師華奈という一人の人間として、今ここに生きているのだと。
ゆっくりと煙草の煙を吐き出しながら、欄干に腰掛けながら夜の時計台で一人景色を眺める。周囲は静かだ。

ご案内:「大時計塔」にラピスさんが現れました。
ラピス > ぽてっぽてっ、今日のへっぽこ教師は、悲しいことに見回り中。
保健室という冷房の効いた楽園からつまみ出されて、晩夏の町中を行脚だ。
ぐるっと色々な場所を巡って、練り歩いて、へちょりながらやって来た大時計塔。
目の前の偉容は、正しくラスボス。畜生、なんでこんな大きな塔にしたんだ、と内心で毒づく。
ともあれ、しっかり上まで見回って帰ってこないと、お仕事完了には出来ない。
これでも一応教師の身。職務は全うしないと。へっぽこだが、存外に真面目なのだ。

そんなこんなで、太腿やら脹脛やらを乳酸でだるぅくしながら、えっちらおっちら。
ひぃ、ふぅ、と遅い足取りで登ってきたへっぽこ教師は、ようやく塔の上にやってくる。
見回りルートから外せよぅ、とは思うが、実際結構忍び込む人が居るらしいからやむを得ない。
さてさて、誰か居ちゃったらどうしましょうか、と登りきって見回すと。

「――ぉー、めっちゃ普通に居ますね。ここは学生さん立ち入り禁止ー、ですよー」

へちょりすぎて、明らかに取り締まる気の無さそうな声が飛ぶ。
見回りは仕事だが、忍び込んだ相手をどうこうするのは仕事じゃないし、とかなんとか。
ともあれ、先客の方にポテポテと、歩み寄っていくことにする。

鞘師華奈 > 「――やぁ、どうも不法侵入者です」

煙草を咥えたまま、そちらへと振り返れば軽く会釈を。そもそも未成年だがそこは口にしない。
相手は初対面――いや、確か教師だっただろうか?覚えがあるのか、あー…と軽く頭を掻いた。
これが一般生徒や風紀ならまだいいが、教師となると――さてさて、どうしたものやら。

(まぁ、うん――なるようになるか)

変な所でポジティブシンキングになるのは仕方ない。教師の遭遇は少し予想外だった。
しかし、彼女の様子から取り締まり、にしてはいまいち覇気や威厳が無い…見た目?それはそれ、言わないのが華だろう。

「――と、確かラピス先生、でしたっけ?直にこうしてお話しするのは初めてかもしれませんが」

教師の名前や顔はある程度はちゃんと把握しており、彼女の事も大まかには分かる。
とはいえ、直に話したりするのはこれが初めてだ…初っ端から不法侵入者だけども。
蒸かしていた煙草を、取り出した携帯灰皿に放り込んで。流石にポイ捨てはしない程度のマナーはある。
とはいえ、欄干に腰掛けたままの危なっかしい姿勢はそのままであり。

ラピス > 大時計塔の上は、昼間温められた地面から遠い分、なんとなく涼しいような気がする。
それでもここまでひいこら言いながら登ってきたせいで、汗だくポカポカなのだけれど。

「うや、どもです。潔くて大いに結構ですねー」

会釈には、同じくぺこりと礼を返す。そしてそのまま、ぽてぽて、ぽてりこ。
隣ぐらいまでやってくると、彼女の手元をちらりと見て。ふむー、と悩んだ後。

「まぁ、この学園は見た目と年齢一致しませんからね。
 あなたがもし仮に未成年でも、不問にするとしましょうか。
 ――お隣で、先生も一服させてもらってもよろしいです?」

白衣のポケットに手を突っ込んで、ゴソゴソ探って取り出すのは飴色の筒。
蓋をキュポっと引き抜くと、中には数本の紙巻きタバコが吸口を上に並んでいる。
その内の一本を摘み上げると、はむ、と咥えて手指を煙草の切っ先へ。
それから煙草の先端を指先でちょんと突いたなら、淡い赤の燐光と共に火を付ける。

「――うや、先生をご存知でしたか。嬉しいですねぇ。
 まぁ、今日ここに居たことは、降りる頃には忘れてると思うのでよろしくです」

ぷかぷか。特製の煙草を吹かすと、紅茶の様な雰囲気の香りがふわりと広がる。
目の前で煙草をしまう彼女の様子には、よい子ですねー、と頷いて。
そして、欄干に座ったままなのは、特に気にしないへっぽこである。
変に慌てさせて落ちられても困っちゃいますしね、なんて考えていたりする。

鞘師華奈 > 実際、これだけの高さがあれば地熱からも遠ざかってそれなりには涼しいかもしれない。
何より風の通りが良いのが大きいかもしれない――とはいえ、彼女の様子を見ると汗だくだ。

(まぁ、地味にここまで来るのに苦労するしね…)

女はこれでも最低限鍛えてはいるし、公安の仕事で足を使ったりするので意外と健脚だ。
少なくとも、時計塔を上り下りするくらいは普通にこなすし息切れなどもしない。
さて、喫煙については流石に不法侵入よりお咎めありそうだなぁ、とは思っていたのだが…。

「――あー……それはどうもありがとうございます、先生。
それと、喫煙仲間は何時でも募集中なので歓迎ですよ私は…あ、私は鞘師といいます。鞘師華奈です」

敢えて学年は伏せておくが、年齢と学年が一致しない生徒も多いからどのみちあまり意味は無い。
ともあれ、白衣から彼女が取り出したのは飴色の筒。キュポっと小気味良い音と共に開けられた中身。

(成程、アレが先生の煙草ケースなのか……見た事無い煙草だけど…)

異邦人街とかの銘柄だろうか?それとも別の?煙草に自然と興味が惹かれつつも、こちらも2本目を取り―出そうとして止めておく。

「あぁ、一応ある程度は教師の名前と顔、担当科目くらいは頭に入れてあるので。
職業柄、そういうのもある程度は知識の一環として入れておかないといけないんですよ。
――ん……この香りは――紅茶、ですか?」

彼女が魔術か何か?で点火する様子を眺めていたが、漂う煙と匂いにふと気付く。
欄干に腰を下ろしたまま、彼女の吸う煙草を興味深そうに眺めつつ、バランス感覚があるのか落ちそうになる様子は無く。

ラピス > へっぽこ少女は、残念ながら運動はあまり得意な方ではない。
最低限、走って跳ねて転がることは出来るが、塔を登るだけでもへたれる。
ダラダラと吹き出てくる汗に、どうしたものかなぁ、と思考を捏ねつつ。

「いえいえ、未成年だって分かったら、ちゃんと注意しなければ、ですけどね。
 一応、これでも生活委員ですし、保健室に入り浸る養護教員ですからねー。
 ――ま、それでもやめるかは自由意志に任せますけども。鞘師華奈さん、ですか」

ご丁寧にどうもです、とぺこぺこ。それからふむむーと何やら考え始める。
ぽくぽくぽくぽくぽくぽく、ちーん。ぽん、と一つ手を打ってから。

「それじゃ、喫煙仲間ってことなら、華奈ちゃんとお呼びしましょうか」

教師と生徒という間柄なら、名字にさん付けが望ましい気がする。
けれど、プライベートなら、そんな格式張った考えしなくてもいいよね、なんて。
仲良しが多いほうが良いよねー、というお気楽な教師は、かなりフランクだった。

「なるほど、素晴らしい考えですね。良いことだと思いますよー。
 ……職業柄、ですか。人の名前と顔を覚えてくのが必要、ふむむ、ふむー?
 うや、分かりますか?ふふり、これ、先生が自分で調合した手作りなのですよー」

どんなお仕事かしらー、という疑問も、煙草への言及の前に消え失せる。
興味を持ってもらえて嬉しいへっぽこ教師は、ぺっぺかー、とにっこり笑顔だ。

鞘師華奈 > 「――ラピス先生、取り敢えず汗を拭いたほうがいいかなって私は思うんですけど……どうぞ?」

彼女の汗だくの様子に、流石にそのまま見ているだけ、は忍びないと思ったのか、スーツの懐から折り畳まれたシンプルな紺色の無地のハンカチを取り出して。
彼女が手渡せる距離に居るならば、そのまま手渡しで彼女にハンカチを貸そうと。

「養護教員、というのも生活委員というのも情報でだけは知っていますが――はい、鞘師でも華奈でも私は構いませんが」

基本、よっぽど変な呼び方でなければ大抵の呼び名は受け入れるタイプだ。
と、何やら考えタイムに突入したラピス女史を赤い瞳で見つめていたが。

「え?…あぁ、成程。じゃあ私は…うーん、流石に教師を呼び捨てはマズいでしょうから――ラピスさんで。」

教師と生徒の間柄なら兎も角、プライベートなら間柄になるならもっと砕けてもいいだろう。
フランクな彼女の態度に、難色を示すどころかむしろ歓迎するように微笑んで。
まぁ、それでも最低限の礼儀というかマナーで、呼び捨てなどは戒めておく。

「ああ、大したものでは。私は公安委員会所属なので――まだ新人ですけどね。
…調合?ああ、そういえば確かラピスさんは薬学の――」

最初、調合と言う単語に首を傾げそうになったが、直ぐに彼女の教えている科目を思い出して納得。

「いいですね、手作りの紙巻煙草、みたいな感じですか。紅茶みたいな匂いも気になる所ですし…。
―――1本だけ頂いたり出来ません?」

と、矢張り味とか吸い具合が気になるのかおねだりしてしまう女であった。

ラピス > 「おおう、お気遣いありがとうございますー。助かりますよぅ。
 さっき煙草を探すついでに探ったんですけど、ハンカチ忘れてきた様なので。
 しっかり洗って、アイロンかけて、きれいに畳んでお返ししますねー?」

気遣いに感謝しつつ、素直にハンカチを受け取って、おでこをペタペタ。
お陰で、ペタペタとした不快感はなくなった。なんとも快い気分である。
首から下も内着はぐっしょりという感じだが、そっちは我慢するより他はない。
借りたハンカチは、綺麗にしてから返すつもり。ついでに、お礼のお菓子でも添えよう。

「むむむ、先生のことは知られているのに、先生は華奈ちゃんに詳しくないですよぅ。
 これは、華奈ちゃんのことを知るのが急務ですね。じゃないと、なんだか悔しいですし!」

へっぽこ教師は、人付き合いに遠慮がない上に、突撃上等なスタイルだ。
距離を詰める隙があれば遠慮なく、積極的に詰めていく。それが強みだ。
お陰で、生徒達からは教師というよりマスコットや妹チックに可愛がられている。
教師の威厳?なんてものはない。残念ながら、この見た目では期待もできない。

「うぃ、それじゃ、今後共々、改めてよろしくですよー」

彼女の微笑みには、同じくニッコリと笑顔を返す。
呼び捨てでも本人は気にしないが、彼女の中のけじめなら、素直に尊重しよう。

「ん、公安さんですか。いつも頑張ってくれて、感謝なのですよ。
 保健室にご用があるならいつでもウェルカムですからね。なくてもウェルカムですけど」

実際、病気や怪我の生徒が居なければ、生徒とお茶しているのがこのへっぽこだ。
遊んでいるのか、というと、友好を深めで情報収集、とか大義名分を翳したりしている。
ともあれ、彼女が煙草に興味を示すなら、飴色の筒を彼女に差し出して。

「先生の体質に合わせて、色々効能を仕込んでますが、一本なら平気でしょう。
 どうぞです。魔力の活性とかするかもなので、体調変わったら言ってくださいね」

へっぽこ教師にとっては、魔力の増強を担うドーピング剤みたいな効果もある巻き煙草。
体質が合わなければ、効果は出ない。精々が甘口で紅茶の香りがする煙草だ。
彼女との親和性は如何ほどか。まぁ、大丈夫でしょ、と案外適当なへっぽこ教師である。

ご案内:「大時計塔」に鞘師華奈さんが現れました。
鞘師華奈 > 「あーーいや、そこまでしなくても…別に使い捨てみたいに処分しても構いませんよ私は。
予備のハンカチは流石に無いですが、自宅にはまだありますしね」

あまり物に頓着をしないタイプなのか、割とあっさりそう述べる。
とはいえ、ラピス女史が洗って返す気であるならばそれを断ったりはしないが。
そもそも単純明快な何となく、の延長の親切心で見返りなどを求めたい訳でもない。

「いや、それはまぁ初対面ですし…えぇ、公安なのであれこれと調べ物とかも多いんですよ。
だから、教師や必要とあらば生徒の情報もある程度は頭に叩き込んだりしますし」

と、己の職業柄そういうのも必要なのだと。そして、こちらの事を知る、と言われても…。

(ラピス先――じゃなかった、ラピスさんが興味を惹かれるような話のネタは私には無さそうだけど)

見た目通りというか、クールではないが人付き合いは当たり障り無く、突撃はあまりしないタイプだ。
それでも、彼女のようにむしろグイグイ距離を詰めて来るくらいが丁度いいのかもしれない。
教師の威厳は女の目から見てもあまり無いが、威厳が無くても立派に教師を務める者も多いだろう。
ならば、彼女の見た目や態度がどうだろうと”教師”として師事する気持ちはしっかりある。

「えぇ、時々一緒に喫煙とかしてくれると嬉しいですね…お互いプライベートな時が一番望ましいですけど」

と、少しだけ苦笑いを浮かべながら肩を竦めてみせる。まぁ、今もプライベートな時間ではある。

「保健室、ですか。偶に授業を抜け出して昼寝とかしに行くくらいですかねぇ…あ、常習犯では無いですからね?」

と、そこは申しておく。これでも成績も出席率も結構しっかりしているのだ。
まぁ、もしかしたら保健室で彼女と談笑をしながら一服、という場面も今後あるかもしれないが。

差し出された飴色の筒に手を伸ばし、1本だけ「じゃあ失礼して」と礼を述べながら手に取り、まず外見を繁々と眺めてから口の端に咥える。

「――お、咥えただけで仄かに甘い味わいと香りが…やっぱり紅茶のイメージですね、これは…。」

そのまま今度はジッポライターで点火。ゆっくりと深呼吸をするように味わって。

「ん…味は結構良いかもですね――そのうち、私に合わせた調合煙草とかお願いしたいものです
あと、体内の魔力の流れが少し変わってる感じがしますね…ドーピング作用かな?」

これなら、お金を払ってもいいかもしれないな、と。思いながら味わうように喫煙タイム。
どうやら完全に、という訳ではないが効果の片鱗が出ている辺り親和性は高めな様子。

ラピス > 「いやいや、それはもったいないので駄目ですよー。無駄遣いは良くないのです。
 それにですね、これを返しに行くとなると、ご一緒する口実増えるじゃないですか!」

むふー、とどやってみるへっぽこ教師。名案だと言わんばかりである。
なお、口実がなくても見かけたら声かけるし、お茶に誘うから、実の所意味はない。
ついでに言うと、お礼のお菓子もとどのつまりはへっぽこ教師の趣味である。
つまり、端的に還元すると、仲良しっぽいことしよう、ということだ。

「えぇ、初対面です。つまり、これからいくらでも華奈ちゃんを知れます。
 それにしても、えぇ、そういうのを有言実行してるのは凄いと思いますよ?」

言うは易し、行うは難しとも言いますし、なんて煙草をプカプカ。
そう、真面目に見回りします、というのも、言ってみたけどやるのは面倒なのだ。
だからこうして、未成年の生徒と一緒に煙草を味わっている――非行教師である。

「勿論、喫煙仲間なのですから、喜んでご一緒しますとも。
 教室ではちゃんと、薬学教えますけどね。テストはしっかりしますよ!」

勿論、彼女が不正や忖度を好みそうにないのは、なんとなく分かっている。
それでも一応、しないよと宣言だけはしておく。へっぽこ教師なりのけじめだ。

「おやおや。まぁ、どうしても眠い時は無理せず寝たほうが良いですからね。
 おサボりは、多少なら心の休養ってっことで見逃しましょう。先生もしますし」

常習犯じゃないなら、とやかく言わないのがへっぽこ教師のスタンス。
だって、サボりたいときなんて誰にもあるよね、にんげんだもの。らぴす。

ひょいと差し出した煙草に彼女が火を付けると、紅茶の香りが少し濃くなる。
ふわふわ、ふわふわ。漂う紫煙が二筋。なんとも落ち着く時間だ。

「ふふ、どうです?先生のお手製は。案外行けるでしょう?
 ふむ、体質を調べてからで良ければ、ご依頼もお受けしますよー。
 ……なるほど、案外体質的に先生と近しいのかもですねぇ……」

ぷかり、ぷかり。彼女もこの煙草で魔力がブーストされる様子。
となると、相性の良い薬草類も似ているかも、と興味深そうに頷いていた。

ご案内:「大時計塔」に鞘師華奈さんが現れました。
鞘師華奈 > 「口実――あー…成程。でも、別にそういう口実無くても私は待ち合わせとかは歓迎ですよ普通に。
正直、私はまだ知人友人がそんなに多くはないですし、喫煙仲間は殆ど居ないですからね」

最近、やっと一人風紀委員の喫煙仲間で友人が出来たくらいか。まぁ喫煙者の肩身は基本狭い。
ともあれ、口実があろうと無かろうと、交友を深めていくのは女としても望む所で。
以前と違い、傍観者は止めたのだ――出来る範囲で人と関わっていきたい。

「私にそんな面白みは無いと思いますが――あぁいえいえ。
有限実行、というか。面倒な気持ちはありますけど、そういうのはさっさと終わらせるに限るというか。」

自己評価が基本的にちょっと低めなのでそんな発言。あと、真面目なのはその方が効率的で早く片付くから。
根っこはそれなりに肩の力を抜いたりもするが、まぁ仕事の時はそうもいかないのだ。

「薬学の知識は役立ちそうなのできちんと履修したい所ですね。…あ、テストはちゃんと予習復習はするタイプなんで私」

と、笑って肩を竦めてみせながら彼女から1本貰った調合煙草を蒸かしていく。
女は魔力の質や量はそこそこだが、魔力適正などにやや偏り、というか特徴がある。
直接的より間接的作用――要するに、絡め手に向いた魔術への適性が高いのだ。
それはそれとしても、ラピス女史との親和性は割と高めなのか、煙草を吸っているとドーピング作用もある程度は発揮されているようで。

「体質はあまり考えたことはないですね。魔術は最近は錬金術とか初級の精霊魔術とか、独学含めて手を出してますが…。
それじゃあ、今度その体質を調べて貰ってから私に合った煙草の調合をお願いしようかなぁ」

魔力にブースト作用がある煙草、というのは喫煙者な自分からしたら魅力的だ。
ラピス女史なら変に中毒作用のあるものは作らないだろうし、一度試してはみたい。

(――まぁ、”一度死んでる”らしい私の体質がどういうものかは気になるけどね実際)

死の属性とか備えてたらどうしよう。まぁその時はその時だが。