2022/01/11 のログ
ご案内:「常世博物館 中央館」に藤白 真夜さんが現れました。
■藤白 真夜 >
常世博物館の収蔵庫整理は、無事に終了した。
……私のやることと言ったら、たまにお祈りをするくらいでほとんどが雑用だったんですが……。
封印の解けかけた物品の再封印はおおかたが終了。出来ないものは地下に送られたり、あるいは廃棄されたり、またあるいは新たな持ち主の元へ送られていた。
曰くつきの遺物とは言っても、それには種類がある。
ただ真っ当な人間にとって脅威でしか有り得ないモノ。
強大な力を持つがそれ故御することの出来る特別な資格を持つ人間を探しているモノ。
――その両方の意味を重ね持つモノ。
私が今居る場所にあるのも、おそらくそういう意味合いを持っている展示室なのだろう。
博物館として物品を“博覧”することに意味があるのか。
――逆に、遺物の側に、コチラを博覧させているのか。
私が来ているのは、以前も訪れた中央館の展示室。
――エジプト由来の祭具が飾られたあの部屋。
目の前には、物言わぬ朽ちた遺物が並んでいた。
私が、祈りの残骸と言ってしまったそれらに。
私は、何かに惹き寄せられるかのように、その目前までたどり着いていた。
■藤白 真夜 >
(……最近、多いなあ……ぼーっとしちゃうの、記憶も、飛ぶし……)
虚ろな目――いえ元からですけど――とは裏腹に、内面意識ははっきりしていた。
何故か、博物館に来ている。
その何故かを考えると、私の中から何かがつながっている感覚が在った。
そしてそのどこかにつながった“糸”のような感覚を手繰ろうとすると、急に意識が暗く曖昧になる。
それは――昏く、冷たく。真冬の月の無い夜のような、断絶めいた闇。
原因について考えようとすると意識が遠のき、では考えるのを止めるとカラダが勝手に動く。
さてどうしましょう、なんて頭の中で私が呟く。その声に危機意識はどこか欠けている。
私は自らを律する精神力も、誰かに操られることを良しとしない意志力も無いまま、その“呼び声”に応え、その祭具に手を伸ばし――
ばぢり。
その指先が“爆ぜた”。
血色めいた朱が閃く。黄金色の結界が一瞬だけ、その指先を拒絶した。
見れば、もはやただの棒きれと化したはずの杖が、琥珀色に煌めいた――ような気がしたけれど。
きっとそれは、気の所為だ。
それは、何かの意志や籠められたモノがあったのだろう。
私が祈りの残骸、などと言ってしまったけれど、それは違う。
それは朽ち果て尚、自らの役割を忘れていないのだから。
「……、……ごめんなさい」
もはや意識ははっきりと戻ってきていた。かわりに、伸ばしたはずの指先が赤く焦げ付く。
魔力の反動のような、結界の発露のような、触れ難き聖なるモノに近づいた汚穢のような、それ。
……私はおそらく、資格があった。
しかし、……それでも。
その純然たる力は私を、否定する属性のモノだったのかも、しれない。
……もはや、それを識る人は今は居ないのかもしれなかった。
■藤白 真夜 >
以前も感じたように、この祭具には私は惹かれ、そして拒絶されている。
槍は私を否定した。
杖は私を拒絶した。
鋏は――、
鋏を目にして、気付く。
おそらく、私はそれに手を伸ばせる。それが、拒絶を意味していないかは別の話として。
……しかし。
それに手を伸ばすこと。
その意味を良く考えずに、私はそれを実行してしまった。
……ただ、どこか寂しそうだなんて、思ってしまったから。
――其処にあったのは、断絶だ。
カタチ無きモノすら断つ、窮極の離別。
死ですら記憶は、縁は残る。
これはその概念すら断つ、絶縁の刃。
もはや錆びつき鋏であるかすら定かでないその“遺品”が、一時。
黒く鈍色に光る幻視を、得た。
どこか遥かへ繋がる視野が、無辺に広がる黒い海を見た。
冷たく、暗く。
冷厳に、絶対的な。
故に、孤独。
……私がかつて、幾度となく求めたモノ。
それは――それは、名付けるのであれば――、■。
……ああ。
あとは、“ソレ”を求めるだけでいい。
手を伸ばせば、力は手に入るだろう。
あと少しだけの――、