2020/06/11 のログ
ご案内:「風紀委員会本庁」に赤坂薫子さんが現れました。
■赤坂薫子 >
「はい、それではこちらの書類に必要事項を記載して、2階の窓口に提出して下さいね」
赤いサインペンでいくつか丸をつけた書類を学生に手渡す。
男子学生はお辞儀をひとつすると、エレベーターで2階へと向かった。
風紀委員会本庁。常世島の治安維持を役目とする風紀委員会の本部だ。その入り口で受付をするのが彼女、赤坂薫子である。
ようやく陳情者がはけたとあって、薫子は軽くノビをする。
■赤坂薫子 >
通常、常世島における問題や犯罪の対処には、風紀委員会の各分署や風紀委員個人が当たる事が多い。本庁はあくまで分署を束ね、その活動を統括するのが役目。だが、問題が各所へ跨っていたり、分署の対処能力を超えている場合は、本庁で問題を処理する場合もある。
「――風紀委員の赤坂薫子です。生活委員会水道局の歓楽街担当の方をお願いします」
先ほどの陳情は、歓楽街の一画で違反学生が暴れた際、地区の水道管が破損してしまったというものだ。こうなると風紀委員会だけでは対処できない。学内の水道管理は生活委員会の管轄の為、被害状況の調査は風紀・生活両委員会の合同で行われることになる。その後修理にかかる費用や損害規模を生活委員会がまとめ、風紀委員会が後処理をする事になる。
■赤坂薫子 >
薫子の役目は、担当委員会との折衝だ。あらかじめこういう問題が起きましたよ、と相手に問題の概要を連絡し、担当者の連絡先を貰う。そして風紀委員の担当者に、相手の担当者の連絡先を渡し、そこからはコンビを組んで動いてもらうというわけだ。
「――はい、No,553841のファイルへのアクセス権をそちらに送ります。こちらの担当者からあらためて連絡させていただきますね」
双方の担当者に連絡をすれば、薫子の役目は終わりだ。素早い情報共有とスムーズな連絡、組織同士の連携を保つことが彼女の役目である。言い換えれば、組織間の使いっぱしりだが。
ご案内:「風紀委員会本庁」に日ノ岡 あかねさんが現れました。
■日ノ岡 あかね >
丁度、夕刻……いわゆる放課後と言われる時間に差し掛かった頃。
「おつかれさま、カオルちゃん」
その女は現れた。名前を全部呼ばず、勝手に区切って呼ぶ女。
ウェーブのセミロング。黒いチョーカーをつけた女生徒。
日ノ岡あかね。
あかねは、ほぼ毎日此処にきている。
「はい、今日の分の報告書。外に出られたのは嬉しいけれど、毎日毎日出すのはちょっと大変ね」
そういって、ニコニコと笑いながら、報告書を窓口に提出する。
■赤坂薫子 >
「――お疲れ様です」
硬い笑顔を崩さずに書類を受け取る。
違反部活の元メンバーである彼女は、風紀委員会の監視対象だ。その為に毎日報告書を提出する事が義務付けられている。のだが……
「毎回本庁に出さなくても良い、と何度も申し上げましたが?」
それでも書類は受け取るし、担当部署へ転送する。
分署に提出しても良いが、本庁に提出しても良いのだから。
■日ノ岡 あかね >
「ふふ、たまたま通り掛かりがいつも此処なだけよ。それに……ここなら、カオルちゃんに会えるじゃない」
気安くカウンターに両腕で頬杖をついて、そう楽しそうに笑う。
薫子から目を逸らさない。
「私、カオルちゃんの事好きなのよね。まぁ、カオルちゃんはしつこい人苦手みたいだから、イヤかもしれないけどね?」
クスクス笑って、報告書の処理を待つ。
しばらく時間がかかることはわかっている。
■赤坂薫子 >
はぁ、と軽くため息を吐く。
こんな官庁街とも言うべき委員会街をわざわざ通るなど、どういう行動をしている事やら。とはいえ、真面目に報告書を提出しに来ている以上、追い返すわけにもいかない。
「イヤではありません。仕事の邪魔をしないなら、ですが」
本当にしつこい人間は、陳情と言いつつナンパくらいしてくるものだ。報告書の処理が終わるまで話しかけるくらいは、普通の会話の範疇だろう。
「それと、私の名前は赤坂薫子です」
■日ノ岡 あかね >
「そうね、カオルちゃん。ごめんなさいね、私名前覚えるの苦手だから」
溜息にもどこか嬉しそうに微笑みを向けて、椅子に腰かける。
西窓から、紅い日差しが強かに差し込んだ。
「お仕事大変なの? カオルちゃんは真面目だものね。男の子からナンパとかもよくされてるみたいだし……まぁ、でもナンパに関してはする人たちを責められないかも? だって、カオルちゃん可愛いもの。年頃の男の子だったら、放っておきたくないって思う気持ちも私分かるわ」
呆れ顔の薫子の顔を見ながら、楽しそうに話を続ける。
報告書の処理はまだ終わりそうにない。
「命みじかし、恋せよ乙女。カオルちゃんもイケメンの一人や二人捕まえて、雑用とか任せちゃえばいいのに。ふふふ」
■赤坂薫子 >
「――日ノ岡さんがそういう方というのは分かっていますので、良いです」
再びため息を吐く。のれんに腕押し、というやつだ。
もう夕方、本庁が閉まる時間も近い。この時間から陳情に来る人間もいないだろう。
「どこも人手不足ですから、こんな雑用に回す人間は余っていません。それに、本庁に関しては身元確認が厳しいですから」
本庁は特に、異能を使ったテロの標的にされやすい。それ故に、本庁勤務者の身元、思想などは徹底的に調べられる。薫子の時もそうだった。適当に捕まえた人間を働かせる、などというわけにはいかない。
「なので、そう簡単に本庁の人手は増やせません。増やすとすれば、分署の実働部隊でしょう」
■日ノ岡 あかね >
「だったら、私にやらせればいいじゃない」
笑みを浮かべたままま、あかねは気安くそう呟く。
閉庁時間も近い黄昏時。あかねの横顔を、朱色の陽光が照らした。
「どうせ見ての通りの首輪付き。雑用には丁度いいでしょ?」
そういって、黒い首輪のようなチョーカー……異能制御リミッターを指さす。
あかねは委員会から異能の使用を基本的に禁じられている。
故にもう『無茶』はできない。
卑かれ者の辿る末路。
その一つ。
「私、基本的に暇してるし、見回りのお手伝い程度なら請け負うわよ? ――楽しそうだしね」
■赤坂薫子 >
「――あなたは監視対象です。まだ風紀の看板を背負わせるわけにはいきません」
はぁ、と三度ため息をつきながら。
実際、毎日きちんと報告書を提出し、行動に不審な点もない日ノ岡あかねという人物の評価は上がってきている。しかし、違法部活在籍者だったという「前科」がある以上、おいそれと単独行動をさせるわけにもいかない。
「――どうしても、というなら手がないわけでもないですが」
昨今の風紀委員の人手不足解消案として挙がっている。元違法生徒を使った特殊部隊。表向きは風紀委員ではなく、そこから委託を受けた部活の生徒という事にした、風紀の手駒。その計画を思い出しながら――
「――いえ、なんでもないです」
それでも。自分に(本当かどうかは分からないが)好意を向けてくれている彼女を、そんな危険な場所に行かせるのもしのびなかった。
■日ノ岡 あかね >
「相変わらず優しいのね、カオルちゃんは」
どこか言い淀んだ薫子の内心を幾らか察して、あかねは笑う。
あかねの「前科」を知った上で、こうしてあかねと喋る生徒はそう多くない。
風紀委員ともなればなおのことだ。
それでも、こうしてあかねと薫子は会話をしてくれている。
あかねがいつも此処に足を運ぶ理由は……ほぼ明白だった。
「まぁ、いよいよとなったら気軽に声かけてね。私、『楽しい事』なら大歓迎だから」
くすくすと笑って、後方で報告書の処理が終わったことを確認する。
「さて、カオルちゃんと喋る口実も取り上げられちゃったし、今日のところはこのくらいにしておくわね」
音もなく立ち上がり、そのまま出入口に向かう。
既に、職員が閉庁の準備を始めていた。
「またね、カオルちゃん」
そのまま、あかねはいつも通りに去っていった。
茜色に染まる、夕日の向こうに。
ご案内:「風紀委員会本庁」から日ノ岡 あかねさんが去りました。
■赤坂薫子 >
「――――」
去った彼女を見送った後。
ため息を吐こうとして、やめる。ため息を吐くと幸せが逃げて行くそうだ。
今日の締め作業を始める。何のことはない、平和な一日。
その一日を守る為に、風紀委員会は存在する。
ご案内:「風紀委員会本庁」から赤坂薫子さんが去りました。