2020/07/12 のログ
ご案内:「委員会街・公安委員会本部」に紫陽花 剱菊さんが現れました。
■紫陽花 剱菊 >
公安の一人、世間の影法師が一つ此処に帰参。
既に夜は更け、夏の短夜なれば夜明けを待つばかり。
宴帰りのの恰好のまま、時折すれ違う同志に会釈しては
男は廊下を静かに歩いていく。
突き当り、誰も使われていない一室の扉を開ける。
明かりもついていない宵闇が、今この場では少し、落ち着いた。
「…………。」
時に潜入の為に衣服を変える時は在ったが、正装はやはり息苦しい。
小さく溜息を吐けば、自らのタキシードに手を掛けた。
暗がりに、衣が擦れる音が、幾度小さく木霊する。
■紫陽花 剱菊 >
素肌から衣がするりと脱げ落ちる。
黒の衣が脱げれば、暗闇に晒される男の素肌。
其れは、男と呼ぶには余りにも艶やかで、そして、幾度の傷跡を残した流麗の四肢。
誰にも見せれまい、此の部屋の暗闇を以てしても、このような体は誰にも見せれまい。
男は、自らの体を人に見せたくはなかった。
必要な目合の時だとしても、此の女性の様な体を、傷を誰にも見せたくはなかった。
男が抱える、コンプレックスの一つである。
彼がいた世界は乱世の世、男とは得てして、筋骨滾らせ猛々しきが如くである、と。
其れの正反対を行くこの体は、ましてや、其の美しさに泥を塗る傷跡はまさに恥の上塗り。
「……ふ……。」
よくもまぁ、あんな啖呵が切れたものだ。
己を嘲り、そそくさと何時もの衣服へと身に着けた。
このくたびれた衣服。自らの体を多少なりとも大きく見せてくれる抱擁感に安心感を覚える。
■紫陽花 剱菊 >
着替え終えれば、漸く此処で明かりをつけた。
壁に備え付けられたスイッチを押し込め、白い光に僅かに目がくらむ。
最低限のソファと鏡、空っぽの花瓶。漂う埃が此の部屋の使われなさを物語る。
丁度良い。今は、今は彼女以外と顔を合わせる気は無かった。
静かに男は、鏡の前に膝を下ろす。
凛然と背筋を伸ばし、足元には紫陽花の竹刀袋。
己の映る鏡へと向き合い、艶黒(えぐろ)の糸を手に置いた。
男の髪とは言い難き、紡糸如ききめ細やかさ。
男は、自らの世界で武人たれと育てられた。
ありとあらゆる国が、雄が覇を競い合う乱世の世。
民草は怒涛の荒波に呑まれるような無常の世。
男もまた、覇を競う雄として育てられた。
だからこそ、女性のような髪は不要と父に言われた。
だが、母がそれに異を唱えた。
"此れを切り落とすのは勿体なき、我が子に情が在れば、髪糸位好きに結ばせてあげよ"。
今でも覚えている。
生涯を刃に捧げた中でも、あの日天子の如き朗らかな温もりを。
あの母の温もりを覚えていたからこそ、今の自分を、紫陽花 剱菊を民草の護刃足らしめた。
だから、男は此の髪が好きだった。
織物如く丁寧に、丹念に髪を集め、強く、強く、一つにまとめ上げる。
■紫陽花 剱菊 >
水底の様に深く、暗い黒をゆっくりと開ける。
鏡に映し出されるのは、"紫陽花 剱菊"他成らず。
自らの視線を交差させ、今一度問いかける。
己を今一度、省みる。
"己は人で在るべきか、刃で在るべきか"。
「───────……。」
男が此の島に飛ばされたのは、"道半ば"だ。
乱世の世の収束の間近。幾度の屍を築き上げた。
其れこそ最早、覚えていない。如何様な顔だったか、如何なる人物だったか。
一度生命を殺めれば、心の水晶はひび割れる。
生物が持つ共食いの忌避によるものか、或いは人が人であるが故の情によるものか。
だが、此れもまた人の無常さが存在する。
人は、多くを経験し続けると、時間と共に"慣れる"。
男の本質は酷く穏やかであり、如何なる場合を以てしても、其れが悪性であれ、生命を斬り捨てる事に悲しみを覚えた。
だが、既に"躊躇う事は無くなっていた"。
多くを斬った、斬り捨てた。物も、者も、何もかもが両断された。
人は何時か死ぬとは言うが、斬られる為に生まれて来たのかと錯覚するほどに、余りにも生命は儚い。
────全ては、必定。
「…………。」
否、そこまで傲慢に慣れる程己は人を軽んじてはいない。
静かに被りを振ったが、いつの間にか己を映しているのは
鏡ではなく、手元に握られた一本の刀。
鈍い銀色の刀身に、険しい表情の己が映っている。
■紫陽花 剱菊 >
"刀は、己を映す鏡也"。
では、此処にいる己は何か。
躊躇いも無く人を斬り捨てる修羅か。
或いは人を死を憂い嘆く泣き虫か。
────……或いは、あの少女に、夜を共に歩む者か。
「………………。」
刀身の奥、鏡に映るのは、一人の人影。
其れはさながら、漆の衣を羽織ったかのような妖艶な少女。
夜の様に深い瞳と、夜柳の様に揺れる漆の髪の────。
「──────……!」
鋭い音が、室内に響いた。
雷鳴の如き速さで振り抜かれた一刀。
それは…………
■紫陽花 剱菊 >
───────静寂。
舞い散る埃以外に、一切が不動。
刻が刻むのを飽いたかのように、何もかもが静止している。
何も起きない。ただただ、そこにあるのは静寂のみ。
そう、何も起きない。『目の前の鏡さえ、両断する事は叶わなかった』
「……ふ……。」
よもや、幾度を斬った己が間合いを見誤るはずも無い。
そう、虚像一つ斬れなかった。幾度の命を斬り捨てた剣が、其の先が、届かなかった。
力が抜けたように、笑みが零れる。
「……嗚呼……。」
其れなら、其れで良い。
斬れなかった。此処へ来て、全ての生き様を捨てて人として『待つ』と言った己の言葉に偽りはなかった。
安堵とは言い難いが、少しばかり肩の荷が下りた気分だ。
男はゆっくりと立ち上がり、鏡へと踵を返す。
ともすれば、やる事は定まった。
五月蝿と誹られようが、"彼女以外を一切合切を斬り捨てる覚悟が"。
「……あかね……。」
よもや、刃として生きてきた男は、たった一人の少女の為に人となり、修羅と成るのだ。
■紫陽花 剱菊 >
……何れ此の公安からも、去らねばならないだろう。
不忠、不義。腹を切るべき事態だ。
其れに背く事に抵抗は在れど、迷いは無い。
手元から霞の如く刃は消え、扉隣の花瓶を一瞥する。
「…………。」
そっと花瓶に触れた。
縁をなぞり、赤い血液が僅かに滴る。
血液が蒸発するように、僅かに稲光れば、過敏に添えられたのは小さく、美しい枝花。
咲き誇る花々に微笑みを向け、男は静かに部屋を去っていく。
■紫陽花 剱菊 >
──────茜の花言葉 『私を思って』
何時までも、心に思い、隣へ歩む。
静寂の帳の中でも、深い夜の底でも。
■紫陽花 剱菊 > 其れが、"人"としての、紫陽花 剱菊の『選択』だ。
ご案内:「委員会街・公安委員会本部」から紫陽花 剱菊さんが去りました。
ご案内:「風紀委員会本庁 小会議室」に神代理央さんが現れました。
ご案内:「風紀委員会本庁 小会議室」にラヴェータさんが現れました。
■神代理央 > 風紀委員会本庁。小会議室。
先程まで行われていた会合の熱気が灯る室内で、疲れた様に溜息を吐き出しながら書類を纏める少年が一人。
「……態々病院から呼び出したかと思えば。戦力が足りないだの火急の案件が多いだの…。連中、私以外に手駒が無いんじゃなかろうな…」
落第街とトゥルーバイツ。黄泉の穴付近の異変。
それらに意気揚々と戦力を派遣しようとして――怪我人の己に声がかかった。ふざけているのだろうか。
一応、他にも戦力の当てがあると嘯いてはいたが――
「…期待せぬ方が良いのだろうな」
疲れ切った溜息と共に、椅子に深く腰掛けて項垂れる。
■ラヴェータ > そして、そんな熱気が抜けきらない会議室の僅かに開かれた扉から入ってくる...白い狐。
その小さな右足で狐一匹通れるまで扉を僅かに開けば、トコトコと。
人の恐怖を知らない野生の子狐...に見えるそいつは神代の方へとトコトコと小さな4本の足で歩いて向かう。
(誰かと思ったら理央か。...確か狐の私をこいつに見せたことは無かったな。
丁度いい、揶揄ってやるか)
この姿でいると第一級監視対象とも知らずに抱え上げる奴が多い。そういう奴を揶揄うのが楽しいのだが。
誰かいるようだから会議室に入ってみれば、そこにいたのはかの有名な鉄火の支配者。
内心ニヤリ、と笑いつつ。
神代の座る椅子の真下から顔を出して、その膝に両前足を載せて。
小さく鳴き声を発して。
■神代理央 > ぼんやりと天井を見上げながら懐を弄る。煙草でも吸おうかと思っての事。其処までして、ああ、此処は喫煙所じゃなかったなと思い返して――
「……鳴き声?」
無機質な会議室に相応しくない動物の鳴き声。
はて、と視線を巡らせれば己の座る椅子の真下から顔を覗かせ、膝をちょこんと己の両脚に乗せる……猫……いや、狐?
「……どうしたんだ?こんなところで。誰かのペットか…迷子かな?」
白い毛に包まれた狐をひょい、と抱き上げると、己の膝の上に乗せて頭や身体を撫でようとするだろうか。
糖分すら摂取できていない状況。可愛らしい小動物の乱入に、思わず頬を緩ませながら。
■ラヴェータ > (やっぱり知らないか。フフフ...しばらく可愛がられてやるか...)
無抵抗のままに膝に載せられたこの狐。
毛色とは真逆で内心真っ黒である。いや、真っ黒というか嫌なやつというか。
前いた世界を含めて、この狐生100年。撫でられることは非常に多く、撫でられ経験は豊富である。
目を細めて、心地よいとでも言ってるような鳴き声を発しながら撫でられるがままで。
少し首を傾けて神代の方を見てみれば...
(ほう、これは中々に珍しいものを見たな。録画機器でも持ってくるべきだったか?)
頬を緩ませる神代。この狐的には初めてみる中々にレアな様子だ。
内心ニヤつきながら、くるりとお腹を見せるだろう。
■神代理央 > 思うが儘に撫でまわしていれば、思ったよりも人懐っこい狐の様子。
案外、本当に誰かのペットが逃げ出したのかも知れない。受付辺りに飼い主が居ればいいのだが。と思案しつつ、掌は狐を撫で続ける。
もふもふしてる。もふもふ。
「……ん、何だ。本当に人懐っこいな、お前は。誰に飼われているんだ?それとも、異邦人か何かかな?」
膝の上で一回転し、お腹を見せた狐にほやほやとした笑みを浮かべつつ。そっと触れる様に。狐の毛先を整える様に撫で続けているだろう。
■ラヴェータ > そう、この狐、もふもふである。
...中身は第一級監視対象なのに何故こうも癒しの特性を持っているのか。
世の中は不思議である。
(こいつ、案外こういうの好きかもしれんな。たまに撫でられてやれば癒しになるだろう。
まあ、このまま正体をバラさなかったらだがな!)
内心高笑い。そろそろバラしてやろうか、などと思いながら鉄火の支配者(笑)状態の神代をしっかりと目に焼き付けて...
「私が誰かもわからんのか?」
その可愛らしい口元が開かれたと思えば、放たれるのは笑いを堪えて揶揄う声。
そして狐が白い煙を発したと思えば...神代の膝の上にいるのは白い狐ではなく黒い軍服を纏った少女。
「貴様、もふもふは好きか?」
神代の膝に座ったまま振り向いてニヤニヤと笑う少女。
性格が悪い。
■神代理央 > 可愛いなー、癒されるなー……と、もふもふ撫で続ける。
委員会で肩肘を張るのも結構疲れるのだ。というか、皆己に頼り過ぎじゃないだろうか。せめて戦力位まともなのを呼べ。特別攻撃課とかいるだろ。
――そんな思考とほわほわした雰囲気は、突如膝上の狐から放たれた言葉に固まる事になる。
ギギギ、と己の異形の砲身の様に首を動かしかけて――白煙に包まれた。現れたのは、軍服の少女。
風紀委員会第一級監視対象者
ラヴェータ=ワーフェンダー=クリークラーク
「………不覚だ。屈辱だ。ああ、くそ。よりにもよって貴様か、小狐…!」
深い溜息と共に吐き出される怨嗟の声。因みに、彼女は別に小狐という体格でも無ければ年齢に至っては彼女の方が上。
ただ何となく、彼女のデータを一瞥した己がそう呼んでいるだけ。他にそう呼んでいる風紀委員がいるかどうかは知らない。
「……いつまで人の膝に乗っているつもりだ。早くどけ。邪魔だ」
心底嫌そうな表情を浮かべながら、ぐいぐいと彼女を押しのけようとするだろうか。
■ラヴェータ > 「ハハハハハハ!実に愉快だったぞ理央!実に!実に愉快だった!」
神代の膝の上で高笑いする狐もとい少女ことラヴェータ=ワーフェンダー=クリークラーク。
第一級監視対象の分際で比較的自由な行動を許されているこいつの日課は義務付けられた毎日の報告の際に誰かを揶揄うこと。
最近は狐の姿で知らない風紀に撫でさせたりペットの迷子探しをさせるのが楽しい。
そろそろその情報が広まってもおかしくない頃合いだが、神代を引っ掛けられて随分と楽しそうだ。
「そうか屈辱か!それは悪いことをしたな!」
反省の意など見られない。
実に楽しそうに笑っている。子狐呼ばわりされても負け惜しみにしか聞こえない。
最高の気分だ。
膝の上から退かそうと押してくる神代の膝の上から大人しく降りればその後ろへと小動物バリの素早さで回り込んで。
「ところでどうだ?私を撫でながらほんわかしていた気分は?屈辱か?屈辱か?それとも気持ちよかったか?」
椅子の背を前後に揺らしながら、そう尋ねて。
■神代理央 > 「貴様を……貴様を愉しませる為に撫でていた訳では無いぞ…!」
ぐぬぬ。正しくぐぬぬ。
報告書には目を通していたが、まさか己の元に彼女が、しかも狐の姿で現れるとは露程も思わなかった。
忌々し気に舌打ちしながら、膝上の少女を睨み付ける。
「ああ、屈辱だとも。小狐風情が。全く…」
とはいえ、かどわかされていた己もまた事実。
再度深い溜息を吐き出すと、膝から降りた彼女を視線で追い掛けようとして。
背後に回るその素早さについていけぬ儘、視界が揺れ始めた。
「……ええい、揺らすな。揺らすな馬鹿者!ああ、和んでいたとも!貴様の毛は忌々しい程に触り心地が良かったとも!どうせなら一生あの姿でいたらどうだこの小狐が!これで満足か、ラヴェータ!」
くわんくわんと前後に揺れる視界の中で、本当に不機嫌そうな口調で言葉を放つだろう。
何でこんなのに予算かけて自由にさせてやっているんだろう、とげんなりした溜息と共に。
■ラヴェータ > 「ああ満足だとも!『貴様の毛は忌々しいほどに触り心地がよかったとも!』.....!」
こいつには配慮という言葉はどうにもないらしい。
溜息をつく神代を見ながら神代の発言をそのまま真似れば、椅子を突き放して腹を抱えて心底愉快だという笑いを上げ出して。
「ハハハハハハハハハ!最高だ!何度言っても最高だ!貴様らしくない姿だったぞ!ハハハハハ!」
バシバシと神代の肩を叩いて大笑いを続けて。
しばらく笑えば満足したのか笑い涙を裾で拭って。
「さてさて、揶揄うのはこれぐらいにしておいてやろう。
砲撃をぶっ放されては敵わないからな」
会議室がな。
「ところでだ。
何故こんなところで書類をまとめている?貴様は暇人か?」
首を小さく傾げながら、首元から回り込むように神代の顔を見てそう問いかける。
息が近い。うざいだろうか。
■神代理央 > よし。吹き飛ばそう。
敵は幻獣。であれば、実体弾での牽制を行いながらの魔力砲がベストだろうか。
魔術回路を同調させ、砲撃用の異形を後方に配置し――
「……控えてくれて何よりだ。あと3秒ほどで、異能が発動するところであったわ」
バシバシと肩を叩かれれば、忌々し気な舌打ちと共に溜息。
まあ、吹き飛ばすのは流石に冗談ではあるが。2割くらい。
「……あのな。私は怪我で療養中の身だ。その私が態々こうして会議に出席して、書類を纏めていて、どうして暇人という感想が出てくるのだ。この駄狐」
己が怪我をしている事を、彼女が知っているかどうかなど知った事では無い。フン、と不機嫌そうに言葉を返しながらも、やたらと距離の近い彼女の吐息に顔を顰めながら視線を向ける。
「手が足りんのだ。落第街、トゥルーバイツ、黄泉の穴。これ等に対処する為の戦力がな。だからこうして、怪我人の私を引っ張り出してまで対応と打ち合わせが行われているという有様だよ」
僅かに肩を顰め、椅子を小さく軋ませて彼女に顔を向けるだろう。
ご案内:「風紀委員会本庁 小会議室」にラヴェータさんが現れました。
■ラヴェータ > 「無駄だ無駄だ、その程度も躱せないわけないだろう。報告書を読め報告書を
貴様程度に討ち滅ぼされる程私は軟弱ではないぞ?怪我をしているなら尚更だ」
肩を叩く手でそのままその少女のような顔の、疲労が浮かぶような頬をペシペシと叩いて。
流石に怪我人と聞けば多少の配慮はしたようで。そこまで鬼畜だとかそういうわけではないそうだ。
「それは大変だな。折角私のような者が3人もいるというのだから少しぐらい活用すればいいだろうに
まあ、やる気はないがな!」
やる気の有無関係なく駆り出されるだろうが。
まあ、それ以前に第一級監視対象をそう気安く動かせるものではないのだろうな、なんて程度のことはわかるが。
怪我人を動かすなんて風紀には随分と余裕がないのだな、と。
「それになんだ?そこまでの面倒事が起きているのか。ふむ、楽しそうだな」
なんて、監視対象にあるまじき発言だが。実際は特に何かをしでかすつもりはない。
それよりも異邦人街でも回ってお洒落でもした方がまだマシだ。
ただ、神代で遊ぶためである。
■神代理央 > 「……チッ。好きで怪我をした訳では無い。それに、仲間を撃つ程耄碌してもおらんわ」
8割くらいは思っていたがそこは黙っておく。
頬をぺしぺしされれば、ちょっとうざったそうな視線を向けるが抵抗する事は無い。
要するに、疲労困憊、であった。
「……貴様たちは風紀委員会の切り札。故に、厳重な封印処理が施され、管理されている。
貴様達に頼らずとも、私一人で何とかしてみせる。それが、私の仕事だ」
フン、と高慢に。傲慢な口調で言葉を返す。
それは、本心から出た言葉でもある。風紀委員として。力を持つ者として。座している訳にはいかない。力を振るわなければならない。
それが、力を持つ者の責務と信じるが故に。
「……まあ、直接学園に影響を及ぼす様な物では無いかも知れないがな。人手が足りぬのは事実だよ。もう少し、実戦部隊が欲しいところだが…」
そう考えると、日ノ岡のトゥルーバイツは羨ましい限りだ。
此方にも、あれくらいの規模の部隊が欲しいところ。まあ、贅沢は言えないが。
楽しそうだ、と告げる彼女にもそれを責める様な発言は無い。
此方とて分かってはいるのだ。こうして己を揶揄う彼女も、風紀委員会に定められた責務はきちんとこなしている。
であれば、彼女もまた護るべき対象であり、彼女の出撃を防ぐことが己の任務の一つなのだと。
■ラヴェータ > 「好きで怪我していたらM代って呼ぶところだな。
まあ貴様も大変なのだろうな。私は毎日楽しいがな」
別に労う言葉をかけること自体は珍しくもないのだが、先ほどまで全力でからかっていたこいつを見てからでは印象が180度変わって訳が分からなくなりそうだ。
よしよし、と慰めるように頭を撫でてやって。
「ふん、そう変に気張っているから怪我なぞするのだ。バカバカしい。もっと貴様は人に頼るということを覚えてみればいいのだ。それともなんだ?『鉄火の支配者』か?そんな肩書き捨ててしまえば楽だろうにな」
別にその肩書がなくなって、力も無くならないし信頼がなくなるわけでもないだろうに。
ネームバリューはなくなるが、別に死ぬわけでもない。
やれやれ、と言った調子だが、どちらかというと気遣っているようで。
「貴様らはあくまでも生徒だろう?子供が何を責任を感じているのだ
大人に任せるということを少しぐらい覚えてはどうだ?」
例えばこの小狐にな、と付け足してフッと笑って見せる。
何故この学園に通う者共はそう悩むのか。学生の分際で法を守るなんて、私の世界でもあり得なかったことだ。
どうせ私のことを守る対象だとか思っているのだろうが、私は守られるほど軟弱ではない。
■神代理央 > 「…その不名誉な渾名で呼ばれぬ事を心から喜んでおこう。大変だ、と愚痴を零すのは好みでは無いがね。…まあ、同じ風紀委員相手に疲労を見せるくらいは、な」
ギシリ、と椅子の背凭れを軋ませて身を預ける。
頭を撫でられれば、何だこいつ、と言いたげな視線を向けるだろうが、跳ね除ける事も静止の言葉もなく、黙って受け入れているだろう。
「…人に頼る?馬鹿を言え。我々は頼られる側だ。生徒から、市民から。常に頼られるべき存在だ。
肩書など、特段必要なものではない。私は私の意志で、任務に励んでいる。それだけだ」
ネームバリューが欲しい訳でも、名誉欲で任務に励んでいる訳でも無い。結局は、己に与えられた任務がそれかしとあるからこそ。
そして、護るべき人々と社会が背後にあるからこそ。腹に風穴が空いても、任務に赴くのだ。
それでも、気遣う様な彼女の雰囲気を感じ取れば、少しだけ纏う空気は柔らかくなるだろうか。ほんの、少しだけ。
「任せているさ。後方の事務処理。二級学生の避難誘導。前線に立つだけでは出来ない事は、出来得る者に任せているとも。
だからこそ、私は戦場に立つ。私に出来る事がそうであるなら。
貴様達の封印を解かずに済む社会を、護る為ならな」
フン、と生意気そうに息を吐き出し、彼女に向けていた視線を天井へと向ける。
ぼんやりと天井へ向けた儘紡いだ言葉の意志は固い。
唯、煙草くらいは吸いたいなと思う程度には疲労しているだけだ。
■ラヴェータ > 「そうやって生き急ぐから怪我なぞするのだと言っているのが分からんのか。
身に余る願望は身を滅ぼすぞ。私も似たようなものだ。こんな世界で戦争なぞしようとするからこうなる」
自分の意思で行動すれば、義務を果たせば良いと言う訳ではない。
それで我が身を滅ぼしては元も子もない。その義務は何の為に在るのか。
「なら何故怪我をした?貴様を守れる風紀の一人や二人や三人程度。
そう探さんでも居るだろうに
理央、貴様は何故社会を守る、などと言っているのだ?先に自分を守ろうと言う発想はないのか?」
「貴様が怪我して喜ぶ者がここにいるのか?」
目を細めて、真剣な口調でそう問いかける。
別に社会を守る行為を批判している訳ではない。
ただ、やり方があるだろうと。貴様と同じ義務を背負う者に何故自分を守らせないのか。
怪我せずにいられる者の一人や二人いるだろうに。
わざわざその華奢な身を危険に晒すこともないだろうに、と。
■神代理央 > 「……身に余る願望、か。そうだな、そうかも知れぬ。
しかし、それでも。我が身を焼き尽くす様な理想や願望を抱くのがヒトであり、知性ある生物だ。貴様とて、その理想に焦がれたからこそ。
そして敗れたとはいえ理想があったからこそ、こうして此処で、私と会話しているのだろう」
理想と現実。その差は言葉にすれば短く、抱えるには余りに大きい。
それでも。それでも尚焦がれ、追い求めるのが理想であり願望。年若い少年には、ソレを諦めきれぬ程の若さと青さがあるのだろう。
「…私を守って怪我をされる事は好まぬ。私は、私自身の力で護るべきものを守り、力を振るう。この身が撃たれ、砕かれ、切り裂かれても。私は、私の選択を決して違えたとは思わんさ」
「……私が怪我をして喜ぶ者は、まあ、いないこともないかも知れんぞ?それに、私が怪我を負う程任務に当たれば、その分悲しまずに済む者がいるのだ。
それはとても良い事じゃないか?ラヴェータ」
真剣な表情と声色の彼女に視線を向ければ、穏やかな表情と口調で言葉を返す。
殉教者さながらの覚悟と想い。しかしその根底にあるのは、刹那的な。己の身を厭わぬ破滅的な思考ですらある。
彼女の事を少し見直しながら。だからこそ。穏やかに、小さく笑いかけて首を傾げるだろうか。
■ラヴェータ > 「ほう、失敗も経験のうち、とでも言いたいのか?貴様は。
その通りだがな」
誰かが失敗したから。過去に失敗を得たから。
誰かが、今の自分が成功を手にすることができるのだ。
ここに私がいることが正解かどうかと問われれば、それは少し納得しかねるが。
それでも、今ここにいるのは過去の失敗を経てだ。
この世界に、この島に来たことだって、失敗からだ。
「そう悲しいことを言うんじゃない。私は少なくとも貴様が怪我をして嬉しいとは思わんぞ?
それに、貴様が怪我をして悲しむ奴もいると言うことは考えないのか?」
悲しそうな様子ではない。だが、声の調子を落として。笑う理央に。私には理解出来ないとでもいうかのように。そのような生き方で良いのか、と問いかける。
自分で自分の身をどう扱おうと自由ではあるが。
ただ、貴様が他の誰かを気遣うと言うのであれば。
貴様の事を想う誰かが悲しむことは考えないのか、と。
■神代理央 > 「そうとも言える。理想を追わず、唯々諾々と何かに従う人生が好ましいのなら、それもまた否定はしない。
しかし、例え失敗しても。その果てに破滅が待ち構えていようとも。理想を追いかけたという事実と努力は――少なくとも、貴様を裏切ったりはしなかっただろう?」
穏やかな声色の儘、笑う。
選択せずに後悔するより、選択した公開を望むのだと。
そう言って、笑う。
「…そうだな。いる。私が怪我をすれば悲しんでくれる人は、いる、だろう。信じられない事だが。
だが。いや、だからこそ。そういった人達の為にも。私は立たなければならない。私が怪我をして悲しむ人がいるなら、私が守らなくては悲しみに暮れる人も、きっといるのだから」
「……でも、まあ。そうやってお前が心配してくれるとは思わなかったよ。有難う。此処迄世話を焼かれては、お前の監視役に、怒られてしまうだろうがな」
理解出来ないと言いたげ彼女に、ゆるりと首を振って、己が立ち続ける事を告げるだろう。
何とも不思議な事に、己にも友人が出来て、想い人が出来て、部活の仲間が出来た。彼等はもしかしたら、己が傷付けば悲しんでくれるかもしれない。
だからこそ。彼等と同じ様に、傷付いて悲しむ人たちが己の背にあるのなら。戦場に、最後たった一人。モノ言わぬ金属の残骸達に囲まれて朽ちる事になっても。それはきっと、満足のいく選択なのだから。
そして最後に一言。確か彼女を含めた監視対象には、監査役の委員がいた筈だ、と思いを馳せながら首を傾げる。
少し長話をし過ぎてしまった。監査役が探しているんじゃないかと思いながら。