2020/07/07 のログ
■日ノ岡 あかね > 「落第街で声かけ。他にもカギリちゃんが『誘いたい』って思う子がいたら声かけて。まだ私達、人員不足だから」
以前の『トゥルーサイト』はもう少し数がいた。
だが、それでも『ダメ』だった。
なら、やることは明白だ。
「相手の立場とかは考えなくていいけど、質は考えてね。口開けて餌貰うの待ってるような子はダメ。危ない橋だから」
自分で選べない人員は必要ない。
何より、相手に悪い。
責任を持ってあげられないから。
あかねも自分の事で手一杯だ。
責任やケツを持ってほしいなら、組織に頼る方がいい。
頼れる組織は……ちゃんとこの島には存在している。
「なるべく急いでね。八月まで多分うちの部隊ないから」
しれっと、あかねは笑いながら言う。
だが、事実でしかない。
時間を掛ければ掛ける程、『枷』は増えていくだろう。
風紀委員会はそんなに甘い組織じゃない。
勝率が1%未満だから『お目こぼし』をされているだけだ。
1%を越えれば必ず介入してくる。
「もう今日からゆっくり眠れる日は来ないわよ。覚悟はいい?」
楽しそうに、あかねは笑う。
答えは……わかりきっている。
■園刃華霧 > 「なールほど、ネ。
質っテーなルと、なるホど。そりゃ大変ダ。
質だケなら、そレなり。デも、気持ち的にハってーなルと……
はハ、茨の道ってヤツか?
しかモ八月まで無イ? ワー、無茶も程ガあンじゃン!」
けらけらと笑う。
そんなもの、うまくいくわけがない
そう、うまくいくわけがないのだ
これは失敗する
誰もがそう思うだろう
だから
"答えは決まっている"
「面白いネ。
落第街は古巣だシ。探り入レてみるナ。
ヒヒ、燃えルね」
無茶ほど楽しいものはない
その先に見知らぬなにかがあるなら、尚更に
「覚悟?
覚悟なら、生まレ落トさレた時かラサ」
そういって再び獣の笑みを浮かべる
■日ノ岡 あかね > 「あはは! さっすが、それでこそ『仲間』よ」
気安く笑って背中を叩く。
それこそ、放課後にカラオケにいく計画でも話し合うかのように。
華霧と一緒に、あかねもケラケラ笑う。
「じゃ、後よろしく。私はこれから書類提出して回るから」
部隊長という立場がある以上、これは避けられない。
……思えばこれも、恐らくは風紀委員会が新たにあかねの首にかけた『枷』なのだ。
既に布石は打たれている。
もう、時間は残されていない。
「小勢力の取れる戦術は……電撃戦以外にないわ。それじゃあ、任せたわよ」
そういって、あかねは音もなく立ち去る。
とても、楽しそうに。
ご案内:「委員会街」から日ノ岡 あかねさんが去りました。
■園刃華霧 >
「かー、そッカ。あかねちんがコッチにいタのソレか……
やーレやれ、ぶっすイだなァ……
代わレもでキんだローし。とナりゃ……」
にたり、と笑う
「下っ端ーズは、下っ端ーズなりニ、働キまスか。
ヒヒ……」
そこまでいってから、ふと、つぶやく
「ナるほド? アタシ、真面目に働コーとしテんな?
は、確かに"風紀"にゃ"向いて"なカッたかもナ」
げたげたと笑いながら、庁舎から姿を消した。
あとには、風紀の腕章だけが残っていた。
ご案内:「委員会街」から園刃華霧さんが去りました。
ご案内:「風紀委員本庁・閲覧室」に伊都波 凛霞さんが現れました。
■伊都波 凛霞 >
今日は妙に人の少ない閲覧室、
風紀委員各位による報告された案件などまとめたデータベースが閲覧できる
当然風紀委員にしか閲覧は許されず、セキュリティは万全である
と、そんな場所にやってきたのは風紀委員の一人である少女
やや疲労を残した表情で、端末のあるテーブルへと、椅子を引いて座る
「ふぅ…今日は、どうかなー……」
一人なので遠慮なく溜息を吐く
先日落第街で調査した廃ビルの一件
サイコメトリーで視た映像から、窃盗団は子供達だということがわかった
ビルは封鎖され、生活の場を失った彼らを探して保護しようと、連日落第街に通っていたのだが…
今日も今日とてアタリはなし
こうやって本部に戻ってきて、子供が保護された報告がないか、チェックする──
そんな日々を繰り返していた
ご案内:「風紀委員本庁・閲覧室」に神代理央さんが現れました。
■神代理央 >
――此れは、孤児院での騒動の少し前のお話――
そんな疲れの色を見せる少女が籠る部屋の扉が、小さな音を立てて開かれる。
硬質な革靴の足音と共に室内に現れたのは、数枚の書類と端末を抱えた少年。
随分と小柄な体躯を風紀委員の制服で包んだ少年は、先客の姿を見れば少し驚いた様に瞳を瞬かせる。
「…挨拶もせずにすみません。まさか、誰かいるとは思いもしなかったもので」
閲覧室の周囲も含めて、随分と人気の無い空間。
大方、試験勉強で出払っているのだろうと油断していたが、よもや先輩委員がいるとは思わず無遠慮に入室してしまった。
非礼を詫びる様に、彼女に小さく頭を下げるだろうか。
「……しかし、伊都波先輩はどうして閲覧室へ?何か気になる事件でもあったのですか」
と、少女の近くに書類と携帯端末を置けば。
テーブルの端末を接続しながら、視線を向けて首を傾げるだろうか。
■伊都波 凛霞 >
「あ…お疲れ様、神代くん。いいよー、気にしないで」
挨拶ナシで入室したことを詫びる少年へ、いつもどおりの屈託のない笑顔で応える
片手をひらひらとさせて問題ないよー、とアピールしつつ…
閲覧室にいる理由を問いかけられれば、視線を端末へと映しながら
「うん、最近ちょっと気にしてることがあって、
落第街で子供が保護されてないかなーって毎日帰りにチェックいれてるの
──神代くんは書類のデータ入力?」
閲覧結果は芳しくなかったらしく、やや気落ちした表情
そして少年へと視線を戻して、問を返す
■神代理央 > 「まさか試験期間中に誰かいるとは思わなくて。まあ、伊都波先輩なら試験も問題ないんでしょうけど」
彼女と同じ様に端末へ視線を移し、光学キーボードを指先でなぞり始める。携帯端末から吸い出されるデータを確認しながら、彼女の言葉に再び視線を向ける。
「子供の保護…ですか?確かに最近は聞きませんね。もしかしたら、生活委員会辺りが面倒を見ているかも知れませんよ?」
気落ちした表情の彼女を慰める様な穏やかな声色と言葉。
その声色の儘、ついで投げかけられた言葉に小さく頷く。
「ええ。昨日行った二級学生との戦闘記録を――ああ、そういえば。この件は先輩にもお礼を言わねばと思っていたところだったんです。先輩が摘発した拠点から逃走した連中を、無事に補足しまして」
「異能を用いられて抵抗されたのですが、此方の被害無しに無事全員殲滅出来ました。やはり、拠点を失い弱っていたのでしょうね」
ニコリ、と。悪意無く純粋に。
彼女の功績を讃え、敬う様な口調で言葉を紡ぐ。
■伊都波 凛霞 >
「あはは、一応勉強もしてるよー?」
実際には勤勉な少女のこと、一応というレベルではなくやっているのだけれど
そこは別に誇るべきところではなく、結果が出ればそれで良いといったスタンス
「うん。生活委員会の子にも何かあったら教えてって一応言ってあるし、
落第街のほうも放課後ちょっと歩いたりしてみてるんだけどねー……」
全く成果ナシ、まるでそんな子供達などいなかったかのよう
ふーっとため息交じりに頬杖、目の前のモニタも、昨日までと変わらずである
「昨日?神代クンは活発だねえ…お疲れ様。…って、私が摘発?」
首をかしげる
何かそんな案件あったっけ、と
最後に報告を挙げたのは、今言った子供達が拠点にしていた廃ビルの封鎖である
そこで生活していた二級学生の子供達がビルから締め出され、
生活の場に困っていると推察しての保護の試みだった
「……それって、いつの」
見せて、と書類に向け手を伸ばした
■神代理央 > 「神童、と呼ばれる先輩に真面目に勉強されては、学内順位に変動がありませんよ。試験結果に昼飯を賭けている様な連中の為にも、少しは手を抜いて上げたら如何ですか?」
と、小さく苦笑い。勿論冗談の部類ではあるが。
委員会活動と学業を高レベルで両立させているというのは、素直に尊敬に値する。その尊敬の念故の軽口の様なもの。
「そうですか…。まあ、あの地区も広大ですし、すぐすぐ見つかるものでも無いでしょう。気を落とさず、ゆっくり探していけば良いと思います。きっと見つかりますよ」
溜息をつく彼女を剥げます様に、ほんの僅かに口元を緩める様な表情で言葉を返す。
そのまま、此方も書類仕事を始めようかと思った矢先。
「いつの、って。つい最近ですよ。先輩が報告書を提出されたじゃないですか。廃ビルの封鎖によって生活の場を失った子供達、でしたっけ。
その中に強力な異能持ちの二級学生もおりまして。捜索の上、捕縛を試みた部隊と戦闘になったみたいです」
「結構抵抗が激しくて、私が呼び出された次第でして。ああ、勿論一人残さず処理は完了していますよ。小田山や田崎辺りは少し負傷しましたが、擦り傷程度で済んでいます」
少女が伸ばした手に、書類を差し出す。あっさりと。何の躊躇いもなく。
其処に書かれているのは、捕縛を試みてから戦闘に至る迄の記録。
そして、神代理央が現場に到着した後。"処理"を終えた後の現場の写真。
瓦礫と廃墟の山とかした落第街の一部。その広場に並べられていたのは。無数の銃痕を残した子供達の――
■伊都波 凛霞 >
「───……」
渡された書類へ、視線を滑らせる
思っていることとは、きっと違う
風紀委員からの報告は数が多い、たまにすれ違うように間違った名前で報告が受理されることだってある
他の風紀委員からの報告が、自分の名前に置き換わってしまうことだって、たまには
そんな僅かな希望は、現場の顛末を映した写真に全て、刈り取られた
並べられている亡骸の姿は、自分がサイコメトリーで視た記憶の断片の、子供達の姿と…一致していた
保護しやすいように、なるべく詳しく子供達の風貌も加えて報告した、その姿と
資料の最後に記された、情報提供:風紀委員・伊都波凛霞の一文を視界に捉え、ざわりと、肌が粟立つような感覚を覚える
心拍数は上がって、いつも優しげな微笑みを湛えている表情からはそれが消えて、釘付けられたように、資料から目を離せない
普段の凛霞を知る人ならおそらく、そんな表情を初めてみただろうと口にする、かもしれない
悲しみと、怒りと、絶望と、無力感と──様々なものが混ざった、決壊寸前の、貌
「…抵、抗……? なん、で……こ、殺さなく、ても……?」
資料から、理央へと視線を移す
信じられないものを見たような、信じたくないといったような、何かに縋るような表情には普段の凛とした雰囲気も、柔和な雰囲気も感じられない
──…凛霞が保護しようとしていた子供達こそが、
その写真に移された二級学生だということは、伝わるだろうか──
■神代理央 > 彼女らしからぬ表情。仕草。態度。雰囲気。
ソレを一瞥し、小さく肩を竦めた。
何となく予感はしていたが、やはりこの子供達だったのかと。
「ああ、やはり先輩の探していた子供達ってこいつらだったんですか。それなら、データベースにある訳ありませんよ。入力するの今からですし」
正直、予想はしていた。彼女が提出した報告書。彼女の人となり。周囲からの評価、伝聞。それらを考慮すれば、心優しい彼女が自らが生活の場を奪った子供達を探している事は、容易に想像がついていた。
その上で、見つかれば良いと言葉を繋げていたのだから。そうでなければ良いな、とは頭の片隅で思っていたりもしたが。
事務的な口調で彼女に言葉を告げた後。再び視線をモニターに戻そうとして。
投げかけられた言葉に、腰掛けた椅子を軋ませて彼女に身体を向ける。
「何で、って。違反生で二級学生。しかも風紀委員に異能を行使して抵抗したんです。処理するのは当然じゃないですか。
私は、私の職務を果たしただけです。何か問題でも?」
彼女の憤りも悲哀も。絶望も無力感も。全て考慮し得ない問題だと言わんばかりの無機質な口調で。
彼女に向けて、首を傾げてみせるだろうか。
■伊都波 凛霞 >
資料が、散らばる
凛霞がその場に投げ捨てたのだ
普段の彼女からは想像もできない行為だっただろう、しかし──
「神代くんなら──」
肩を掴み、視線をこちらへと向かせる
その上で──両手で掴み掛かるように、顔を突き合わせた
「神代くんなら!!!この子たちを殺さずに捕まえることだってできたでしょう!!?」
二人しかいない閲覧室
その空間に、凛霞の大声が響いた
その表情は泣き顔と、怒りの混ざったものへと変わり、その大きな瞳には、似つかわしくない涙を溜めていた
■神代理央 > 肩を掴まれる。彼女の整った顔立ちが、負の感情に歪んでいる様が己の眼前に存在する。
中々こういう経験をする風紀委員もおるまいな、と彼女の絶望を、慟哭を。揺らがぬ理性は観察しているのだろうか。
「出来ますよ?此れでも、召喚系の異能保持者ですから。連中が疲れ果てる迄物量で押してやれば、不可能ではないでしょうね」
悲鳴の様な彼女の問い掛けに、淡々とした口調で"肯定"する。
否定しない。子供達は救えたかもしれないという可能性を否定しない。その可能性を、己が摘み取った事を否定しない。
「…しかしその場合、軽傷とはいえ既に負傷した委員達に更なる犠牲を生む可能性があります。落第街の住民にも、不要な犠牲が出る可能性があったでしょう。まあ、其処は別にどうでも良いのですが」
「そもそも解せない話です。私は、明確に与えられた任務をこなし、敵を排除し、味方の犠牲を最小限に抑えた。その私が何故――」
「――貴女に責められなければならないのです?伊都波先輩」
言葉は丁寧なもの。年上で、実績のある委員である彼女を尊重する様な態度と口調は崩さない。
しかし、その声色は言葉より明確な意思を持つ。己の行いに一切の非を認めず。選択を違わず、完遂したという矜持と。
子供達への慈しみを持って吠える彼女への、嘲笑が。
■伊都波 凛霞 >
──少年の言葉は、残酷なくらいに正しい
その揺るがない信念と冷静な現場判断能力は尊敬にすら値する
けれど
それでも
救えたかもしれない子供を、『敵』と呼んだ
それが耳に入った瞬間に、完全に少女の中で、何かが決壊する
「っ──!!」
涙を一杯に溜めた眼を見開いて、深い悲しみと怒りの表情のまま、右手を振り上げた
■神代理央 > 右手を振り上げる少女。
激情に。感情に支配され、己の正義感、或いは信条や情愛、慈母の心に従って、手を振り上げた。その感情は恐らく、ヒトとして正しいものなのだろう。
だから、その手を避ける事はしない。
防ぐ事もしない。止める事もしない。
唯黙って、彼女の振り上げた手を受け入れる。
パシン、と渇いた音が、人気の無い閲覧室に響くだろうか。
振り下ろされた右手で揺らいだ顔を、彼女を見つめる様に固定する。
「……気が済んだか?足りぬのなら、幾らでも殴れば良い。
仲間を救った私を。委員会からの任務に従った私を。敵を撃ち滅ぼした私を。好きなだけ、正義感の赴くまま、殴れば良い」
「そして、小山田達に命じてくれば良い。次は、抵抗されても保護してくれ。貴方達がどうなっても良いから、とな」
最早、優等生の仮面は彼女の手によって剥ぎ取られた。
朗々と。冷徹に。それでいて、愉し気に。悲しみと憤怒を宿した少女に向けて、笑うのだろう。
■伊都波 凛霞 >
「………」
手に残る、人の頬を張った感覚
感情のままに少年の顔を叩いた少女を、少年は責めることすら、しない
「わからない。
二級学生だからって、助けられたかもしれない子供を、どうして殺せるの…?
『敵』じゃない…導けば、全うに生きていける可能性を、どうして潰してしまえるの…?」
手を降ろし、しゃがみこんで、散らばった書類を拾い集める。…嘲笑を含む、正論を聞きながら
「……神代くんは、機械みたいだね」
そう、零した
■神代理央 > 「導くコストは、一般生徒の為に使われるべきでしょう」
椅子から立ち上がると、彼女と共に書類を拾い始める。
紡ぐ言葉には一切感情の色は籠っていない。彼女を責める色も。放たれた右手に憤る色も。何も、無い。
「先輩こそ、私からすれば不思議ですよ。何故落第街の住民に肩入れするのか。何故、書類上存在しない連中に気を揉むのか。
不思議でなりません」
そして、彼女から零された言葉に僅かに瞳を瞬かせると。
クスクスと、愉し気な笑みを零して。
「褒め言葉と受け取っておきましょう。機械であれば少なくとも、感情に身を任せて同僚をはたいたりはしませんので」
と、一通りの書類を拾い終わると、ゆっくりと立ち上がって彼女を見下ろし、瞳を細めて嗤う。
■伊都波 凛霞 >
「………書類の上にいないなら、生きてないって…命じゃない、って、思ってるの?」
彼らだって、赤い血が流れる人間なのに
写真に映った子供達の遺骸が、フラッシュバックする
床に僅かな涙痕を残して、顔をあげる
複雑な感情の混ざった表情は消え失せ
悲しみ、ただ一色に染まった、そんな顔を見せる
少年は…笑っていた
なぜ、笑えるのか…少女にはまったく、理解できなくて
「……そんなに、面白い?
頑張れば救えるかもしれないって、空回りだったかもしれないけど……
──嗤われるほど、滑稽だった?」
視線は合わせない
うつむき、顔に深い影を落としたまま、そう問いかける
■神代理央 > 「保護に値しない、と言っているだけです。私だって、別に無用な虐殺は好みませんよ。この子供たちが抵抗しなければ、殺したりはしませんでしたし」
顔を上げた彼女に、小さく肩を竦めてみせる。
美人は泣き顔も似合うものだな、と場違いな感想を頭の片隅で抱きながら。それ程までに、己に取って落第街の子供達の命など、どうでも良い事であった。
そして、悲哀一色に染まった彼女の言葉に、小さく首を振る。
笑みを浮かべた儘、否定の意を示す。
「いいえ?滑稽などではありませんよ。寧ろ、人として正しい感情だと思います。正しい感情が正しい行動に繋がるかどうか、は議論の余地があるかと思いますが」
そして、俯いた儘の彼女にコツリ、と足音を響かせて一歩近付く。
「ただ、不思議に思っただけです。先輩はてっきり、違反生を憎んでいるかと思っていましたから。先輩が保護しようとした子供達とて、野に放った儘であれば、嘗ての先輩の様な被害者を生んだかも知れないというのに」
「それでも、彼等を頑張って救おうとする様が不思議だなと、思っていただけですよ」
彼女の方が、背丈が高い。
それ故に、己の声は地の底から彼女に纏わりつく様に低く。低く。
彼女に囁くのだろうか。
■伊都波 凛霞 >
──…保護は、聞こえはいいけど、彼らから今までの生活…世界を奪うことにもなる
それは彼らにとっては怖いことで…抵抗は、その現れという可能性も、あった
けれどそれを口にしたところで、目の前の少年は耳を貸さないだろう
少年が囁く
少女の心の傷に、ナイフを突き立てながら
「憎んでないわけない。でも、だから風紀委員に入ったわけじゃない」
自分にひどい仕打ちをした違反学生達、それらは…憎まなかったといえば嘘になる
けれどそれで違反学生全てを憎んだわけじゃない
むしろ自分と同じような目に合う人を少しでも助けられたら
最初はそれだけで、風紀委員へと志願したのだ
けれど、この島の問題はそれだけじゃないと、風紀委員の中で知っていった
二級学生の生活のことなんかは、それまで知らなかったから──
「──……神代くんは、どうして風紀委員に入ったの?」
その声は小さく、囁きに返す呟きのように
彼のルーツを、その姿勢の原点を、知りたいと思った
■神代理央 > 憎んでいないわけがない、と言葉を零す少女。
続けて紡がれる言葉に耳を傾けた後、再び肩を竦める。
呆れた様に。世間話の続き、とでも言う様に。
「まあ、復讐心で風紀委員を務められても困りますしね。良いんじゃないですか?先輩の様に落第街への配慮を示す委員も、組織には必要でしょうし。
良いですよ。幾らでも救って頂いて。救おうとして頂いて。その手を差し伸べて頂いて構いませんよ。そうして足元を掬われ、伸ばした手を引き摺られて、先輩がもう一度、連中の好きにされない様にするのが」
「――私達の仕事ですから。守ってあげますよ。"先輩"の事は」
少女の救いたい、と想う気持ちを否定しない。それどころか、穏やかな笑みで肯定する。
そして囁くのだ。どんなことがあっても、彼女の事は救うと。即ち、彼女が救おうとする者は。彼女が慈愛を向ける者達は。救わないのだと。
彼女は守るが、彼女の理想は守らない。クスリ、と笑みを零して、そう告げる。
「――風紀委員に入った理由、ですか?決まっていますよ、そんな事」
「――人々の幸せな生活を守る為です。それ以上も、それ以下もありません」
その、【人々】の中に含まれていないモノがいる。
それを暗に告げながら、彼女を見上げ、ニコリと笑いかけた。
■伊都波 凛霞 >
自分を救う、と少年は言う
優しく接すれば足元を掬われると
──それは、わかっている
でも、手をとってくれる人もいる。いる、はず
そして、人々の生活を守るためだと少年は宣う
それは正しく、間違いのない彼の本音だろう
二級学生はその中に入っていないのだろうけれど、
風紀委員の保護を経て学園の正規の生徒となれた人のことは…
きっと平然と、人々として扱うのだろう
わかりやすい程の、割り切り方
『人』になれるかもしれない二級学生はまだ『人』じゃないから、
目の前の少年の守る『人々』の対象には入らない──
「……そっか」
きっと、このまま言葉を交してもわかりあえない
それくらいに、命に対する認識に、二人には溝がある…そう感じて
「ごめんね。…なるべく神代くんの迷惑には、ならないようにする」
拾った手元の書類にもう一度視線を落とし、悲しげに眼を細めて、それらを理央の前へと戻す
──経験の違い、育った環境、教育の差。大きく違えば…埋められない溝は、大きいのだと
「ありがとう。怪我した小山田くん達にも、お礼言ってくるね」
そう言って笑顔を作る
結果的には、彼らは未然に人々の生活を守った。それは間違いない
……今はそうやって自分を無理矢理に納得させないと、笑うこともできそうになかったから
■神代理央 > 「……別に先輩の事を迷惑だと言っている訳では無いんですけどね。
平手打ちされた分くらいは、此方の言い分を聞いて頂きたかっただけですよ」
フン、と先輩の前で浮かべるべきではない。尊大な声色と表情で首を振る。それは慈悲故に憤怒と悲しみに暮れる彼女とは対極の。
己の行動に強烈過ぎる程の矜持と自信を持つが故の態度。
見下している、とか、嘲笑している、という訳では無い。唯々、己の選択に強い自信を持つが故の、態度。
「…そうやって、無理に笑顔を作るくらいなら諦めてしまえば良いのに。さっきの先輩の方が、まだ好感が持てますよ。
我が身を削って、救って、手を伸ばして、私の様に受け入れ難い人間にも笑って。
――せめて私を否定するくらいは。抱いた憎悪や悲しみをぶつけるくらいは。許されると思いますけどね」
難儀な人だ、と、笑う彼女に深い溜息を吐き出した。
彼女は、此方を責めれば楽になるだろうに。少なくとも、救えなかったという事実を、此方に覆いかぶせてしまえばいいのに。
無理矢理に作った笑顔など、脆いものだというのに。
「人々を救いたいなら、私の邪魔をしてください。落第街やスラムに送らぬ様手を尽くしてください。監視役の一人や二人でもつけて下さい。
私に迷惑をかけた分だけ、あの街の連中は救われるのですから」
其処まで言い切ると、書類を纏めて席に戻り、幾分不機嫌そうな顔で書類と端末に視線を通し始める。
彼女に言うべき事は言った。しかしそれは、己が言うべき事ではなかった。そんな苛立ちを纏わせながら。
■伊都波 凛霞 >
「う…叩いたのはごめんってば…
…でも、神代くんは間違ったことは言ってない。
だから邪魔はしないけど…君よりも先に動こうと思う」
彼よりも先に行動する
彼が目をつけそうな組織に、先に接触する
交渉を試みて、ダメだったなら…仕方ない、彼が動くだろう
…多分、どちらも必要なのだ、この街には
「あー…あと、諦めるってことだけは絶対できないかな…。
これでも私の背中って、誰かに見られてるみたいだから。
みっともなくても、"もう"簡単に折れちゃうわけにいかないんだよね…」
理央の背中に向けて、そう言葉を投げかける
「…じゃあ、神代くんも気をつけて」
彼の信念、自信を見てしまうと、不安になる
彼を支えているそれらにヒビが入った時、折れてしまった時
彼は、そのことに耐えられるのだろうか──と
硬い幹ほど折れやすい、それを、よく知っているから
それだけを言い残し、あとは邪魔にならないよう物音を立てずに閲覧室を後にした