2020/10/31 のログ
ご案内:「大時計塔」に水無月 沙羅さんが現れました。
水無月 沙羅 >  
風紀委員内における転属手続きも一通り終わり、自分が入院している間に起きた出来事に関する報告書もそのほとんどを読み終えた。
病み上がりの上、週末という事もあってか今日は非番を貰ってこの大時計塔に足を運んでいる。
復帰してばかりで早々ではあるが、今日は風紀委員はお休みだ。

制服の着用義務もないため、今日は私服でこの場所に来ている。
外出用に買った女性らしいソレではなく、以前から持っていた少しボーイッシュな感覚のする衣服ではあるが、動きやすさからやはり気に入ってはいた。
この場所も本来は立ち入り禁止の場所だが、今更誰も咎めはしないだろう。

まだ、星を望むには早く、時は昼過ぎ。
白い月が太陽の少し遠くの方に見えている。
乾燥した冬の空というものは、存外透き通っていて雲がない日も多い。
今日は良い星空になるだろうか。
少し前はここに来れば必ずと言っていいほど誰かしらに会ったものだが、ここしばらくは誰も出入りがなかったらしく、随分と埃が被っていた。
想い出もいずれはこうして風化して行くのかと思うと少し寂しくなる。
そんなことを思いながら、転落防止用の柵に寄り掛かっては空を眺めている。


「今頃みんなは何をしているのかな……。」


独り言がポツリと漏れた。

ご案内:「大時計塔」に夢莉さんが現れました。
夢莉 >  
仕事の合間の休憩で立ち寄った大時計塔。
本来は立ち入り禁止区域なのだが、そんな事は知ったこっちゃないと柵を超え塔を上る。

「っとと…」

登るほどに風が強くなって、軽く体が流されそうになるのを耐える。
もう冬の気温に片足を突っ込んでいるな、等と…その肌寒さに身を震わせつつ。
それでも何故こんな所までいくのかと言えば……誰にも気にせず煙草を吸える場所が近くにここしかなかったのと、単純に景色を見たかったからだ。

そうしていれば屋上へとたどり着き……
そこにいる一人の少女が目に留まる。

「ん……なんだ、先客いたのかよ……」

小さく風に撒かれて相手には聞えない程度のぼやきをしつつ、まぁいいかと登り切る。
ここまで登っておいてそのまま立ち去るというのもなんとなく嫌だった。
ただでさえ体力はない方なのだから。

「一応立ち入り禁止区域だぞ、ここ。
 ま、別に咎めもしねぇけど。」

煙草吸うのはお預けになるかもな、なんて思いつつ。
先客の少女の方へと声をかけた。

水無月 沙羅 >  
ふと背後に感じる足音に気配、そして聞いたことの無い声。
自分が話しかけられたという事に気が付いて振り返る。
その顔は少しだけ寂しそうだったかもしれない。

 
「えぇ、知ってますよ。 むしろ知らない人なんてほとんどいないんじゃないですか?
 そういうあなたも、知っていながら登ってきたんでしょう?」


くすりと笑いながら、どこか不機嫌そうに見える女性に言葉を返す。
立ち入り禁止と知って入ってきているのはお互い様であり、咎めもしないという所を見れば風紀員という事でもないのだろう。
若しくは単純に自分と同じように、非番であるかのどちらかだ。


「ひょっとしてお邪魔ですか?」


若しくは、そういう意味合いもあったのかなと、少し首を傾げた。
この場所に来る人間の多くは考え事をしに来たか、一人になりに来たか、景色を見に来たかのいずれかになる。
まぁ、ひょっとしたら誰かとの密会の場所に選ばれることもあるかもしれないが、眼の間の彼女からそういう雰囲気は感じない。

夢莉 >  
憂いや寂しさの混じった顔を少し見る。
ま……確かに考え事にゃ最適か。
だとすりゃ邪魔したかなと思ったが、本人が迷惑じゃねぇなら別に、いいかとも思った。

「ま、そりゃそーだ。
 別に構わねえよ。煙草の匂いが嫌じゃなかったらな」

ハッ、と笑って煙草を取り出し、口に咥えて火をつける。
遠くからならそことなく煙草の煙と、その中に含まれる甘い香辛料と紅茶を混ぜたような香りを感じるだろう。
少し特徴的な香りだった。

煙草の煙をふぅ、と吐き出してから、煙が相手に当たらない場所に回って、手すりの汚れを軽く払ってからそれに背中を預ける。
そうしてから少女の方を見て、言葉を続けるだろう。

「しっかしこんなとこで人に鉢合わせるたぁな……いや、結構鉢合わせるか。
 どいつもコイツもルールまもりゃしねぇで。
 別にいいけど」

軽くぼやきつつ、煙草を吸う。
見た感じ20代に届いていなさそうな彼女も、喫煙は立派なルール違反だが。
まぁ、本人の言った通り別にどうでもいいのだろう。
ただの煙草を吸ってる間の、雑談代わりだ。

「アンタ、名前は?
 オレは夢莉。
 夢に…利用の利にクサカンムリでユウリ」

水無月 沙羅 >  
「かまいませんよ。 私の上司……、あー、元上司もよく吸ってましたからね。」


今はもう顔を合わせることもない、上司のいつかの姿を思い浮かべる。
何度注意してもやめようとしなかったあの煙草の銘柄は何だったか。
少なくとも、彼女が吸っているような洒落た香りはしていなかったのは確かだろう。


随分愚痴の多い人だな、と思いながらその様子を眺めている。
特に考えて言葉にしているわけでもないのだろう。
それとも、何時も何かにイライラしているのか。
なんというか、『不良』という名称がよく似合う少女ではある。


「私ですか?
 水無月沙羅です。
 水が無い月で、水無月。
 沙羅はー……沙羅双樹っていえばわかりますかね?」


例えるにも難しい自分の名前に苦笑いをしながら、自己紹介を返す。

夢莉 >  
「ワカンネ。
 サラソウジュ?
 お坊さんの名前か何か……?」

ぽかーと煙を出しつつ、そう言う。
知識はそんなにない自覚がある。
的外れな当てずっぽうをしつつ、煙草を吸って吐いた。

「元上司、ねぇ。
 随分辛気臭い顔してたが、なんだ、仕事クビにでもなったのか?
 それとも男絡みのハナシか」

別に探りを入れる気はないが、話の話題に出たならぽっと思った事を口に出す。
どうせ雑談、相手は面識も交友もない相手。
下手に知ってる相手のが言い難い事だってある。
煙草を吸ってる間くらいならそういう雑談も悪かないだろう、と。

水無月 沙羅 >  
「あー……当たらずとも遠からず。
 お釈迦さまが無くなった時に横たわったのが沙羅の木っていうらしいですね。
 それが二股に分かれていたから沙羅双樹。
 ネットで調べれば出てきますよ。」


早々そんな知識を知っている人間もいないと頷いて少しだけ解説する。
沙羅の木、という樹木自体普通の人間なら縁のある言葉でもないだろう。
それこそ、仏教徒ならいざ知らず、というやつだ。


「はい?
 あー、まぁ、どっちも、ですかね?
 辛気臭い顔してた、ですか? そんなつもりはなかったんですけど。
 すこし、此処に来るのも久しぶりでして。
 随分寂れたなと思って寂しく感じていただけですよ。」


クビになったのが原因ではないと首を振りながら、柵に積もった埃を少し払う。
やはり黒く汚れる手を眺めて、耐め息をついた。
ニーナも、椎苗も、しばらくここには来ていないのだろう。
想いでのある場所であるがゆえに、何処か喪失感すら感じてしまう。

夢莉 >  
「ふーん……なんだ、アンタ物知りなんだな」

少し関心するように言いながら、話を聞いてゆく。
最近は教える事のが多くて、教わるのは少なかった気がするのでほんの少し新鮮だ。
ほんのすこし、だが。

「にじみ出てたからなぁ。
 なんつーの?寂しいですオーラみてぇなの。
 アンニュイって感じのオーラが出まくりだったし。」

仕事柄というかなんというか、そういうのは割と対面してればなんとなく分かる。
勿論分かりやすい相手、分かりにくい相手はいるものの。
目の前の少女はどちらかというと分かりやすい方だった。

「……ま、ここに関しちゃ冬入るからな。
 あんまこねーようにもなるだろ、ウチの娘にも冷えるからあんま行くなよっつってるし。
 どーせ春になりゃまた来るようになるけどな。

 しっかし、男絡みねぇ……」

ぷかーっと煙草をふかしながら、ふーんと言うように相手の少女を見る。
見れば15,6…もうちょいガキか?
ま、どっちにしろ色恋で悩む年頃か。
で、クビになったのは否定しないし、上司と言いかけて元上司と言ったから、多分つい最近。
男絡みも否定しないからそいつもある。
ここに人来ないのも憂う……
人間関係の変化だな。
となると……

「…元上司と付き合ってて、ソイツと別れた、だろ?」

にやっと笑って指を差した。

水無月 沙羅 >  
「物知り……というわけじゃないですよ、自分の名前の由来を少し調べただけです。
 星座や星の知識なら、自信はありますけどね。」


別に物知りというわけではない。
どういう思いを込められて名付けられたのか、それが知りたかったから調べたことがあっただけだ。
もう少し深く調べて、調べたことを後悔もしたが、それももう古い記憶になった。
だからか、少し自分の名前が好きではなかったりする。


「にじみ出てた……そ、そうですか。
 うぅん。 昔はそんなこと言われることもなかったのにな。」


感情表現の酷く薄かった昔の自分はいったいどこへ行ってしまったのか。
いや、単純に押し殺していただけなのかもしれないが、こういう時には少し感情が表に出るというのも困りものだ。
誰かれ構わずそういう風に見られてしまうのでは、少々都合が悪い。
やはり感情のコントロールをする術は身に着けたほうが良いな、と改めて思う。


「娘?」


そんな年には見えなかったがと首をかしげ、女性を少しだけ観察する。
どう見ても子供がいる年齢には見えない。
自分よりは年上だろうが、もし本当に娘が居るのだとしたらとんでもない童顔だ。
いや、この常世という場所においてはそれも珍しくはないのかもしれない。


「あれだけヒントを出してたら誰でもわかりますよそれぐらい。」


笑いながら指を差す彼女に、またも苦笑いをする。
そして思う、あぁ、この人には多分デリカシーというやつが足りないのだ。
男勝りな女性、という感じ。

夢莉 >  
「そりゃそーか。
 ハハハ、いや悪い。あんまり分かりやすかったモンでついな。

 ん、あぁ……拾い子だよ。養子縁組ってヤツ」

別に血のつながってる訳じゃねぇよ、と付け足しておいた。
流石にそこまで老け顔ではないという自覚もある。
勿論、血のつながりなど関係ない位娘として大事にはしているが。

「ま、ここによく来るならもしかしたら会ってるかもな。
 まだちっさいし、ここに居たらすぐ分かんだろ。
 ニーナっつう女の子だよ。
 白金の髪で、蒼い目で。
 猫みてぇな耳ついてる」

目の前の少女は悪い奴でもなさそうだし、会ってるかもなと娘の事を話す。
時折こういう場所に来る事のある子だ。
昔降りられなくなって風紀委員に助けられたりもしたし、自分が知らないだけでそういう事が他にもあったかもしれないし。

水無月 沙羅 >  
「養子縁組……あぁ、なるほど。
 それで……って、ん?
 あぁ……あなたがニーナの。」


彼女から見知った少女の名前を聞くとは思わなかった。
ニーナと出会ったのもこの時計塔で、あれは星の綺麗な夜だった。
あの時はとっさに、『星空お姉さん』と名乗ったのはよく覚えている。
以来、彼女には世話にもなったし、今では友達と言ってもらえるくらいには仲良くなっている……筈だ。
しかし、この女性が養子縁組……親子、か。


「えぇ、良く知っています。
 星空お姉さん、という単語に聞き覚えはありますか?」


彼女が誰かにあの時のことを話すのであれば、本名ではなくそちらの名前だろう。
もしかしたら、名前のことも話していないかもしれないし、あの夜の事は誰にも話していないのかもしれないが。
けれど、彼女が星空に興味を示したのは、あの夜の出来事が大きく影響しているのは確かの筈だ。
あれから、随分星について調べていたらしい。
まさか北極星、ポラリスが彼女の本当の名前の元だとは思いもしなかったが。

夢莉 >  
「ん、何だ知ってんのk…ん、ホシゾラオネエサン?」

どっかで聞いた事があるような…
何時だったっけ。
少し記憶をたどって、そういえばいつの日だったかニーナが話していた事を思い出す。

ニーナが好きな、星の話をたくさんしてくれるお姉さん。




「あーーー!! 星空お姉さん!!
 あーーーー、ニーナから聞いた事あるわ!! へぇー…アンタが!!」

そうだったのか、と盛大に驚いた様子で少女を見る。
ニーナの友達で、ある種ニーナの”昔の名前”にたどり着く切欠にもなった人。
楽しそうに話をしていたのを今でも覚えている。

「成程なぁ…まっさかこんな所で会うとは…と、あー…
 …ここで煙草吸ってた事、ニーナには内緒な?
 家じゃ禁煙してんだよ」

あちゃぁ、と手に持った煙草を見て、少しだけこそこそとそう頼む。
別に他に聞く人もいないが、つい。

水無月 沙羅 >  
「ふ、ふふ。」


あまりに変わる態度に思わず笑みが零れる。
表裏が無い、と言うべきなのだろうか、感情をすぐに表に出すタイプの人間だ。
ニーナが警戒しなかったのも少しは理解できる。
ある意味、一番信頼がおけるタイプの人間だ。
嘘が着けないという意味で。


「構いませんけど……たぶんニーナにはばれてると思いますよ?
 彼女、鼻が良いですからね。」


猫や犬は人間と比べるべくもないほど、嗅覚も聴覚も発達している。
その特徴を持つ彼女ならば、しみつきやすい煙草の匂いなど党の昔にお見通しだろう。
それでも口にしないのは、それが気に入っているのか、気にしていないのか、遠慮しているのか。
いや、きっと気にしていないだけなのだろうけど。

夢莉 >  
「まぁ、バレちゃいるだろーけど。
 アイツ煙草嫌いだからなぁ……一応な?

 しっかしなんだ、まさかこーんなとこで会うとはなぁ。
 一度会って礼言っときてぇとは思ってたんだ。

 ニーナと仲良くしてくれて、ありがとなってさ」

ははっ、と笑う姿は、少し母親らしさも感じる柔らかさを持っており。
先ほどまでとは雰囲気もすこし変わって見えるかもしれない。
裏表がさほどあるタイプではないだろうが、見せる面は、少しずつ違ったりするのかもしれないだろう。

「そっか、星空お姉さんか……
 ここらは久々に来たって事は、ニーナともあんま最近会ってないのか?
 アイツもアンタの事よく話してたし、顔見せたら喜ぶぜ?」

此処も久しいという事は、多分色々と立て込んでたんだろう。
此処に来たという事は、多分それがすこしは落ち着いたのだろう、とも思い。
それなら、是非会いに来てくれよとばかりに、そう口にした。

水無月 沙羅 >  
ありがとう、と言われる言葉に首を振る。


「お礼を言われるようなことは何も。
 彼女は私の大切な友達ですから、仲良くするのは当然、でしょう?
 だから、お礼なんていりませんよ。」


朗らかに笑う彼女の顔を見ながら、ニーナと彼女が普段する会話の様子を想像する。
それはきっと、穏やかな日常なのだろう。
自分と椎苗とはまた違った、親子の在り方。
ニーナはしっかり者だから、案外ユーリと名乗った彼女の方が世話をされているのかもしれないな、と若干失礼と思いつつもそういう風景が浮かんでしまう。


「あぁ、まぁ、そうですね。
 朧車のこともありましたし、ここ一週間以上は入院してたので。
 それになんというか、すこし、周りがバタバタしていましたから。
 いや、バタバタしているのは今もそう変わりは無いのかな。
 これでも風紀委員、ですから。
 昨日から刑事課で、また少し忙しくなるかも知れないですね。」


日常をかなぐり捨てて駆け抜けたひと夏、そして秋すらももう終わろうとしている。
ニーナとも随分逢っていない。
寂しい思いはしてはいないだろうが、多少気になりはする。
そんな彼女の事すらも忘れてしまっていた自分が、すこし薄情だとも。

夢莉 >  
「オレからすりゃ恩人さ。
 いい友達がいるってだけで、随分安心できるからさ。
 だから礼くらい素直に受け取っときな、減るもんじゃねぇし」

見ていない時でも、誰かがついてくれるというのは心強いもので。
大した事じゃないと言われようと感謝してしまう事なのだ。

「にしても、ふーん…あぁ、朧車アンタも絡んでたのか。
 オレも手ぇ焼いたなーアイツ…まさしく焼けたんだけど」

っと、これはあんま言っちゃいけねぇ事だったなと思いつつ、話しちまったしまぁいいかと。
朧車に遭遇する事自体は誰でもあり得る話だったし。

「だったらそれこそ、息抜きしねぇとな。
 あんま根詰めすぎんのも参っちまうだろ?
 ウチの手伝いだと思ってヒマな時にでもニーナに会いに来てくれよ。
 住所教えとくからさ」

ニッと笑って、住所と連絡先を教える。
悩みも多そうに見えたこの少女は、自分の娘の友達なんだから。
少し位息抜きの手助けもしてやりたくなるというものだった。

水無月 沙羅 >  
「そういうものですか……?」


いまいち、そこら辺の家族間の機微というのには疎い。
自分が家族という概念に触れたのがつい最近だからというのもあるが、そもそも自分の家族は『いい友人』を持っているのが常であった。
だから、それを安心と結びつけるのは少し難しい。
そもそも自分が頼りにしてしまってばかりだから、彼女たちの不安な面を見ていないだけなのかもしれない。
兎に角、受け取っておけと言われるのであれば頷いて、少しだけ微笑んだ。


「……。 そう、ですね。
 絡んでたというか、まぁ、任務で討伐したというか。
 あはは……。」


あの日の事を思い出す。
どうしても表情が暗くなり、声のトーンが落ちるのも自覚できる。
彼の発した言葉が頭の中を反芻して、頭痛を感じる。
トラウマの様なものだ。
投薬によって今でこそ、その程度で収まっているが入院中だったらどうなっていたか。


「え?
 あぁ、えっと。
 そうですね。
 仕事の無い時でよければ、喜んで。」


一瞬だけ、上の空になっていた意識を呼び戻され、教えられた住所を記憶する。
デバイスに入力して、忘れないようにフォルダに入れておいた。
数少ない、友達の家というやつだ。
自分より幾つも歳下の友達というのも、少々不思議なものかもしれないが。
妹というよりは、やはり彼女は友達という感じだ。
子供の様で、どこか大人びたようにも見えるあの少女は、今はどのように成長しているのだろう。

目の前の少女の様に、不良っぽくならなければいいのだが。
いや、それは無いか。

夢莉 >  
「…ま、深くは聞かねえさ。
 色々大変だったみてぇだしな。

 ……っし、交換完了っと」

連絡先を交換し、デバイスを戻して。

「しっかし‥ほんとに色々あったみてぇだな……んー…
 …っし、サラだっけ。今から暇か?」

少し考えてから、そう尋ねるだろう。

水無月 沙羅 >  
「はい?
 えぇ、一応今日は非番だから暇ですけど……。
 そうじゃなければこんなところに来れないですし。」


本当は非番じゃない日も来たいぐらいなのだが。
いや、実際少し前の自分なら足しげく通っていたのだけれど、ここ最近はどうにも忙しすぎた。
精神的に余裕もなかったし。
星を見る、どころではなかったのだ。


「急にどうしました?」


暇か、と訊ねられるからには何か用事なのだろうかと、夢莉に向きなおる。

夢莉 >  
「んじゃ、ちょっと待ってな」

そう言って別のデバイスを取り出し、おもむろに通話を始めるだろう。

「もしもし?あーオレ。
 今日の仕事なんだけどさ、一旦切り上げて明日に回してもいいか?
 
 …ん?なんでって、まぁ私用だよ私用。
 別に急ぎの要件じゃねぇんだから大丈夫だろ?

 …んー、ん。OK、わかったよ。
 それ買ってくりゃいいんだろ……しょーがねぇなぁ…‥
 んじゃ、何かあったらまた連絡すっから。


 ……うし、これでよし、っと」

そう言ってデバイスを閉じると、沙羅の方を見て。

「よし、んじゃ…オレとデートすんぞ。
 色々買いに行かねぇといけねえモンがあんだ、付き合ってくれよ」

ニッ、とわらった。

水無月 沙羅 >  
「―――はい???」


唐突に目の前で始まる通話の内容に、デートと言う言葉にきょとんとする。
この人は急に何を言っているのか、と言う顔で思わず夢莉を見つめた。
自分の仕事を切り上げてまで、この人はいったい何をしようというのか。
いや、悪い人ではないようだし、これと言って警戒しているわけでもないのだが、それは其れとして唐突しすぎて頭が追い付いていない。


「買い物……ですか?
 いや、別にいいですけど……なんで急に。」


私がそれに付き合わねばならないのだ、ともっともな疑問を浮かべて。


「それにデートって。」

夢莉 >  
「ハハハハ、別に取って食いやしねぇから安心しろって。
 いや、ハロウィンだろ?ニーナにもウチの職場にも菓子でも買ってってやろうと思ってさ。
 買い物は一人より二人のが楽しいじゃん。
 で、ニーナの友達が偶然いる。
 どーせなら一緒に街でもブラつこうぜってだけさ。
 
 ボーッとしてるより、遊んだ方が気も紛れんだろ?」

ほらさっさと行こうぜ、と手をとり、そのままくいっと引っ張る。

「買い物して……あ、そーいやオレ気になってる服あったんだよな。それも見に行こうぜ。
 繁華街の方いきゃ遊ぶところもあるし、あぁ、カラオケもアリだな。
 疲れたら休憩して飯でも食いにいくか…なんなら何か買ってウチ来るのもアリだな。
 ニーナも久々にアンタに会えば喜ぶだろーし」

ニシシ、と笑いながらプランを立てていく。
まだ昼過ぎ、夕飯迄としても時間はたっぷりとある。
遊び尽くすには、十分だ。

水無月 沙羅 >  
「え、いや、あの、ぶらつくって、ちょ、あの???」


くいっと引っ張られて引き摺られる。
講いった強引な誘われ方というのはされたことが無く、しかしこれと言って拒絶する理由もなく。
只どうしても行きたいかといわれればそういうわけでもない。
そもそもここに来たのにも理由があるわけで。



「服? あ、いやアの私そういうの選ぶの苦手……カラオケ?
 待ってください行ったことないのにそんな急に。
 え、いや、あの、流石に家族が家で待って……あ、ちょ、まっ。」


どうやら、今日の星見はお預けになるらしい。
というか、この様子では家に帰してもらえるかも怪しい。
この夢莉という女性は、思いのほか強引だった。
いや、最初からそういう気配はあったがよもやこれほどとは。


「ぁぁぁぁ……。」


友人の作り方も、それどころか遊び方すらもろくに知らない少女は、若干の抵抗もむなしく引きずり回されることになる。
今日は、いろいろな意味で忘れられない一日になりそうだ。

夢莉 >  
「じゃあ遅くならねーうちに送ってやるから心配すんなって。
 ほれほれ、いくぞー」

その後、街に駆り出され色んな所へと連れていかれただろう。
服を見て似合いそうだと、沙羅の方に勧めてみたり。
カラオケで歌を歌ったり。
ハロウィン模様のお菓子をどれが良いかと相談してみたり。
お金は大体、こっちが出していただろう。

夕暮れごろに解散した時には、いつの間にか押し付けられていた服やらお菓子やらの入った袋で手がいっぱいになっていたかもしれない。
それをどうするかは、自由。

ご案内:「大時計塔」から水無月 沙羅さんが去りました。
ご案内:「大時計塔」から夢莉さんが去りました。
ご案内:「大時計塔」に照月奏詩さんが現れました。
照月奏詩 >  夜になったばかりのころ。この屋上に一人の人影がやってくる。

「お、ここは静かだな」

 イベントのノリに乗っかるのは嫌いではない。だけど本番当日のすさまじい騒ぎには流石にノリきれなかった。
 さっさと寮に行って寝るというのも考えたが。それはそれで少し退屈な気もした。
 そうして選んだのが高見の見物。
 時計塔の入れるスペースに来ると腰を下ろしホットミルクのプルタブを開く。

「ん、旨い」

照月奏詩 > 「んー、あの辺は……またすごいな」

 下を見て思わず笑ってしまう。すさまじい騒ぎになっていた。
 それこそ出店も何もみていないのにお祭りもかくやというレベルであった。
 祭りと言ってしまえば祭りなのだが。

「というか、よくあんなに騒げるな……」

 自分の性格を暗いとは思っていないが見ず知らずの人を相手にあそこまで騒げるかといわれれば絶対にNOだ。
 だからああやって騒いでいるのを見ると尊敬だとかそっちの思いが先に出てくる。

「混ざりに行けば案外行けるかもしれないけどさ」

 そういうのは食わず嫌いであるケースも多いわけで。実際行ったらなんだかんだで楽しかったりする場合もある。
 もっとも……自分にそういう場所へ行く資格があるのか。ということに関しては別問題だが。

照月奏詩 > 「おお、寒」

 高いだけあって風も強い。ブルッと少しだけ震えると一揆に飲み干し立ち上がる。

「来年は下で参加してみっかな。その時にはもう少し人相手も慣れてるだろうし」

 とそれだけつぶやくとゴミを強引にポケットに押し込み歩き出していく。
 来年生きていれば。そんな言葉はあえて今のままでは言わないままに。

ご案内:「大時計塔」から照月奏詩さんが去りました。