2020/06/13 のログ
ご案内:「風紀委員会本庁」に赤坂薫子さんが現れました。
■赤坂薫子 >
「お疲れ様でした。今後何かありましたら、最寄りの生活委員会か風紀委員会の分署までどうぞ」
何度もお辞儀をする生徒を見送りながら、薫子はにこやかに手を振って送り出す。
彼は、二級学生だ。違法部活によって常世島に入島し、詐欺グループの一員として働いていた。しかし、風紀委員によって保護され、行くアテもなく仕方なく詐欺をしていたと証明された為に、晴れて一年間の学費免除の上での正規学生への昇格となったのだ。
「……ふぅ」
薫子は端末を操作し、彼が住む予定の男子寮の部屋番号を最寄りの分署へと通達し、しばらく監視するよう要請する。またすぐに落第街へ戻ったり、詐欺グループから報復されない為の措置だ。
■赤坂薫子 >
二級学生問題の根は深く、根本的な解決など不可能に近いだろう。
だが、だからといって放置しておくわけにもいかない。二級学生を保護し、正規学生として「更生」させるのもまた、風紀委員会の大事な役割だ。
「――はい。無事生活に戻っています。はい、よろしくお願いします」
ただ、この手の「二級学生の保護」という任務は人気がない。風紀委員会に所属する生徒は大体二種類な事が多い。すなわち、「正義感が強い」か、「自らの異能をより実戦に近い形で使いたい」か。そうなると、やはり花形は違法部活や違反学生ら相手に切った張ったをする実働部隊という事になる。事実、予算も一番実働部隊に多く割り振られ、今なお規模の拡大が議論されている。
■赤坂薫子 >
(――こういうのが得意なのは、やはり生活指導部ですね。ええ、大変不本意ですが)
薫子は苦い顔をしながら考える。
庶務・防犯を担当する生活指導部は特別攻撃課やその他の実働部隊と違い、素行不良生徒への注意などを中心に行っている。
必然的に「まだ戻ってこれる」二級学生との繋がりは多くなるし、彼ら自身が強力な異能を持ったり威圧感を出したりしない為に、二級学生たちが「頼りやすい」風紀委員である事は間違いない。
(ですが――)
その本人達の素行が最悪なのが問題である。
あやうく記者会見寸前までいった。もし記者会見が開かれれば薫子が進行役だった。死んでもやりたくない。
■赤坂薫子 >
とはいえ、彼らの存在は貴重だ。風紀委員会は正義の味方でも常世島のヒーローでもない。治安維持組織だ。そして、治安維持の要点は二つ。「不穏分子の排除」と「困窮者の救済」だ。
不穏分子が増えれば一般人の生活が脅かされ、連鎖的に治安は悪化する。
困窮者が絶望すれば彼らは容易にやけっぱちとなり、不穏分子化する。
つまり、対処療法と根治療法だ。どちらも治安維持には欠かす事が出来ない。だが、風紀委員会の現状は、前者に偏ってると言えるだろう。
「――もう少し、皆さん肩の力を抜いていただければ良いのですが」
■赤坂薫子 > 「――ふぅ」
一息ついて、水筒からお茶をいれる。
幸い、陳情者は来ていない。
しばしブレイクタイムだ。
ご案内:「風紀委員会本庁」に幌川 最中さんが現れました。
■幌川 最中 > 「薫子ちゃあん」
いやにヘラヘラとした薄笑いを浮かべながら本庁受付窓口にやってくる男。
赤い風紀委員会の隊服を腰で結んだ胡散臭い男が薫子の表情を伺う。
「理央ちゃんから昨日の報告書って上がってるかな?」
どうかな?と言わんばかりに首を傾げたりしながら受付に体重を預ける。
傍から見ればまた受付嬢がナンパされているような有様である。
「詳細っつーか、こう、ヘンなこと書いてあったりしなかった?
見かけた相手がどうのー、とかじゃなく、こう、こう、ねえ」
ろくろを回しながら、昨日の哨戒を思い浮かべる。
ウイスキーの瓶片手に落第街を闊歩。後輩にハラスメント。
「見なかったふり」と、いくつも怒られる要素はある。
それを理央が報告しているかしていないか、この幌川という男は知らない。
彼がその場の小言だけで済ませてはくれているものの、知らないからこそこうして。
「なんもなかった~? 確認、俺、代わりにやろうか」
慣れた調子で、それこそいつものように赤坂に声を掛ける。
■赤坂薫子 >
苦虫を噛み潰したような顔を一瞬して。その上から笑顔を張り付ける。純度100%の営業スマイル。この先輩には甘い顔をしたら付け上がるし、怒っても逆効果だ。
「神代さんですか? ――いえ。通常の報告書と、それにいつもの内勤への異動願いですね」
そういえば、昨日の巡回は神代さんと彼が一緒だったようだ。どうやら巡回の最中に何かあったらしいが、それもいつもの事だろう。
真面目で堅物の神代さんと、不真面目が服を着たような幌川。合うわけがないのだ。
「結構ですので触らないで下さいね。それと、もう何度目かわかりませんが、本庁内は禁酒禁煙です」
■幌川 最中 > あっ今嫌な顔された。
ほんの少しばかり内臓を抉られるかのような気持ちになる。
毎回きちんと抉られていたらもう数年前に体の中の臓器はすっからかんだが。
「ああ~~はいはい。オッケー。相違なし。
問題ないねありがとう薫子ちゃん。ハグする? しないね」
受付に体重を預けたまま、大あくびを隠すこともしない。
そして、本来の目的――チクられてないかの確認――を済ませれば。
陳情者も他の委員の姿もない。風紀委員が受付で二人。何も起こらないわけもなく。
「今日も『これ』、あるんだけど」
封筒に納められたそれは、何度も薫子に手渡されているものだ。
毎度毎度中身は変わらず、毎度毎度諦めることなく持ってくる。
風紀委員会の顔のような女生徒に、もういい年が近い男がそれをすっと差し出し。
「受け取ってくれる?」
気障な笑顔を浮かべながら、そう笑う。
「俺別に本庁でんなことした試し一回もな――……。
…………。一回もないさ。ノープロブレムドントウォーリー」
自信なさげな沈黙を経る。何よりも雄弁な5秒間の沈黙だった。
そして、指先で封書を弄びながら、目がほんの少しだけ細められる。
■赤坂薫子 >
「――――」
この先輩は苦手だ。
こちらが鬱陶しがって邪険にするギリギリのラインを見極めて踏み込んでくる。ふぅ、とため息を軽く吐きながら。
「――はい」
封筒を受け取り、中身を読みはじめる。
受け取るし、読む。もしかしたら重要な陳情かもしれないし、もしかしたら上への申告書かもしれない。その可能性がある以上、邪険にも出来ないし見る前から突っ返す事も出来ない。全ての風紀委員からの取次も、彼女の業務に入るのだから。
「――――。私の前で試したら怒ります」
それだけポツリと言っておく。彼女の前以外で、バレないようにするのならば仕方がない。そんな所にまで口を突っ込んでお小言を言うようでは、堅苦しくて息が詰まるだろう。
■幌川 最中 > 「サンキューメルシィマドモアゼル」
指先から消える封書の中身は想像通り。
毎回しょうもない小芝居をしながら、その中身は至極まとも。
「気持ち悪い」と端的に言って受け取らない後輩もいるが、彼女はそうではない。
「何回言ってもさ。手も足りてないってのもわかってるけどね。
言う分にはタダだし。面倒事やらせちゃってごめんねえ、薫子ちゃん」
陳情書。旧世代のワープロで作られた正式な文書。
それをさも恋文のような封筒に納めて手渡す一種のコミュニケーション。
人前でやればやるほど面白い仕込みなのだが、生憎と彼女には通らない。
肩を竦めてから、またいやはや、と空笑いを浮かべる。
「非公式戦力のあのコ、なんつったっけな。そうそう。
切人ちゃんが入院したって話聞いたろ? で、監視が凛霞ちゃんだって」
頬杖をつきながら笑う。
笑いこそするものの、その目は真剣以外のなにものでもない。
「『上』は、これでもまだ変わんねえの。言ってること」
■赤坂薫子 >
「…………」
これだからこの先輩は油断がならない。
はっきり言えば、風紀委員の仕事に関して彼女がもっとも信頼しているのは、間違いなく幌川最中だ。常世の治安を維持するという仕事にもっとも適していると思う。面と向かっては言わないが。
「――変わりません。監視対象にして、非公式戦力として使う、とだけ」
薫子もその指令には一切納得がいっていない。
落第街で何度も戦闘を起こし、それに風紀の看板を背負わせている。治安維持の観点から見れば最悪だ。『風紀委員会は落第街の抗争を煽っている』と言われても、言い返せない。
そして、落第街やその周辺で防犯にあたる幌川としては、許せないのも当然だ。自分の仕事の邪魔以外の何物でもないだろう。
「――監視が伊都波さんですか。それは私も初めて聞きました」
あまり良い人選とも思えない。確かに優秀で戦力としてもとびきり、素行も良いが。なにぶん『目立ちすぎる』。
「まるで、『上』が落第街で抗争を起こしたがっているかのように見えますね」
本当に抗争を起こそうとしているのか、あくまで優秀な戦力として投入しているのか、それともとにかく使える物は何でも使っているのか。『上』の意図は分からない。
だが、落第街において風紀が幅を利かせる必要も目立つ必要もないのだ。あの場所で風紀が為すべきなのは『抜け出そうとする二級学生の為の頼みの綱である事』。少なくとも、薫子はそう思っている。
「――陳情書、私の名前もつけておきますね」
■幌川 最中 > 「……」
彼女の胸中を覗き見ることはできない。
できないが、もし幌川が知ることがあらば「アハハハハ」と笑うだろう。
それを知ることがないのは救いであった。実に。
「そっか~。まあそうだよね~。
ああ、いやいや。そっちでなくさ。もうこの巡回やめたほうがよくないか?
……そういう話なわけ。やめなくてもいいけども、もっとやり方ないかな? ってね」
いつも通りの軽薄な声色でそう言いながら軽く笑ってみせる。
そして、肩を竦めてから少しだけ困ったように眉を下げる。
「現場のことは現場が一番良くわかってるのは当然だからね。
俺達みたいな後方担当が1人つくよりも前衛張ってくれてるみんなに頼むのは合ってると思うんだけどさ。
薫子ちゃん、裏。裏」
指をさしながら、その陳情書の裏側を示す。
「俺が言ってるのはこっち。
風紀委員が受ける『落第街で受ける被害をどれだけ軽減できるか』っていう提案のほうね。
もうちょっとあの子達を守ったげらんないかなって話をしててさあ。
学生主体はいいんだ。そういうガッコだしな。また一人怪我しましたよ、ってな具合さ」
誰が誰をつけて、誰に何を命じているかなんてものは幌川最中の知るところではない。
ただ、事実としてある「風紀委員会に協力している生徒が大怪我をした」という部分だけ。
そこを切り取って、男は語る。
「いい案思いつく? 薫子ちゃん」
■赤坂薫子 >
「――風紀の受ける被害、ですか」
当然ながら風紀委員は切った張ったの商売になりがちだ。
それを望んで風紀に入る人間も大勢いる。自分の能力を十全に発揮して戦闘がしたい、それも実戦を、と望む子達。そういう連中を風紀が利用しているという側面も否定できず、ただ闇雲に『無用な戦闘を避けろ』と言っても無駄だろう。
陳情書の裏側を見ながら薫子は無言で考えこむ。正直な所威圧的な巡回を中止して、防犯に切り替えるのが一番良いとは思う。とはいえ、そんなことをすれば連中は委員会から抜けるか、また入ったまま勝手に落第街へ行こうとするのは目に見えている。
良くも悪くも学生主体の委員会活動だ。と、なれば……
「――お手上げですね。幌川先輩の案は……?」
■幌川 最中 > 「なあに難しい話じゃあないさ。
かわいい後輩が痛い思いをしてるのは見てられないねえ、って話でね」
そういう商売が確かに必要だから今こうなっている。
不要であればそれは自然と終わるはずだが終わっていない。
つまり、そういう戦闘力が必要だということは火を見るより明らか。
「あの子達にやめろって言うんじゃなくて、落第街側をどうにかできないか、ってね。
そういうことをちょっとばかし考えちゃうセンチなお年頃なわけだ」
ハハハハ!! と豪快な笑い声が響く。
そして、嫌そうな顔をしてこちらに視線を向ける赤い制服の少女に片手を挙げる。
「内緒ごとの多いセンパイのほうがミステリアスでかっこよかろう」
ゆっくりと立ち上がってから、悪戯に笑う。内緒、と。
口元に人差し指を立ててから、「とりあえずそいつはよろしく」と告げて。
「薫子ちゃんも気にしてあげてね。一番顔見れるでしょ、そこさ」
満足いったかのような表情を浮かべたまま、大きく背伸びをする。
そして、下手くそなウインクをしてから。
「看板、頑張れよ」
片手を小さく上げてから、踵を返し本庁から出ていく。
足取りは軽く、実に楽しげなものだった。
ご案内:「風紀委員会本庁」から幌川 最中さんが去りました。
■赤坂薫子 >
「…………」
落第街側をどうにかする。それは、彼女には無い発想だった。
薫子には戦闘能力が無い。故に、落第街は漠然と『治安の悪い場所』という認識しかなかったのかもしれない。もちろん、データには目を通している。だが、そこを別の方法で「改善」する事は、思い至らなかった。
「――なんだかんだ宿題を押し付けていきますね」
確かに自分は看板だが。
看板が動いてはいけない道理もない。
とりあえず、落第街に詳しい風紀委員に話を聞く事。そこからはじめようと思い立ち。
ご案内:「風紀委員会本庁」から赤坂薫子さんが去りました。