2020/09/18 のログ
鞘師華奈 > 悩んでいるのだろうか?――まぁ、多分そうなのだろう。
落第街時代はそんな事はほぼ考える事も無かったし――

「終わるまでって、つまりは死ぬ間際までって事かな?うーん、自分が分からないというのもあるけど、さ。
何て言うかなぁ…私が私である為に、どうしてもハッキリさせたいんだよ。
――何で今、私がこうしていられるのかを、さ」

初対面の彼に詳しい事情はさすがに話せない。だけど、ある程度暈した上でそう語る。
進捗状況――それだけを見れば、正直遅々とした歩みだと言わざるを得ないけれど。

「まぁ、ゆっくりと着実に、かな…うん、私自身はそのつもり、なんだけどね」

実際は、少し前のめりになり過ぎているかもしれない。つまり”危なっかしい”。
それでも――”私の物語”を紡ぐのならば、どうしても今の自分の事をハッキリさせたいのだ。

(3年前に確かに死んだ筈の私が、いま…こうして生きている理由を)

その真実が過酷だろうと残酷だろうと、私は私である為に受け入れなければならない。

「――まぁ、だから今は色々と”準備段階”って所かな」

梦 叶 >  
「――――ふぅん」

準備段階、と聞いて、少し真面目な顔をした。
ゆっくり、着実…かぁ





 
      ”それはつまらないな。”






「―――その準備、俺も手伝ってみたいもんだね。
 
 人が考えて何かを求める。その結果…っていうのがさ、結構好きでさ。
 そういうの見ると応援したくなっちゃうんだよね?」

じっ…と彼女の方ながら見る青年は、真面目そうに、すこし笑顔でそう言う。

「カナちゃんがさっき煙草で言及した通り、俺は落第街の方の人間でね。
 異邦人街の方にもツテもある。まぁ…その分表通りの交流は薄いけど。
 情報やコネに関してはそこそこある方だと思うぜ?

 で、さ……
 折角だから、そのカナちゃんの『自分』っていうの、俺も俺の視点から君が何者なのか、調べさせてくんない?
 何か分かったら教える。俺は別に君の事を悪用するつもりもないし、もしも俺が何か君に不都合な事したらなんなりと文句でも賠償でも甘んじて受けるよ。
 その結果の見返りは…ま、食事に付き合ってもらうって所でいいさ。

 どうだい?
 少なくとも俺はカナちゃんとは違った『視点』で事を見れると思うよ。
 君が見えない角度にある手がかりを見つける可能性はあるんじゃない?」

鞘師華奈 > 「――何だ、叶さんは割とお節介なタチなのかい?それとも――そういう”趣味”なのかい?」

僅かに、彼の申し出に目を細めながらそう言葉を投げ掛ける。煙草を吸いながら、赤い瞳がじっと彼を見つめて。

「――つまり、見たいのは過程と結果で、”その後”は割とどうでもいい、とかそんな感じかな?」

初対面の彼の思惑や内情など女には分からない。じっと、真面目そうな顔で笑う彼に、僅かに一度目を閉じて。

(――さて、確かに別の視点からの情報はありがたい。私に必要なのは”結果”に至るまでの情報と武器。特に情報は価値が大きい)

ただ、彼が得た情報を”全て”こちらに寄越してくれるかどうか。意図的に情報を伝えない事も当然出来るわけで。

(情報の取捨選択や選り好みはあまりしていられないし、さて――)

彼には彼なりの”思惑”がある――これは、公安としての職業柄の勘と、落第街時代の経験からの推測だ。
むしろ、思惑が無い方が不自然だが――…

「分かった、叶さんの提案には乗るよ。――正直、私一人では全ての情報をカバーするなんて無理だからね」

当然の事だ。この際だ――彼に思惑があろうと無かろうと、ならばこちらも”利用”させて貰おうか。

「まぁ、そんな訳で何か私に関する情報があればよろしく頼むよ」

さて、これがどう出るか。どのみち個人の情報収集は限界があるのだ。やがて、2本目の煙草を吸い終えればそちらも携帯灰皿に放り込んで。

「さ…てと。私はそろそろ部屋に戻るよ。叶さんは?」

軽くうーん!と、伸びをしてからそちらに顔を戻して尋ねようか。

梦 叶 > 「ま、趣味ってとこかな。
 いやいや俺はむしろ”そのあと”のが見たいんだよ。
 人がちゃんと悩んで、人らしく生きるのが好きなだけ。
 
 カナちゃんはまだ途上に俺は見えた。だから俺の人生の合間でその道の補助をちょーっとする位、バチ当たんないかなって思っただけさ」

そういう男性に、裏があるようには見えない。
善意そのもの、出し抜こうという意志は見えない。
何かを隠して取り入ろうとしている感じも、ない。
実際に、そう思っているから当然である。

そのまま携帯端末を取り出し、連絡先を表示しながらこう話す。

「OK! じゃ、これはオレの連絡先だ、あと、あぁ……
 じゃあ見返りといっちゃなんだけど、一つだけ伝言。
 ”ある奴”に会ったら伝えてくんない?」

梦 叶 >  
 
 
 
 
 
「『夢莉』っていう女みたいな男に会ったら、俺がよろしくっつってたって伝えといてくんない?」
 
 
 
 

 
 

梦 叶 > 「んじゃ、俺もさっさと戻るかなー。
 それじゃあカナちゃん、俺から何かあったら連絡するよ」

そういって、にこっと笑って先んじて立ち去る。
煙草の香りだけ、少しその場に残り続ける。
紅茶と、香辛料の混じった煙の香り。

君の『知り合い』の吸う煙草と、同じ香り。

ご案内:「大時計塔」から梦 叶さんが去りました。
鞘師華奈 > 「成程ねぇ…まぁ、そちらの趣味や考えに私は別にどうこうは言わないさ」

――途上なのは実際その通りで。だからこそ”危なっかしい”と言えるのだから。
今まで、3年も怠惰に過ごしてきた者が能動的になろうとしたら、何処かで歪みが出るのは当然だ。

少しの間、彼をじっと眺めていたが――やがて、やれやれと肩を竦める。
思惑も裏も無い、そこには善意がある――善意”しかない”。それが異質に思えた。

「伝言?構わないけど――っと、アドレス登録完了、と」

彼と連絡先を交換しつつも、頼まれた誰かへの伝言。初対面の私に頼んでいいのだろうか?と、思いつつ。

ただ――彼の口から出た名前に。僅かに携帯を懐に戻す手が止まる。

――ああ、何だ。”彼”が吸う煙草と考えたら全く同じじゃないか、と。今更に気付いた。

「――ああ、伝言はしっかり伝えておくよ。お疲れ、叶さん」


一足先に立ち去る彼へと、右手を緩く振って見送った後に…小さく溜息。

「――さて、偶然か意図的か…また因果なものだね」

しかし頼まれた伝言は果たして置かなければならない。
こちらも、少し経ってからゆっくりと歩き出して時計塔を跡にしよう。

帰り道、ふと夜空を見上げて――

鞘師華奈 > 「――やれるだけやってみないと、ね」

それが、前を向き始めた私に出来る当たり前で簡単で、そして――とても難しい事だから。

ご案内:「大時計塔」から鞘師華奈さんが去りました。