2019/02/03 のログ
ご案内:「委員会街/ラウンジ」に上総 掠二さんが現れました。
上総 掠二 > 昼過ぎ。休憩時間を終えた生徒と今から迎える生徒が入れ違う委員会街、ラウンジ。
風紀委員会の腕章が一番多いだろうか。各々、決められた委員会特有の装備である者が多い。
鉄道委員会の男、上総掠二もまたその中の一人である。
屋内だと言うのに分厚いコート。屋外――駅舎に勤める学生のことも考えられた、運行課の制服。

「ああ、助かる。それから、君も。どうか疲れが出ないよう」

風紀の腕章をつけた学生から、一冊のファイルを渡される。分厚いものではない。よくあることだ。
こうして風紀委員会の管轄で起きた運輸に関するトラブルの調査報告書を、別の委員会へ情報を受け渡す。
委員会街のどこでも見られる光景。その中でも、ラウンジはそういった待ち合わせによく使われている。

上総 掠二 > 病院の待ち椅子じみたラウンジの椅子に、書類をどかどかと広げていく。
他人の迷惑を顧みず、自分のやりやすいように。運行課課長に見られたら二日は小言を言われるような、だらしない光景。
自分が持ち込んだファイルは自分の右側の椅子に。仕立てのいい黒い鞄は自分の左側に。
そして、男がついに開くのは先ほど風紀委員会の学生から渡されたもの。
ぶつぶつと、不審に独り言を呟きながらその中身を確認する。

「……常世私営バスのバスジャック事件、か」

それはよくあることだった。故に、フン、と短く鼻で笑って終わりだ。
この異能者/魔術師の蔓延る島でバスジャックなんぞ、下らない事件を起こすやつが、まだいるとは。
この島においては、犯罪に対しての自浄作用は極めて強く働く。
故に、こういった事件は少なくない。だが、それは問題なく日常の一部として、特に言及するほどではない。
……だが。言及するほどではないことにも言及せねばならないのが委員会というものだ。

男。上総掠二はそれを良しとしていた。

上総 掠二 > 結局、その場にいた学園の生徒ふたりがこの事件を解決した、ということ。

「一体何を考えているんだ。なにも考えずにバスジャックなんぞするわけがない。
 大した異能の持ち主でもなく、魔術を使えるわけでもない癖に。……下らんな。
 それに、襲われるバスもバスだ。どうなってる。卒業式を前に気が抜けてるんじゃないのか」

足を組んで、不機嫌そうな顔をしたまま眼鏡をクイ、と上にする。
襲われるバスに悪い点は一つたりともないのだが、男はそう毒づく。
無論、自分も戦闘や有事の際に便利な異能など持ち合わせていない。いないのだが。

「風紀委員が常駐できるわけでもなし。合法的な武器の配備が必要か……?
 殺傷能力のないもの。風紀の鎮圧用催涙弾も選択肢に入るか。だが風紀はいい顔はしないだろう。
 ……駅舎に配備している武装をバス一台一台に積載するのは効率が悪い。無駄が多い。
 フン……。面倒なことを。無駄なことをしやがって」

半ば言い捨てるようにして、周囲のことも気にせずに舌打ちをする。
そして、ため息混じりに漏らす。

「そうなってくると自衛ができる運転手、という話になるのか。……無駄だな。どれもこれも」

上総 掠二 > 男は、己の未熟さと無力さをよく知っていた。
この超常の学園で三年間、委員会活動に従事してきたのだから。
自分がどれだけ有事の際になにもできないか。自分が前線に出ても何もできないことを知っている。
だから、頭を使うことを選んだ。結果的に、運行課の課長代理まで出世した。
実績も何もない。ただ、こういった地味な仕事を任され続け、それをこなし続けた結果だ。
それを男は誇りに思っているし、素晴らしいことだと自負している。

「……気が進まんが。風紀の偉方にでも上申しておこう。
 風紀委員会の手に余る部分、そこまで全てを賄えとは言えん。
 バス側にバスジャックされるなとも言えんしな。それは不可能だ。それこそ無駄だ」

そして。この男が憂いているバスジャック事件と鉄道委員会の関係は殆ど無い。
ただ、自分が住む島で起きた出来事であること。
人間を輸送するための交通機関で起きた出来事である、という理由だけで、こうして昼間から唸っているのだ。
責任問題などない。ただの趣味で、言ってしまうのであれば究極的には時間の無駄だ。
だが、この臆病さこそが男の優れたところだった。
点と点を繋いで、線上に起きるだろうトラブルを予測して、回避する。予測した上で、対抗策を用意する。
そもそも、何も有事の際にできないのであれば、事を起こさなければいいのだ。
起こせないようにすればいいのだ。それが、上総掠二という学生の主義であった。

上総 掠二 > 腕を組んで、目を閉じていた男の頭の上から声が掛かる。
若々しく、はつらつとして――それでいて凛とした、快活な声。
男はそれを聞いて、嫌そうに顔を上げる。しなやかな長身。豊満な四肢。それでいてよく鍛えられている。

「遅い。三十分四十二秒のロスだ。何を考えている。
 大した用件ではなかったはずだろう。これだからお前は駄目なんだ。
 時間のひとつも守れない。これだからダイヤを改正しろだのなんだの文句を俺が請け負うことになるんだ」

「いやあ、ゴメン!
 思った以上にさあ。話弾んじゃって。まあ君のことだから放っておいても大丈夫かな、って思ったんだよね。
 オッケー、用事は終わったからさ。そんじゃあ、お詫びに昼食でも奢ってあげよう!」

「いらん。詫びるならもっと別のものがあるだろう。
 俺はお前がもっと委員会の一課の長である自覚を求める。……それ以外はいらん。無駄だ」

立ち上がる。運行課の腕章をしたポニーテールの少女を嫌そうな顔をしながら視界の隅に収めて。
無駄口ばかり叩く上司の背中を溜息混じりにゆっくりと追いかける。

鉄道委員会運行課課長代理。本日の業務。終了。

ご案内:「委員会街/ラウンジ」から上総 掠二さんが去りました。