2020/08/04 のログ
ご案内:「常世博物館-中央館」に神樹椎苗さんが現れました。
神樹椎苗 >  
 特別展示が終わった常世博物館は、夏季休暇にも関わらず人気が少ない。
 ──普段から少ないのではないかという疑問は横において。

 中央館の一階、地球に関わる展示品として、古代エジプトで使われていたとされる祭具が置かれている。
 先日までの特別展示でも置かれていたが、その数は少なくスペースも縮小されていた。
 というよりは、特別展示以前に戻っただけだが。

「あれも、それも、これも──」

 その展示品の間を歩きながら、椎苗は深くため息を吐いた。
 左肩から斜めに『ネコマニャン』ポシェットを掛け、左手を腰に当て苛立たしげにしている。
 それも当然で、ここに展示してある祭具のいくつかは──。

「どれも、しいたちから取り上げたもんじゃねえですか」

神樹椎苗 >  
 学園と財団に保護されている椎苗だが、それはあくまで建前だ。
 実際は『特級アーティファクトの付属物』として管理下に置かれているに過ぎない。
 そしてそんな『付属物』に、余計な物を持たせてもらえる自由などない。

 展示されている祭具のうち、特に古く劣化している、杖、槍、そして鋏──。
 この三つは、外見こそただの古臭い祭具だが、本質は正真正銘の神器。
 かつて『死の神』が用いた祭具だ。

「たしかに、これだけで見たらただの骨とう品でしかねーですが。
 完全に無害とは言えねーんですけどね」

 錆びて朽ちかけている鋏の前に立ち、【古代エジプトにて、神官が死者と現世の縁を断つ儀式に用いた祭具】と簡潔な説明書きを見下ろす。
 間違ってはいないが、用いたのは『死の神に選ばれた使徒』。
 オシリスという名前に習合されてしまった、名前を失った一柱の持ち物だ。

神樹椎苗 >  
 しかし、こんなところに無防備に展示されている事からわかる通り。
 これら神器だけでは何ら力を持たない。
 神器それ自体に力はなく、力を与えるのは所持者――『死の神』か、『使徒』としての資格を持つものだけ。

「――あらゆる縁を断ち切る、縁切りの神鋏。
 ――死を遠ざける、再生の宝杖。
 ――病と穢れを払う、破邪の戦槍」

 展示の間を歩きながら、それぞれを確認する。
 どれも、これと云った異常はなく――資格者を見つけてもいないようだった。

「まあそう簡単に、『死を信仰』する人間なんて見つかるもんじゃねーですからね」

 この三宝は、資格のあるものが手にすれば、神器としての力を取り戻す。
 ここに『死を与える飢餓の剣』を加え四宝。
 さらに『冥界へ送る選別の鎌』を加えて五宝となる。

 それが、かつて人間の死を司っていた、名を失った死神の所有した神器だ。
 このうち椎苗は、使徒の一人として『剣』を授けられている。
 ただ、今の椎苗にはまともに扱えるような代物ではないが。

ご案内:「常世博物館-中央館」に阿須賀 冬織さんが現れました。
神樹椎苗 >  
 この無造作な保管状況を見るところ。
 財団や学園上層部から、神器としての性質は周知されていないようだった。
 管理をしている図書委員会も、『それなりのアーティファクト』程度にしか知らされてないのだろう。

 まあ実際――この地球にあっては、本来の力を十全に発揮する事は叶わない。
 地球における古代エジプトの出土物と酷似しているが、実際は異世界の産物。
 元の世界を離れ、『死の神』がその力のほとんどを失った今、神器に残っているのはわずかな性質のみだ。

「それも、資格者が居なければ意味がない。
 そりゃあ、雑な骨とう品扱いもされるってもんですか」

 展示を眺めながら、不憫そうにかつての神器を眺めるのだった。

阿須賀 冬織 > 夏期休暇の課題。学校制度が始まって以来恐らく時代を問わずに学生たちの頭を悩ませる存在である。
その中でも一際面倒なのが自由研究や読書感想文、レポートといった問題集ではないデカブツだ。

「うっわ、人全然いねーな。……はぁ、レポートだっりぃ。」

人気がないのをいいことに特別抑えることなく独り言つ。
博物館に展示されているものから一つ選び、それやそれが使われた時代について纏めなさいなんていう課題。
実際に赴いて興味を持ち自発的に学習するだとかそういう目的なのだろうが……悲しいかな、学生にとっては面倒くさい課題の一つ程度の認識しかない。

「んー、この部屋は特に興味あるもんねーな。次行くか次。」

ネットで調べてではなく博物館に来ているだけマシかもしれない。
一応、興味のあるものがないかなと軽く見て回るが、このあたりの展示物は古代のものだからか
正直素人には同じようにしか思えないものが並んでいるだけで微塵も興味がわいてこない。

一周して雰囲気だけそれとなく感じて次の展示室へと入る。そこには、展示物を眺めている少女がいた。
この博物館で最初に見た人ということもあり、何を見ているのだろうかと少し興味がわいて近づいてみる。

神樹椎苗 >  
「どうせ展示して腐らせておくくらいなら、返してほしいもんですが。
 まあ、くだらない思惑でもあるんでしょうね」

 おそらく、財団か学園か、椎苗を管理している上の連中が。
 この神器を利用したいと考えているのだろう事に予想は着く。
 だからこうして、ヒトの目につく場所へわざわざ展示しているのだろう。

 神器に資格者を見つけさせるために。

『――――――』

「いやいや、だからって、この時代に『死神信仰』なんて流行りもしないでしょうに。
 資格者なんてどうせ見つかりっこねーです――」

 と、その少女はまるで誰かと話しているように、虚空へ言葉を放っていた。
 その青い目が水平に動き、ふと近づいてきた少年に留まる。
 すると、気まずそうに視線をそらした。

「あー、こんなところに来るとか、物好きもいるもんですね」

 自分の事は棚に上げるように、とりあえず挨拶代わりに不躾な一言。

阿須賀 冬織 > 近づくと、死神信仰やら資格者やら、聞きなれない単語が耳に入る。
一瞬目が合った。なんだか気まずい空気が流れる。

「……え、あー。なんだ、ここの展示物と、それが使われた時代について調べろなんて言われてな。
そんでまあ一応見にたんだけど。正直どれも大して興味わかなくてな。
……それで、そういうお前は?」

さっきのよくわからない言葉はひとまず聞かなかったことにした。
とりあえず話を続けないと場が持たなさそうなので返事と共に質問を返す。

神樹椎苗 >  
「ああ、夏季休暇の課題ですか。
 そりゃあここにあるのは骨とう品ばかりですからね。
 古代文明にでも興味がなければ、面白くもないでしょう」

 気を使われてしまったようだ。
 ただ、少なくとも『見えないおともだち』とお話をするタイプだとは思われなかったらしい。
 というわけで、一つ咳払い。

「しいは、まあ――言ってしまえば展示物の提供者、ですかね。
 ここにある祭具、そこの『半ばで折れて刃も落ちた槍』と『宝珠が取れてただの棒きれになった杖』と『錆びて開かなくなった鋏』は、しい達のものなんですよ。
 学園に没収されて、今はここにあるわけですが」

 と、特に誤魔化す事もなく、正直に話す。
 見た目ただの骨董品。
 それの提供者だと知れたところで、何もないだろうと高を括る。

阿須賀 冬織 > 「そうなんだよなあ。もっとこうゲームに出てきそうなのなら興味も少しは湧くんだけど……
どれも茶色と錆ばっかりでなあ。」

その通り。特別古代文明に興味があるわけでもないので感想としてはこういったものになってしまう。
歴史的価値は高いのだろうと思わなくもないが、流石にちょっと興味を持てなかった。

「没収ねえ……。
んーなになに、死者と現世の縁を断ち切る……?
……元の所有者ってことは、ここの説明より詳しいことわかったりすんのか?」

いやまあ確かにそうだけど、流石に言い方酷くねえかと思いながら彼女が見ていた祭具を見る。
説明文も軽く読んでみるがいまいち実感がわかない。
なんで断ち切るのか、実際の儀式はどうなのかとか、もうちょっと説明してもらえたら興味も少しは持てるんだがと展示の説明に文句を言う。
……そういえばここに所有者がいるんだから聞いてしまえばいいんじゃないだろうか。没収というのが引っ掛かりはするが。

神樹椎苗 >  
「ゲーム、フィクションに出てきそうな有名どころになると、西館の展示か、もう少し上の階で中世の展示を見た方がいいですね。
 この辺りは神話の時代が主になってますから、形が残っているだけでも稀なもんしかねーですよ」

 歴史的な価値や、魔術の媒体としての価値はそれなりにはあるだろうが。
 古代史が好きでもなければ、見てるだけで楽しめるようなものでもない。

「そうですね。
 まあ、詳しくない事もありませんが。
 しいも見てきたわけじゃないですからね」

 たずねられれば、少し考えてから鋏の収まったケースを軽く小突きながら話すだろう。

「コレが用いられてた頃の古代文明ってのは、今よりも死者と生者、現世と冥界の境界があいまいだったんですよ。
 だから、死者も相応の手順で埋葬しなければいけなかった。
 死者から生者へ穢れが移る――死が伝染するとも思われていたようです」

 死者へ対する価値観は、それこそ古代から中世、地域や文化によっては近代にいたるまで。
 死が『伝染』するモノと考えられていたというのは珍しい話ではない。

「実際は、死者を放置する事で発生する病原体、それらを媒介する死体を食う虫が原因だったわけですが。
 昔はそこまで医療も発達していなかったわけで、それらは悪霊や死神の仕業と考えられたのです。
 つまり、正しく埋葬しないと、死者を通して冥界から悪霊が出てくるなんて、思われていたりなんかですね」

 もちろん、文明によってその解釈は異なっているが。
 多くの古代文明において、死と生の境界があいまいであった事は間違いがない。

「それで、死者を埋葬する際に、冥界と繋がってしまわないよう、死者と現世の縁を。
 つまり、この世との繋がりを断ち切ることで、死者を完全に冥界の住人とする必要があったわけです。
 この鋏は、その埋葬の儀式に使われていたものですね」