2020/07/23 のログ
ご案内:「風紀委員本庁・閲覧室」に伊都波 凛霞さんが現れました。
伊都波 凛霞 >  
椅子にかけ、モニタに向かうポニーテールの少女
頬杖をついて、ややぼんやりとした表情

「───……」

試験機関の間、あまり触れていなかった風紀委員まわりのお仕事
結構な数の報告内容を閲覧すれば、なかなか受け入れ難い内容もちらほら
その上で見知った名前がいくつも散見されるのだから、胸も苦しくなろうというものだ

トゥルーバイツ…
紫陽花さんの話では、良くない流れになっているようだった

「…願い」

なんとなく、呟くように、そう口にする

伊都波 凛霞 >  
自分は恵まれている人間だと思う
色々あったけれど、こうやって五体満足に生きている

「理解するのは、難しいなあ……」

ずる、と
頬杖から机に突っ伏すような姿勢へと崩れてゆく

「命を賭けてでも、死を賭してでも叶えたい願い、ってどんなんだろ」

風紀委員としての立場から見れば、彼女達の行動の正誤には議論を待たないだろう
けれど人間としてそれを見た場合はどうだろうか
理解が及ばなければ、彼女達を真っ当に非難することなんてできやしない
もちろん、止める言葉を持つにも至らない

途方も無い、無力さを感じる

伊都波 凛霞 >  
きっと考えていても答えは出ない
頭が良いとか悪いとか、学が深いとか浅いとか…
そんなことは関係なく…今すぐに、とはいかないくらい、彼女達は"遠い"のだろう

「‥……──」

そうやって机に突っ伏していると、突然浮遊感を感じた
そう、最近時たま、こうやって……、特に精神的に疲労を感じた時
試験期間中は気を張り詰めていたからか、少なかったように思えたのだけれど…
急激な眠気に襲われる

抗えず、徐々に、微睡みに堕ちてゆく

伊都波 凛霞 >  
──珍しい、感覚
あ、自分は今眠っていて、夢を見ているんだなと理解できている
明晰夢、なんて言うのだったか
まるで夢に見ているシーンを俯瞰しているような、そんな感覚

もう何度も見た光景
昼休みの、体育用具室
数人の男子生徒が群がるように、一人の少女に

あれは、自分だろうか?
あんな顔を、あんな表情をしていただろうか

あんな、まるで卑しい雌猫のような嬌声をあげていただろうか───

「───ッ、ああッッ!!!」

悲鳴にも似た声をあげて、浅い眠りから飛び起きる
ほんの僅かな時間、でも確かに眠りに落ちていた

心臓は爆発しそうなくらい鼓動が早い、頬を汗が伝っている
イヤな夢から冷めた、まさにそんな状態で

おかしい、絶対におかしい
考え込んでいたからって、今までの自分ならこんなところで眠ってしまったり、
あんな夢を見ることなんて絶対になかった

伊都波 凛霞 >  
「ッ、はァ……はぁッ……──」

顎先を脂汗が伝い落ちる
破裂しそうな心臓を、胸元をぎゅっと押さえて、浅い呼吸を落ち着かせようとする

夢の内容を、今日ははっきりと憶えている
その感覚も…空気も、全部

「ッ、う──」

途方も無い気味の悪さが込み上げてきて、慌てて、手で口元を抑えた

伊都波 凛霞 >  
夏季休暇に入り、試験期間中あまり活動できなかった
風紀委員の仕事にも手をつけられる
そう思った矢先

「ッ…はぁ…、こんな調子じゃ、まともに…」

スクールバッグからスポーツドリンクのペットボトルを取り出す
蓋をあけ、口元へと運んだ瞬間──

どろっ……

「!?」

饐えた匂いと共に異質な感触
弾かれるようにペットボトルを投げ捨てて──

床を転がるペットボトルからは、透明なスポーツドリンクが零れ出ていた

伊都波 凛霞 >  
「……おかしくなりそう」

額を抑え立ち上がると転がったペットボトルを拾う
中身は普通のドリンクで何の変哲もなかった

雑巾…は見当たらなかったので仕方なく、バッグの中にあったタオルで屈み込み、床を拭く

「(こんなんじゃ、風紀委員の仕事どころじゃ……)」

最早ただの夢だ、なんて考えは間違いだったとはっきりとわかる
早急な解決が必要だ。でも、どうやって──

頼る、しかない
周りを、誰かを、先生を
夕暮れに差し掛かり、赤い陽光に照らされながら、一つの決意を胸に刻んだ

ご案内:「風紀委員本庁・閲覧室」から伊都波 凛霞さんが去りました。
ご案内:「委員会街」に葉山翔一さんが現れました。
葉山翔一 > 「っと、何処に提出だったっけ」

今までは絶対に足を運ぶことのなかった委員会街。
そこについに足を運んだ理由はキナ臭い空気が酷くなり何か厄介ごとに巻き込まれる前に二級生徒から生徒にと変わるため。

ちょっと前にそれに関する書類が落第街に出回り仲間が何人か鞍替えしたのを知り少々遅れての登録へと。
ただ問題は何処に提出すればいいかが判らないという問題。
運よく知り合いでもいればいいがそううまい話もなく出来る駄目目立たないようにして街中を歩き。

葉山翔一 > 「ここは違うよな……どう見ても」

適当な建物を覗きはするがどう見ても事務を取り扱ってくれそうになく。
寧ろ即捕まってになりそうな様子の雰囲気に回れ右と逃げるように離れては不審な目を向けられる前にと。

「あー…くそ、ミスったなぁ……」

これなら知った顔を先に探すべきか、既に書類提出を済ませているのを捕まえておけばと後悔…。
まあ、探せばそのうちに見つかるかと気分を変えて歩く。

ご案内:「委員会街」にアリソンさんが現れました。
アリソン > 委員会街のとある一角で座り込んで人間観察をしているちびっこ一匹。
公安の腕章をいそいそと取り出すと腕に装着し 一人でムフーと
無い胸を張って一人公安ごっこな事をしてた。

暫く人間観察というか他人を観察するという行為をし続けている。
視るというか異能で視るという行為をしており、只管動かないで
委員会街のとある空間の境界に入る人物を索敵探知、
出ていく人は随時探知外していくという行為のみしている。

葉山翔一 > 「しっかしなぁ……」

本当にこの辺りは判らないと歩く。
他の場所ならば案内板な地図なり手に入るのだがこの辺りはどうにも大雑把な物はあっても細かな物はあまりない。
公安などの本拠地もあるのだから仕方ないが不便と言えば不便。

「あいつらも二度は来たくないだろうしな…呼ぶのも悪いし…」

困ったなとため息を吐き、こうなればと考え一番デカい建物を探して歩く。

アリソン > ずっと地べたに座り込んで一人観察会をしていたのだけど、
とある人物の足取りとどことない雰囲気に違和感を覚え首を傾げる事無く無言でゆっくりと立ち上がると。

ゆっくりとこつこつと床を鳴らしてとある人物の上着の裾をぴっぴと引っ張って質問をぶつけてみたい。

「あのー…なにやらまよわれているようすですが、なにかをおさがしですか?」

見た目5歳児の腕に公安の腕章をつけた子供が職務質問を開始しようとしている!

葉山翔一 > しかし来ない場所は本当に判らない。
最悪は捕まる事を前提に適当に声をかけて案内を頼むしかないかと。
やばいものの販売はやりはしたが殺しはしていないので多分大丈夫だろうと。
そう決め最悪も想定して声をかけようとすると服を引っ張られるような感覚に足を止め。

「迷ってはいるが……子供が一人でいるよりはまだマシじゃないか?」

視線の先には公安の腕章をつけた子供。
兄か姉のを持ち出したのかと考えるのが普通で、管理が雑だなとため息を吐いて。

アリソン > 委員会街に色々といる公安風紀の他に様々な委員がうろうろとしている事が多い中で
裾を引っ張った先の人物が阿漕な商売をして邪なものを売買しているとは知らない子供。
裾をピッと掴んだまま、その場に突っ立って見上げているような上目遣いを。

「まいご。いちめいがいとう。わたしはこどもじゃないぞ!…みためはこどもだけど」

公安の腕章が目に見えないか!といいたげな視線を送っている。
ため息を吐かれたような気がして 頬を膨らませる仕草は子供。

葉山翔一 > 二級生徒から正式の学生になる書類を転出するはずが子供に遭遇し絡まれるという不運。
確かに子供のような見た目の知り合いがいるが確か同年代だったはずと。
それとは違い子守は苦手なんだと頭を軽く掻いて。

「迷子じゃなくて場所が判らないだけだよ。子供はそう言うんだよ」

どこからパチってきたと呆れた目を向けてしまうのは見た目て仕方ない。
保護者は何処だと周囲を見回して…。

アリソン > 傍から観察してて足取りが一定でない上に視線が左右に動いていたり
目立たぬように時々Uターンしていたりと怪しいとしか思えないような動きをしていた青年。
委員会街であれば、何かの申請か潜入中の委員だったりするけど、
それこそ行動所作で怪しい事は見受けられないのが真の委員という者。
見た目は子供中身は別の幼児はあくまでも幼児としてではなく振舞おうと動く。

「なにおう!! わたしはこどもじゃないというのに!
 ばしょがわからないなんてただのまいごじゃないか!
 きさまのなまえとがくねんをしょうごうしたいのですが。
 なにかみぶんしょうめいしょうありますか??
 そのうえでおさがしのこともたずねることにしましょうか。」

ええい埒あかない…公安だったので職質を始めてしまおう。
幼女は幼女なりに動くが 保護者らしい人影はいない…。

葉山翔一 > 普通ならば渡りに船ではあるが見た目が見た目。
子供の悪戯としか思えずに言う事を信じるという選択が先ず起きない。
他の風紀でも公安でもいいから何処だと助けを求めるように周囲を見るが人がいない、こういう時に限り…。

「そう言うのはちゃんといた奴がやるもんだぞ。
子供が遊びでも悪戯でもやるもんじゃないな。
早く腕章を持ち主に返してこういう遊びはやめとけよ」

こいつの保護者は絶対に碌でもないとまた溜息。
子供の前で普段から何をやってるのだという感想だけが浮かび。

「書類の出す先を探してるんだ。悪いがお嬢ちゃんの公安ごっこの相手は出来ないんだよ」

アリソン > 幼女公安 外見が外見過ぎて役に立たない事が露呈。
メンタルモデルが緊急用で最低限のエネルギーで動かせられるサイズが5歳児であった為に、
子供の見た目が祟って一人で頑張ろうとしたら空ぶっている。
周囲に公安ないし風紀委員の誰かしらがいない、いなかった。

「わたしはこうあんだもん!
 いたずらでもないよぅ!わんしょうはじぶんのだもん!
 うそでもいたずらでもないよう!!」

涙という名の汗が目じりからジワリと浮かび出てきた。
保護者は一応いるというかいないというか。うっとごしごしと涙という名の汗を拭うと

「それならあっち。書類の申請?はあのビルっ」

ぴっと指さしたのはひときわ大きいビルの隣のビル。

うわーん おまえのかたいあたま とうふにぶつけてやわらかくなってしまえー!!

等と捨て台詞を言って青年の目の前から泣きながら走り去ってしまった…。

ご案内:「委員会街」からアリソンさんが去りました。
葉山翔一 > 公安という職務柄一桁に見える子供に出来る仕事だとは思えない。
借りに研修だとすればそれを命じた相手の正気を疑う事。
なのでどうあっても信じるに至らず。

「悪いんだけどな、それをどう信じろって言うんだ?
流石に悪趣味な悪戯か嘘にしか思えないぞ」

目尻に涙のような物が見えれば悪いとは思うが信じるのは無理。
早くこい保護者と願うがそれも敵わず。

「あっちのビルか。あれか」

確かに一番デカく見えるがビルの隣を見るが半信半疑。
捨て台詞と共に去っていくのを見送ると、駄目元で行ってみるかとそのビルに足を向け…。
本当にあっていたことに驚きながら二級生徒から生徒にと変わって…。

ご案内:「委員会街」から葉山翔一さんが去りました。
ご案内:「委員会街 風紀委員会本庁」に羽月 柊さんが現れました。
羽月 柊 >  
風紀委員会の本庁。余程でなければ来る予定は無かった。
建物を睨みつけるように桃眼で見上げ、首元のネクタイを軽く正す。

白衣のポケットから機械を取り出す。

先日の『トゥルーバイツ』のデバイスだ。
今は最早何の反応も示さないそれを見て眉を顰める。

死体を直接ここに持ってくるのはどうかと思ったが、
とっておきだった空間格納の魔具に入れて来た。
使い捨てなので…損も良いところではあるのだが。

デバイスをポケットに戻すと自動ドアをくぐる。

……正直、裏で活動していることもあって、なんとなく居づらい。


――幾人かいる風紀の知り合いに逢うの一番か、
とはいえ、幌川 最中に遭うのだけはなるべく避けたい所だ。
何をバラされるかわかったものじゃない。

「……すまない、死体を見つけたという報告はどこに行えば良いだろうか。」

どう言えば良いかも分からないので、受付に率直に申告してみる。

羽月 柊 >  
死体など正直落第街では日常茶飯事だ。
だからわざわざ報告するということは、それだけ"意味がある"。

だが、どう言えば良い。

しかも本来はこの風紀委員の子飼いであるはずの
『トゥルーバイツ』の死体だ。

……思えば、かなり虎穴に入っているような気がしなくもない。


だが、風紀委員とて一枚岩ではあるまい。
今まで逢って来た彼らは、それぞれが様々な考えで居た。

ならば、向いている方向も少しずつ違うはずだ。


手に持った籠の中で小竜たちが鳴く。

誰かしら、担当が来れば良いのだが。

ご案内:「委員会街 風紀委員会本庁」に幌川 最中さんが現れました。
幌川 最中 >  
受付にそう言えば、風紀委員の少女は本庁内の一室に羽月を通す。

最低限観葉植物なんかを置いて、「親しみやすい!」「自然!」なんて。
そんな雰囲気を無理に醸し出そうとしたような小さな一室に。
ノックの音が数度響いて、一度聞いたことのあるかもしれない声がする。

「おやどうも。いやあ、嫌なモン見ちまいましたねえ」

肩を竦めて、軽く――ではよくないと、少しばかりの仮面一枚。
「不幸を目の前にした市民」を目の前に、椅子を引いてから腰を下ろす。

「……『はじめまして』。
 風紀委員会の――生活課のほうの、幌川最中いいます。
 それで、お話、お聞きしたいんですが、……話しにくいですか?
 話しにくけりゃ、読心系の異能者もウチはいますんで、お気軽に」

この場には不相応なほどフレンドリーに。
柔らかな表情を浮かべたまま、幌川は羽月の瞳を覗き込んだ。

羽月 柊 >  
取り次いでもらうことは出来た。
平静を保ち、案内してもらった少女に「ありがとう。」と一言返す。

さて、誰が来るのか。

小竜たちの入った籠を足元に置くのもどうかと思い、テーブルの上に置く。


現れた、のは。

ちらりとでも考えたせいか?


聞こえた声に思わず目が見開く。すぐに戻した。気付かれていないか?
そうして対面の椅子に腰を下ろした男を…見る。

あの日、裏競売の中、仮面の奥で見ていた桃眼で。

――幌川 最中。


「…ああ、『はじめまして』。」


どうやら、約束は、守られた。


「俺の名前は羽月 柊。
 ……確かに話しづらいが、能力者に頼るほどでもない。
 ただ出来れば、"そちら"に聞いてもらって判断して欲しいのだが…。
 何分、少々面倒な見つけ方をしてしまったからな。」

周囲に人や録音・録画はされているだろうか、と暗に問う。

これは賭けだ。
約束を守った相手に対する、僅かな……信頼という名の。

幌川 最中 >  
「ああ、大丈夫ですよ」

初対面の、無辜の市民に笑いかけるように穏やかに。
凪いだ水面のように、極めてフラットな声音で男は頷いた。
男は羽月の思惑には意を向けることはない。

「それなら、同席してもらいますか。ちっと待ってもらえると。

 ……あー悪い、西九寺呼んできてもらえる? 一応保険で。
 ああいや、そういうんじゃないよ。他の人もいたほうが安心できるだろうから。
 それに、俺たちも彼も、確証があったほうが気楽だろ」

一度だけ席を立って、部屋の外の風紀委員に声を掛ける。
しばらくして、おさげ髪の女生徒がやってきてから、幌川の横の席に腰を下ろす。

『はじめまして、西九寺千里といいます。
 お伺いの件に関しまして、こちらで録音と、私の異能での確認を。
 「少しばかりの真偽感知」程度で、あなたの発言を確認させていただきます。
 すみません、不幸なお話の後にこんなことさせてしまって。
 では、以降私は発言致しませんので、どうかお気にせず』

少女が軽く頭を下げる。
どうやら、嘘をついているかそうでないか程度は彼女の異能で判別をつけるらしい。
風紀委員会にはよくあるやり方のようで、実に迅速な対応だった。

「それで、羽月さん。
 場所、時間、状況……それから、何か気付いたことなどあれば。
 お伺いをさせてもらえると、大変ありがたいんですが」

いかがでしょう、と、幌川は問いかけた。

羽月 柊 >  
どうやら相手は本当に初対面という事を貫くらしい。

人が増える。それだけ、結果の予測が難しくなるのは確かだ。
ならば仕方ない。嘘がつけなくなるならば話すしかない。
退路を柔らかく塞がれた気分になる。

本当に最悪、この場で"向こう側の道"に
逃げ込まないといけない可能性まで頭の中で追いかける。

「…時刻は昨日の夜頃、場所は落第街の通り、
 付近の目印は、――の看板が最も近い路地。」

テーブルに手を組み、話し始める。

「何故その付近にという問いは後に置いておく。
 まず先に話させてほしい。

 その場に二人の人間が居た。
 それから一方の人間が、敬礼した後に
 意味の分からない言葉を叫ぶようにしてその場に崩れ落ちた。」

嘘は言っていない。
"話していない"ことはまだ山ほどあるが、一先ずそこで言葉を区切る。

幌川 最中 >  
腹芸をするというのは、「こういうこと」だ。
第三者がいる状態で、第三者に違和感を感じさせずに、
その上で、嘘は言わないで話をすることが最も重要である。
だからこそ、この静かな緊張状態は作り上げられる。退路はない。

いいや。「無辜の市民」が、気分が悪くなったのならば、
風紀委員会は、絶対にそれ以上の追求はしないだろう。調査はするだろうが。
だから、これはいつだって降りることができる話なのだ。利は羽月にある。

「なるほど」

相槌は静かなものだった。
黄色い分厚いメモ帳にさらさらと状況がメモのように記される。
落第街の通りという情報から、頭に入っている地図と照らし合わせて紙面に記す。

忠実に。

「それから?」

桃色の瞳を、やはり幌川は静かに見つめている。
じっと。まるで穴の底か何かを眺めるかのように見やり、話を促す。

羽月 柊 >  
柊はじっと最中を見ている。こういう時、眼を反らしてはいけない。
そうなれば疑われるのは自分だからだ。

"演技"をしなければいけない。

「……毒や異能という類には見えなかった。
 双方共に知らない人間ではあるが、"同じ衣装"をしていて、
 どうやら仲間のように見えた。

 崩れ落ちた方は確認したが死んでいた。
 まだ生きている方に確認したが、
 聞いた限り『仲間割れではない』と言っていた。」

自分の中で出来得る限り、選び抜いた言葉を探し出してくる。
こういう時に限って言葉というモノは手の平から零れ落ちてしまうが、
焦らないように自分に言い聞かせる。

「……『今更仲間割れをしても無意味』だとも、言っていた。」

どの情報を出して、どの情報を出さないようにすれば良い?

相手は、『トゥルーバイツ』に対してどういうスタンスなのか。
この逃げ場の無い場所で、己はどう立ち回れば良い。

幌川 最中 >  
「なるほど、同じ衣装と」

横に座った少女に対して、「共通装束のある違反部活洗ってくれる?」と一言。
少女は、傍らのタブレット端末をつけてから手を動かし始める。

相手の意図は、幌川にもわからない。
ただ、「通報」でなく、「出頭」したのだから、
そこに何らかの意図が含まれているのではないか、と推測することはできる。

だからこそ、いつも通りに。
風紀委員会のマニュアル通りの対応以上のことは決してしない。
その必要がないからこそ。手元でペンがくるりと回る。

「その『まだ』生きているほう、っていうのは?」

見え隠れする意図までは読めない委員を横に置いている意味。
真偽以外の判定ができない少女が傍らにいる意味。
あらゆるものを積み重ねて、彼の真意を見定める。

風紀委員会内部の体制を、過激・穏健の二つに分けるよりも、
解像度をより上げるのであれば、革新勢力の左派と保守勢力の右派というほうがいい。
左派こそ目立ち、一般的な委員の中で「ちょっと」なんて言われることもなきにしも非ずだが、
それはある種の進歩主義でもあり、「より良く」することが根本にある。

対して右派勢力というのは。
旧時代において、ファシズムと呼ばれ、忌まれた体制が生まれた勢力であり。
幌川は、この右派勢力に席を置いている。だからこそ。

「今はどうかわかんない、ってことですかね?」

羽月 柊 >  
「……話をする限り、同じように"死ぬ可能性"がある。
 現在の安否はわからん。ある程度言葉で止めはしたが、意志が固かった。
 ただ対話に応じる分、まだ可能性もあるかもしれんとここに来た。」

そう、名も知らぬ少女の意志は固かった。
それでも、彼女は自分と"対話"をした。

押し問答にも近い、永久の平行線の対話ではあったが、
相手にも聞く意志があったし、自分もまた話を聞いたのだ。

死んだ男の叫んでいた『真理』という言葉。


少女がタブレット端末に眼を離したのを見て、
柊は姿勢を正すようにして、組んでいた手を離し…
己の腕を軽く二度払うように叩き、最中をもう一度見やる。

――叩いたのは最中の、腕章がある位置。

「"真実"を話しているかは分からん、だが、計画と言っていた。
 なら、あの二人だけに話がおさまるとも思いにくい。

 あんな風に不審死を次々と起こされては、流石にそちらも嫌ではないか、とな。」

幌川 最中 >  
羽月の話を聞きながら、極めて幌川は普通にしていた。
ところどころ唸るところこそあれど、それこそ気にする様子もなく。

ただ、中身が知れた瞬間。
「それ」が、一体何であるか、誰であるかが垣間見えた瞬間。
少しだけ目を細めてから、小さく溜息をついた。
傍らの少女にも「調べなくていい」と口添えてから、まっすぐに羽月を見る。

「ああ、なるほど。
 それであれば、『最近巷で話題の違反部活』でしょうな」

違反部活、と。
遠慮一つなく、躊躇いすらなく言い切った。

「かつて、そういう活動をしていたカルト部活があるようでしてね。
 その生き残りが、新しい『違反部活』を立ち上げたって話は俺も聞いてますよ。
 それは、それを見てしまったなら、運が悪かった。申し訳ない」

頭を軽く下げてから。顔を上げて、微笑む。

「風紀委員会っていうのは、対処療法しかできないんですよ。
 だから、実際に人が死なないと事前に防ぐことはできない。
 ただ、そういう違反部活が動いていることは知っている。
 ……俺達にできるのは『声掛け』程度なんですよ。全てが未遂である以上、強権は振るえない」

仕方のないことである、といった様子で、まっすぐに羽月を見据え。
『元違反部活生威力運用試験部隊傘下独立遊撃小隊・トゥルーバイツ』を。
「ただの違反部活」と言い切った。風紀委員会傘下の組織ではなく。

「進言、ありがたく。
 こちらの方でも調査は進めさせてもらいます。
 ……もし、何かあるのであれば俺の方に連絡貰えれば。
 ああ、もちろん委員会の直通番号でも問題ないんで、好きなように」

風紀委員会右派・幌川最中は。
トゥルーバイツを同じ風紀委員会の学生とは一言も言わず。

違反部活(テロリスト)だと、笑ってみせた。

「心のケアについては、後ほど別の人員が担当しますんで。
 ……今回は、貴重な情報をお寄せいただき、改めてありがとうございました」

しっかりと腰を折ってから、頭を下げた。

羽月 柊 >  
「……、……。」

相手の言葉に我が耳を疑った。
かろうじて目を見開くことだけは堪えたが、
無理な演技は最中相手には非常に滑稽に見えたかもしれない。

――切り捨てたのか、こいつは。

ここまで言い切ったということは、自分が何を示したかはっきりと理解したはずだ。
ならば、持ってきたデバイスや死体すら、意味を成さないのか?

「そうか………『死』を選らばねばならぬほど『病』に冒されたモノに、
 対処療法しか出来ないと言うのか……君らは。
 もう、実際にヒトが死んでいるというのに。」

そう、恨み言を言うしか出来ないのか。

「……では、あの名も知らぬ少女もあえなく散るのか。
 "少々変わった言葉遣い"と"尖った歯"をしていたが、まだ制服を着ていたぐらいの年齢の彼女も。」

最中が撫でやった少女も、
そして、日ノ岡 あかねも、そうなるのか。


「…何かあれば、連絡させてもらうとも。」

幌川 最中 >  
滑稽などとは、思いやしない。
滑稽などではない。そちらのほうが正しいことは。
他の誰でもない、幌川自身もよくわかっているのだ。わかっていてもそうしているだけのこと。
その視線は。もう、何年も何年も、何回だって向けられてきた。

それを批判しながら誰かに手を伸ばし、落第街に堕ちた委員がいた。
それを批判しながら誰かを救おうとし、自分に撃ち殺された委員がいた。

その両方を理解している。
理解しているからこそ、絶対に歩み寄りはしない。
理解できるからこそ、絶対にそれを肯定したりはしない。

「『死』しかない患者に、何ができるってんです」

はじめて、本音らしきものが溢れる。
半ば八つ当たりのような言葉には、穏やかに返すことは決してしない。

「末期の患者に、何をしても治らない『病人』に。
 医者も何もできやしないでしょう。それに、言い方を変えちまえば。
 ……『病巣』を切除しなければ治らない病気には、医者ならメスを入れるでしょう」

自分の信念に違いはないと。
自分の歩む道が間違いだとは決して思わないと。

それが『誰』であるかで、法は揺らいではいけない。
『誰』だからといって、許されたり許されなかったりしてはいけない。
法を守るからこそ、法に守られることができるのだ。

席を立ってから、薄く笑う。
羽月に、「どうにかしたいならあんたがやれ」と、挑戦するような視線。
自分はもう匙を投げている。行動を起こすのならば、あんたがやれ、と。

風紀委員だからといって、誰もが同じようにいるわけではない。
こうして、常世島名物の『見て見ぬ振り』が上手い風紀委員だっているのだから。

何かを変えたいのならば。「トゥルーバイツ」のように。
誰かが、何かをしてくれるのを待つのではなく。
当たり前のように首を突っ込むべきなのだ、と。リスクを背負うべきだ、と。

「俺の『上』にいるお偉いさんは、手術を選んだみたいでね」

幌川と同伴の少女が席を立ってから、「それでは」と敬礼をする。
きっといつか、羽月が見た「誰か」が死ぬ前の敬礼と、そっくり同じものを。
踵を返し、風紀委員会本庁の長い廊下を歩く。……仮面の『下』の表情、いざ知れず。

ご案内:「委員会街 風紀委員会本庁」から幌川 最中さんが去りました。
羽月 柊 >  
そこから外に出るまで、柊は最低限の言葉のみになった。

ああ、やはり渡した仮面通りだとも、狐。
君の視線はそうだ、裏で後押しするのではなく、表舞台に立てと言うのだ。

名も知らぬ相手の為に、一度だけ出逢った相手の為だけに。

『上』はこれから死ぬ人間を『病巣』だと切除するつもりなのだ。

無駄足という事は無い、逆を言えば、ここまで上辺の会話だけになるなら、
彼らに武器を持たせるような事が無ければ、明確な対立は無いということだ。
だが分からない。これ以上どうすれば良いのかと。

思えば自分の意志とはいえ、安請け合いをしたモノだ。
白衣のポケットにあるデバイスの存在を思わず確かめ直す。


本庁の建物を出ると、夏のぬるい風に頭を撫でられ、
乱暴にがしがしと掻いた。

「ああ全く……事が終わったら、貸したモノを返してもらうぞ。」

相手に名前が知れた。分かっている。
だからこそ、後ろを振り向き、桃眼でねめつけた。


唇が音を出さず、相手の名前を呼ぶ。幌川 最中、と。

――ヒトは、本当に他人を嫌悪した時、その名を呼ばぬという。

ご案内:「委員会街 風紀委員会本庁」から羽月 柊さんが去りました。
ご案内:「委員会街・風紀委員会本庁」に幌川 最中さんが現れました。
幌川 最中 >  
 
――時は遡って。