2020/09/04 のログ
■水無月 沙羅 > 「人間らしくて、一生付き合っていくしかない、ですか。」
それはつまり『椿』ともまた、付き合っていくほかない、という事なのだろう。
彼女と話ができるのならよかったのだが、生憎それは叶わない。
私に彼女という人格がある事もつい最近分かったことでもあるし、ほとんど自覚もないのだ。
彼女が表に出ていたあの短い時間の事を、自分は映像記録と伝え聞いたことでしか知らない。
『未知』が怖い、そう思うのは久方ぶりだ。
星空に隠されている未知はいつだって自分をわくわくさせてくれるものだった。
いつだって自分を成長させてくれるものだった。
知らないものがこわい、知らないという事が怖い、人との付き合いが増えるにつれて多くなったことのひとつだ。
「そういう時は、『俺が傍についているから』、って言ってくれるとなお安心できると思うんですけどね?」
自分に自信がないというのは理解できるが、そこまで言うのならもう少し頼りになるような言葉が欲しいと思ってしまう。
確かに彼は怒りに任せて暴走することが、沙羅の目から見ても何度となくあったが。
それはそれ、これはこれだ。
「もっと頼らせてくださいよ。 貴方は、頼ることも頼らせることもしないおつもりですか?」
抱きしめられ、胸に顔をうずめるようにしながらボソリとつぶやいては、少しだけ彼の顔を見上げる。
全く困った人だなと苦笑いして。
■神代理央 >
「一生付き合っていくのか。それとも、向き合った上で違う答えを出すのか。それは、お前しか決められない事だ。
勿論、答えを出す為に色々な人が、色々な言葉をきっとお前に与えてくれる」
「お前の選択も、与えられた言葉も。それらは全て尊ぶべきものだ。沢山悩んで、沢山考えて、沢山頼って頼られて。
そうして出すべき答えを、急ぐべきではないだろうし」
『未知』が怖い、というものもまた、人として当然の感情。
出会った頃は随分と無感情だった『水無月沙羅』という人間が、人らしく成長しているとも言うべきなのだろうか。
『恐怖』もまた、成長する為に必要な感情なのだ。それに怯えて、焦って、答えを出す必要はないと、語り掛ける。
「……むう。戦闘や金の話であれば、俺も多少は役に立てると思うんだが…。その、何というか。アドバイスとかそういう点はな…」
全く以て正論極まりない恋人からの要望に、眉尻を下げてしょんぼりと。確かに、恰好をつけて頼りになる恋人として在りたいと思ってはいるのだが。
「…頼りになる様な男は勿論目指すけど。お前がどんな選択をしても、どんな答えを出しても、俺は必ず、お前の隣にいる。
……今の俺に出来る事は、それくらいだろうからさ」
抱き締めた彼女の躰を、離すまいと腕に力を込めた儘。
苦笑いと共に此方を見上げる彼女を見つめながら、真面目な表情で言葉を紡ぐだろうか。
■水無月 沙羅 > 「急いで出すべきではない、答え。
……でも、何時までも目を逸らしているわけにも行かない。
だから、考え続けて、悩み続けるしかない。
いろんな人たちに助けてもらいながら。」
繰り返しながら、自分の中に落とし込むようにしみこませてゆく。
私に言葉をくれる人たちはいつだって、助けの手を伸ばしてくれる。
それは言葉だったり、行動だったり、形は様々だ。
それでも共通して言えることは、急ぎ過ぎるな、という事の様な気がする。
私は、そこまで急いでいるのだろうか。それはまだ、自覚できてはいない。
何時でも全力で考えて行動する、休むことなく。
それを急いでいるというのならば、きっとそうなのだろう。
「人間として『生きる』っていうのは難しいですね。
お互いに。」
彼もまた、自分と同じように休むことを知らなかった人間だから、二人は似た者同士で、同じような悩みを抱えている。
だから、私に送るアドバイスが無いという事なんだろうけど。
「理央さん、役に立つとか、立たないとか、其処は関係なくてですね?
ですから、こう。
はっきりと言わないとダメですか?」
力を込められ、密着する身体にそっと耳を傾けた。
聞こえてくるのは彼の鼓動の音。
ゆっくりと脈打つ其れを、愛おしくも思う。
「傍に居てくれるだけで、十分だっていう事ですよ。
好きな人が一緒に悩んでくれたら、傍で支えてくれるなら、其れって幸せだと思いませんか?」
鼓動に耳を傾けたまま、そっと背中に腕を回して抱きしめ返す。
こうして彼の腕の中に抱かれるのも、随分久々のように思えた。
■神代理央 >
「そしてそれは、俺自身にも言える事だ。割と、外面だけは良い様に取り繕ってはいるが…まあ、お前も良く知っている通り、俺も意外と悩み多き少年だからな」
「だからこそ、御互いに。俺とお前と。二人で悩みも恐怖も、共に背負っていけたら…何て、何時ぞやお前に言われた事の、受け売りだけどな。
人間として『生きる』事は難しい。でも、だからこそ美しい。
此の世にはまだまだ、美しいものが沢山ある。お前にはそれをもっと知って、もっと見て欲しいからさ」
全力で走り続ける事しか知らなかった少年と少女。
止まる事は許されず、止まり方を知らず。そしてそれは今でも、そうなのかもしれない。
だからこそ、きっと二人は寄り添って歩いていける。似た者同士で、同じ痛みを知って、同じ悩みを抱いているからこそ。
――だけど一つだけ。似た者同士でも、彼女に敵わない事が有る。
「……全く、お前には色々と教えて貰ってばかり。気付かされる事ばかりだよ。お前が傍に居てくれるなら、一緒に悩んでくれるなら、共に支え合っていけるのなら。確かにそれは、幸せな事だ」
腕の中の彼女は、小柄な己よりも少しだけ、小さい。
こんな小さな身体で、どれ程の苦悩と痛みを抱えてきたのだろうか。
彼女の悩みを全て解決できるか、と言われれば自信は正直無い。それ程の人生経験が、己にはきっと足りない。
だからせめて、彼女の傍に居る事が出来れば。彼女を支える事が出来れば。
己の事を常に支え、助けてくれた彼女を『愛する』事が出来れば、と思うのだ。
「……また、二人で何処かに出かけよう。夏季休暇の間には行けなかったけど、海とか…プールとか。あと、水族館とか映画館とか。
そういう恋人らしい場所に、二人で、行こう」
もし良ければ、今日此の後部屋に来ないかと。
それを誘うだけの勇気は、ちょっぴり足りなかった。
■水無月 沙羅 > 「そうですね、難しくても、美しいと思う。
だから、いろいろな人たちにそれを分かってほしい。
それが、わたしが風紀を続ける理由なのかもしれません。」
何度間違ったとしても、その美しさを知ってもらうために、諦めてほしくないと手を伸ばすのだ。
あの鋼という名の半龍の少女にも。
少年の言葉に、くすりと微笑む。
自分の幸せがどこにあるのか、この人にはそれをきちんと言葉にしなければ伝わらない。
察しろ、というのはきっと自分の我儘なのだろう。
だから、お互いに理解するために言葉を交わし合うのだという事を、ここ最近になって理解し始めた。
「あ。そ、それなら行きたいところ、あるんです!
えっと、プールも行きたいし、水族館も、海も、行きたいけど。」
私達は、普通の恋人らしくなくてもいい。
自分達らしく歩んでいくと、言ったばかりなのだから。
「恋人らしい場所じゃなくても、良いなら。
また、星を見に行きませんか?
わたしの好きな事、好きな物、好きな理由、たくさん知ってもらいたいから。」
先ずはお互いの事を知るために、自分の好きを教えようと思うのだ。
その情熱を伝える事のすばらしさは、『おねえちゃん』が教えてくれた。
それを、この人にも伝えたいと思うのだ。
■神代理央 >
「…それが、お前が風紀を続ける理由であれば。俺は喜んで応援するよ。答えを見つける為に、人を救うために。風紀委員として、此れからも頑張って欲しいな」
それは、恋人としてであり、上司としてであり。
穏やかな笑みと共に紡ぐのは、二つの立場から彼女に渡す言葉なのだろう。
そう、彼女に決して敵わない『言葉にする』という行為。
言葉にして想いを伝える。大切な人の想いを察する。
それは未だ、彼女に勝てない部分。まだまだ男を磨いていかねばならない、未熟な少年の部分。
「行きたいところ…?沙羅が行きたいところなら、喜んで付き合うけど…」
こんなに熱心な彼女を見るのも久し振りかもしれない、と少し驚いた様に彼女を見つめるも。
クスクスと笑って、続く言葉を促せば――
「…星、か。そうだな。また二人で、星を見に行こう。
街から少し離れた所なら、綺麗に星が見える。静かで、星の綺麗に見える場所に、二人で行こう」
彼女の『好き』を知りたい。彼女の事を、もっと知りたい。
そう思えばこそ、彼女の言葉には直ぐに同意の言葉と共に頷いた。
満天の星空を見に行こう、と。ふわりと笑みを浮かべて、彼女の頬をそっと撫でながら、言葉を紡いだ。
■水無月 沙羅 > 「えへへ。」
頬を撫でられる。
素肌を撫でるのはおおよそこの人だけの特権だろう。
その手にすり寄る様に体を揺すらせる。
その姿はひょっともすれば人懐っこい子犬の様にも見えるのかもしれない。
星の見える場所に行く、それはとても魅力的で、二人きりというのもうれしいものではあるが、一つだけ懸念事項があった。
それはこの前の夏祭りではっきりとわかったことだが。
「その、理央さん。
一応念のためというか。
こういうのも言わないといけないのかなって、この前の夏祭りのときに思ったんですけど。」
少し赤くなった顔で、指をくるくると回す様に突き合わせては。
「ゴム、ちゃんと用意しておいてくださいね……?
その、するなら……ですけど。」
ほんの少しだけ背伸びをして、耳元で囁いた。
■神代理央 >
頬を撫でれば、己の手に擦り寄る少女。
柔らかな頬と、彼女の体温を掌で感じながら、愛しい恋人の姿を見つめていたのだが――
何だか少し恥ずかしそうな様子を見せる彼女に、はてと首を傾げる。
夏祭りの時に思った事、思った事――
「………分かった。ちゃんと、用意しておこう。
今度は、二箱くらい、準備しておけば足りるかな?」
己の耳元で囁く恋人の言葉と吐息が、夏祭りの『その後』を思い出させる様で。己の中に燻る熱を、昂らせる様で。
クツリと笑みを浮かべて頷くと、恋人の耳元に囁き返して――其の侭軽く、その耳元に甘く噛み付いて、顔を離すだろうか。
■水無月 沙羅 > 「ひぁっ!?」
「……り、り、りおさんの、ばかー!!」
耳から訪れる刺激に短い悲鳴を上げた後に。
真っ赤な顔で書類を抱えたまま部屋から飛び出した。
何事かと、同じフロアに居た風紀委員が彼の執務室を覗くのだろう。
もちろん、書類を持ったままなので、紅い顔のまますごすごと後々戻ってくるのは言うまでもない。
その時には頬を膨らまして大きく抗議するのだろう。
■神代理央 >
「…ああいう初心な所も可愛いなと思うのは、身内贔屓じゃないよな、多分」
顔を真っ赤にして駆け出して行った恋人をクスクスと笑って見送りながら、再びデスクチェアに腰掛ける。
少年の体重を受けた椅子がギシリと音を立て、さてと、と一息つこうとすれば、執務室を覗き込む名も知らぬ同僚と目が合えば。
「……可愛いだろう?俺の女だ、やらないからな」
取りませんよ、と呆れて立ち去っていく同僚と入れ替わりに。
部屋に戻って来た彼女がリスの様に頬を膨らませて抗議してくるのを苦笑いと共に謝罪しながら。
それでも最後は、御互いに茶菓子を嗜みつつ、仕事に励んで。
仲良く退勤する二人の姿を、風紀委員達は生暖かい視線で見つめていたのだろうか。
ご案内:「風紀委員会本庁 とある委員の執務室」から水無月 沙羅さんが去りました。
ご案内:「風紀委員会本庁 とある委員の執務室」から神代理央さんが去りました。