2020/07/25 のログ
ご案内:「委員会街・風紀委員会本庁」に伊都波 凛霞さんが現れました。
■伊都波 凛霞 >
──遡ること、1日と数時間
「はい。そういうわけで例の禁書庫の本については
私が責任もって処分を検討させていただきます」
本庁ロビー、その片隅で手帳型のスマホを片手に、連絡する凛霞の姿
要件を伝えるのみだったのか、それはすぐに終わり、窓際の椅子へと腰掛け、ふぅと一息ついていた
■伊都波 凛霞 >
試験が終わって、ようやく色々と手を出せる…
とりあえずはまず、自分のこと
これが片付かないことには周りのことが覚束ない
とりあえずの目処は立った
解決の暁にはルギウス先生にもしっかりお礼をしなければ
「…あれ?」
ふと、大勢の風紀委員がどやどやとロビーを通り、各々外へ
「あ…そっか。今日、例の件の……」
■伊都波 凛霞 >
「(…心配、ではあるけど……)」
トゥルーバイツの例の件
見知った顔の人物も、参加している
──もとより凛霞は、自分のような目に遭う人を減らしたい、という理由で風紀委員になった
詳細は割愛、けれどその気持ちに嘘はない
けれどただ理想を掲げるだけでは人は救えない、守れない
人間一人で救えるものなんてたかが知れている。守れるものも、また然り
自分がそうしたいだけなら、組織には入らない
自分一人でやれば良いのだから
■伊都波 凛霞 >
だから凛霞は、少女は
自分の見える視界の範囲だけでも、手の届く範囲だけでも精一杯やろうと思った
この風紀委員という組織で、自分と同じような考えの持ち主がいれば、
それだけでより多くの人に、より広い範囲に、手が届くはずだと
全てを取り零したくはない
でも現実にそれができるのは…もしいるなら、神様くらいだろうか
「………」
じっと、自分の手を見る
小さく華奢な、女の掌。この手で掬い上げられるものなんて、きっと高が知れている
■伊都波 凛霞 >
「こんなこと、するような人には見えなかったんだけどな」
ぼそりと、小さくそんな言葉を零す
渦中の少女…日ノ岡あかねとは一度顔を合わせ、言葉を交わした
なるべく多くの人の顔と名前を覚えよう、と
日頃から風紀委員に関連する名簿には目を通している凛霞は、
彼女の顔と名前にもちゃんと覚えがあった
自分の、人を見る目がなかったのか、それとも…
溺愛する妹からも言われたように、そういったことにだけ、鈍いのか
■伊都波 凛霞 >
あの時は確か、違反部活の根城である建物の調査に立ち入った時
彼女は、散歩していた…なんて言っていたっけ
彼女の首元のチョーカーを見て、異能が使えない状態でこんなところに来るのは危険だ、と
そんな注意をしたのを覚えている
その時に彼女と交した会話は…まるで意識確認のような、そんな会話だったような気がする
救いたいのか、守りたいのか、どっちなのか…
その問いかけに、自分は両方だと答えた
そのどちらもを、力及ばずとも、可能な限り為していきたいのだと
それを聞いた彼女は…笑ったように、覚えている
■伊都波 凛霞 >
それは決してその決意を馬鹿にするような笑いではなかったと思う
それから彼女は、自分のことも『助けて』、『守って』と言い残して消えていった
その真意がわからなくてその背を追おうとしたけれど、
彼女は落第街の闇の中へと姿を消してしまっていた
次に彼女の名前を聞いたのは、落第街での集会の一件
それ以降、彼女との接点はなく…話だけを伝え聞いていた
「──………」
椅子にゆっくりと、背を凭れる
なぜこんなことを…なんて、今更なのだろう
「私と出会った時から……。ううん。違う…。
きっと、もうずっと、『助けて』もらいたかったんだ…。
…『守って』ほしかったんだ………」
…あの時、落第街を走り回ってでも彼女を追いかけ、探して、問いただすべきだったんだ
■伊都波 凛霞 >
……もう遅い?それとも、遅くない?
気づいた時には手遅れ、なんてよくある話
それが厳しい現実というもの
それとも信じる?
託して背中を押したあの男性を
信じるだけで自分が何もしないのは、本当に正しい行動?
──そんな程度の覚悟で、救えるものなんて、それこそたかが知れている
■伊都波 凛霞 >
風紀委員たるもの文武両道、一般生徒の規範となるべし
だから試験期間中は勉強に時間を割いて、風紀の仕事を疎かにする?
自分に大変な事情が出来た
だから満足に風紀委員としての活動ができない?
大きく息を吸い込んで、両手で頬を張る
バチン!と大きな音がロビーに響く
何人か、その場にいた生徒が驚いたように、こちらを見ていた
「……欲張るって決めたなら、全部やれっ」
それは、自分自身に向ける言葉
■伊都波 凛霞 >
ただし肝心要、救う方法、守る手立ては?
本人に問うのが最も早いが、捕まえられるかどうか
そして本人すらどうすれば自分が救われるのかわかっていない可能性だってある
どうすれば自分が守ってもらえるのかを考えられないことだってある
そういった時に全てを無視して救い、守ることが出来るのは…
対象の心に、居場所を持つ者だ
一番可能性が高いだろう男性の背中は、既に押した
一番可能性が高いだろう女性は、既に動いている
「なら、今の私にできること……」
■伊都波 凛霞 >
きっと今、事件に深く関わる生徒達は
『やめさせる』その一心で動いている
それは大切な人を失わないため…救うため、守るため…だろう
けれどこれだけ大きな騒ぎになった
何も残らなければ書類数枚で済む話かもしれないが、残った場合は絶対にそうはいかない
送り出した彼を信じた上で、まだ必要なもの──
生徒としての処分は、いかなる理由があれど免れないだろう
けれどその後は?その後のことを考えて彼らは動いているだろうか
締まったスマホを再び手に、誰かへと連絡をとる
「──すいません。何度も。
…いえ、お聞きしたいことがあって…はい。
風紀委員の『監視対象』について──」
■伊都波 凛霞 >
「──わかりました。後ほど伺わせていただきます。
はい。そういった措置が可能なのは知っています…。
一応、第一級監視対象の監視役を任されている身、ですから」
いくらか通話を交し、それが途切れると
しばらくの間、その画面へと視線を落としていた
……彼らが、彼女達を生き残らせることに成功した時
その時に、必要になるのは、彼女達の『居場所』だ
■伊都波 凛霞 >
彼は、彼女は
そう簡単にはできない覚悟と決意を以て、この件に臨んでいるはず
それが成功した暁に残るもの
責任の追求、処罰…
そして公になれば、罵倒・批判の的にもされるだろう
必要なものは、当然として飲んでもらう
されど『それ以上の不要なもの』から…彼女達を守る盾、鎧となろう
スクールバッグを肩にかけ、立ち上がる
上の階を見据える視線には迷いなく、これもまた一つの彼女達を救う、守る形だと信じるのだ
■伊都波 凛霞 >
───それはいわば根回し
『彼ら』が『彼女達』を生き残らせることに成功しなければ水泡と消えよう
だから?
それはもはや、動かない理由にはならない
少ない確率に賭けるのは、こちらも同じ、ということだ───
ご案内:「委員会街・風紀委員会本庁」から伊都波 凛霞さんが去りました。
ご案内:「風紀委員会本庁 小会議室」に神代理央さんが現れました。
■神代理央 >
先程迄喧々囂々と行われていた意味のない会議。
此処数日の騒ぎに加え、突然常世島各地で次々と死んでいくトゥルーバイツの構成員。事務方は対応に追われ、今夜も既に多くの風紀委員が落第街やスラムに網を張り巡らせている。
彼等を救うためにはどうすれば良いのか。今後の対応は。此れからどうするべきか。
白熱しかけた議論を終わらせたのは、小生意気な二年生の言葉。本来であれば警邏の任務に就くべきの、現場サイドの委員。
「――…救わなくてよろしいでしょう。連中は、既に"救われている"」
少年の言葉に、上座に座っていた風紀委員の上役――少し小太りの、異能も魔術も持たない男――が、率先して賛同の意を示した事を切っ掛けに。
風紀委員会は、結局動かなかった。個人の裁量で動く事は止めずとも、事態解決の為に組織として動く事を、止めた。
■神代理央 > その会議を終えたのが、つい10分ほど前の事。
約束通り、此方の意見に賛同を示した委員には目礼して退室を見送った。とはいえ、次の会議でも"此方側"について貰わねばならないのだが。
「……しかしまあ、随分と死んだものだ。幸せに死んだものだ。意義と意味の在る死を迎えた連中を羨ましいとすら思うくらいだ」
画面に映るのはトゥルーバイツの構成員達の名簿。
既にその名簿は、大部分が黒く――死を意味する色で覆い尽くされている。
そのリストを眺めているうちに、また一人、名前の色が失われた。
確か、二級学生から一般生徒に上がった女子生徒…だっただろうか。彼女もまた、救われて死ねたのだ。
「違反生や落第街の連中が自死を選ぶのは勝手だが、風紀委員のリソースを割き過ぎている。…"救わなくても良い連中"を救うために駆けずり回り、"救うべき連中"を後回しにして。
そんな事の為の会議に、何時までも時間をかけていられるか」
吐き捨てる様な言葉と共に、端末の画面を操作しようとして――
また一つ、報告書が更新される。トゥルーバイツの構成員が、死んだ。
■神代理央 >
彼等が真理に挑む理由や生い立ちなど、知った事では無い。
重要なのは、彼等には万に一つとはいえ『己の境遇に抗う選択肢』が日ノ岡あかねによって齎された事。
それが死を伴う選択であっても、彼等はそれを選んだ。であれば、何故止める必要があろうか。
何より彼等は『トゥルーバイツ』という枠に収まった事で、様々な者達の注目を浴びた。彼等を救おうと、義憤と義信に燃えて行動する者達が居た。それは良い。それは、正しい事だ。
『トゥルーバイツの構成員だから、死を選ぶ前に救わなければならない』と考え、行動する者が大勢"居てくれた。"
しかし、そうであるならば。
「私がかつて砲火に沈めた二級学生も。落第街の住民も。此処迄駆けずり回って救おうとする者はいなかった。結局は、注目しやすい枠に収まっているから。目に見えて分かりやすいから。皆彼等を救おうとする。
……たかが数十人の為に走り回る。リソースを消費する。その数十人が脚光を浴びる陰にいる連中は、結局は"いないも同じ"事だ」
そう思考を煙らせれば、改めて日ノ岡あかねという女の計画の緻密さには舌を巻くばかり。
彼女はパッケージ化したのだ。『救いの手を伸ばしたくなる者』を、綺麗にリボンで包み、トゥルーバイツというラベルを貼り付けて陳列し、風紀・公安を含めた様々な委員会と、正しい心を持った者達に売り出した。
「……私なら上手くやれるでしょう、だと?冗談ではない。此処迄上手くやれるものかよ」
煌々と会議室を照らす照明に視線を向け、椅子の背もたれに身を預けて。小さな独り言と、苦笑いを零す。
■神代理央 > とはいえ。起こってしまった事は。始まってしまった事は。
【終わった事は】気にしても仕方がない。
重要なのは此れから。今回の一件を、どう役立てるか。
「落第街の異能者も構成員になっていたのは重畳よな。あの吸血鬼擬きが加わっていたのは都合が良かった。討伐隊を編成するのは面倒故な」
「参画した委員達の穴を埋めるのが些か面倒だが……まあ、こればかりは手を抜く訳にもいくまい。募集用の告知を増やし、プロバガンダを増やし、在籍する一年生たちの教育に力を入れねばなるまい」
「後は……そうさな。トゥルーバイツの後釜は、必要だろうな。
とはいえ、その組織的な性格は矯正せねばならぬが」
キーボードを叩く。次の会議で提案すべき資料に文字が並んでいく。僅かにではあるが、揺らいでしまった風紀委員会の足場を固める為に、電子の書類が文字で埋め尽くされていく。
――色を失ったトゥルーバイツの名簿は、既に画面の隅。
■神代理央 > 「……人は変わる。しかし"人間"は決して変わらない。……でしたっけね、父様」
尊敬し、敬愛し――仄かな憎悪を抱く父親の言葉は、今も重く己を縛り付けている。
そして、その言葉が正しいとも思うのだ。こうして『救う者』と『救われぬ者』が選別されているのなら。
「……なら私は。『多くの人』が救われる社会を目指すだけだ。その為に、如何なる犠牲を払ってもな」
キーボードを打つ手が止まり、少年の瞳は仄かに、昏く瞬いていた。
■神代理央 >
「どうせ救うなら、一人でも多くの人を。どうせ救えぬなら、一人でも少ない犠牲を」
■神代理央 > 会議室は無人。もう、誰もいない。
ご案内:「風紀委員会本庁 小会議室」から神代理央さんが去りました。