2020/07/30 のログ
ご案内:「風紀委員会本庁 第一級監視対象監査役執務室」に神代理央さんが現れました。
神代理央 >  
どうやって警邏を終えて、此処迄戻って来たのか覚えていない。
というよりも、何故自宅ではなく此処にいるのか、それも覚えていない。
帰還した己を迎えたのは、電脳空間にアップロードされた動画と音声データにてんやわんやな同僚や上役達。
何があったのか、と迫る彼等を振り払う様に、執務室へ閉じこもる。

「……やってくれたな。いや、してやられたと素直に言うべきか。
 もう、私が落第街の住民を救おうだの、配慮しているだの
 そんな事を言っても、誰も信じまいな」

疲れた様に椅子に腰掛け、アップロードされた動画をぼんやりと眺める。
風紀委員として職務に当たり続ける事も難しいだろうか。
いや、散々に己の『暴力』を酷使してきた右派の連中が、今更己と言う手駒を手放すとも思えない。

結果として、己は一つの居場所を失ったのだ。
『更生した風紀委員会』
という居場所を。

神代理央 >  
「であれば。結局は今迄通りか。
 浅ましく、意地汚く、殺し続けるしかあるまいか。
 何時か、俺が殺されるその日まで」

凭れ掛かった椅子の背もたれが、ギシリと音を立てて己の体重を受け止める。
あの男の言っていた通りだ。
嘗ての己なら、男に惑わされる前に引き金を引いていた。
こんな動画が晒されようと、平然としていられた。

いや、結局は今も望まれているのだろう。
『無辜の民にすら引き金を引く風紀委員』
という立場を。役割を。

「……私は、選択を違えない。私は、自らの選択を、後悔などしない」

「この結果も。私自身の行動によって生まれたもの。
 であれば、それを今更悔いたところで仕方があるまい」

「今迄通りに戻るだけだ。今迄通り。
 そうすれば、俺は、死なない」

神代理央 >  
 
 
「…ああ、皆に合わせる顔がないな」
 
 
 

神代理央 >  
小さく呟いた少年の顔は、ほんの一瞬だけ。とても疲れた様な、笑み。
しかしそれは一瞬。
表情は直ぐに切り替わる。 端末のキーボードに手が伸びる。
メッセージを送る。 データを送る。 書類を打ち込む。
己が"元通り"になる為の儀式が進んでいく。

「……私は弱くなっていた。 弱かった。
 だからこそ、こうして揺らぐ。
 立場も 意志も 矜持も 揺らぐ。
 それでは駄目だ。
 それでは、果たすべきが果たせぬ儘朽ち行くばかり」

「私は『多数派』と『システム』の為にある。
 あの領域で。 あの場所で。 私は私の理想を見たじゃないか」

「屍の山脈を。 血の大河を。 全て踏み越えて」

「高い城の王に、ならなければ」

神代理央 >  
やがて鳴り響くコール音。
流石に、何時までも無視している訳にもいかないだろう。
宮仕えである以上、起こした事への責任は取らねばなるまい。

「…傷付いた名誉は、実績で回復させねばならんからな」

小さく背伸びをして立ち上がると、呼び出されている部屋へと足を向ける。
後に残っていたのは、主のいない部屋でぼんやりと輝く端末だけ。

映し出された画面に滲む『浄化』の二文字が、ブラックアウトする画面と共に、消えた。

ご案内:「風紀委員会本庁 第一級監視対象監査役執務室」から神代理央さんが去りました。
ご案内:「懲戒審査委員会」に幌川 最中さんが現れました。
幌川 最中 >  
学園を運営する重要な組織である「委員会」の本部などが立ち並ぶ一画。
その「どこ」であるかは表向きには伏せられているが、
懲戒審査委員会は公安委員会が主導する委員会の自浄のための会議であり、
この会議の内容は重要機密として扱われ、部屋の外に漏れ出すことは絶対にない。

ある種、委員たちに対する見せしめ的な部分がないわけでもなく、
委員の生徒であるならば傍聴はいくらでも許可される。そう、今だって同じ。
それでも、情報が漏れれば参加していた委員にも調査の手は簡単に伸びる。
だから、好んで懲戒審査委員会なんぞに足を運ぶ委員というのはとびきりの物好きだ。

――懲戒審査委員会。
簡単に言えば発生した問題に対しての事実関係の確認などが主目的とされ、
常世学園の中で発生した問題の責任関係を明らかにして、
当事者に責任がありと判断された委員の引責などをはじめとした処分が決定される委員会。

その俎上に幌川最中は立たされながら、相変わらずの調子で表情を崩している。

火のないところに煙は立たない。
ただ、普段の行いを見るにどうにも裁定するのが難しい。
誰の意図で何が行われたのかわからない。故に、ポーズとして。

これは、「風紀委員会保守派閥」による、パフォーマンス・ショウだ。

幌川 最中 >  
部屋に下げられた大きなスクリーンに、
消しても消してもどこからか湧いてくる動画がプロジェクタによって映し出される。

――「幌川最中と作戦を共にする前のアンタになら、もう俺は殺されてる」。
――「幌川最中の汚職を受け入れた」。

一度再生されてから、スクリーンは黙り。
もう一度、再確認を求めるかのように同じ部分が切り取って再生される。

幌川は、何も感じていなさそうな表情で頬を軽く掻く。
へらへらと笑いながら、公安委員会の刃先が首にあてられるのを待っている。
子どもたちによって行われる『学芸会』にしては些か議題が小難しいが、
結局のところは「そう」でしかない以上、幌川の表情が崩れることはない。

茶番なのだ。
実際に、生徒会やそれに準じる誰かが出てきていない以上。
これはパフォーマンスでしかなく、見世物でしかなく、そこに真の意味はない。

故に、くだらなさを愛してやまない幌川はこれに乗る以外の選択肢はなく。

『幌川最中くん』

議長を務める、公安委員会の中でも堅物と評判の男に呼ばれ。
気の毒に、こんなくだらん話につきあわされるとは。
……ああ、もしくはそういう「役割」を彼は負っているのかもわからん、と。

「うっす!」

可哀想に! という感情の籠もった返事をして、すくっと立ち上がる。

幌川 最中 >  
『先の、言及された件について。
 ある程度の調査を行ったが、君から思い当たることはあるか。
 本件に関しては、司法取引として先に君の口から語られた場合に限り、
 内容によっては身柄を公安委員会預かりとして、《協力者》と扱うと先に宣言しておく』


あっそうなんだ。
思ったよか俺の扱い悪くないな。
誰かしらが手を回してくれたんだろうな。ありがてえ~。
それで、ええと。なんだっけな。汚職? 汚職の話だよなこれ。

…………。

汚職って、“どの”?

……。 まあ。
それなら適当に、『ウケそうな』話をでっち上げるか。

汚職がなかったと言ったってそこに意味はない。
だから、それなりにタイムリーでそれなりに「面白い」話を提供すべきで。
ある程度の汚職(とされるような何か)があったことを認めるのが仕事だな。


「えー……、そうですね。
 大変申し上げにくく、やらかした、という形になりますが。
 本件に関しまして、多少の謹慎やその他処罰は全面的に受け入れる所存であります」

居住まいを正す。
そして、両手のひらを見せてから、困ったように眉を下げて。

「先の一件。日ノ岡あかねの主導した危険行為――、ええ、はい。
 トゥルーバイツによる集団自殺行為に関しての、調査中機密を、ですね。
 記録していた書面を……このくらいのメモ帳を、落第街のほうで紛失しまして。
 スられたのか、落としたのかは定かではないんですが。
 少なくとも、『誰かしら』の手に渡ってしまったという事実は恐らくあるかと」

「本件を報告していなかったことは処罰されて然るべきでしょう」

本当のことを言えば、『手を滑らせて』、『誰か』が知ってしまっただけだが。
事実はある程度の物語性を付随させて、そういう『設定』へと変わる。

周囲では、溜息がいくつか重なった。

幌川 最中 >  
「……それから、理央ちゃ……神代くんとの仕事。
 彼が負傷した一件以外に直近では覚えがなく、恐らくその一件の話でしょう。
 あの時は『恐らく強硬策に出るだろう神代くんのストッパー』として召喚され、
 軽く話をした程度と覚えていますが。恐らく、俺以外の要因を洗ってもいいでしょう。
 風紀委員会としての作戦でしたから、俺個人だけに絞るよりも効率的かと」

いくつかの会話が、着席した幌川の前で行われる。
顔を見れば、なんとなく『どういう』会議なのかというのがわかる。

右から。手垢のついていない公安委員。
風紀委員会と親交の深い公安委員。サボり癖のある公安委員……と、その後も続く。
明らかに、「なあなあで流せる」相手しかいない。
警戒すべき相手はたった一人。
どこの誰にも手垢のついていない公安委員で、『自称・正義の味方』。

「(いやあ、本当にありがたい限りだな……。
  『正義の味方』以上に、誰かの『ちょっとしたミス』を咎められない奴はいない)」

「……正直、この程度しか想像つかないんですけどもね。
 以上恐らく、自分の頭の中にある『汚職』です。すんません、怠慢で」

頭を下げてから、顔を上げる。
この証言が『正しい』ことは、既に証明されている。
記憶を読む能力者がいることを見据えて、この噂が流れ始めたあたりで、
落第街のグレースレスレのドラッグに手を出した。

頭の中の情報を混乱させて、思考を鈍らせ、快感を得るに一番丁度いい状態を保つ薬。
他人越しに感じられる快感と脳内物質で、彼/彼女らの判断を鈍らせる。
その薬が、記憶を読むタイプの能力者にとって銀の弾丸になると知っている者は少なくない。
それでも、《委員会街・このまち》には多くない。

既に呪われている男だからこそ取れる、こうした「裏技」を幌川はよく知っていた。

幌川 最中 >  
 
―― A little later.
 
 

幌川 最中 >  
 
 
「それよりも、消息不明の風紀委員の方が危険では?」
 
「更に、話を聞くに神代くんの恋人って話じゃあないですか。
 いやあ、気ィつけて損はないと思いますけどね。聞いてますよ。
 ……不死の異能者で、感覚共有の異能者が行方不明になったって話。
 なおかつ、あかねちゃ――日ノ岡あかねに、それを躊躇いなく使ったらしいじゃないですか」

「一体、何をするかわかりませんよ。
 《そっち》を探す手伝いはできますけどもね。俺は。
 『風紀委員』に助けを求めなかったのも、何かしらの理由があるんでしょう」


二週間の謹慎処分を言い渡された幌川が、会議の終わったその後に。
公安委員会の『無色』の委員へと、噂話をそっと口添える。

『無色』へと情報を渡す理由は、恐らく「良心」に従った行動を起こすだろうから。
そこに意図がない、純な人間の動機だけで動くだろうから。

水無月沙羅。
『彼』の牙を多少也とでも抑えるために送り込まれた少女/お人形。
どういう因果か、『そういうこと』になっているらしいが。


「……女の子ってのは、何しでかすかわかりませんよ。
 日ノ岡しかり、園刃しかり。女の子ってのは、色恋沙汰が混じると、途端に話が小難しくなる。
 ああー、嫌だねえ。日ノ岡と園刃のほうがよっぽど扱いやすい。
 ……ええ、はい。それで。はい。そんなとこでしょう。 
 公安委員会さんも精が出ますねえ。俺は二週間くらいは風紀クビですんでね」


「いつでも、手伝いますよ」
 
 
幌川は頭を下げてから、へらりと笑う。
彼女は、言ってしまえば過激派が神代理央につけたストッパーだ。
そのストッパーごと壊れてしまったともなれば、困るのは一体誰だろうか。

自分たちは困らないが。自分と対照的な場所に居る《彼ら》は求心力を失う。
2週間、自分が風紀の腕章を失う代わりにもっと重たいものを失わせることができる。

ああ、これだから。


「やめらんねえなあ、風紀ってやつはさ……」

ご案内:「懲戒審査委員会」から幌川 最中さんが去りました。