2020/09/01 のログ
ご案内:「委員会街・風紀委員会本庁地下勾留室」に比良坂 冥さんが現れました。
比良坂 冥 >  
──ガシャン

重い鉄格子の音
そして続くように、数名の足音が、硬質な床を叩く

比良坂 冥 >  
『監視担当の風紀委員、見つかったのか?』
『いや…それが夏季休暇中から行方が……』
『またかよ。やっぱり何かあるんじゃないのか』

ぼそぼそと、口々に小さな声で話す風紀委員数名

格子の向こう側には、くすんだ白い髪の少女が一人───

「………」

拘束服に、目隠し
ヘッドホンで外側の音をシャットアウトされ、椅子に座っている

「……ねえ」

ゆっくりと、じっとりとした喋りだし
まるでスローモーションでもかかったかのような、ゆっくりとした言葉が少女の口から漏れる

「……新しいひと。見つかった?」
「……もうすぐ新学期…でしょ?」
「……また、新しい人と出会えるなら。嬉しいな」

抑揚のない。感情の感じられない淡々とした言葉
その声がまるで、呪いでもかけられているかのように不気味で、風紀委員の3名は息を飲む

比良坂 冥 >  
『…音、聞こえてるんじゃないのか』
『バカな。視覚も聴覚も塞がれてる筈だ』
『じゃあ俺たち以外の誰かに向けて喋ったっていうのか?』

にわかにざわめきだす風紀委員

そんな彼らを尻目に、クス、クス…と少女が笑う

「……ほら、私を自由にさせにきたんでしょ?」
「……何も証拠なんて、なかったでしょ?」
「……早く出して。此処、独りだと寂しいの」

僅かにその身を捩るようにしながら、言葉を投げかける
拘束服の首元から黒いチョーカーが覗く
──元・違反学生でもない少女に、特例として与えられているそれは

『…異能の抑制はできているんだよな?』
『……そのはず。でなきゃ、大人しくこんな場所に捕まってない…んじゃないのか』

比良坂 冥 >  
『…とりあえず指示通りにするぞ』
『ああ…』
『………』

気乗りしない表情のまま、格子扉を開き2名が勾留室の中へと入る
踏み込んだ瞬間、あまりの異質な感覚にその表情を歪めながら

一人が、ヘッドホンに手をかけ、外し…
もう一人が、目隠しをそっと外して

「………」

ゆっくりと、少女が眼を開く
やや眩しげに、瞼を細めて
覗く、昏い瞳はまるで光を映さず、覗き込む者を飲み込むような───

『比良坂 冥。容疑は晴れた。勾留を解く。
 ただし君が危険な異能の持ち主であることは変わらない。
 例外的な措置ではあるが抑制装置の着用義務と……監視員は、決まり次第連絡しよう』

少女と眼を合わせないよう、風紀委員の一人が読み上げる
決まり文句ではあるが…少女が此処に来たのは1回ではない
島内で度々起こる、神隠しのような行方不明事件
その多くに、必ず容疑者として名前が挙がるにもかかわらず、一度も証拠が出てこない
──そんな、風紀委員からすれば不気味でしかない存在だった

「……次の人は長く続くといいね」

ぽつりとそう零す少女の声に、その場の全員が怖気を覚えていた

比良坂 冥 >  
特別強力な異能であったり、暴走が大事故に繋がるものであったり
そういった、制御が効かない異能の持ち主、または危険な思想でそれらを扱う者に対しては
違反学生として扱われずとも、特別な措置が用いられることもある

彼らの目の前の少女が、まさにそれ

少女が島へと移り住んで以降、実に30人を超える人間が、その周囲で消息を断っていた
その数には、彼女と共に島に移り住んだ筈の家族や、監視に当たった風紀委員も含まれる
その容疑で勾留されること1年半の期間の間だけで既に13回
そのどれもが証拠を見つけられず、釈放となっていた

風紀委員達が拘束服に手をかけ、その拘束を解いてゆく
ベルトが外され、その下着姿を顕にすることになっても…誰一人それに目を奪われることもない
見てはいけないのだと本能に訴えかけられていた

別の一人が用意した着替えに少女が手をつけ、身につけてゆくまでの間
無音の中、僅かに聞こえる衣擦れの音にすら聴覚が鋭敏に働く

「……目を離してていいの?」

だからこそ、少女が小さくそう零した声には、心臓を握りつぶされたような感覚だっただろう

比良坂 冥 >  
『…着替えたら早く出ろ』

必死に、視線を合わせないようにしながらそう促す

少女にはわかっている
彼らはみんな、自分が怖いのだ
もしくは、嫌いなのだ

だって、誰も私を見よウト死ナイかラ──

………

……



『はぁー……終わった終わった…』
『また何かの容疑で此処に戻ってこないだろうな…あの子』
『あり得る…異動願い出そうかな……』

ため息とともに、口々にようやく行ってくれたと言葉を漏らす
普通の犯罪者相手にだって、ここまで緊張することはそうそうないだろうに

比良坂 冥 >  
『…ん、お前…背中……何か』
『あ?…何… …痛ッて…!? …──ムカデ!?なんでこんなトコ…』
『…おい!上───』

背中に手をやった風紀委員が激痛に戻せば、赤黒く噛まれた部分が変色した自らの手と、大きな蜈蚣の姿
そして一人が叫ぶと同時に天井を視れば、そこには……

───

「……新学期、か…」

本庁の外に出ると、今日は曇天
夏の陽光も厚い雲に遮られ、今にも一雨来そうといった、じっとりとした空気だった

「……新しい、素敵な出会いがあるといいね…。そう思わない?
 折角別れがあったんだから、きっと」

チャラ…とポケットから取り出した鍵束
恐らくたくさんの合鍵が纏められているだろう、その一つに指先で振れる
パキ…と乾いた音を立てて、合鍵の一つがまるで枯れ枝のように砕け、折れた

「……──ツマラナイ人だったね」

そう呟いて、ポケットへと鍵束を戻し、歩き去る
背を向けた、風紀委員本庁
その地下の拘置所に、なぜか大量のムカデが発生したのは、ちょっとした話題となった

ご案内:「委員会街・風紀委員会本庁地下勾留室」から比良坂 冥さんが去りました。