2020/10/10 のログ
ご案内:「大時計塔」に雪城 氷架さんが現れました。
雪城 氷架 >  
いつもどおり、日陰になる階段の踊り場にシートを敷いて
壁に背を預けて小さな寝息を立てる少女

相変わらず座学はそこまで出る気分にならず、
最低限の出席日数とレポートで、一夜漬けで乗り切る腹積もり
異能学の時間まで、間のコマ数はのんびり脳を休める時間──という心積もり

そろそろ吹き込む風は冷たくなってきた頃合いだが、
少女は異能の力のおかげで風邪を引くこともない
実に穏やかな顔つきで、昼寝をしている

雪城 氷架 >  
肌寒い風も、少女にとっては心地良い、肌を撫でる程度の風

「………ん…」

しばらくは心地良さ気な寝息を立てていた少女だったが──

………

……



夢を見始めた

もう随分と長い間、同じ夢を何度も見ている

それは、自分が異能の力に覚醒した時の…
母親が、雪城涼子がその命を"失った筈"の…事故の夢

雪城 氷架 >  
交通事故──自分の目の前で冷たくなってゆく母親の身体と、
その情報を適切に処理しきれず、狼狽する子供の頃の自分
そして自分達を注意深く見下ろす、父親の姿──
少しずつ赤い染みが広がって、自分の手もそれに濡れてゆく
もう何度も何度も、繰り返した光景

「………」

静かに目を開く
踊り場に差し込んでいる光が手前のコンクリートを照らし、寝起きには少し眩しい
細まった瞳のまま、深く深く溜息を吐く

「……しばらく見てなかったのにな」

コン、と軽く自分の頭を叩く
ここのところ、異能と家族のことばかり考えていたせいか──

雪城 氷架 >  
気分が悪い
あの夢を見たあとはいつもこうだ

ただの夢で済めば良いものを、あれは紛れもない過去の記憶
あくまで夢で見ているもの。どこまで正確な記憶なのかもわからないけれど
当時のことは、ショック状態で余り覚えていないし

ただ、今でも暖かな笑顔を向けてくれる母、雪城涼子が故人である…という現実と
なぜか事故の最中、取り乱しもせず自分達を見つめている父親の姿と

「──ハァ…」

そして、おそらく母親は父親のその姿を知らないだろう、ということを深く思い起こさせられてしまうからだ

ご案内:「大時計塔」に霜月 水都さんが現れました。
雪城 氷架 >  
夢で見ている光景が本来の記憶と齟齬を起こしていないのなら、
自分の命は母・涼子に救われたに違いない
そして、異能の力で今の姿を保っているとはいえ、その母親の命が犠牲になっている

「……」

立ち上がり、敷いていたシートを畳んで、バッグへと仕舞い込む
そのまま階段を昇り、常世の街を一望する
今日は風が強い
銀糸のような長い髪が、強い風に吹かれて靡いている

母親に苦しい顔や、辛い顔、寂しい顔はさせたくないよな、と常日頃から少女は思う
自分の命を投げ出してまで娘を守って、死んでしまった今でも尚、見守ってくれている彼女には…
可能な限り、ずっと笑顔でいて欲しい

そしてその笑顔に必要なのは、父だ
父の話をする時の母が、何よりも幸せそうに見えるから
──だから、この夢の話を母にすることは、きっと一生ないのだろう

霜月 水都 > 「ふあ……」

あくびをかましつつ、でろーんとぐったり休んでしまおうと思って登ってきた大時計塔。
そこに、一度だけだが話したことのある相手を見つけて、うわ、とわずかに困った表情になる。
はてさて、このままだとせっかくのんびりするつもりが追い出されることになりそう、だ、が。

「……えっと、大丈夫?」

思わず、そう尋ねた。
そういう言葉が出るくらいには、なんというか、以前話した時の力強さがなく、儚げで、消え行きそうな雰囲気があったから。

雪城 氷架 >  
「………」

声をかけられ、振り返る
どこか冷たく、放っておけば溶けてしまいそうな薄氷のような──
そんな、雰囲気

「…此処、生徒は立ち入り禁止なんだけど…って、前も言ったな」

視線を外へと戻しつつ、言葉を返す

「サボりに来たならお好きにどーぞ。私はもう降りるからさ」

どことなく覇気もなく、投げ遣りのような…そんな口振りである

霜月 水都 > 「はぁ……」

盛大なため息を吐く。
……どう見ても、平常ではない。前回との比較がなくても、その雰囲気の儚さは捨て置けない。
す、と出入り口の扉の前に立つ。

「立ち入り禁止はお互いだろ?まーそれはいいとして……悪いけど、今のアンタはちょっと、見過ごせないなあ」

そのまま扉にもたれかかる。
――通さない、という意思表示だ。
そうしながら、困ったような、沈痛なような、複雑な表情を浮かべながら、目だけはじっと、氷架を見ている。

雪城 氷架 >  
「──………」

通さない、とする彼の行動に、眉を顰める
向き直って、風を背負い、溜息を吐きながら…

「…一応聞くけど──何で?」

冷たい、氷柱のような視線

明け透けではあるものの、どこか優しさを感じさせる普段の雰囲気は鳴りを潜めて
吹き込む風も含め、ただただ冷たさを感じさせる

霜月 水都 > 「死にそうだから」

サクッと。
しかし、彼らしからぬ鋭い視線を飛ばしながら、そう告げる。

「――まあ、信じるかどうかは別だけどさ。俺って、一応命がけで戦うのがお仕事みたいな家の生まれだから。そういうのはちょっと経験もあるし。
で……見送ったら帰ってこなかった奴ってのも何人もいる。そういうやつがぼんやり纏っていた、死相みたいな雰囲気が漂ってるんだよ、アンタ。
自分から死ぬつもりはなくても、何かを抱え込んだり、気分が滅入ったりして『致命的なミスを犯す』奴が纏ってる、どうしようもなく陰気で重い気配」

実家でのことを思い出す。
早く成り上りたい、と焦っていた友人が初めてだったか。
何か、危うい雰囲気を感じ取りつつも、頑張れよと見送ったあの日を後悔しなかったことはない。
――彼は帰ってこなかった。功を焦り無謀な突貫を行い……散るべくして、散った。
それ以外にも、何人か見てきた。戦場に向かい、そして散っていった人達を。
その全員がそんな気配を纏っていたわけでもないし、気配を纏っていても生きて帰ってくることもあった。
が、確率として。その気配を纏っていた人物が無事であった確率は、とても、低かったのだ。
そして、目の前の少女からも、似た気配が香ってくる。
心ここにあらず。何かに思考を囚われ、地に足がついていない雰囲気。
それこそ、そこらの階段で足を滑らせてしまいそうな、それくらいの不安定さが、香ってきた。

「俺の我儘で悪いけど、その気配はちょっと見過ごせない。なんか悩みでもあるなら、言える範囲で俺に吐き出してみなよ。ぜってー口外はしないから。そうでなくてもまあ、なんかストレスがあるなら俺で発散していいから。頼む、な?」

そう言って、合掌して小さく頭を下げる。
我儘に付き合ってくれとおねだりする友人のように。

雪城 氷架 >  
…ハァ、と大きな溜息。聞こえるくらいだ

「…死相が出てる、なんて言われて信じるヤツはまー、いないけどさ」

手摺に背を預け、凭れ掛かる
細い腕を組み上げて、じっと少年を睨みつけた

「何で一度しか会ったこともないお前に話さなきゃいけないんだ。
 そんなにお悩み相談がしたきゃ牧師にでもなって懺悔室に籠もってろよ」

伝わってくる感情は拒否、邪魔、そして苛立ち──だろうか
以前話した時の少女も粗暴な印象は与えただろうが、その比ですらなく
その事情は…簡単に踏み込んではいけないものだと感じさせる

「──お前が退かないならここから飛び降りて帰るかな」

今日の少女、氷架は…危うく、触りがたい存在として、その場に在った

霜月 水都 > 「そりゃそーだ」

肩をすくめる。
実に言う通りで、邂逅が二度目の相手に重い相談をする人はそういない。
積み重ねたものが足りない。故に、安易には踏み込めない。
だが。

「なら、そんときゃ庇って俺も飛び込むかね。その方がまだマシだし」

呟かれた言葉には、真剣みと、ある種の圧が宿る。
本当にそうするぞ、という、投げ遣りさのない重さ。

「とはいえまあ、急に話せってのもあれだよなぁ。うーん……」

腕を組んで首をかしげる。
どうしたものか、としばし考えて。

「アンタ、趣味何?」

そんなことを言い出した。

雪城 氷架 >  
…少し言い過ぎたかな、と思ったものの、少年は思いもよらぬことを言い始めた

「……お前おかしいぞ。
 何で一回会っただけの私が飛び降りたらお前も飛び降りるなんてことになるんだよ?」

しかも伝わってくる雰囲気は…本気、真剣のそれである
氷架には、少年が何を考えているのかさっぱり理解らないようだった
目の前の少年が変なやつ、であるということだけはわかったが

「…私は、そこ退いてくれって言ってるんだけどな。
 私の趣味とか、それこそお前に関係ないだろ…。
 別に死にゃしないからそこ通せよ。嫌がらせか?」

怪訝な視線を向ける少女
少年がそこまで拘る理由も、わからない