2020/08/25 のログ
ご案内:「委員会街・風紀委員会本庁 / 資料室」に幌川 最中さんが現れました。
幌川 最中 >  
「行方不明ねえ」

夏休みの風紀委員会本庁。
暇でない風紀委員たちからの「働け」の声に幌川は溜息をついた。

「……水城九重。男子。2年17歳、一般委員。
 よく俺知らんけどもなあ。話を聞くに、重要任務だかなんだかってんだろ?
 それなら俺がどう探したところで見つからないと思うけどねえ」

ほら、荒事とか、そっち系のあれでしょう。と付け足し。
幌川の背後にぴったりと立っている少女は、重苦しい溜息をついた。

『私はこの後予定がありますので。
 ……いえ。別に。ただ、友人と食事に行くだけですが。
 気味の悪い顔しないでください。友人と食事くらい誰でも行くでしょう。
 ……では。『一応』、調査の報告書くらいは上げないと――』

一拍。

『“彼”は、納得しないんじゃないですか?』

そう告げてから、少女は古臭い黴の匂いのする資料室を後にした。
資料室に残るのはただ一人。山積みの書類を目の前にした28歳男性(彼女なし)だけ。

「とはいっても、5年前の事件の再調査なんて。
 誰がこんなん得するんだかなあ……。時間の無駄と思うんだがなあ……」

幌川 最中 >  
事件の記録《ログ》は、ウェブ上で管理され始めて久しい。
あらゆる物語は記録《アーカイブ》されるようになり、
過去のこともほんの少しだけ手を尽くせば手に入れることは容易だ。

……それも、『表に現れた』事件に限るが。

風紀委員会は、清廉潔白な委員会である。
間違いなく、常世島の警察組織として日夜委員たちは仕事に励んでいる。
基本的に、泡のように浮上してくるような委員たちは『そう』であるはずだ。

だが、中にはそうでない者もいる。

隣の誰かが、本当に人を殺したことがないかわからないのと同じように、
手放しに清廉潔白だとは言えないような委員が在籍しているのを幌川は知っている。

本人たちが望んでいるのか望んでいないのかはさておいて、
『表向きに査問会に掛け』、『表向きな謹慎処分』を受けているだけの者もいる。

同じ委員の隣人へと、引き金を引いた人物だっている。

それは決して一人ではない。
丸腰の相手に対して暴力という手段を選ぶことは許されることではない。
本来、警察組織であるのならば大スキャンダルだ。……だが、それも揉み消される。

誰かの都合のいいように。

幌川 最中 >  
幌川最中は、これを偽善だと知っている。
ほんとうの《善なるもの》なんかでは決してない。

……それも、ある種当然である。だからこそ受容する。
だからこそ、それを「あるもの」として、見ないふりを繰り返す。

そも、人間という種族が善であるはずなどないのだ。
もし《善なるもの》であるのならば、この常世島に風紀委員会は必要ない。
公安委員会だって必要ない。誰もが《ただしい》のであれば、それらは不要な組織だ。

「5年前の違反部活摘発時に行方不明になった委員の遺体が発見され、
 あらゆる検死を行った結果、少なくとも他殺であることが確定したと」

がしがしと頭を掻いてから、最新の《記録》を確認する。
携帯端末上に表示されている文字列は揺れることのない真実らしきものを示している。

「怖え話だよ、今更になって――」

くすりと小さく笑い。
肩を竦めてから、携帯端末の灯りを消した。

「風紀委員に支給されている武装での死亡が確認て。
 ……調べたところで、みーんな卒業しとろうに。困ったもんだね」

夏の怪談なら背後に化けて出るタイプのやつだよなあ、と一人思索し。
常世島に居着く悪霊は、困ったように首を傾げて。

「事件の捜査とか、俺の仕事じゃあないんだけどなあ」

ぼそりと呟いてから、資料室を出る。
ここに何もないことは知っている。あの事件は、たしかに。

自分の記憶の中に、色濃く残っているのだから。

ご案内:「委員会街・風紀委員会本庁 / 資料室」から幌川 最中さんが去りました。