2022/02/03 のログ
クロロ >  
思えば調子が悪い時にアイツと出会ったのもここだった。
誘ったのはコッチ。まるで灯に誘われる羽虫のように。
結局燃やしてしまったのは自分だ。焚きつけておいて、この扱い。

「酷ェ男だよな」

自嘲する以外何がある。
未だ彼女の事も、果ては友人までも疑い始めた。
空白の記憶、"クロロ"という二級学生のガワ。

ふとした時に思うのは、この感情も、この思いも

全部はただ何かを"なぞっている"だけに過ぎないのではないか。

「…………」

ただで人に触れる事さえ許されない炎の体。
淀みの深淵。触れえざる領域外の旧支配者の知識。

果たして、己は『何者』だ?

もう何度も考えた疑問に、ここ一番に押しつぶされそうになっていた。

「情けねェ」

そう思わずにはいられない。

ご案内:「大時計塔」にセレネさんが現れました。
セレネ > お気に入りの場所の一つである此処は、まだ冬場とあって地上より一段と寒い。
それでも来てしまうのは、夜景と空に浮かぶ月が綺麗に見えるから。
その景色は好きだから。
まさかいつぞやと同じように塔の天辺に人がいるなんて思わないまま、
階段を登ってくる音が彼にも聞こえるかもしれない。

『…カイロでも持ってくるべきだったかしら。』

寒さには強いが、平気な訳ではない。
吐く息も白く、素のままの手をポケットにイン。
呟く言語は異国の言葉。己が使い慣れた言語。

今夜はここで暫しの月光浴のつもりだ。
一人だろうと踏んでか、周囲を警戒する事もなく。
転落防止の柵に凭れ掛かり、ゆっくりと夜景を眺めることと。

クロロ >  
"どうでもいい"ってのは、最初は本気で思ってた。
オレ様はオレ様。それが答えだ。
例え何も覚えていなくても、その行動こそ己の意味だと思っていた。
だが、現実は如何だ。結局何も思い出せやしないのに
時折なぞる言葉はには"誰か"が必ず自分の言葉をなぞるんだ。

「……誰なんだよ、テメェは」

憤り、苛立ち。
そんなものを込めて吐き捨てた言葉に誰も答えるはずもない。
ただただ寒空だけがそこに広がっている。
クソ、と殴りつけた拳は花火のように炎が爆ぜる。
夜空を照らす明かりに、月明りが見えてしまった。

「……げ」

そりゃまぁ露骨に顔を顰めた。
だって、今一番会いたくない相手だったのに。

セレネ > 頭上から、誰かの声が聞こえた気がした。
以前も似たような事があったなと顔を上へと向ければ。

「あら、こんばんは。またそんな所に居るのですね。」

目立つ風貌と煌めく金の目。分からない筈がない。
挨拶と共そう声を掛ければ見えたその表情に思案する。

「あまり長居はしませんよ。此処寒いですし。」

考え事か、己に知られたくない何かか。
相談してくれ、と言える立場でない事は分かっているので深く問いはしないつもり。
問うたところで、彼が答えてくれるかは別問題だから。

だから少しでも、その表情が和らぎそうな言葉を投げた。

クロロ >  
「ウルセェな、いちゃ悪ィかよ?」

相変わらずの仏頂面だし言葉も悪い。
居心地が悪い訳じゃないし、良く考えればここに居ればはちあう可能性もあったわけだ。
ハァ、と大きな溜息を吐けば隣に飛び降りた。
着地音もない。焔が爆ぜて、周囲を熱が帯びるが
あっという間に寒風に冷やされた。
それでも炎の体。その周囲は篝火のように暖かい。

「そーだな。じゃァオレ様といれば長居できるワケだ」

寒くて長居する気が無いなら、暖かいなら十分だろう。
気を使ってる心算らしい。ハン、と鼻を鳴らせば軽く首を振った。

「別に気を使われる事はしちゃいねェ。……そう、ただの考え事だ」

セレネ > 「いいえ?貴方高い所が好きなのかなと思っただけです。」

そもそもの身長も常人より高いのに。
咎めるつもりは一切ないが、溜息を吐かれればほんの少ししょんぼり。
尤も、人の身体じゃないからこそやるのかもしれないけれど、やっぱり少しびっくりする。
隣に飛び降りた相手から小さく炎が散った。
暖まる周囲に蒼を細める。

「…てっきり長居して欲しくないものだと思っておりました。」

冗談じゃなく、割と本気で。己に対してあんな嫌そうな顔、初めて見たものだから。

「考え事。…それってどのような考え事か聞いても大丈夫でしょうか。」

踏み込むなら、慎重に行かねばなるまい。
日頃世話になっているのは己の方だから、何か少しでも力になれればとは思いはすれど。
その想いが彼にとって正解かが、まだ分からない。
蒼を彼から逸らし、問いかける。

クロロ >  
「…………」

好きかどうかは分からない。
ただ人が少ないから今はそれがよかっただけだ。
ただ、それに肯定も否定もしない。
その『好き』が己の感情かさえ、今は肯定に度し難い。

「……別に長いしようがしまいが、テメェの勝手だろうに。
 オレ様にヘンに気ィ使うなッつッてンだろ」

それを止める権利は己には無い。
両腕を組んで、金色の双眸は遥か彼方宵闇の地平線を見据えていた。

「なんてこたァねェ。オレ様の事だよ。
 オレ様は、ちゃんと"オレ様"なのかな」

懐から取り出したのは偽造学生証。
顔写真に、クロロの名前。そう、偽造の証。

"まがい物"だ。

「このツラだッて、たまたま近くにあッたコイツをマネただけだ。
 オレ様が思ッた事は本当にオレ様が思ッた事かどうか」

「たまにオレ様の脳裏に誰かが言葉を被せやがる」

はぁ、と溜息を吐いて横目で見やった。
珍しく疲れ切ったような表情だ。

「……よーするに、いい加減飽き飽きしてンだよ。
 戻ンねェ記憶に、オレ様自身にな」

未だ白紙に戻りはしない。
いや、"戻らない"のではなく、それこそ正常だと思えてしまう。
初めから全部偽物だったら、これほど滑稽な事は無い。

「お前が惚れた男も何もかも無いようなモンかもな」

セレネ > 「…気を遣いますよ。ただでさえ貴方には色々迷惑もかけておりますし、
あまりに我儘だと…その、嫌われるのも嫌ですので。」

”距離感”が掴めないのは互いに同じなのかもしれない。
己には更に臆病さもプラスしているので猶更。
そもそもどこからが我儘なのかも理解していないが。
分からないから、石橋を叩いて渡るしかないのだ。

「……。」

彼が吐露した、珍しい弱音。
いつもは無駄に自信たっぷりなのに、今日はやけに弱々しく見える。

「んー。正直に申し上げますとですね。
確かに貴方の行動や言動は他者をなぞっているだけで
中身がないように見受けられる事も多々ありました。
友人から、今の立場になって猶更それが顕著になったように見えて。
無理矢理一般の男女像や恋人像に嵌めなくても良いのにとは…思ってますよ。」

彼を知る別の友人が見ればまた違った意見があるかもしれない。
だが、少なくとも己はそう感じた。彼を傷つけてしまうかもしれない言葉だが、素直に告げる。

「記憶を戻したいなら私も手伝います。勿論人の身体に戻る事も。
もし仮に元から記憶がないのなら、これから作れば良いじゃないですか。
…それでは、いけないのでしょうか。」

クロロ >  
「そうかよ……いや、知ッてた。オレ様は、オレ様の力も
 オレ様が話す言葉もなーンかどッかで聞き覚えがある」

その通りだ。
借り物の姿に、借り物の言葉。
何処かで聞いたことあるような言葉や記憶の数々。
そしてこの魔術もきっと、自分のものではない。
きっと、記憶の奥底でいる誰かの──────……。

──────……ああ、誰かの……──────。

ふ、と力なく口元が笑みを浮かべれば肩を竦めた。
そう言えば、そうだったな。

「……なンか、こーゆー感じに誰かと並ンでた気ィするわ」

思い出した訳じゃない。
ただ、何となく誰かと一緒にいた。
一人だけじゃなくて、その時はもう少し……。

「──────……」

これは、幻だ。
クロロにしか見えない幻。
見上げる夜空が気づけば夕暮れを零して混ざり合った混沌の空。
それを見上げる人影が確かにいたんだ。
憂いに、決意に、各々思いがそこにはあった。

「(……そう、そこにいたんだ)」

自分も、そこに。
もういないはずの幻視。赤い人影が横切った時にクロロは目を見開いた。

「……エイボン。……、……?」

確かに誰かの、名前を言った。
それがどんな奴で誰なのか、当然覚えていない。
気づけば景色もいつも通り。隣には、彼女しかいない。
自分で言った言葉に唯々、困惑する。

「……セレネ、だよな……お前」

困惑のまま、我ながら間の抜けた問い掛けをしてしまったと思う。

セレネ > 言霊というものがあるように、人が話す言葉には力がある。
本当に自身の内からの言葉であるのなら、響く何かがある筈なのだ。
だが、彼にはどうにも。そういったものはあまり見られなかった。
それが一体何故なのかは分からないけれど。

「気がするって思えるだけでも、もしかしたら記憶を戻す起因になるかもしれませんよ。」

彼が見上げる空を、己も見上げる。
見える景色は夜の色、星が瞬く月の色。

「…エイボン?」

そうして、口走った名前らしき言葉に首を傾げる。

「えぇ、私はセレネですけれど。…何か思い出しました?」

厳密に言うなら名は違うが、今回は口を噤んでおく。
彼が聞きたいのはそういう事ではないのだろうし。
蒼が興味深そうに金を覗き込んだ。何かプラスに働いたのか、と。

クロロ >  
呆然と瞬きを二、三度。
あれは確かにただの幻だった。
けど、確かにそれは"あった"んだ。

「……ハッ、何でもねェよ」

そう、本当に何でもない事だ。
きっとあの景色はもう"終わった事"だ。
どうあってもあの光景で見たものは、その続きはもうない。
これはある意味二週目、新しい始まりなんだろう。
何かを思い出した訳では無いが、何となく吹っ切れた。

「なーンも。その内思い出す事だけはなンとなくわかッた」

一切確証の無い言葉だ。
だが、ニヤリと浮かべた笑みは確かな自信を持っていた。
くるりと踵を返せば顎で来い、と軽くしゃくる。

「付き合えよセレネ。適当に散歩する。オレ様の隣はお前なンだろ?」

夜はまだ長い。
この篝火を欲するなら、何時でも隣は空けておいてやる。
他でも無いクロロ自身の言葉。
そのままクロロは振り返ることなくゆったりと時計塔を下っていくだろう。

ご案内:「大時計塔」からクロロさんが去りました。
セレネ > 「…そうですか。」

浮かべた笑みはいつもの彼だ。
弱々しい彼も珍しくてそれはそれで違う一面も見られて良かったが
己の知る彼らしくはない。…が、きっとそれで良いのかもしれない。
どうやら良い方向に向かったらしい。それは良かった。

「お散歩も良いですが、どうせならデートにも誘って欲しいものですね?
――えぇ。今の貴方の隣は私の場所です。」

付き合えと顎で示す所は相変わらずだが、その言葉には嬉しそうに答え。
炎の身体だから手を繋いだりはできないが、隣を歩けるだけでも良しとしよう。
黄緑色に続き、月色も塔の階段を下りていく。

気温は低いが彼の隣は暖かく、居心地の良いものだ。
これからはもっと彼自身の言葉を紡いで欲しいと思うのだ――。

ご案内:「大時計塔」からセレネさんが去りました。