2020/07/11 のログ
ご案内:「風紀委員第十三委員棟」に山本 英治さんが現れました。
ご案内:「風紀委員第十三委員棟」にフィスティアさんが現れました。
山本 英治 >  
力なく、風紀委員第十三委員棟を歩く。
大きな施設だ。否応なく、風紀委員という巨大なシステムを意識させられる。
『人を裁くのは社会であり法律だ』
いつかの教師の言葉が脳裏を過る。
レイヴン先生……やっぱ俺、アマちゃんみたいです…

手には報告書が入った封筒を持っている。
違反部活『ヴレーデゥ・ワンデレン』は作戦行動の果てに壊滅。
抵抗されたので部長をこの手で殺害しましたと。

淡々と書いた。書面を。
自分の足取りがこんなに重たく感じるとは。
人生、わからないもんだ。

フィスティア > 前方から歩み寄るアフロの同僚ほどではないが。
力、と言うよりかは自信なさげな様子で歩く白い少女。
...と言っても報告書の提出後恒例の報告書にミスがないかと言った些細な悩みであるのだが。

俯いていると言った様子はないが、その目は視界をわずかに揺るがせ、しっかりと周囲を見渡していない。
他の同僚相手ではぶつかってしまったかもしれないが。

「あっ...すみません。前を見ていませんでした...」

その特徴的なアフロに視界を塞がれかけ、ぶつかる寸前で気づけば隣に少し動いて。

「...どうかしましたか?山本先輩?」

その特徴的な姿は前回の会議でも取り上げられた名である為フィスティアの記憶にもしっかりと残っているが特に関わりはない...
...が、そのあまりにも暗い雰囲気に声をかけないではいられなかった。

山本 英治 >  
ぶつかる寸前でこちらも止まり。
それでも弾みで書類の入った封筒を落としてしまう。

「あ、いや、俺も……すまない、フィスティア」

慌てて書類を拾い集める。
そこにあったのは、青い紙。
風紀が正当防衛や制圧の段階で人を殺害した際に出す、訃を告げる紙。
通称、デッドブルーだ。

見られた、と顔を手で覆う。

「………悪い」

何を謝っているのかもわからないまま。
淡々と書類を拾った。

フィスティア > 「...それって...」

ぶつかりそうになった先輩の落としたそれは...
少女にとって触れてはならない存在で。触れてしまったら自分の最も重要視する、自分の存在する理由を穢すもので。
それを誰かが持っていたり、どこかに置かれていたりするのを見るだけで、悲しくなる青い紙。

「...山本先輩は...誰かを殺した...のですか?」

自分は誰かが殺人を犯したからと言って責めたれられる立場にいるわけでもない。
それに、その様子を見るに、殺さざるを得なかった、殺してしまったのだろうが...
それでも、聞かずにはいられなかった。

山本 英治 >  
「……ああ」

力なく答える。何を言われても仕方ないと思っている。
間違いなく、自分がヨゼフ・アンスバッハを殴り殺した。
その事実を再確認して、表情が歪む。

「違反部活の部長だ」

書類を封筒に入れ直して。
立ち上がって少女を見る。

「やむを得なかった。軽蔑するか?」

左手で前髪をいじった。
後で気付いたが。それは相手と距離を取るための心理的防御行動だった。

フィスティア > 「軽蔑は...しませんが...
本当に...殺してしまうしかなかったのですか?」

悲しそうな表情で、悲しくてたまらないと言った表情で
そう、問いかける。
違反部活部長。危険な相手だったのだろうけど...殺す必要はあったのか。
どうしてもそう思ってしまう。

「せめて...気絶させるとか...そう言った手段はなかったのでしょうか?」

自分がこんなことを言える立場ではないとは、自分でも思うが。
殺さないでよかったのではないか、と殺さないで済ませられた場合を考えてしまう。
自分はその場にいたわけでもないのに。

山本 英治 >  
「危険な相手だった」

相手の悲しげな表情が心を射抜く。
やめろ、俺をそんな目で見るな。
いっそ罵ってくれれば、心を麻痺させられたのに。

そんな目で。俺を。見るな。

「思想も、異能も………危険だったんだ」

自分に言い聞かせるように言った。
例え捕まえても悲劇しか産まないことはわかっていた。
だから、俺は……セカンドヘヴンを使った。

守るための手なんて、幻想なのか?
この力でニーナを守れたのは、ただの偶然に過ぎないのか?

「そうするしかなかった。抵抗された。やむを得なかった。行動に問題はなかった」
「……どれを聞いたら納得してくれる?」

不貞腐れたガキみたいな言葉だ。自分が心底嫌になる。

フィスティア > 「っ...わかり...ません。
きっとどれを聞いても...納得できないと思います...」

殺さないと、いけないような。生かしておいたら危険な相手だったのだろうか?
先輩にとっても、社会にとっても...殺されたその部長にとっても。

「ただ...どうしても考えてしまうんです」

自分を責める先輩を...責めていることがわかっていて責めてしまう、責めてしまっている自分が嫌になる。
お互いに得しないやりとりで...止める人がいない、気持ちの沼にどちらの脚もつかず、沈んでいくから。
加速する。

「殺さないでも...よかったんじゃないかって」

苦しそうに、絞り出すように。
同じ内容でも、その言葉に籠められるているのは、殺人行為に対する

激しい嫌悪。

山本 英治 >  
知ったような。口を。聞くな。
言葉を飲み下せない。
嫌な苦味が口の中に広がる気がした。

「じゃあどうすればよかったんだよ!?」

感情が爆発した。
周囲の風紀がこちらを見た。
俺が人を殺した噂を知っているのか、どいつもこいつもすぐに視線を外す。

「あいつは世界を憎んでた!! 殺すしかないんだ!!」

フィスティアに、言っても。
仕方のない……毒性の強い言葉が。止まらない。

「あいつはテロリストだった……大勢殺してたし、これからも殺す気だった…!」

心にもない言葉で自分の気持ちを誤魔化した。
地獄に落ちろ、このクソ野郎。

「俺は悪くねぇよ!!」

結局……それが言いたいのか…………己を失望する。深く。

フィスティア > 「だからって...だからって殺していいわけではありません!」

山本の感情の爆風が、フィスティアの感情に火をつけた。
根拠のない考えが、理論的に語ることのできない感情が溢れ出す。

「たった一つの命なんですよ?!代えの効かない、大事な命なんですよ?!」

目の端に涙が溜まる。

命には二つと同じものはない。
...少なくとも昔いた世界はそうだった。
死んだ誰かは、同じ誰かは。決していない。

「確かに多くを殺したかもしれません、これからも殺そうとしていたかもしれません、」

「でも、だからといって」

「殺して言いわけではありません!」

悲しみとエゴのこもった絶叫が第十三委員棟に反響する。
聞けば聞く程根拠のない、自分勝手な理想。甘い甘い理想。
ならどうすればいいんだと言われても仕方がない理想を叫んだ。

山本 英治 >  
心はどこまでも冷え込むのに。
頭は血が上ってどうしようもない。

「わかってるよそんなこたぁよ!!」
「殺しがしたくて風紀に入ってるヤツなんか俺は見たことねぇ!!」
「誰もデッドブルーなんか書きたくねぇんだよ!!」

掻き毟るように顔を手で覆った。

「俺だって未来を信じてたんだよ!!」

未来。その言葉を出した瞬間。
大切なあの人の記憶が。
輪郭が。

滲んだ。

「俺は……十人殺そうとするヤツは必ず殺す!!」
「百人殺そうとする十人は皆殺しだ!!」

そんなこと、考えてもいないくせに。
口先ばっかりの。クズだな。

「ヌルいこと言って、足並みを乱すんじゃねぇよ……」

そう言い捨てて、俺は書類を手に奥へ歩いていった。
滲んだ親友の顔は。

今もそのままだ。

ご案内:「風紀委員第十三委員棟」から山本 英治さんが去りました。
フィスティア > 「人の命より...足並みが大事なんですか...」

去って行く山本の背を眺めながら呟く。
そんな物のために命を軽視するのか。

「だったら...どうしたらいいんですか...私は...」

感情をぶつける相手がいなくなったことで、行き場を無くした感情が霧散する。
しかし、ぶつけられた感情はその心の中に残り続ける。
目の端にたまった涙が、一滴床を濡らしたことを皮切りに、その場に崩れ落ちた少女。

決して望んで殺したわけではない、殺したくて殺したわけではないという山本の叫びが、無責任に彼を責めた少女を責め立てる。
嗚呼、私はなんて言えばよかったのでしょうか。先輩はどうすればよかったのでしょうか。

殺すしか、なかったのでしょうか?

その後、見かねた風紀の女生徒が手を差し出すまで、少女はその場で小さく泣き続けた。

ご案内:「風紀委員第十三委員棟」からフィスティアさんが去りました。