2024/05/30 のログ
ご案内:「大時計塔」にレイニーさんが現れました。
■レイニー >
ふと、目が覚める。
微睡の泥土の内から力任せに引き上げられるような覚醒。
爆発的な低気圧の名残が吹き抜ける時計塔、男は気がつけばそこに居た。
「あー……」
ゆっくりと開かれた瞼に滑りこんできた光景に、寝ぼけ眼で息を吐く。
錆びて汚れた手すりの向こう、綺麗に揃えられたローファー。
「あぁ」
━━手遅れか。
言い切りもせず気だるげに零した声に、僅かに聞こえた小さな破砕音が重なった。
■レイニー >
程なくして香る鉄の匂いに眉を顰めこそすれど、さりとて悲しむような素振りはない。
彼か彼女か、はたまた別の何者か。
ともあれ、己の出会うことの無かったそれに僅かばかりに思いを馳せて、
目を伏せるでもなく、慌ただしく空を流れていく黒雲を見上げる。
「流石に起きちまった事は変えられねんだよなぁ」
己が此処にいるということは、アレはじきに降る雲なのだろう。
あと数刻、あるいは数分ばかりにでもそれが早ければ干渉できたかも知れないが。
■レイニー >
「なんで人って奴は苦労して生きておいて自ら望んで死んだりするのやら」
クツクツと、喉奥で笑うようにして独り言ちて。
舞台でも歩くかのように狭い足場に硬質な軍靴の音を響かせる。
人間関係に悩みでも? 病か? それとも自分の生まれに疑問でも?
クルリクルリと器用に足を踏みかえて、適当なそれらしい理由を模索して
「━━俺にゃ分かんねぇなぁ」
ピタリとその足を止めて、一人虚空にそんな嘘を吐いた。
幾らでも想像はつくし、誰かにとっての些細な事でも別の誰かにとっては致命的な棘にもなる。
千差万別、理解したフリも勝手な想像も意味を為さない。
「……お」
空を見上げる頬に冷たい物が触れた。
ポツリ、ポツリと。乾いた床に不規則な斑が広がっていき、
そうして間もなく、嵐のような雨が降る。
晴れ間と晴れ間に挟み込まれた、数瞬の間のにわか雨。
■レイニー >
「降り始めんのが遅ぇのよ」
濡れて張り付く髪をかき上げて、ため息交じりに肩を竦めて言い放つ。
今なら何でもできよう、とはいえ今更何をしようと全てが手遅れ。
「……ン? いや、そうでもねぇか」
消えてしまいたい。
人のそれではない聴覚が捉えたのは過去の残滓か、今際の言葉か。
「良いぜ、その願い聞き届けた」
雨が全てを洗い流す。
禍根も痛みも全てを拭い去るように。
10分と経たずに雨は上がる。
聳えたつ時計塔の下には汚れも人の痕も、雨上がりと共にそこには何も残らない。
ご案内:「大時計塔」からレイニーさんが去りました。