2020/07/08 のログ
■神代理央 >
「…それでこそ、伊都波先輩ですよ。みっともなく後輩の前で泣かないで下さい。先輩を尊敬している委員だっているんですから、無様な姿は晒さないで下さい。まあ、強制はしませんけど」
先に行動する、と告げる少女には尊大な笑みを。
やってみせろと言わんばかりに、笑みと共に、彼女に視線を向けるだろう。
その結果、己にどんな鎖が与えられるのか。或いは、益々砲火が吠える事になるのか。彼女の選択が、今から楽しみだ。
「なら尚の事。その誰かの為に折れる様な事の無いよう、努力する事ですね。
先程も言いましたが、先輩は守ってあげますから。精々、諸々、頑張って下さいね」
応援する気など全くありません、と言いたげな口調ではあるが、それでも彼女に投げかけた言葉には、僅かながら彼女を気遣う――とうより、心配する様な色が滲んでいるのだろう。
損な性格。損な役回り。そんな彼女が折れてしまうのは、己としてもつまらない事だし。
「……私は強いので。鉄火の支配者の異名が伊達では無い事を伊都波先輩にも示して見せますよ」
そう、彼女に言葉を返した後は、視線を向ける事は無い。
閲覧室から立ち去る彼女を一瞬だけ視界の隅に捉えた後、黙々と、猛然と。己の為すべき仕事に打ち込み始めるのだろう。
この邂逅の後、彼女の行動の結果が漣を起こしたのか。或いは、バタフライエフェクト宜しく様々な切欠が重なったのか。
無辜の子供達が捕らえられた孤児院に一人の風紀委員が、己の監視役の様に派遣される事になる。
しかしそれはまた、別のお話――
ご案内:「風紀委員本庁・閲覧室」から伊都波 凛霞さんが去りました。
ご案内:「風紀委員本庁・閲覧室」から神代理央さんが去りました。
ご案内:「風紀委員本庁・閲覧室」にイヴさんが現れました。
■イヴ > 時刻は夜、機械警備によるセキュリティに守られた無人の閲覧室。
そこで、データベースに接続可能なパソコンの一台がひとりでに稼働している。
ディスプレイに映るのは、サイバーウェアに身を包んだ少女の姿をした自立思考学習型AI・Eve-00001───通称"イヴ"。
彼女が所属する風紀委員会・サイバー犯罪対策課はこの閲覧室のデータベース管理とセキュリティを担う部課であり、
データベースへのアクセス権限を有している。
とはいえ、万が一の悪用を防ぐためにAIであるイヴの持つ権限は限定的なものだ。
現段階のセキュリティクリアランスでは求める資料に辿り着けず、難儀しているところである。
『"No.161 ヒノオカ アカネに関する資料"───"該当件数:0"』
電脳体の周囲に浮かぶウィンドウに表示された検索結果を淡々と読み上げる。
未だ感情の学習が万全でないため、落胆や焦燥といったリアクションはない。
ただ事実だけを述べ、参照していたデータベースを閉じた。
■イヴ > 件の"話し合い"と称した意思表明から数日。
日ノ岡あかねが立ち上げた元違反部活生威力運用試験部隊傘下独立遊撃小隊『トゥルーバイツ』の動向は、
今や他の風紀委員の注目を集めている。恐らくは彼女の目論見通り。
聞くところによると、彼女は過去にとある違反部活に在籍していた経歴があるという。
当該組織は既に解体されており、イヴが作られた時には影も形も存在していなかった。
ただ一人、最後の生き残りである日ノ岡あかねを除いて。
"───どうせ『悪い人達』と遊ぶなら、『カッコイイ悪い人』と遊びたいでしょ?"
会場に潜入していた風紀委員の通信デバイスから傍聴していた日ノ岡あかねの言葉が、今も記憶領域に焼き付いている。
彼女が何を思い、何を為そうとしているのか。
過去を知れば解を導き出せるのではと思ったが、見通しが甘かったようだ。
■イヴ > そもそも、自分は何故ここまで彼女を知ろうと考えたのだろうか。
過激派と評される神代理央や"全裸アフロ"として記憶領域にインプットされた山本英治についても関心を示しているが、
日ノ岡あかねに対し抱いているものはもっと別の物である気がする。
AIが「気がする」などと曖昧な表現をするのは不適切だろう。
彼女の演説を聞いて、学習プログラムに何らかの変調を来しているのかもしれない。
一度メンテナンスをしてもらうべきだろうか。
しかし、この衝動とも呼べる行動パターンをバグと断じることだけはしたくなかった。
知りたい、どうしても。
プログラムである自分では閲覧権限を持たないのであれば、取れる対策は二つ。
一つは閲覧権限を持つ他の風紀委員に協力を要請すること。
もう一つは、閉鎖書架と呼ばれるデータベースに収容済みの資料が物理媒体で保管された区画を利用すること。
■イヴ > 閉鎖書架の利用には実体……せめて作業用アームの付いたドローンがいる。
どちらにせよ、今すぐに対処できる問題ではないだろう。
長時間のデータベース利用はセキュリティの観点から推奨されていない行為である。
機械警備の担当者が警備システムに引っかかっては笑い話にもならない。
ここ数日の『トゥルーバイツ』の活動記録だけ自身の記憶領域にダウンロードして、パソコンをシャットダウンした。
ご案内:「風紀委員本庁・閲覧室」からイヴさんが去りました。