2021/06/02 のログ
■クロロ >
思考回路も泥土の様に濁っている。
元々聡明と言う訳では無いが、頭の中を鈍痛めいて駆けまわる気だるさに思考は堂々巡り。
紐の無いベーゴマだ。
「別にオレ様には呼び捨てでいいつッてンだよ。
……ア?月?……、……お前、月見でも趣味なンか?」
生憎曇天所か雨模様。
黒雲に埋め尽くされた夜空は月明りさえ差し込まない。
溢れる雨は、しとどに濡れそぼった月の涙なのか。
だったら、泣かずに今すぐ雲を晴らして欲しいものだと思う。
月明りのが、よほど好きだ。溜息交じりに、額に自身の掌を押し付けた。
「頭が回らン……こンな時期があるなンて聞いてねェぞ。
何時晴れンだよ。ロクに動け哉しねェ……ア?」
指の隙間から、少女を見上げる鋭い視線。
他意はない。気だるいから、そう見える。
何時もよりも目を開いてないから、目つきも三割増しで悪いのだ。
「ほッといたら、煙みてェに消えそうなクセによ。
……オレ様をどうこう言う前に、テメェのが不便だろうが」
呆れ気味にちょいちょい、と片手で手招き。
「どうせ雨で暇なンだろ。ちょッと位付き合えよ、セレネ」
■セレネ > 相手は炎。とはいえ、人の形を取っている。
己は魔術だけでなく医術にも長けていると自負している。
だからか、相手が普段以上に”本調子”ではない事の予想はあった。
「…そうですか。なら敬称は無しにしますよ。
敬語も『キモい』と言うなら、それも無しにしても構いませんが。
月見も確かに趣味ですが、一番は魔力供給の為ですね。」
尤も、供給の代替手段を取ればこの時期は乗り切れはするのだが。
月の女神とはいえ、天候を操れる力はない。
「あら、日本は梅雨の時期…まぁ雨が続く時期があるようですよ。
来年は、それの対策でも講じるべきですね。」
本当に気怠いのか、いつもより相手の視線が鋭く見える。
しかしそれに臆するような己ではないし、生憎慣れているので普段通りだ。
「――私が消えて、探してくれる人が居れば良いですけどね。
あらぁ、人を気遣う余裕はあるのですね?安心しました。」
大きな手が手招いた。
数度蒼を瞬かせると、カツカツと相手に近づく為に階段を下りる。
「話にでも付き合えと?」
■クロロ >
「……お前気にしてンのか?悪かッたッて」
妙に強調される『キモい』の一言。
頭が鈍い事も相まって、大した発言だとは思っていないが、向こうから見れば違うらしい。
何時もならともかく、何処となく面倒くさそうだ。よろしくない。
「アー……そりゃ、キツいな。オレ様も似たようなモンだけどな」
彼女とは違うだろうが、自分にとって魔力は必要不可欠だ。
魔力が無ければ生きられない、生ける炎。
血液に等しいエネルギーが得られない辛さはよくわかる。
よくよく考えれば、月明りが似合う姿もその表れなのだろうか。
……と、言うのは、少し洒落が過ぎる考えだ。軽く肩を竦めて忘れる事にした。
「ニッポン……ダルすぎだろ。いッそのこと、雨雲位消し飛ばしてくれりゃいいのに」
それこそ大砲でも何でも、日照りでも何でもばっちこいだ。
雨が降るより大分マシ。とにかく、今の自分には耐えがたい。
「ア?此処にいンだろーが。オレ様に面倒かけンな」
しれっと言い放てば、続く言葉に気だるそうに頷いた。
「話でもいーし、なンなら魔力供給でもなンでもしてやるよ」
勿論頭は回っていない。
これも全部雨のせい。
■セレネ > 「……いいえ別に?気にしてはおりませんよ」
というものの、大分根に持ってそうな言い方を。
悪かったなんて謝罪を受けながらも口元は少し曲がっていたかもしれない。
「人によっては魔力はエネルギーの一つですから。
空っぽになれば消滅しますし。」
己も相手と同じように、魔力が尽きれば肉体が消滅する。
実際に試した事は無いが、恐らくそうだろう。
でなければ魔力消費のデメリットが肉体にあらわれない筈なのだ。
「それが嫌なら別の国に行くしかないですねぇ。
…本調子ではないのに、そういう所は変わらないのですね。」
フ、と小さく鼻を鳴らしては蒼を細める。
彼にとっては特に考えていない言葉だったのかもしれないが。
「――へぇ?魔力供給も良いのです?」
相手より一段、高い場所。
悪戯っぽく微笑むと少しばかり顔を近づけて首を傾げてみせた。
今までの仕返しとばかり。
■クロロ >
「滅茶苦茶気にしてンじゃねェか……」
明らかにこれは根に持った言い回し。
迂闊な事を言ったと思う反面、それを反省するほど今は頭が回らない。
暫くはコレをネタに脇腹を小突かれても仕方ないかもしれない。
「行けたらとッくに行ッてらァ。こンなクソみてェな場所に長居する……
……理由がねェワケじゃねェが、何時か用が無くなりゃすぐ出てッてやるよ」
こんないつ死ぬかもわからない時期がある国になどいられない。
ただ、この島にはまだやる事がある。
それを終えるまでは、そんなクソッタレな場所でも居続ける覚悟はある。
何時もとは違い、悪戯っぽく微笑む少女の顔。
今は感性も鈍い。訝しげな表情でクロロは返した。
「ア?好きにしろよ」
呆気からんと返した。
炎の塊ではあるが、今はたいして熱を持っていない。
近づけば明白、"人並み"だ。
さながら、しけった火薬のように弱々しい。
人間で言う低体温症状に近しいものだからこそ、本調子ではない。
弱々しく、湿気に消えそうな炎そのものだ。
魔力(ねんりょう)はあっても、火薬がしけっていては意味がない。
「別にオレ様、魔力ばかりは余ッてるからな。
テメェ如きに分けた所で死にはしねェよ。……つか、なンだその顔?」
■セレネ > 己はこう見えて、値に持つタイプ。
なので気が済むまではツンツンとことあるごとにつついて行くだろう。
「まぁ少なくとも学園を卒業するまでは居なきゃいけませんからね。」
目の前の相手が同じ”生徒”だと思っているからこその言葉。
相手の目的や真意は分からない。
「…そういえば、今は貴方の周りは暑くないですね。此方としては有難いことですけど。
魔力は余ってるだなんて、一度くらいは言ってみたいものです。…羨ましい。」
少しでも何か仕返しになればと顔を近づけたものの、やはり調子が出ないのか反応も鈍いもので。
彼の温度が人並みな事を良い事に、相手の頬を軽くつつこうと手を伸ばしてみた。
■クロロ >
「…………」
"卒業"。
普通の学生なら、当たり前のことだ。
学業を営む者のゴールでありスタートライン。
ただ、それは"普通"だったらの話。
記憶もない、ましてや正式な生徒でもない二級学生がそんな事考えるはずもない。
少しばかり表情が硬くなったのは、此の湿気だけのせいじゃない。
「お前、やッぱり真面目だよなァ。……ア?
ウルセーな。こうも水気ばかりだと、"本調子"じゃねェンだよ」
水中で燃え盛る炎は存在しない。
少女の指先がクロロに触れると、ぼ、と小さな音を立てて炎となって軽く散った。
本体ならば、あっという間に燃え移るようなものだが、不思議な事に炎はとても"温い"。
ひと肌と相違無く、まるで綿毛でも触るような手応えのなさだ。
「……見ての通りだよ。魔力があッても、こンな場所が燃えねェンだよ。
別に、お前が思う程便利じゃねェよ。そうでもしなきゃ、生きられねェだけだ」
だからこそ、蓄えは怠らない。
魔力(マキ)を切らせばそこで終わり。
魔術師は周到なのだ。
とは言え、この"体質"ばかりはどうしようもないので、このザマだが。
「つーか、近ェ。お前、オレ様に近づいてなンか楽しいのか?」
■セレネ > 「表情、硬くなりましたね。
もしかして正規の生徒ではないのです?」
近場で見つめていれば、その少しの違いも分かる。
蒼に湛える感情は無く、ただ相手の動向を観察するのみ。
とはいえ彼の事情等知ったからと学園に報告するつもりもないのだが。
「まぁ良くも悪くも真面目が取り柄ですし。
あら気に障りました?此方としては珍しい反応も見られて良いのですけど。」
触れた肌から散った炎に蒼を丸くする。
もう一度つついた後、するりと頬から首筋まで指先で撫で下ろそうと試みるだろう。
火傷しないからか、興味を示したか、ひたすら相手にスキンシップを目論む。
「周りは湿気ばかりですものね。成程。
…そうでもしなければいけない程、生きなければいけない理由でもあるのですか?」
緩く、首を傾げる。
何か理由があるからこの島に留まり、生き続けている訳だ。
己が面白がって近付けば近づく程、纏うローズの香りが強まる筈。
「今まで散々私に顔近づけたりしたじゃないですか。
その仕返し、です」
■クロロ >
「……さァな」
否定も肯定もしなかった。
自分がまともな人物では無い事は、既に相手も感じているはずだ。
あの女子寮の一件も、今までの邂逅でも、それを隠そうとはしなかった。
ただ、"言う必要の無い"事は言わない。
普通の生徒である彼女に、余計な事を言う必要はないからだ。
重い頭でも、そこまでは考えれるものだ。
「取り柄、なァ。別に触ッてもいいけどよォ、なンかの拍子に火傷してもしらねェぞ」
するりとなぞる指先は肌の感触では無く綿毛の感触。
熱を持たない炎となって白い指先の軌道に散っていき
そして、人の姿へと戻っていく。
指先でも体でも、それが人の姿を偽った存在だと露にしている。
「…………」
重い頭を軽く振り、軽く息を吐けば軽く自身の手をぐ、ぱ。
少しは意識はまともになった。魔力を意識的に集中させ、形を保たせ片手を伸ばした。
少女の顔へと手を伸ばし、後頭部を押すように無理矢理顔を近づけようとする。
それこそ、鼻先がくっつくほどに、吐息がかかる程に近い距離に、だ。
「大した事じゃねェ。お前を含めて、ほッとけねェ連中が多いだけだ」
たったそれだけの理由だ。
記憶もそうだが、何よりも関わり合った人間が放っては置けない。
関わって見て見ぬふりを振るのは、"スジ"が通らないだけだ。
強まるローズの香り。不思議の嗅ぎなれたこの匂いは、重い頭を落ち着かせてくれる。
至近距離、或いは超至近距離で真っ直ぐな黄色の視線が相手を射抜く。
逃さないように、二人の文字通り密接な時間を雨音が隠してしまう様だ。
■セレネ > 「…そうですか。」
嘘を吐く必要がないと判断したのか、それとも嘘を吐くのが下手だからなのか。
否定も肯定もされなかった。
「言う必要のない事」を言わないのは己も相手も同じかもしれない。
その言葉だけで充分察せた。
「火傷は治せますから大丈夫です。」
目の前にあるのは人の肌なのに、触れれればその感触はふわふわとしたもの。
こういった玩具があれば、多分ずっと触っているだろう不思議な感触に強く興味を惹かれていれば。
「――っ!?」
ぐい、と。互いの顔が至近距離まで近付いた。
流石に予想がつかず、蒼を見開いて驚くも、咄嗟に突き放すような事はせず。
「…貴方案外、お人好しですよね。」
見た目も言動も、粗雑で粗暴なのに。
しかもやはり、己もその中に入っているだなんて。
恥ずかしがる様子もなく、ただ蒼を細めて真っ直ぐな瞳を受け止める。
「――驚かせるのはこれだけ?」
■クロロ >
「そう言う問題じゃねェよ。お前が傷つくことが問題なンだ」
彼女は充分傷ついて、今もなその傷を隠している。
それに直接触れた訳じゃない。ただ、それを見たのは違いない。
必要以上に傷つく必要がないし、何より自分の不用意で彼女が傷つくなんて御免だった。
突き放そうと思えば、きっと出来たはずだ。
今の自分の力なら、それこそ簡単に。
けど、彼女はしなかった。
そして、それに対して自分も何も言わなかった。
────…頭はまだ、重い。
「お人よし?気のせいだろ。…………」
瞬きすることなく、金色の炎が蒼月を見上げる。
「────お前はどうしたら驚くんだ?」
敢えて、訪ねた。
彼女が"されたいようなことを"。
■セレネ > 「…?
自分の不注意で傷ついたのなら、それは自業自得ではありませんか。」
相手は悪くはないのだし、何が問題なのかも分からない。
実に不思議そうに首を傾げてみせる。
彼が何を気にしているのか、己には分からなかった。
正常な判断がつく状態なら、彼もここで離したかもしれないし、せめて何か言ったかもしれないけれど。
互いに未だ、離れる事は無く。
「気のせいにしては、何度も気にかけてくれてますけれど。」
今だってそうだ。己が傷つく事が問題だ、と言うし、以前は贈り物を贈ってくれた。
放っておけない人が居る事を理由に生きているのなら、それは充分お人好しに入ると己は思うのだけど。
「…あら、この状態で聞くのですね。
――野暮な人。」
クスクス、と小さく喉の奥で笑っては、言いたくないと遠回しに。
■クロロ >
「そう言う問題じゃねェよ。
自業自得でも、不必要に傷つく必要がねェッて言ッてンだ」
生きていくうちに傷つくことはだれしもある。
不注意か不運か。だが、炎とは今でこそ文明をもたらしたが、牙を向く存在だ。
危険なものに不用意に触れればどうなるからは自明の理。
彼女の行いは、クロロにとっても問題でしかない。
不機嫌そうにしかめっ面をする。
先の事もそうだが、"野暮な人"と言われたからなのか。
何にせよ、妙に引っかかる。それが"何"なのか、理解しえない。
頭が重いせいか。全部雨のせいなのか。
よくわかっていない。けど……まぁ、いいか。
「ウルセェよ」
静かに吐き捨てれば、軽く顔を上げた。
動かなければ、重なるのは互いの唇。
しかし、その感触は余りにも軽く、手ごたえもなく
周囲に散りばめられる焔の接吻。
■セレネ > 「まぁ、確かに不必要に傷つく必要はありませんね。」
危ないものだと認識すれば、もっと別の対応を取るかはするつもりだが。
今の所…少なくとも今この時点では、彼に触れて怪我もしていないし。
自身の”心”については疎いせいもあるかもしれないが。
相手が顔を顰めれば、強面が更に凄みを増す。
怒らせてしまったかしら、なんて思うもそこに恐怖や怯えは一切なく。
ただほんの少しばかり、面白そうな感情は滲んでいたかもしれない。
「――。」
彼からの口付けに、己は蒼を細めて受け入れる。
皮膚と同じく熱さもなければ触れた感覚は実に軽いもの。
しかし相手が触覚を持ち合わせているのなら、己の唇の柔らかな感覚が伝わるかもしれず
ローズの香りも変わらず香る事だろう。
■クロロ >
焔が感じたのは柔らかな少女の感触。
鼻腔を擽るローズの香りが、まるで口元に残るようだ。
すぐに離れた唇を、自身の指でなぞればすぐに頬を掻いた。
「……コレじゃ、物足りねェな」
自分でも不思議なほど、ため息交じりに漏れた一言だった。
人に触れる事すら敵わない生ける炎。
全てを焼き尽くすか、散るかしか出来ない肉体。
生きる上で、不便でこの上なかったが、別の意味で嫌気が差すのは初めてだった。
「お前はどうなンだ?」
矢継ぎ早に、少女に尋ねる。
雨が感覚を狂わせてるに違いない。
雨音のカーテンコールは、彼女の声以外を遮ってくれる。
頬に手を添えて、目をそらす事無く、何時になく真剣に見据えていた。
■セレネ > 綿毛のような、軽い感触がすぐに離れた。
人とは違う感覚で新鮮な気持ちを抱いては、
物足りないとの言葉に再度蒼を瞬かせて。
「私を驚かせるには、充分だと思いますが。」
驚きもしていなかったのは置いておいて。
そしてすぐさま問われた言葉に、少し考え込む。
「――私は充分、と言ったらどうします?」
相手の口元に人差し指を添え、悪戯っぽく笑む。
雨のせいにするのは、これだけだと。
「これ以上だとそれこそ火傷してしまいそうなので。」
親しい仲でもないのだし、と。
ゆるりと首を横に振る。
「私そんなに軽い女じゃないのですよ?
…まぁ、キスは許してしまいましたけど。」
それに、あまり帰るのが遅くなってしまうと愛猫も寂しがるし。
■クロロ >
『――──私は充分』
雨音に紛れた言葉に、つかの間の静止。
クロロは静かに目を瞑った。
重い頭の中に、雨音が木霊する。
「──────……」
そして、僅かに口元が動いたが、その言葉は雨音にかき消された。
雨は未だに、止みはしない。
曇天の雨空が外には広がっている。
「……へッ」
それこそ、だ。
そう言わんばかりに鼻で笑い飛ばせば、そっと手を離した。
「お前が唇許しただけで、相当だと思うけどな。
オレ様に奪われるようじゃ、何時かタチの悪い男に引っ掛かるぜ?」
ああ、そうだ。
全部雨のせいだ。
燃えない炎が、妙な気分を起こさせたに違いない。
それでも、それを嘘にしてしまうのは違う気がする。
それはきっと、彼女の傷口に触れてしまう行為なのかもしれない。
言えない心の傷に、そう────……。
「別に軽いとか重いとかじゃねェよ。
次会う時は、"もッと驚くかもな"」
それでも、彼女の内心に踏み入るように言ってのけた。
少しばかり顔色の優れない笑顔のまま、くつくつと喉を鳴らして笑っていた。
「雨、止みそうもねェぞ?帰るなら、早い内に帰れよ。
オレ様はどーせ、雨除けが使えるようになるまで此処で立ち往生だかンな」
■セレネ > 「酷い女だと思うかもしれませんが。
ごめんなさいね。」
これだけ期待させておいて、と。
怒りの言葉一つでも投げかけられるかと思ったが、そんな言葉は投げられず。
蒼には申し訳なさそうな感情を湛えて。
「あら、もう既に性質の悪い人に引っかかった後ですので大丈夫ですよ。
…キスを許すくらいには、信用してくれてると思って頂ければ?」
一瞬顔が強張ったのはその”性質の悪い男”の事を思い出したから。
炎だとしても、人のようなぬくもりはなかなか消えず、少しだけ蒼を伏せたけれど。
「――へぇ?それは楽しみです。
どんな風に驚かせてくれるのか。」
顔を上げれば、相手と同じようにクスクスと。
「雨の日は家に籠ってた方が良さそうですねぇ。
…では、私はお先に失礼します。
今日の事は二人だけの秘密、ということで。」
自身の唇に人差し指を添え、ウィンク一つ。
別れの挨拶と共に階段を下りていくとしよう。
帰路につく途中、今更ながら襲って来た羞恥に顔を真っ赤にしていたのはまた別のお話――。
■クロロ >
「オレ様は、酷い女にわざわざあンな真似しねェよ」
それこそ口づけなんて、する訳もない。
雨に浮かされただけかもしれないけど、それを嘘にする気は毛頭ないと言っているようなものだった。
「……ああ。まぁ、な」
"性質の悪い男"と、"驚かす事"に生返事。
二人だけの秘密の約束。
何にせよもう、起きた事に後戻りは出来ない。
此処で半端に踏み入っただけならきっと、再びその心に傷を残してしまうからだ。
気だるげに肩を竦めれば、軽く右手を振った。
「お前ン家割れてるし、その内雨宿り行くかもな?
ま、気を付けて帰れよ。こけンじゃねェぞ」
と、いったん彼女を見送った。
その背中が見えなくなるまで見送れば、深いため息とともに思い切り螺旋階段に背を預けた。
「…………」
何だか酷く疲れた気もする。
雨のせいなのか、ローズの香りにかどわかされた。
「……ダリィ……」
不燃焼の炎は、雨音の中くすぶっていただろう。
ご案内:「大時計塔」からセレネさんが去りました。
ご案内:「大時計塔」からクロロさんが去りました。