2021/11/09 のログ
ご案内:「大時計塔」に霧島 孝介さんが現れました。
霧島 孝介 > 「いたた…」

カツン、コツンと足音を鳴らしながら階段を登る。
学生服姿の男の頭には包帯が巻かれており、時折そこに手を添えながら
痛みに耐えるよう、歯を食いしばって神妙な顔をする。

「久しぶりだな、此処に来るのも…」

階段を登りいり、目の前の扉を開ければ時計塔の最上部。
眼下に広がるは学園と街並み。
ふぅっと一息ついて、その場に座れば、立ち昇る月と街の灯りを交互に見る。

霧島 孝介 > 「なんというか………」

俺がやったことは正しかったのだろうか。

最近、寝る前にふと思い出す。
落第街での出来事。今は戦火も落ち着いており、自分の足跡も上手く隠蔽できたのか
誰かが寮に訪問することもない。

頭の怪我も、階段で転んで打ったという事にした。
幸いにもその嘘はバレてはいないし、怪我自体も見た目ほど大したことは無いが…
誰かを救ったという実感があまり湧かない。

「人助けってこういうもんなのか…?」

顔を覆って、ため息をつく。
今回の一件、勢いで動いてしまったが、風紀委員に楯突いてまでする価値があったのだろうか?

少なくとも一人…なんだか小さいエルフの魔法使いを救うことはできたが
寮で一緒に住むことになってしまったし、生活が色々と大変だ。

金銭面も余裕がなくなってきたし、完璧なプライベート空間も消え去ってしまった。
早い所、彼女の住むところを見つけなくては…

ご案内:「大時計塔」に羽月 柊さんが現れました。
羽月 柊 >  
この大時計塔には警備はおらず、
誰かが出入りすることは一応禁じられているとはいえ、良くあることだ。
霧島がそうであるように、そして、この男がそうであるように。


青年に他者の来訪を告げる靴音がする。


かつて霧島と一度だけ出逢ったこの紫髪の男は、
今、青年が対面している状況を知っている訳ではない。

それでもこの狭い常世の島で、因果というモノがあるとするならば。


「……ん?」

先客の存在に気付いてか、低い掠れた男の声が静かな時計塔に響く。


かつて魔術に憧れた青年よ。
この島に来て、不思議なこと、楽しいこと、更なる出逢いはあっただろうか。
良い出逢いも悪い出逢いもあったかもしれない。

宝石の原石だった君は、磨きを経て、鈍くも光を放ち、
誰かの為に、己の為に歩み出し、走り、
傷付き悩みながらも、此処に立っているだろう。

霧島 孝介 > 「はぁ~…それにしても…」

俺って弱ぇなぁ…と思案する。
何度も思い出す光景。巨大にして絶大な大剣が落ちてくる瞬間。
あの時、もっと他の選択肢があっただろう。

それこそ、エルフの彼女のように魔法でも使えたら…

などと考えていたら、自分以外の靴音と男性の声が聞こえる。
ハッとなってそちらを見れば、以前語り合い、魔術について少し、そして今後の生き方について大きなことを教えてくれた白衣の男性が立っていた。

「うおぉ!?
 は、羽月先生!?何でこんなところに…!」

ビクッと肩を震わせて、テンプレ通りのリアクションを取る。
流石にこんな時間に教師が来るとは思わず、内心ビクビクになりつつ
此処にいる言い訳などを考える。

まぁ、以前の屋上の件から、あまり咎められはしないだろうが…

羽月 柊 >  
「あぁ、君か。」

そう呟くように言う男の姿は、以前逢った時と変わらない。

霧島孝介が羽月柊と出逢った後、男の授業を受けていたかは分からない。
すれ違いが起き、今日の今日まで逢ってなかったかもしれない。


「何、学生だった頃を思い出して、来てみただけだとも。
 そうすれば大きな溜息を吐く君が居た、という訳だ。」

見回りという訳でもない、何の気なしの来訪。

かつて男もこの常世学園の生徒であった為に、
この時計塔のことは知っていたし、稀に訪れていたという。

「まぁ、一応は立ち入り禁止だが……、
 ならば教師なら良い、という訳じゃあないからな。」

此処には誰も来てないということだ、と、続けて口元に薄く笑みを含む。

だから、互いに咎めるモノでもないし、
内緒にしてくれたら内緒にするという程度の緩さだった。


キュイ、と、傍らに居る小竜が鳴く。

夜の月灯の下、黒にも見えるような男の紫髪が揺れ、
拒否されないならば、霧島の隣へ歩いて行こうとするだろう。

「……此処から見える景色は、相変わらず綺麗だな。」

遠く見える街並み、表面上は綺麗に見える。
何処かの戦火も、今は遠く。


「頭のそれはどうしたんだ?」

そんな呟きの傍ら、ふと包帯の事を指してちらりと聞いた。

霧島 孝介 > 実のところ、目の前の男性の授業は何回か受けてはいたが
魔術よりも、まず先に自身の異能を磨くことを優先した少年。

その後ろめたさと、もとより教員に話しかけるタイプの生徒ではないため
今この場が少しだけ居辛い。

「え、せ、先生もここに来てたんですか?
 アハハ…いや、まぁ、そんな落胆してるように見えました?」

意外だ。てっきり学生の頃から優等生で、こういう所は来ないものかと。
でも、相変わらず勘は鋭くて、ため息を吐く場面を見られていたとしれば
照れるように笑顔を向けて

「は、はぁ…おぉ、ほら!おいで」

彼の緩さに相変わらずだなぁ、と思案すれば
聞えたのは甲高い鳴き声。
小竜の姿が見えれば拒否するどころか、受け入れた様子で手招きして

「えぇ…あ!これですか?
 アハハ、お恥ずかしいことに階段から転げ落ちちゃって…
 大事は無いっぽいんですけどね」

綺麗という言葉に落第街の方をみて感傷に浸っていれば、痛い所をつかれて
後頭部に手を添えて、引きつった笑みを浮かべる。
嘘はそんなに上手い方ではないし、目の前の教員は勘が鋭い。
少年が付いている嘘くらいは見破れるだろうか

羽月 柊 >  
後ろめたさに、男は別段気にしている様子は無かった。
羽月柊の授業は選択授業式であるし、
合う合わないはきっとあることで、来ない事にとやかく言う義理も無い。

学園が4年制とは言ったって、
大人になってもこの異の混じり合う島の方が居心地が良いと在籍するモノも居るし、
この男のように一度島外に出たが、理由あって戻って来たモノも居る。

「あぁ、意外か?
 学生の頃はとかく、俺もただの一般学生だったとも。」

むしろ今でこそ魔術を扱い、発現したてなりに異能もあるが、
この男は元々無能力だったのだ。

下手をすれば、今の霧島の方がよほど学園に馴染めているとすら、
己の学生時代と比べればそう思ってしまう。

おどおどする青年に、どうにも威圧的だろうかと内心悩んでしまうが。


小竜は呼ばれるとぱたぱたっと小さな羽ばたきの音と共に、
青年の元へと赤い角の方が寄っていく。
以前と同じように、乱暴にしなければ
秋も深くなってきたこの寒空の中、小動物の温かさに触れることが出来るだろう。

「君の溜息を先に聞き取ったのは、そこのフェリアだがな。」

霧島に寄った小竜の一匹を指してそう告げる。


「そうか………、
 先程の溜息とは関係は無い、ということか?」

遠回しに問う。
それは、言いたくないなら言わなくても良いという言外の意味。
大人は子供のように、率直には問わない。

それでも、言葉尻に出てしまう程には、きっと霧島は悩んでいるのだろう。
適格な答えを渡せる訳ではないだろう、
けれども今必要なのは、話を聞いてくれる誰かではないかと。

霧島 孝介 > 「は、はい。てっきり優等生でずっと勉強してるもんかと…」

自分から見たら目の前の人物は大人で
そこには年齢もそうだが、他にも超えられない壁があるような気がした。
能力の有無などは関係なく、青年からはそう見えてしまうのだ。

小竜と触れ合い、話しているうちに白衣の男の人となりを思い出し
おどおどした緊張感はだんだんと薄れていって

「おぉ、…フェリアっていうんですね。
 随分と耳がいいなぁ…」

小竜の温かさを感じながら、背中を撫でる
こうして触れ合ってみるとペットの竜とか悪くないなぁ、などと考える
自分が出会ってきた異界の動物は、その、よく襲ってくる奴らばっかりだったし。


「……考えてたんです。俺は正しかったのかって。
 人を守るのが俺の異能だって思って、向かったんですけど。
 相手は世間的に正しい方で、俺が助けた人たちに罪が無いって言いきれなくて…」

顔を俯きながら不器用に言葉を紡ぐ。
落第街での自分の行動に後悔はない。だが疑問が残った。

自分が助けた人が犯罪を犯したら、どうする?
その時の自分は守るのに必死でそんなことを考えていなかった。
だが、その人たちは必死になってまで助ける価値のあった人たちなのだろうか?

この青年は、始めての葛藤に一人頭を抱えて悩むしかなかった。

羽月 柊 >  
「…優等生とは言いづらかったな。
 勉強はしたモノだが、生来優秀という訳でもない。
 学生、若い頃は相応に馬鹿な事もしたし、青春を謳歌していたよ。」

霧島の隣に立つ男の右耳に、月灯を受けて金色のピアスが揺れる。

確かに教師という立場に居られるようにはなった。
それでも、この男の過去は全てが輝かしいモノでは無かった、と。
多くの失敗を繰り返し、大人になっても泥にまみれ、
今なお抱える懊悩の傷痕から血を流している。

それでも大人だから、表面上を取り繕っていられるのだ。

……まぁ、そんな"かっこつけ"が、
壁だというのなら、そうなのかもしれない。


「あぁ、赤い角がフェリア、こっちの青い角がセイル。
 俺の護衛なんだが… 一応は彼らも学園からは教師扱いだがな。」

そんな雑談を零す。
だからといって彼らに襟元を正せという事は無い。
振舞いは小動物然としているし、アニマルセラピー的な効果もあるだろう。
失礼な振舞いや乱暴な扱いをしなければそれで良い。


「……………。」

ゆるりと紡がれる言葉を静かに、言い切るまで邪魔せずに聞く。
脈絡は無い、支離滅裂だ。
けれども、必死な想いを抱え、悩み、こうして羽月に話している。

この世は残酷だが、確かに命の価値に差があると言える。

だがしかし、だからと言って、その価値のせいで切り捨てて良い訳ではない。


「……それが、頭のそれに繋がるという訳か?」

言葉の欠片たちをひとつひとつ、拾い上げるように、話す。

「…この島では、何が正しい、正しくないとは、余程でなければ明確にはならん。
 誰かを生かすことが正しいのか、誰かを殺すことが正しいのか…。
 
 ただ、何かをすれば良くも悪くも相応の報いはあるだろう。

 君が今、その最中なのか、終わった後なのかは、俺には分からんが。
 ……細かくは"俺からは"聞かん、教師には、大人には言い難い事もあるだろう。
 誰か身近に腹を割って相談できるモノがいるなら、一番なんだがな。」

そういう人物はいるか? と、問う。

男は所詮、今日たまたま再会したに過ぎない。

それでも話すというなら聞きもするし、後ろめたい話も、
男は他言することは早々には無いだろう。
助力出来ることがあるのならば、するだろう。

何故聞けるかと言えば、『今日此処には誰も来なかった』のだから。

霧島 孝介 > 「な、なるほど…」

どちらにしろ自分とは正反対だな。と
金色のピアスを見て思う。
優等生であれ、不良であれ、自分とは真逆の存在。
どっちつかずの半端な自分に少しだけ嫌気が差して。

「え”っ、俺、教師撫でちゃってるんですけど、大丈夫なんですか?」

彼の紹介を受け、赤い角のフェリアを撫で続ける。
とはいえ雰囲気的に撫でてはいけないみたいな感じじゃなさそうだ。
ってか結構女子生徒がかわいいかわいい言って撫でてる現場を目撃してるし。

「……はい」

言葉を紡ぎ終えて、頭の事を問われれば頷く。

「…えぇ、一応、とても仲のいい友達が居るんで
 その人にも相談はしようと思います。
 …なんというか、俺一人で抱えるには、重すぎる問題ですから」

この青年は、自分の弱さを知っている。
自分が弱く、取るに足らない存在だと考えている。
『だからこそ』、一人で解決をしようとせずに相談する相手は決めていたのだ。

その弱さを知ったのも、相談できる相手ができたのも最近の事だが
1年前と比べれば大きな成長だろう。
何もないように見えて、何かが少しずつ変わっていく。

これが白衣の男とは正反対の、所謂「子供」の力だろう。

羽月 柊 >  
「構わんさ。彼らにも意志はある。
 嫌なら逃げるし抗議もするからな。」

フェリア自身も、大丈夫だと言うように小さく鳴いて霧島に擦り寄る。
羽月柊という男が近寄り難い分、彼らが緩衝になっていることさえある。


「……そうか。それは良かった。」

相談できる相手がいると分かれば安堵する。
あの日屋上で出逢ってから、良き出逢いに恵まれたのだなと。

子供故に出来ることがある、大人故に出来ることもある。


「罪のあるかもしれないモノを助けても良かったのか、か。」

ぽつりとそう零し、月を見上げる。


「…今から言うのは大きくて長い独り言だが。

 俺は以前、とある…"違反部活"と対峙した。
 彼らを打倒するのではなく、『たった1%』の『願いの成就』の為、
 己の命すら投げ打った彼らに、『願いを諦めて生きろ』いう為に。」


霧島の対面している状況とはまるで違うかもしれない。

それでも、男は経験でしかモノを語れない。
だが、それ故に、己の物語を誇れと言われ、教師になった。


「土壇場でそう決めてしまって、正しいかもわからず、
 ただ、"無視できない"というだけで、無謀にも手を出した。
 風紀委員は彼らを病巣として切り捨てたにも関わらず、な。

 惑い、迷い、俺に今更何が出来るのかとも思った。

 最中にとあるヒトに叱られた。
 『彼らの悲願を阻むことを覚悟しろ。
  彼らの人生に介入することを覚悟しろ。
  彼らから敵視されることを覚悟しろ。』

 …とな。」


今は友人となった、同僚となった、とある教師の言葉だ。

「…何かに関わるということは、そういうことだと。
 大層なことをしたように聞こえるが、止められたのは一人だけだった。」

これは独り言だ。ただの、かつてこの島であった、
日常の一つの事件に、羽月柊という男が関わった話。

霧島 孝介 > 「そうか…流石教師、嫌なら言ってくれな?」

フェリアに一応、そうやって声を掛けつつ撫で続ける。
小竜を目当てに彼に近寄っていく生徒を結構見た気もするし
流石、異界のかわいい担当。緩衝材としてうってつけだろう

「…はい」

彼の言葉にゴクリと固唾をのんで、静かにその話を聞く。
綴る声と言葉に引き込まれ、情景が浮かび上がる。

あぁ、この人もだ。
この人も選択を迫られ、迷った人なんだ。

そして出た『覚悟』という言葉にハッとしたように顔を上げる。
覚悟したはずだろう。この異能を使った瞬間に。
その信念、決意を今思い出して、小さく笑う。

「簡単なことじゃないか……ありがとうございました。
 貴重なお話を聞かせてくれて」

最初の言葉を小さく呟き、彼に礼をする。
ぺこりとお辞儀をすれば、頭の包帯を触って、大きく伸びをする。

「じゃあ、いい時間ですし、俺は帰ります!宿題も残ってますしね
 
 …先生、今度は俺に使える魔術、教えてください」

笑顔で彼にそう告げれば、階段の方へと向かって行く。
その足取りは来た時よりも、どこか軽快だった―――――

羽月 柊 >  
「…ただの独り言だとも。
 俺は、多くのヒトに恵まれた。」

故に、目の前の霧島もそうあってほしいと願うばかりだ。

自分がそうして、多くを取り零し、
それでも最後の最後にあの金眼の彼の手を取ることが出来たように。

覚悟というのは簡単な事じゃあない。

けれど、それの手助けぐらいは、出来たのかもしれない。


「あぁ、気を付けて。頭の怪我は大事にな。
 細かくても、何か異常があったらすぐに病院に行った方が良い。」

無理はしなくて良い、と。

「……あぁ、授業なりなんなり、機会があればな。」

そう言って霧島の背を見送る。
二体の小竜を連れた男は、もう少しその場にいるだろう。

誰もが万能ではなく、数多の異が隣に在るこの島で。

それでも誰もが、自分がここに在ると証明し続けている。



暫く経った後、パチンと指を鳴らす音がその場に響いた。

そこには誰もいない。
今日、今此処には誰も来なかったのだから。

ご案内:「大時計塔」から霧島 孝介さんが去りました。
ご案内:「大時計塔」から羽月 柊さんが去りました。