2020/11/05 のログ
神樹椎苗 >  
「ん、しいと同い年で同級のやつですよ。
 ちょっと幼いですが、しいと違って子供らしい子供です」

 青年の端末に、その少女への連絡先を送り付けて。
 『希』と表示されているのは名前とわかるだろう。

「夏休みに一緒に宿題をしたり、夏祭りにいったり。
 先週はハロウィンにも行きましたね」

 そう話しているうちに上り切れば。
 そこから見える景色は、常世島を遠くまで見渡す事が出来る。

「――ふむ、こうして見るのも懐かしい気がしますね。
 どうですか。
 ここが一応、しいのお気に入りの場所ってやつです」

 もう随分と昇る事はなかったが。
 それでも、この見晴らしと、静けさにはどこか心が落ち着く。
 

レオ >  
「えっ……椎苗さん同年代の友達いたんですか?
 あ、いやすみません」

少し目を丸くしていう言葉は、つい出てしまったとばかりに失礼なものだった。
正直、同年代の友達がいるのは予想外だった。
いや、同い年位の子と遊ぶのが普通なのだけど……
彼女の場合、年齢不相応に大人びている部分もあるから。

しかしそのあと辿り着いた塔の頂上を、共に眺め……そんな気持ちはすぐに吹っ飛ぶだろう。
島の全部が詰まったような、海の先まで見えそうな景色。
所々赤く染まっているのは、きっと紅葉だろう。
建物と海、そして紅葉で彩られたそれは、まるで色の美しさだけを求め描かれたキャンパスのようだった。

「……わぁ」

景色を眺める事を、初めてしたかとすら思った。
それだけ、青年の半生が過酷だった事もあるのだろうけれども。
少女ときたこの塔の下に広がる景色には……二か月分の思い出分の、色があって。
目に映るそれよりもずっと沢山の……色彩を放っているように感じた。

「――――初めてかもしれません。
 街を…景色を見て、綺麗だなって思ったの。

 なんでだろうな…
 
 また、椎苗さんの事を少し知れた気がして」

心が、また…少しだけ温かくなるような気がして。
繋いだ手をぎゅっと……優しく握った。
 

神樹椎苗 >  
「それは、お前が積み重ねてきた思い出の色ですよ。
 きっと二か月前には、見れなかった色です。
 それが、お前の世界の色です」

 握られる手を、応えるように握り返した。
 冷たい風に冷えた手に、じんわりと体温が伝わってくる。

「『どうか君の未来が色鮮やかな願いで溢れていますように』
 しいにそんな事を言った――伝えたやつがいました。
 どんなやつだったかも、もうなにも思い出せませんが」

 手を繋いだまま、青年の身体に寄りかかる。
 忘却の彼方へと消えていった記憶に、少しだけ胸が締め付けられた。

「そいつが、しいにとって唯一無二の『友人』です。
 しいがお前を誘ったのは、もしかしたら。
 そいつから受け取った言葉を、お前にも伝えたかったからかもしれません」

 時計塔から広がる世界を見下ろして、その彩りに目を細める。
 自分の世界もまた、こうしていつの間にか色づいていた。

「お前の世界を愛してやるのです。
 そしてお前の未来が色鮮やかな願いで溢れていますように。
 そして願わくば、その中にお前の夢がありますように」

 ほんの少しだけ残っている、記憶の残滓。
 それが一体、どんな形で伝えられたのかすら、椎苗はもう覚えていないが。

「後わずかな時間でも――お前が幸せだったと思えるような。
 そんな時間を過ごしてほしい、そう思っています」

 青年に寄り添いながら、静かに、思いを伝えた。
 

レオ >  
「――――、―――――――」


唯一無二の、友人。
どんな人かも、思い出せない。
その人が言った言葉を反芻するような彼女の声は、どこか悲しくて、どこか……暖かくて。
忘れてしまった理由については…聞けなかった。
きっと、色々な事があったのだろう。
僕が彼女と出会うよりも前に、色々な事が。

でも、忘れてしまっても。
残ったものが、確かに彼女にはある。
きっと辛いだろうに。
きっと苦しいだろうに。
でもそれに、耐えながら……遺された言葉を、受け止めて。

「……強いなぁ、椎苗さんは。
 僕なんかよりずっと…強いや」

遺された言葉の意味を、しっかりと、理解して。
僕には、出来なかった。
ずっと……その言葉の意味を、間違えて捉え続けて。
今も、遺された言葉を真っ直ぐに捉えられているかは、分からない。

『一緒に生きたいね。
 だから―――――生きてね。』

在りし日の思い出を、ふと…垣間見る。

「……」

寄り掛かられた少女の体重を受け止めて、少女と同じ方向を向いて。
灰色にしかみえなかった景色は、今では随分と美しく。
彼女も同じ景色を見ているのだろうか。
いいや……きっと彼女には、別の色で見えてるのだろう。

だけど今ここで、彼女がその景色を眺める姿を見えるのは……そこに何があるのかを想像できるのは、僕だけだ。

「愛して、かぁ……
 …嬉しいな。
 うん……僕も。
 僕も同じように……愛します。

 椎苗さんの友人と、同じように。
 『貴方の未来が、色鮮やかな願いで溢れるように』

 その人の事を…僕は知らないし、これから先知る事も、ないのだろうけど。
 でも……うん」

その”友人”との繋がりは、一言の言葉だけ。
でも、それでも。
神樹椎苗とかつて共にいた人が告げた言葉を、彼女と同じように、覚えていよう。
いずれ来る別れの時まで―――――――

「……椎苗さん。
 一緒に……一緒にいてくださいね」

眼下に広がる、僕らの暮らす島を。
じっと……眺めた。

神樹椎苗 >  
「――そうですね、お前が、そう望むなら」

 いつまでもとはいかない。
 青年の時間は短く、椎苗の時間は終わりが見えない。
 それでも、たとえ僅かな時間だったとしても、寄り添えるなら。
 今は、そう思っている自分が居た。

「ああ、そう言えば、ですね」

 ふと、青年の顔を見上げて。

「どうやら、理屈で考えると。
 しいは、お前の事が好きなようです」

 そう、少し困惑した表情を浮かべる。

「とっくに、惚れているようなのですが。
 どうなんですかね?」

 なんて、不思議そうに首を傾げた。
 

レオ >  
「――――――え?」

彼女の方を、見た。
あの日から……どれくらい経っただろう。
月日にして2か月にも満たない。
そんな短い時間。
ずっとずっと遠くに感じる程沢山の事を体験してきた、彼女と出会ってからの…一瞬。

彼女の事が、好きになってしまった。

その事をずっと隠そうとして……彼女にとって何でもない存在でありたかった。

それが叶わなくなって、彼女と共に生きる事を決めてから。

色んな景色を見て来た。



自分が生かした命を、彼女と共に育んで。

自分の苦悩を、彼女に吐き出して。

自分の力を、彼女に委ねて。

彼女の価値観を、自分が聞いて。

彼女の役目を、自分が見て。

彼女の苦痛を、自分が知って。


そして、今―――――ここ。

「―――――」

ここまで、来た。

「じゃあこれからは…
 …一緒、ですね」

はちきれそうなほどの胸の高鳴りと、叫び出したいほどのこころをぐっと堪えて。
少し赤くなった顔は……きっと寒さのせいだと心の中で言い訳をして。
はにかむように微笑んで、身を屈めて彼女の体を抱き寄せる。

「…僕も好きですよ。
 ずっと前から……惚れてました。
 
 同じ気持ちだと…とても嬉しいな」

小さくて、でもそこにあって。
その温もりを、ぎゅっと……抱きしめて離さない。

神樹椎苗 >  
「一緒、なんですかね。
 まだ実感ってやつがねーですが」

 あくまで、理屈で考えたらの話だ。
 同じ好きな相手であっても、他の相手にはしないような事を、椎苗は青年に許している。
 それを比較すれば、椎苗は青年へ特別な『好き』を抱いてる事は確実なのだ。

 ただ、それを実感として得られているかどうかは、別問題である。
 こうして抱きしめられて、心地よさを感じる程度には、心が動いてはいるが。

「まあ、そうですね。
 お前と同じ想いを抱けたら、それは嬉しく感じるのかもしれません。
 だからそうですね、これからは。
 しいが、お前に惚れてるんだと、実感させてください」

 抱きしめられたまま、身を任せて目を閉じる。
 青年の腕の中は暖かい。
 それが、とても好ましく思えた。
 

レオ >  
「――――させてみますよ。
 まだ”半分”ですからね……椎苗さんに命じられた事は。

 ちゃんと…胸を張って”惚れた”って…言わせてみますから」

『好きかもしれない』ではまだ…半分だ。
彼女を惚れさせる。
自分が…幸せになる。

どっちも前には進んでいても、まだまだ……ゴールじゃない。

まだ、進もう。
あと少し、ほんの少しの命。
何時こうして普通に生活をする事が出来なくなるかも、自分には分からない。
彼女は…僕が何時、どうなるのか分かるのだろうか。
いや…だとしても。
それまで進もう。
そこは変わらないから。
そんな事は…知らなくてもいい。

時間がないから…僕は必死に進もう。





「――――」

瞳を閉じた彼女に、唇を重ねる。
もう何度目だろうか…こうしてキスをするのは。
何度重ねても同じものはなくて。
時を共にするだけ、キスの味が変わった気がした。


唇を離し、彼女へと微笑む。
そうだ……聞いておかなきゃいけない事があった。

「……呼び方、どうしますか?
 レオでも…ロリコンでも。
 椎苗さんの好きな方で、これからも呼んでくださいね」

まだ、半分だから。
何方にするかは、彼女に任せよう。

神樹椎苗 >  
 重ねられる唇。
 このキスを、もっとしたいと思うようになったのはいつからだろう。
 すっかり毒されている、そう思う。

「そうですね、名実ともにロリコンですし。
 まあこれからも甘んじて呼ばれるといいです。
 だって――もう我慢しなくていいわけですしね」

 少しだけ、試すように微笑みながら。
 そんな意地の悪い事を言った。
 

レオ >  
「――――意地が悪いなぁ」

少し苦笑して、また、抱きしめる。
温かい…
もっとこの温もりを感じたいと思うようになったのは、いつからだろう。
すっかり彼女に首ったけだ。
そう思う。

「…椎苗さんの事だけですよ、好きなのは。

 でも…うん。
 それじゃあ、レオって言わせれるまで…もうちょっとがんばらないとな。

 …今は、もう少しだけ。
 こうしていましょっか」

肌寒い時計塔の上で、島を共に眺めながら。
触れる指を、服から伝わる温かさを、鼻をかすめる髪の匂いを。
一つも余したくないと、思いながら。

あぁ…やっぱり。
僕はこの人が好きなんだ。
何もかも、好きなんだ。

この島で一番高い場所。
誰の邪魔も入らないから、少しだけ……

二人だけの時間を、漫喫させてもらおう。

ご案内:「大時計塔」から神樹椎苗さんが去りました。
ご案内:「大時計塔」からレオさんが去りました。