2022/06/14 のログ
ご案内:「大時計塔」にイェリンさんが現れました。
■イェリン > 6月の中ごろ、空に昇り始めた月を追って時計塔を登る影が1つ。
「っくしゅん!」
季節は夏、それでも陽が沈むと気温は一気に冷え込んでしまう。
魔術のお陰で体温が下がるような事こそ無いけれど、
剥き出しの肌を風に撫でられたせいか、反射的に出てしまうくしゃみは抑えられない。
鼻腔を擽る雨の残り香、水溜まりは乾き切らずにブーツの底を湿らせる。
興味本位で潜った立ち入り禁止の札の向こう側を、
カタン、カタンと音を立てながら手すりをなぞって歩く。
「――ちょっと早かったかしら」
辿り着くのは行き止まり、鐘を見上げる時計塔の最上階。
空に昇る月は見た目には真円と言えそうなものだけど、”満ちる”までもう少し時間がかかりそうだ。
転落防止柵に身を乗り出して景色を眺める。
ご案内:「大時計塔」にセレネさんが現れました。
■セレネ > 今宵は満月。ストロベリームーン。
月が出る日は気分も機嫌も良い日。
湿気で湿った空気はあまり好きではないが、
暑さが和らぐ夜は過ごしやすい。
とはいえ、器が冷えぬ様しっかり袖のある服を着て
赴いたのは時計塔。
此処は景色も良いからお気に入りのスポットだ。
カツカツと、先客である夜色の彼女の耳に階段を上る音が聞こえるだろう。
「――あら。」
蒼に映ったのは空に浮かぶ月と長い夜色の髪。
見知った魔力の色に、蒼を細める。
「こんばんは、イェリンさん。お久し振りですね。」
階段を上り切れば、彼女の元へと穏やかに歩み寄るとしよう。
月光を受けて煌めく月色を靡かせて。
■イェリン >
風の音に混じって聴こえる足音。
物音を捉えてピクリと反応するけれど、上がってくるのが誰かを悟り
笑顔で迎える。
「こんばんは、先輩。えぇ、久しぶりね」
下から上がってくる彼女の姿は月光を纏ったような月の色。
「今日は満月だから、できるだけ近くで見たくって。
……先輩もそうなのかしら?」
歩み寄る友人にこちらからも一歩歩み寄り。
■セレネ > 笑顔で迎えてくれた夜色の後輩に、己も釣られるように笑みを向けて。
己が近づけば纏う甘いローズの香りも分かるだろう。
彼女にももう嗅ぎ慣れたものだろうが。
「えぇ、私もそうなのです。
此処は景色も良いので気に入ってて。」
島の景色と、夜空が一望出来る。
一歩近づいてくれた彼女を蒼の端で捉えながら、
蒼を月へと向けた。
「満ちるのはもうすぐですね。」
己も彼女も、待ち侘びている瞬間がもうすぐ。
■イェリン >
もうすぐ――
そんな彼女の声に『そうね』と返すのと殆ど同時だっただろうか。
己を照らす月の気配が変わる。
「ふふっ、本当にもうすぐだったわね」
月を見上げ、甘いローズの香りを感じながら笑う。
魅了の効果を持つその香りにも慣れた物で、
とはいえ何か対応が変わるという物でも無く。
「私は初めてだけど……先輩は良く来るのね。
本当に遠くまで見れて綺麗ね、ここ」
言いつつ片手間に羊皮紙を広げて月の威容を写し取る。
毎月のルーチンワークになっている、月の採取だ。
■セレネ > ふわり、月色が靡く。
真円となった月に蒼を細め、満足そうに微笑んだ。
月の魔力に満ちる周囲は、己にとって大層居心地の良い場所。
景色を褒める言葉には同意するように小さく頷きを。
「あ…此処に来た事、先生方や風紀の人には内緒でお願いしますね?」
一応は立ち入り禁止の場所だ。
秘密、というように口元に人差し指を添えては
羊皮紙に月を写し取る彼女の様子を眺め。
「面白い事をしてますね?」
興味深そうに蒼が見た。
そうして少し考え込むと、片手を挙げ
空に浮かぶ月の輪郭を撫でるように指を這わせた。
すると、水滴が落ちるかの様、
潤んだ月の雫がぽたりと手の中に落ち
ふわふわと珠となって浮かぶ。
小さな小さな月が手の中に一つ出来上がった。
■イェリン >
月と太陽、陰と陽。
文化や流派は違えどそれらは魔術にはやはり深く関わっていて。
独自の魔術を練り上げる己のような者にとっても切っても切れない物。
「勿論よ、私だって怒られたくないもの」
真似るようにして人差し指を口元に寄せてはおかしそうに笑う。
多少危険でも、手頃な距離で見晴らしが良いのだから他にも人が来る事もあるだろう。
他に似たような条件で、と行って青垣山に出向く方がよっぽど危ない。
「ん……だって見れるのは1年に一度だもの。
記念みたいなものね」
作っているのは魔術触媒だけれども、そうそう使うような代物でも無い。
羊皮紙を焦がすようにして写し取った月の姿をしまうと隣の月色の友人の姿を見やる。
「……それは?」
姿勢を低くして彼女の手の内の月に顔を寄せてみる。
危険な事をしでかすような人ではないという信頼と、
魔術師特有の好奇心の色を両目の蒼に光らせながら上目遣いに彼女を見上げる。
■セレネ > 「ならお互い様ですね。」
共通の秘密。クスクスと笑う彼女に、己も小さく喉を鳴らして。
見晴らしの良い場所なら、百貨店の展望台エリアも確かに良い場ではあるが。
風に触れられる外の方が良い時もある。
「触媒としても優秀でしょうしね、それも。」
魔術師たるもの、触媒の生成は重要だろう。
焦げた羊皮紙に写った月を蒼が一瞥すれば、
今度は己が作った触媒…というより、月の魔力そのものに興味を示す彼女を見る。
「採取したのは初めてなのですが、これは…何というか。
そう、月の雫とでも言いましょうか。
触媒ではなく、魔力そのものを採ってみました。」
周囲に満ちている魔力でも良かったが、純度は此方の方が圧倒的。
100%の純度故、下手に扱うと危険だったりするが。
「……要ります?」
なんて、緩く首を傾げて問いかけてみた。
■イェリン >
「あまり使う機会があるものでも無いけれどね」
高威力の爆弾の素材を作っているような物。
記念品としてストックは溜め続けているけれど、
使う機会など本来無い方が良い。
「魔力そのもの?」
しげしげと見つめる小さな月。
純度100%のそれは、爆弾の素材どころか爆弾そのもののようでもあり。
「それって私が触れても大丈夫なの……?」
彼女が月を源流とするものに傷つけられるとは思わないが、
自分が触れても無事とは限らない。
興味本位に手を伸ばしながらも、ちょっとへっぴり腰。
■セレネ > 「使う機会がない方が良いではないですか。
それだけ此処が平和という訳ですし。
…でも、その触媒を用いたらどのようになるのか気にはなりますね。」
彼女の魔術も戦術も、しっかりと見た事はなかった。
実に興味があるのだ。彼女の魔術師としての技量が如何程なのか。
「…貴女が良ければ今度、手合わせとかどうでしょう?」
だなんて、そんな提案を持ち掛けてみた。
「そう。
……あぁ、人の身で触れると…流石に危険かもしれませんね。
月は人を狂わせるって言うでしょう?」
人を惹きつけ、良くも悪くも影響を与えてしまうもの。
爆弾そのものとは言い得て妙だ。
己が平気で居るのも、月の女神であるからに他ならない。
腰が引けながらも手を伸ばす彼女にそう言葉を投げかけて。
「あげるにしても入れ物が必要ですね…。」
適切な入れ物があっただろうか。
浮いたままの小さな月を指先で弄びつつ、蒼を周囲に走らせる。
■イェリン >
「そうね、見せた事無かったし調度良い機会かも?」
それにあまり使わずにいると自分も感覚が鈍りかねない。
演習場での自己鍛錬だけでは得られない経験もあろう。
メモ帳を捲りながら日程を確認する。
「ふふっ、私も先輩がどんな魔術を使うのか知りたかったし、
良いわね、予定が決まったらまたメールするわ」
そう言って、提案を受けて頬を綻ばせる。
月は人を狂わせる。
毎月こうして見上げるようになったのも、その輝きに魅入ってしまったからだろうか。
「あ、それなら――」
腰から提げたベルトに吊るしたポーチの中身。
本来は液状の触媒を収めるための硝子の小瓶だが、これに収まるだろうか?
■セレネ > 「良かった。
…貴女なら神族との戦い方も分かっているでしょうし、
正体も明かしてますから少しくらい本気出しても良さそうですね。」
言いながらニコニコ、微笑む。
「楽しみにしておきますね。
場所は演習場ではなく、転移荒野でも問題はなさそうですか?」
学園の管理下にある場所だと、誰に見られるかも分からないし。
「あら、有難う御座います。
…うん、それなら大丈夫そうですね。」
空いている片手で小瓶を受け取ろうとする。
彼女が差し出してくれるなら、
薄く己の魔力を小瓶の内側に張ってその中に月の魔力を落とし込んだ。
魔力の膜により透明だった小瓶が薄らと青みがかった色になってしまったが。
…分かりやすくなったから、良しとしてくれる…筈。
■イェリン >
「お手柔らかに……って言うのも野暮よね」
折角だから楽しみましょう、と微笑みを返す。
神族を相手取る為の符術だ、退屈はさせずにすむだろうか。
「えぇ、場所は先輩に任せるわ。
何かあっても死にさえしなければ先輩が生かしてくれそうだし」
手合わせの類が演習場で行われるのは保険の意味合いもある。
独自の魔術がメインの自分や正体を隠している彼女にとっては寧ろ都合が悪い。
「ん――」
透き通った透明だった硝子の小瓶。
その内側に魔力が封じられたのを確認すると、空に浮かんだ月に向けて翳す。
これなら他と混じってしまう事も無いだろう。
■セレネ > 「此処では普通の魔術での手合わせしかしてなかったので、
何だかとても楽しみです。」
魔術戦も楽しくない訳ではないが、
やはり正体を隠さずに全力が出せるというのは嬉しいもの。
相手が彼女で良かったとも思う。
「えぇ、そうですね。
腕や脚が千切れても治せますから。」
逆に言えば己自身も治せるのでどうぞ全力をぶつけて欲しい。
場所の指定について異を唱えないのなら、ではそこでと約束を取り付けよう。
「魅入られないように気を付けて下さいな。」
洩れないようコーティングしたとはいえ、簡易的なものなので完璧とは言い難い。
彼女が月に魅入られないよう、言葉をかけておく。
月の魔力に月の女神が隣に居る時点で、十二分かもしれないが。
■イェリン >
「ルールと教科書通りの魔術戦も新鮮だけど、
刺激が足りないのは感じてたもの」
自分の本来相手取るのは神族や悪魔の類。
その為の術を隠す事なくぶつけられる機会というのは、
この島の中ではそうそうないだろう。
やろうとすればそれこそ風紀委員のお世話になってしまう。
「勿論、そのつもりで用意しておくわ」
腕や脚が千切れても。
物騒な話ではあるけれど、"その程度"までは前提に行う手合わせだ。
――だからこそ心躍る。
「……月に酔ったら先輩が起こして?」
ころころと喉を鳴らして笑いながら、改めて空を見上げる。
既に"満ちた"時間はとっくに過ぎ去っているだろう。
■セレネ > 「そうそう。多少の刺激もないと味気ないですからね。」
己が危険な場所に行きたがるのも、
興味本位と刺激が欲しい故。
お陰で黄緑髪の彼には呆れられる事も多々あるけれど
それでも行くのをやめる事はない。
「ふふ。何だか私達似た者同士ですね。」
普通ならそんな大怪我を負う程の手合わせは避けたがるだろうが。
どちらもむしろ嬉々としているのは、
そういった場に身を置いていたせいか。
「あら、甘えん坊さんですこと。」
酔った場合の介抱も出来るけれど、と冗談交じり。
真円ではなくなったが、それでも綺麗な満月を己も見上げよう。
「この後はどうします?寮まで一緒に帰りましょうか?」
それとも彼女は別の場所に散歩に行くだろうか。
とりあえずの目的は果たしたので、そんな問いを投げかけて。
■イェリン >
「そうね、この島って変なところに行かなければ安全だし」
歓楽街や落第街と呼ばれる地域がある事は聞きかじっている。
ただ興味本位で近づいたが最期、自分までそちらに呑まれそうで触れずにいると言ったところだ。
「そうね、だから惹かれたのかもしれないわね」
いつだったか、常世公園のベンチで出逢った頃を思い出す。
初めの頃とは抱く印象は幾らか変わっているけれども、
彼女の側が心地いいというのは変わりないのはそういう事なのだろう。
「そうね、あまり長居して先生に見つかっても嫌だし」
彼女が帰るなら自分も一緒に寮へと帰ろう。
ポーチの中に2つ、1つは想定外の劇物を携えて。
濡れ羽色と月の色。2つの影は時計塔を降りていくだろう。