2022/01/13 のログ
■蘇芳那由他 > 常世博物館。『地球』や『異能』『魔術』に関する文献や展示品が目白押しの大博物館。
――記憶を失った状態で保護されてからおよそ1ヶ月と少し。
学生としての生活もまだまだ慣れない部分が多いが、少しは様になってきた…だろうか?
それでも、失った記憶は戻る兆しすら無く、知識もまだまだ乏しい。
なので、思い切ってこの常世博物館を訪れて色々と見て回ろうとしたのだけど。
「……うん………半分も理解できないかもしれない…。」
ぽつーん、と今は地球に関する展示が中心の『中央館』を散策しながら呟く。
少なくとも、先程回ってきた異世界がテーマの『西館』、異能や魔術がテーマの『東館』。
どちらも、記憶が無く知識も一般的な高等部1年程度のものしかない少年には難しい。
それでも、かろうじて地球がテーマのこの中央館の展示品は少年でもまだ理解は及ぶ。
「……最初から、ここを中心に見て回れば良かったかも…。」
何処かぼんやりとした表情で独り言を呟きつつ、ゆっくりと歩き回っていた矢先、
「……あれ、…何だろう?……えーと…。」
とある一角にて何かに気を取られたかのように、自然と足を止める。
――そこには、3つの展示品が静かに鎮座していた。
近くの説明文が書かれたパネルを見る限り、どうやら古代エジプトの祭具…らしい。
「……祭具……儀式とかに使うやつでいいのかな…?」
その辺りは矢張り疎い。首を緩やかに傾げながら、まじまじとパネルから展示品へと茫洋とした視線を向ける。
――『錆びて開かなくなった鋏』
――『宝珠が取れて棒だけになった杖』
――『半ばで折れて刃も落ちた槍』
どれもこれも古びて破損も酷い―ー古代エジプトの物だから当たり前か。
むしろ、現存しているからこそ貴重な展示品となっているのだろうし。
順番にその3つの祭具を眺めつつも、何か引っ掛かるような…奇妙な感覚を覚えて。
■蘇芳那由他 > 一体、何が引っ掛かるのか…漠然とし過ぎて上手く言葉に表せないけれど。
ただ、最初は何気なく眺めているだけだったその祭具達に奇妙な『 』を覚えた。
『――――――…、――――?』
フ、と…何か…脳裏の片隅から直接聞こえてくるような気がした。
けれど、それははっきりとせずノイズのようで聞き取れない。
…聞き取れないけれど、漠然とそのニュアンスは伝わってくるような。
それが、ただの幻聴と言われてしまえればそれまでの事なのだけれど。
「……ごめん、僕には貴方達が何を言っているのかサッパリなんだけど…。」
辺りの人気は疎らで、偶々その展示品の前は今は少年一人しか居なかった。
だから、展示品へと向けていきなり会話を始めた…珍妙な姿も目立ちはしないだろう。
『――…、―――――、――…。』
声にならぬノイズは微かに、だが矢張り聞こえてくる。
先程まではそんなノイズじみたものは全く聞こえなかった。
…この展示品の前に来て、それを眺めていたら始まったこれは…何だろう?
『――有り――める…。――は――を信――…か?』
少年なりに注意深く、集中して耳を己の脳裏から響く声に傾ける。
少し、聞き取れはしたけれど矢張りハッキリとは分からない。
ただ、『この声』を言語で『理解出来る』事が何処か歪でおかしい…そんな気はした。
■蘇芳那由他 > 「……えーと……ハッキリと貴方達の声は聞こえないけど…。」
そう、前置きをした上でその『声』に少年は変わらず茫洋とした瞳のまま。
3つの朽ちた祭具達を一つ一つ、静かに眺めながらゆっくりと口を開く。
「記憶が無くて知識も半端な僕には難しい事はよく分からないけど…。
『 』は誰にでも平等…かは分からないけど訪れるものじゃないかな?」
『 』について、記憶を失ったたかが人間の小童が一端の持論や理念を持つ筈が無い。
だけど、記憶がなくても『 』は何時か必ず訪れるものだと、そう思っている。
老いも、若いも、男も、女も、人でも、異種族でも、―神様や悪魔は分からないけど。
『――信仰――…――?、――…、―――受け入――…。』
いいや、そんな大したものじゃない。『 』を信仰するほどの思いや情熱はきっと僕には無い。
だけれど、平凡でも波乱万丈でも、悲劇でも喜劇でも。いずれ先に訪れる『 』を想うなら
「…僕は逃げないし受け入れるかな。呆気なく終わるとしてもそれも人生かなって。」
『――選――…、縁を断ち切る――、『 』を遠ざける――、病や穢れを払う――、…――。』
その言葉にゆっくりと頭を振る。そんなもの、僕には扱えないし資格も無い。
と、いうか…『 』に関係するものは普通に自分みたいな一般学生が持って良いものじゃないと。
「…それに、縁を断ち切るなんて物騒だし僕は嫌だな…縁は大事にしたいし。
『 』を遠ざける…っていうのも、何となくそれは違うような気もするし…。
…あと、病や穢れを払う…っていうのも…あ、でも健康的なのは悪くないかも…。」
少年は気付いていない。その『声』が聞こえている時点で条件を満たしている事も。
少年は気付きもしない。その『声』が『 』を肯定する価値観を強固にするものだと。
少年は分からない。何故なら――その『精神性』が、揺らぐ事も塗り潰される事も許さない。
――故に。その言葉と精神のまま、資格があると認められたのだとしたら。
『――は、――した…、――破邪――…主――よう…。』
「……はい?」
未だノイズが混じったように断片的にしか聞き取れない声に。
それでも、意味はぼんやりと悟ったのか呆けた間抜け面を晒しながら。
■死神の神器【破邪の戦槍】 > 『…己を知らず、しかし『死』を受け入れる者よ。――汝は選ばれた』
■蘇芳那由他 > ハッキリと『声』が聞き取れた。思わず、「…は?」と、瞳を丸くして。
正直、展開に付いていけない…少なくとも、そんなものを欲しいと思ってはいない。
展示場に鎮座する祭器――『鋏』『杖』『槍』の内、その『槍』が薄っすらと輝きを帯びて。
――半ばで折れて刃も朽ちていたそれは、青く輝く長大な刃を持つ――荘厳な槍の姿へと変貌する。
「……え?……いや、あの……すいません、それクーリングオフとか出来ま――」
少年が思わず、真顔でそんな事を語り掛け――終わる前に、その本来の姿を取り戻した『槍』は。
まるで、宙に溶け込むようにその姿を消してしまうだろう。
思わず、言葉と共に伸ばし掛けていた手を宙ぶらりんに漂わせたまま、暫しの沈黙。
「………どういう事?」
そして、改めて展示品を確認すれば―-3つあったそれの内、『槍』だけが忽然と消えていた。
それを確認して、少年が思った事は……これ、僕は盗難容疑で逮捕されないかな?という懸念で。
■蘇芳那由他 > 残る『鋏』と『杖』を交互に見る。もうあの『声』は聞こえないが…。
そんな、大した事を言ったつもりもない。多分平凡で面白みも含蓄も無い意見だったのに。
「……いや、そもそも『槍』は何処に消えた?…んだろう…。」
思わず、その辺りに転がってないかな?という調子で床や展示場の周辺を探してみるが、見付からない。
どうしようか…博物館の関係者や警備員の人に言うべきだろうか?と、思案するも。
(…正直に話しても信じて貰えそうにない気がする……と、いうか僕も何が何だか分からないし。)
かろうじて分かった事は、何か認められて選ばれた?という事くらいなのだが。
「……よし………今日はもう帰ろう。多分、慣れない場所だから疲れてるんだな…。」
と、現実逃避に近いかもしれないがそんな結論に達して。
そのまま、普通に中央館を出て常世博物館を後にする…特に何事も無く。
■蘇芳那由他 > ――少年は最後まで気付かなかった。その体に薄っすらと点る…青い槍の輝きに。
ご案内:「常世博物館 中央館」から蘇芳那由他さんが去りました。