2021/01/01 のログ
■レイチェル >
何となく街の喧騒から離れて、歩を進めて気がつけば
時計塔なぞにやって来てしまった。
寒さにマフラーをしっかりと巻きながら、
金髪の風紀委員は、時計塔を登って、登って。
「……あれ?」
どうやら先客が居るようで、ふと足を止めた。
一応生徒は立入禁止となっている場所だ。
胸を張っていく訳にも行かず、物陰からちょこっと顔を出して
様子を見てみるのであった。
■園刃華霧 >
「コういウ時は……アー……いヤ、チがうナ。
アタシには、こレ、か」
そもそも言葉をかける相手もいない
ただ、空に投げかけるだけだ
あけましておめでとう、でも
ハッピーニューイヤー、でも
なんだか妙な気がする
だから
■園刃華霧 >
「ハッピー、トゥルー」
■園刃華霧 >
それは、かつて投げかけらた言葉
もう呼びかけることもない相手に
届くこともない言葉を
一言、捧げた
■レイチェル >
常世を見下ろしながら、ぽつりと一人で年越しでもしようかと、
そう思っていたのだが。
視線の先に居た人物を認めて、はっと小さく息を呑んだ。
レイチェルにとって、これは完全に予想外の邂逅であったが故に。
人知れず半歩後退しかけたが、その足を前へと進めて。
「……こんな所で会うとはな。新年、おめでとーな」
レイチェルはまず、そう投げかけた。
その表情には、自然と笑顔が溢れていた。
こんな所で、という言葉と合わせて自虐的な色も含まれてはいたが。
それでも、言葉の後には邪魔しちゃったかね、
などと小さく漏らしつつ。
「ハッピー……トゥルー?」
気づけば、彼女が小さく口にした言葉を、レイチェルは
鸚鵡返しの形で口にしていた。
トゥルー、真実。
レイチェルにとっても、
一連の事件を思い出さずにはいられないその言葉である。
■園刃華霧 >
「……ン」
うすぼんやりと気配は感じていたが、
まさかの相手であった
「ァー……新年、おめデとサん」
ひらひらと手を振って返事を返す
いつものいつもの感じ
「ドーしたノさ。此処、立ち入り禁止ダぞ?」
けたけたと笑ってみせる
無論、言った内容は自分にも適用されるわけだが其処は無視だ
そして……鸚鵡返しにされた方も、さらりと流す
■レイチェル >
「ちょいと……喧騒から離れたい気分でな。
今年を振り返りながら静かに年でも越そうと思ってさ」
そう口にするレイチェル。
無意識の内に繰り返していた言葉を華霧が流すのであれば、
レイチェルもまたそれを、一度さらりと流す。
「ま、たまにはな。
年越しなんだから、ちょっとばかし特別なことしたって
問題ねーだろ?
それにルールにぎちぎち縛られるのは、もうやめだ。
オレらしくもねぇ」
風紀委員らしからぬ発言であるが、
元々荒事屋である彼女としては、これが自然体といえば自然体だろう。
ふっと笑いつつ、歩を進めて。
よいしょ、と近くへ腰を下ろせば頬杖をついた。
「華霧こそ、こんな所に居るとは思わなかったぜ。
お前も一人で年越しって訳か?」
レイチェルはそう問いかけて、華霧を見上げる。
■園刃華霧 >
「ほーン……ま、そウいウ時もあるカ」
らしくないといえばらしくない、のかもしれない
けれど、そういうのは思い込みというヤツだ
そもそも、レイチェルに……ああいや、この辺は考えるとちょっとアレだ
やめよう
「あっはっはっ、確かニ。
そっちのホーがレイチェルらしイかもナ」
けらけらと笑う
事務屋として働いている彼女のほうが珍しくはあったのだ
だいぶ納得ではある
「ン、アタシ?
アー……まー……なんトなく?」
実際、なんとなく此処まで来てしまったのだ
それ以上の理由もないし
答えようもなかった
■レイチェル >
「はっ、意外に思われるかもしれねーな」
そんな風に言葉を渡しながら、レイチェルは夜空を見上げた。
長居をするつもりはなかった。
その分、この瞬間を大切にしようと思った。
「だろ?
まー、色々あったけど……逸れて戻って、止まって動いて……
回り道しまくって、大体は元通りだ」
元通りにしたい、という意味合いが強かったのかもしれない。
いずれにせよ、レイチェルがそのことに気づいたのは言葉を口にしたその後であった。
そう、壊れてしまったものは少なくないのだ。
「そかそか。実は渡したいもんがあってさ。
メールでそのこと伝えようって思ってたけど、
ちょうど会えて良かった」
そう口にすると、レイチェルはクロークの中に手を入れた。
形の残るものはきっと、華霧が気にすることだろう。
まだ、真琴の件は解けきっていないことだろうから。
ならば。今レイチェルにできることは、
この場だけのプレゼントを贈ることだ。
「遅れちゃったけど、メリークリスマス。
それから、ハッピーニューイヤーの分も」
取り出したのは、箱。
そこに入っているのはクッキー――ではなく、ワッフルだった。
ワッフルは2つあり、片方はチョコレート、片方は蜂蜜が
かかっている。
「いつもクッキーなんだけど、クッキーばっかじゃ芸がねぇと
思ってさ。今回はワッフルに挑戦だ」
そう口にして、へへっと笑ってみせるレイチェルは、
中を開けた箱を差し出した。甘い香りが漂ってくるかのようだ。
■園刃華霧 >
「いや、ソいうこトもあルだろ。
そもソも、見えテるダけが全部じゃナいしナ」
つられて空を見上げる
今日は妙に星が綺麗だ
「ン……あア、そう……だ、ナ。
うん。元通り、サ」
もう二度と還らぬものはあるけれど
ある程度は元に戻った
それは喜ばしいことだ
「うン? 渡しタいモン……?」
そういえば、今年は色々あっていつもの日にも
贈り物、なんてことはできなかった
ちょいとした差し入れだけを入れた記憶だけはある
それなのに、逆に渡したいもの、とは……
「……」
差し出されたのは、あまいあまい匂いを放つソレ
「……あァ」
食べれば消える儚くも甘いそれは
ああ、確かにいいかもしれない
「はハ、なールほど?
いいジャん。せっカく二個あンだし、分けて食ベるか?」
けらけらと楽しそうに笑う
■レイチェル >
「そだな、見えてるだけが全部じゃねぇのは確かだ。
空は広いし、海は深ぇし……知ろうと手を伸ばせば伸ばすほど、
もっと世界が広がっていく気がして――」
寒風にも揺れぬ黒のカーテンに、宝石の如く散りばめられた輝きに、
目を細める。路地裏のあの日も星が綺麗だったな、と。
そんな風に、レイチェルは思う。
―――
――
―
「――全然悪い気はしねぇんだ。そういうの」
人も。
吸血鬼も。
誰だって。
広くて深い、互いの持つもの全てを知ることはできないけれど、
少しだけでも、一歩ずつでも、知っていくことは楽しいと思える。
だから今、オレは、世界《おまえ》と。
こうして居るのが、楽しいと思えるんだ。
飛び込むのは少し怖いこともあるけど。それでも。
「うーん、そーだな~……」
街からは、楽しげな声が聞こえてくる。
新しい風が、学園都市にやって来るのだ。
目の前の相手とのこと、そして、こいつ自身、オレ自身のことも。
今後どうなるかは分からねぇが、それでも。
今はちょっとだけ、この時間に甘えさせて貰えたら嬉しい。
そう思った。
「割っちまってもいいぜ、そうすりゃどっちの味も楽しめるしな」
せっかく2種類あるのだ。
割っちまえばどちらも楽しめる。
そんな提案をしつつ、脳裏ではもうひとつのことに気づいた。
静かな星空の下。
この場限りの甘い思い出。
ただ、華霧と一緒にワッフルを食べる。
ただ、それだけ。
それでも。
時間も、甘さも二人で『分かち合って』味わうのが、
オレにとってとっても贅沢で、
最高に嬉しいことなんだってことに。
気づいた。
華霧にとっても、少しは良い時間になってくれたら嬉しいな。
そんなことを思いながら、オレはワッフルを口にするのだった。
■園刃華霧 >
「そーソー、世界は広イってナ。
ひひ、昔のアタシには想像モつかンかったケど」
落第街しか知らなかったあの時
こんな眩しい世界があるだなんて、思いもしなかった
いや……そんな存在を夢想することもできなかった
わからないものは、想像もできないから
「アー、そッカ。味違うカ。
ん、じゃ割っチまっタほーガ確かに正解ナ。」
なるほど、と。
わしわしとワッフルを二つに割っていく。
思えば、こうして人と分かち合う、なんて行動を覚えたのも……
彼女らと、会ってから……だった、と思う
それまでは、そんなこと考えもつかなかった
「アー……ま、これモ悪くナいな」
僅かに微笑んで、割った残りを差し出す
それをレイチェルが受け取って口にするのを満足そうにみた
「うン、悪くナい」
また一言小さくつぶやいて……
のんびりと夜景を眺めながら、二人でワッフルを口にするのだった
ご案内:「大時計塔」からレイチェルさんが去りました。
ご案内:「大時計塔」から園刃華霧さんが去りました。