2020/07/24 のログ
■幌川 最中 >
『元違反部活生威力運用試験部隊傘下独立遊撃小隊・トゥルーバイツ』。
それの扱いに関しては、風紀委員会内部でも様々な見解があった。
それを風紀委員会の下部組織として扱ったほうがいい、という意見。
それを風紀委員会など関係なく、「トゥルーサイトの後釜」と扱う意見。
あらゆる意見が、この風紀委員会という委員会の中で渦巻いていた。
元違反部活生である日ノ岡あかねを旗印に、風紀委員会の中からも人員が集まり。
「真理」を求めている、なんてことを、風紀委員会が知らぬはずもなく。
それでいて、成功率1%未満であれば気にする必要もない、と。
『見て見ぬ振り』を続けていた風紀委員会の中でも、噂を聞くほどとなった。
旧知の委員が「そこ」へと所属を変えた少女を取り戻したいという委員も。
友人が「そこ」へと所属したが、そんなことはしてほしくないという委員も。
あらゆる委員がいた。
あらゆる人間がいた。
あらゆる想いがあった。
■幌川 最中 >
「はい」
挙手をする。
昼過ぎの薄暗い会議室に、風紀委員が集まっている。
表向きな集まりではなく、あくまで私的な友人関係という題目で。
「それならもう、俺は」
ペットボトルと書類が数枚、机に散らかされている。
黒塗られた様々な生徒に関するプロフィールを印刷したA4の書類。
そこには日ノ岡あかねの名前も、園刃華霧の名前だってある。
四十数枚の「人間」の、学園に提出されているデータがファイルされている。
「諦めたほうが懸命に思いますなあ。
……ははは、いやあ、いやあね。別にやりたい人がやりゃあいい。
俺は諦めただけなんで、別にどうこうってわけじゃあないっすから」
同席している風紀委員会は、幌川と思想を同じくする委員たちだ。
現状維持を至高として、あらゆる進歩も、あらゆる後退も望まない。
・・・・・
「……そもそも、風紀委員になった程度で、人は救えねえって」
じきに気付くんじゃないです? なんて言いたげに笑う。
赤い風紀委員の制服。右腕に巻かれた風紀の腕章。葉巻の煙を揺らす。
■幌川 最中 >
「そもそもの話っすよ、そもそものね」
違反部活謹製の、甘ったるい痛み止めの葉巻。
あらゆる痛みを誤魔化して、気を紛らわせるための違反薬物。
それがそれであることを知っていても、誰も何も言わない。
今までに、試すように後輩たちの前で吸ってきたが。
それを咎められたことは一度たりともありやしなかった。
身近な「誰か」の違反は、平気で見過ごされてくる。
何度も何度も。わざとらしくパッケージすらも机の上に置いたとて。
それでも、苦言を呈されることはなかった。
未成年の喫煙くらいなら「可愛らしい違反」かもしれない。
では、「違反部活謹製薬物の常用」なら? これも同じだろうか。
善悪も、法も。……あるいは裁きであったとしても。
それを向けられる相手によって、いとも容易く歪められる。
だからこそ、幌川は笑って言うのだ。平気な顔をして、肩を竦めて。
・・・・・
「そういうの、もう、誰も気にしてないんならいいんじゃないすか?
好きにしましょうよ。まあ、『今回』はダメかもしらんけど」
「“次”は、ある程度抑えられるんじゃない?」
幌川の言ったこと。……「止める」。
それは、あかねや華霧を止めるだなんてことでは決してなく。
『次』に、あかねや華霧の「ような」誰かを止める、という抑止のあり方である。
――だって、止まんねえじゃん。
止まんねえんだったら、それを次のために使うしかなくない?
ペットボトルのミネラルウォーターを傾けながら。
■幌川 最中 >
この、猛毒のような諦めを広めること。
この、どうしようもない諦めを認めること。
『仕方なかったね』と言いながら、なあなあでいること。
これを誰も彼もが思うようになることが、幌川の思い描く理想だ。
誰のせいでもない。
世界は、「そういうふう」に出来ている。
なにもかもが満たされることなんて絶対にありえない。
「そういう」世界を、誰もが享受することこそが。
……幌川の願う「平和」で、「十全」な世界だ。
誰もがお互いに無関心に、誰もがお互いに浅い興味と浅い理解を示し。
それでいて、表面上は――『仮面の上』では、それで十分とお互いに笑う。
幌川の思い描いている理想郷は。
実現可能な理想郷だ。事実、それが成立する可能性は大いにある。
「真理」を頼らなくてもいい、ぐうたらな、怠惰な理想だ。
「だからまあ、今回はさ。
誰が何が悪かった、っていうんじゃないよ。罪悪感を感じる必要はない。
きっと、何か行動を起こす奴は、『誰が何をやったって』やるんだから」
「違反部活・『トゥルーバイツ』。
同情はいらない。違反部活生が勝手に死ぬことに、心は動かさなくていい」
「誰かの『物語』を書き換えたいっていう人たちも同じ」
葉巻を丁寧に揉み消す。
同席している風紀委員は、その銘柄を『見ない振り』している。
「『誰が何を言ったって』、挑むのはさ。
……『トゥルーバイツ』も、『正義の味方』も、同じだからさ」
■幌川 最中 >
――幌川最中は。
■幌川 最中 >
『この世界』に、『不足』を感じられるような人間に。
■幌川 最中 >
――理想を思い描き、現状に不足を感じられるほど幸せな人間に。
■幌川 最中 >
嫉妬している。
ご案内:「委員会街・風紀委員会本庁」から幌川 最中さんが去りました。