2020/10/18 のログ
ご案内:「常世博物館:中央館」に九重 九十九さんが現れました。
ご案内:「常世博物館:中央館」に瑞杜 衛士さんが現れました。
九重 九十九 > 常世博物館の中央部分。中央館と呼ばれる場所にはこの世界の品々が展示されているんだ。
古今東西様々が蒐集されて、例えば今わたしのいる階には東洋の──日本の古い品々が陳列されている。
右を視れば所々に矢傷のある武者鎧。左を視れば著名な絵師が描いたとされる一幅の掛け軸。
そう言った感じは付喪神であるわたしには何処か懐かしく感じられた。

「ふんふん……んふふ~」

緩やかに歩きながら鼻歌だって諳んじちゃう。
いわゆる『和』を基調とした内装に則り、このフロアに在るカフェまでもが茶屋めいた調度であるんだとか。
気にもなったけれど、生憎と時は既に逢魔時。閉館時間も迫る時だからカフェも既に閉まっている。
残念。

「その内にどれか一つくらい、わたしのように目覚めたりしないかな」

でもいいの。気分はそれなり以上に良かったんだ。
ちなみに、丁寧に陳列された品々からは言葉のような気配は感じられない。
"怪異化しかかるような品"は危険かもしれないから、地下で管理されていると専らの噂なんだ。
付喪神にも穏やかじゃあないものはいる。武器の付喪神なんかはその傾向が強いものだから。

「………」

例えば、地下に忍び込んでそういった品々を解放し、博物館を恐怖と混乱に陥れる。
実際はきちんと管理されているからそうしたことは無理だけど、仮にそうなったならわたしの存在強度はあがるのかな。
そんな事を考えている間も足は勝手に動いていて、気が付くとそこは旧い人形細工がずうらり並んだ展示室。

瑞杜 衛士 >  
「―――お?」

展示室に入れば、そこには一人の男性がいる。
背の高く運動の得意そうなしっかりとした体つきの、いかにも体育会系といった風貌の青年。
年は20に届かない程度だろうか。腕まくりをして三角巾をつけ、展示室のケースを開けて展示品の埃を払ってる最中の様子だ。

「お、あーー! スンマセン、ちょっと掃除中なんすよ今!
 少し待っててくれっかい? すぐ終わるからよ!」

展示室には、青年と少女の二人だけ。
博物館には不釣り合いだが多少抑えてくれている気がする声でそう言いながら、青年は残っている人形の手入れをする。
大きな手を使ってひとつづつ埃を払って、元に戻す作業。
清掃の人だろうか?

「とっ、とっとー…うし、終わりっと!
 
 わりーな、待たせちまって。
 学生…だよな? ベンキョーか?」

九重 九十九 > 小さいものから大きなものまで。
普通のものから絡繰り細工に傀儡もの。どれもが古くて旧くて懐かしい。
でも、やっぱりわたしと同じようなものは無い。お客さんも居ない。
でもでも、動く何かは確かにあったんだ。

「──へ?」

夏の海のような髪色をした長身のひと。
如何にも掃除中でございと見えて、真実掃除中のひと。
ほら、良く通る声もそういってる。

「あ、ううん。大丈夫。もう、閉館時間も近いもの。
 わたしはー……趣味?こういう古いもの、好きだから。
 そういうきみ、あなたはお掃除のひと?それとも──」

もしかして泥棒さん?
なんて、ちょっと揶揄うような声音を放ってみせて、彼の方へと近づいてみる。
埃を掃われた展示品の人形は、何処となくいい顔をしているように見えた。

瑞杜 衛士 >  
「ほー、古いモンが好き。へぇー……うちの爺ちゃんも骨董品とか集めてたな!

 ん、オレか?
 オレは…っておいおいおい!

 この制服とカッコでドロボーに見えるのかよ!?」

バイトだバイト!!と言いながら三角巾を取って。
カッと笑って挨拶をする。

「瑞杜衛士、ここの清掃のバイトしてるモンだ。
 しっかし、もう閉館近えけど大丈夫……か。ならいーや!

 閉館するまでだったらま、見てってくれや!」

そういう彼の雰囲気は、少々博物館には不似合いだが、悪い人間にも思えないだろう。

「あ、何か説明とかいるか?
 オレはここのバイトでいちおー説明聞いてっから、カンタンな説明ならできるぜ!」
 

九重 九十九 > 付喪神は、古い器物から生じる怪異。
時を堆く積まれて放っておかれた恨みが根源なのだ──なんて話もあるけれど、本当のところは知らない。
ただ、埃塗れで放置されて心地よく思うものは無いと思う。

「ふふふ……冗談だよう。きちんと手入れされていて人形も喜んでいるんじゃないかなあ。
 何処となくいい顔をしているように見えるなんて言うと、ちょっと怪談のようだけれど」

快活そうな彼。怪談話であるならば、率先して皆を鼓舞したりする中心人物のよう。
けれども今は二人きり。今、不意をついて驚かしたらどんな顔をするのかな。

「わたしは九重九十九。うん、のんびりと見て行こうかなって」

──そんな事を考えて、唇を歪めて、けれども直ぐに頭を揺すって振り払う。
いけない、いけない。此処は学園の管理するきちんとした場所なのだから、やっぱりそういうのは駄目だ。
怪現象は仄暗い所でないといけない。恐怖と混乱はルールに則らないといけない。

「説明……そうだなあ。じゃあ、えーと」

衛士くんの傍に寄り、彼の袖を引いて一体の人形を指差す。
そこには全長にして170cmほど。若武者を模した鎧人形が鎮座している。
説明には絡繰り機構を有する事が記されていて、取り扱いが難しそうな雰囲気。

「ああいうものの手入れって、やっぱり分解清掃とかになるのかな。
 それとも、ああいう形として保存しているのかな」

先程衛士くんが触れていたのはいわゆる普通のものだったから、どうなのかなって見上げながらに聞いてみる。

瑞杜 衛士 >  
「物は大事にしろっつーしな!
 オレは爺ちゃんに育てられたんだけどよ、『道具は使ってる奴をいつも見てるから失礼ないようにしろ』っつー感じにいっつも説教食らってたんだよな。
 新しいモンもあんま買ってくれねーから、何でもかんでもボロッボロになるまで使ってよ。
 
 だからけっこーこういう細かい手入れやら掃除やらは嫌いじゃねーんだ」

ハッハッハ、と笑いながら、周りの人形たちを見る。
今日もピカピカで綺麗に並べられてる。
良い顔をしてるというのは分かんないけど、喜んでるなら掃除冥利に尽きるってヤツだ。

そう言っていれば、展示品の中でも大型の、鎧人形を指さされる。

「つづらか…うっし、覚えた!
 オレの事も気軽にエージって呼んでくれ!

 おっ、コイツが気になんのか?
 へへ…任せときな! えーっと…あぁ、そうだ!

 コイツは大昔の鍛冶の里で作られたっつー珍しい人形でな!
 どうやって作られてるのか今見ても全然分かんなくて学者なんかが色々調べたんだが、結局中身の解析できなくってこの博物館にもってこられたんだってよ。
 
 だから掃除するときはこんなカンジにだなー…」

そう言って、細長い綿棒のようなもので絡繰りの隙間をちょこちょこーっとなぞっていく。
ついてた埃は少ないが、慣れたように隙間をなぞっていけばそれなりの量の埃が取れるだろう。

「こーんな感じに、隙間から地道ぃ~~~~~~に埃とってかねーとなんねぇんだ。
 これがもうめっっっちゃくちゃに時間かかる作業でな?
 奥の埃やらと取るのは休館日に1日使って取ったりしないといけねぇ、ウチの掃除の最大関門の一つ…って訳よ!」

身振り手振りを使って、大げさに説明するのはまるで演劇かなにかのよう。
こんなに騒がしいと怒られそうだが、生憎今は1人しか客もいないので、彼女が咎めない限り咎める者はいないのだ。

そうしてから、コンコン、と鎧人形を叩いて。

「ホントはコイツ、動くらしいんだけどな。
 動いて自分で体を拭いてくれたらオレたちもすげえ楽なんだけど、まぁ流石にそりゃあ無理だからな。

 でもすげぇ立派な人形だ。
 何時作られたかもぜんぜんわかんねぇけど、コイツ作った人らは多分すっっっげぇ頑張ってコイツ作ったんだよ。
 で、何百年も経ってその人らが死んでも、コイツはその人らの努力の結晶みてえなモンとして残ってる…ってな。
 だから、オレらの手で少しでも長くコイツが残せるようにって手入れしてやんのは……大変だけど結構楽しいんだぜ?」

にっ、と笑う青年は、カラッとした日差しのような印象を受けるだろう。
体を動かす方が得意だろうに、掃除や手入れについての話をする彼の言葉はすこし変に見えるだろうか。

九重 九十九 > 「ふうん……すてきな御爺様だね。
 でも、衛士……エージくんとしては新しいものを買って貰えなかったのは不満……でもなさそうだね」

展示室に明朗快活な笑いが響く。
平時であるならきっと誰かが咎めるものは、今はだあれも止めはしない。
勿論わたしも止めはしない。彼の説明を聞きながら鎧人形を見る視線を上下に揺らめかすばかりなんだ。

「今でもわからないんだ?すごいなあ、一体誰が作ったんだろう……」
 
大きな声に舞台役者のような所作。けれども手入れは細やかで、その自然に不自然な不釣り合いが面白い。
彼が休館日に色々と騒ぎながら手入れする様子が想起出来るならもっと。だから自然と笑み声が漏れてしまう。

この鮮やかな彼の驚く顔が──みたいなあ。

怪現象は仄暗い所でないといけない。恐怖と混乱はルールに則らないといけない。
そういったけれど……でもちょっとだけなら大丈夫じゃない?ちょっとだけ、ちょっとだけ。

「絡繰り細工だとは思ってたけど……動くってことは自律してってこと?
 もしそうなら……ふふふ、そうだね。自分で拭いたらエージくんも楽ができるねえ。
 でも、そうなったら楽しみが一つ減ってしまうのかも」

説明を聞きながら、頷きながら、わたしと衛士くんの背後で白い腕が蠢く。
忽ちの物音。それは展示室内の椅子が倒れた音だ。
振り向くと当然と白い腕は無い。わたしはわざとらしく首を傾げてみせるんだ。

「おやおや……なんだろうね、エージくん」

なんて言いながら。……ちょっとわざとらしいかな。
いやいや、そんなことはない、名演技、名演技。
つづらちゃんポイント+1ってもの。

「椅子も絡繰り細工だったりして……なんてね。
 ところでエージくんはなんだろう……模型作りとか好きなの?
 見た感じ……スポーツマンって感じがするけれど」

何食わぬ顔で雑談話題が滑り行く。前髪裏の眼が彼のことを上から下に、下から上にと見定めて、
今度は反対側に首を傾いでみせもする。

瑞杜 衛士 >  
「ねーなりに色々工夫したからな!
 山いったり海いったり人に貸してもらったり…工夫してみりゃ案外どーにでもなんだよ。

 楽しみ…んー、楽しみ、かぁ?
 ま、でも動いて喋ったらおもしれーよな。どんな事話すかとか‥っと、お?」

そんな雑談を続けてれば、何もなく椅子が倒れてる。

「ん~…???

 ハッハッハ、まっさかぁ。ただの椅子だぜ?
 しっかしなーんもねーのに何で倒れたんだ…?鼠でもいんのか?」

きょろきょろ、と周りを見渡すが、何もいない。
まぁ鼠が出たってハナシも聞いた事はねぇし。
じゃあ何で倒れたんだ?

考えても分からんので、とりあえず椅子を直した。

「オレ? んー…そういや模型とか作った事ねえな……
 爺ちゃんちにゃ鎧やらなにやら色々あったけど、フツーに体動かす方が好きだしな!
 体はなんかこー……色んなとこに首突っ込んで助っ人やらなにやらやったら、いつの間にかっつー感じだ!」

いつのまにかというには割とムキムキしてるが。

九重 九十九 > 人は見かけによらないものだと誰かが言った。
外見とは最も外側の中身だと誰かが言った。
冷静沈着な人が危機にあって取り乱すのを見たことがある。
仲間を思いやる人が土壇場で保身に走る姿を見たことがある。
誰かの為に自己犠牲を厭わない誰かを見たことがある。

この瑞杜衛士と云う彼はどうなのだろう。
潮騒を聞くように耳を傾け、そして倒れた椅子に惑う様子をじいと観る。

「もしかしたらお化けだったりして。……ほら、此処の地下、なんでも危ないものを収容しているって噂だよう。
 閉館時間が近づいて、そういうものが出てくるのかも──はえ?」

不思議そうにする様子に心裡で満足をし、けれども次には変な声。
やっぱりエージくんはスポーツマンというものであるみたい。
加えて何かと何やらであるそうで、そうした声の後にわたしは一応と頷くんだ。

「成程なあ。でも、無茶をするのは駄目だよう。突然と首を突っ込むと、善からぬ怪我だってしてしまうかも。
 ……でも、もし今……ほんとうに怖いものが出たら、エージくんはどうする?
 例えばその人形が突然動いて大暴れ!とかしたら」

質問がひとつ。
彼が直した椅子に座って言葉が放る。
それは放物線を描いて彼の逞しい胸板にでも当たるかもしれない。

瑞杜 衛士 >  
「ハッハッハ、無茶を通して漢道って言うじゃねぇか!
 でも態々あぶねー真似はしねーよ。そういうのはしねーといけねえ時にとっとかねーとだからな!
 何時もあぶねぇ事してたら、大事な時にどーにもなんねーかもしなくなっちまうかもしんねぇし。
 
 ん、怖いもの? んー…」

人形が大暴れ、幽霊、危ないモノ…
どれもピンと来ねえなー……
でももし来たらか……

「そーだな、そうなったらー…んーーーー‥‥…

 つづら抱えて逃げる!
 …だな!」

うん、これだな。
今起きたら、兎に角これしかねぇ。

九重 九十九 > 「ふふ、ふふふ、ふふふふふ……なるほどなるほど。エージくんはそういうひと。
 あ、ごめんね。わたしばっかり聞いて。エージくんの方は、何か聞きたいこととか、ある?
 こうして会ったのも縁だもの」

廃墟で炎のようなひとと会って、廃墟で毒のようなひとと会って。
博物館で会ったひとはひどく真直ぐなひと。
二つ返事で抱えて逃げるの解答は余りにも予想外。
否定とも肯定ともつかないように笑んで椅子から立ち上がり、エージくんの前に立つ。

「無茶を通して漢道だなんて初耳だよう。おもしろいひと。
 なんでも筋肉で片づけたらいけないんだからね」

わたしを小脇に抱えて走る彼を想起する。
中々小気味よく思えるけれど、どうなったって怪談じゃあない。
もし、此処が廃墟でエージくんを驚かすに十全が整っていたとしても、
何となくうまくいかないような気がした。

瑞杜 衛士 >  
「え、言わねぇ?」

普通は言わない。

「ん、聞きたい事?んーーーーーーーー」

聞きたい事、聞きたい事…
出会ったばっかの相手で、互いの事なんて何も知らないけど。
聞きたい事…

あっ


「その髪で前見えんのか?
 切らねえの???」

すごくどうでもいい質問が返ってきた。

九重 九十九 > 「はつみみ」

漢道は何処に続いているんだろう。
それは誰も知らない。
何しろエージくんのことをまだよく知らない。
エージくんもそう。わたしのことを知らない。

そうして出会った二人が最後の最後、正体を知り恐怖のどん底へ──
……は、ちょっとジャンルが違う気がする。

「み、みえるよ!?」

なんて考えてたら変な質問が飛んで来て声が跳ねちゃう。
普段なら絶対出ないような声だから、その後に咳き込んで声を整えもする。

「き、切るのはいいの。わたし気に入ってるんだから!
 それと見えてるからね?きみの青い髪も瞳も、きちんと」

御行儀悪く人差し指を彼の鼻先に突き付けるようにしながら抗議を一応とし、
時を同じくして閉館時間が差し迫ることを知らせるアナウンスが鳴る。
ちょっと長居をし過ぎたのかも。

「あ……もうこんなじかん。わたし行かないと」

突き付ける指を降ろし、我に返って抑揚ももどる。

瑞杜 衛士 >  
「すーーーっげぇ目悪くなりそうだな……」

ちゃんと気をつけろよ?なんて言いつつ。
だって、髪の毛ジャマそーなんだもん。

「と…おう、もうそんな時間か!
 オレも閉館作業しねぇとなー…

 んじゃ、またなつづら!
 帰り道でコケねーよーにな!」

前見難そうだから。 

九重 九十九 > 「むうー……そうかなあ」

心配されるのは予想外で、けれども言葉には頷いて。
展示室からの退出際の言葉には本当に転びそうになってしまうんだ。

「こけないよう!もう、そっちこそ怖いものみても知らないぞう!」

それを堪えて不満を飛ばし、それを別れの挨拶代わりにお暇するよ。
退出際に、触れもしないのに部屋の扉が閉まるのはほんの少しの御愛嬌。
ポルターガイスト現象ってものさ。

瑞杜 衛士 >  
「ほんとかぁ~~~~~?
 言ってて転びそうだからなーお前」

スゴイ=シツレイ。

「怖いモンなんてそーそーでねーっての!
 じゃーなー、また来いよー!

 と…、……???」

そう言いながら、彼女の去り際を見て。
触ってないのに扉が閉まるのを見れば、少しだけ自分の目の錯覚か?と瞼をこすってもう一度見て。

「……風で勝手に締まったのか?」

見当違いの事を言う男が一人ぽつーんと、残ったのであった。

ご案内:「常世博物館:中央館」から瑞杜 衛士さんが去りました。
ご案内:「常世博物館:中央館」から九重 九十九さんが去りました。