2020/11/18 のログ
ご案内:「大時計塔」に神代理央さんが現れました。
神代理央 >  
――人気のない、大時計塔。
一人になりやすい場所は此の島にも色々あるが、個人的に此の場所は嫌いでは無かった。
何故嫌いでは無いのか――と問われれば、もうその理由を思い出す事も出来ないのだが。

「……思う様にはいかぬものだな」

曇天の影が落ちる時計塔で、紫煙を煙らせながら一人呟く。
特務広報部――今や、落第街への暴力装置と化した己の配下。
しかして、部隊の訓練は遅々として進まず、己という指揮官がいなければ烏合の衆である事は否めない。

それ故に、個人単位で戦闘力を持つ者を集めてはいるが――やはり現状としては、単に装備が良いだけのゴロツキでしかない。
そもそも"個人の武勇"に頼る組織というのは、己の目指す組織や部隊と大きく剥離したものだ。

「……失った隊員の補充。部隊としての戦力強化。
やらなければならない事は山積み、か」

昨夜の一件で、落第街にて失った部隊員。
元違反部活生を中心としている事。特務広報部の活動の性質。
その二つが、兵力補充を難しいものにしていた。
真っ当な風紀委員ならば、特務広報部になぞ入ろうとは思わない。
かといって、元違反部活生が早々居る訳でも無い。

「……もっと戦力を。もっと兵士を。もっと、もっと」

呟く声は、紫煙と共に夜空へと流されていく。

神代理央 >  
とはいえ、当初の目的でもある『特務広報部への敵意を集める』という点においては、まあ及第点を与えられる実績であると言ってもいいだろう。
満点をつける程では無いが、赤点でも無い。
特務広報部だと分かりやすくするために、敢えて目立つ"漆黒の装甲服とガスマスク"という風紀委員らしからぬ装いを選んだのも正解だっただろうか。
まあ、そもそも特務広報部の長である己が、元々落第街にてヘイトを集めていた事も、要因の一つではあると思うのだが。

「…収束した敵意が、爆発するのも良し。
燻った儘、我等に狩られていくのも良し。
出来れば、前者であって欲しいと思う所ではあるが…」

『風紀委員会』に刃を向けずとも、『特務広報部』に刃を向ける者は現れるかもしれない。
というよりも、個人単位で言えば既に現れていると言っても良いだろう。それが落第街全体に広がるかどうかはさておいて。

「…より燃え上がらせる為には。より焔を昂らせる為には。
未だ血が必要か。まだ、砲火が足りないのか」


ならば兵を集めよう。
ならば砲を掲げよう。
ならば重鉄を以て踏み鳴らそう。


それが最早、大勢の望まぬものであったとしても。

神代理央 >  
もしかしたら。己は選択を間違えたのかもしれない。
より善い未来を。穏やかな明日を。踏み躙る選択をしてしまったのかもしれない。

「……しかし、しかし。私は、違わない。誤らない。
私の選択は、私が私の意思で以て選んだ選択は、必ず最良のモノにしてみせる。
……私は、屍を積み上げる山脈の上で、玉座に至ると、決めたのだ」


それは、嘗て『コキュトス』で垣間見た世界。
本来であれば、もう選ばなかった世界。閉じた世界線。
記憶も何もかも朧気になり得た筈の――理想。


『高い城の王』へと至る道は、再び開かれ始めている。
多くの死と多くの闘争と多くの屍によって。
多くの者が、幸せである世界の為に。


――斬り捨てていくと、決めたのだ。

神代理央 >  
「……今は、考え過ぎる事も無い。
私は、成すべき事を為すだけ。
任務を。使命を。理想を果たす為の手段を」

半分以上灰になった煙草を手摺で押し潰して揉み消す。
其の侭眼下の街へと放り投げようとして――ポケットから取り出した携帯灰皿に、仕舞いこんだ。

「……風紀委員がルールを破る訳には、いかぬものな」

それは、誰に向けた言葉だったか。
自嘲めいた笑みを浮かべると、眩く輝く学園都市を背に、時計塔を立ち去るのだろう。

少年を見下ろす天空は未だ昏く、雲が覆う。
曇天は、未だ晴れず。

ご案内:「大時計塔」から神代理央さんが去りました。