2020/09/07 のログ
ご案内:「委員会街・風紀委員会本庁小会議室」に日下 葵さんが現れました。
ご案内:「委員会街・風紀委員会本庁小会議室」から日下 葵さんが去りました。
ご案内:「委員会街・風紀委員会本庁」に日下 葵さんが現れました。
■日下 葵 > 「今日は……午後も事務業務ですか」
昼下がりの風紀委員本庁。
食堂に隣接する休憩スペースにお弁当をもって登場する。
端末で今日のシフトを確認すると、珍しく一日中事務の割り当てだった。
購買部で購入したお弁当を片手に適当な席に座れば、
書類を見ながらお弁当を食べ始める。>
ご案内:「委員会街・風紀委員会本庁」に水無月 沙羅さんが現れました。
■水無月 沙羅 > いつもの様に山のようにまわされてくる書類作業をひと段落終えて、お弁当箱(同居人の趣味によってネコマニャンのデザインになっている)を抱えて休憩室へ。
今までなら自身のデスクの上で栄養食をぱくついているだけだったのだが、ここ最近料理に目覚めたらしい同居人に持たされている。
特に拒否する理由もない……、いや、実際は時間の短縮をしたいがためにお弁当でない方が望ましいのだが、それではよくないと言われたことで食生活を改善していると言ったところだ。
実際、手作り弁当は味覚によってモチベーションの維持に貢献しているのは否定しようもなかった。
扉を開けて中に入れば、仲に見えるのは同僚の風紀委員。
その中でも同時期に謹慎になったり、似たような異能を持っていたり、温泉旅行やBBQ等何かと縁のある人物だった。
「葵さんもお昼休憩ですか? お疲れ様です。」
挨拶をしてから、対面に座ってお弁当箱を広げた。
小食の為箱こそ小さいが、一応に段に分けられているお弁当には、片方にはおにぎりが、片方にはおかずが詰められていた。
中身は意外と子供らしく、ハンバーグだったりたこさんウィンナーだったり、プチトマトが入っていたりする。
■日下 葵 > 先日スラムで出会った少女のことを報告書にまとめたのを皮切りに、
書類の整理やらを任されてしまった。
書類の整理をするとなると、無論過去の報告書にも目を通す必要がある。
そんな状態もあって、昼休みを返上して書類に目を通していた。
「ん、ああ。たしか貴女は……沙羅さんでしたか。
バーベキューの時以来ですかね」
声をかけられて、声の主へと視線を移すと、
そこにいたのは見覚えのある風紀委員だった。
「随分と可愛らしいお弁当ですね。
お料理とか好きなんです?」
対面に座って私と同じようにお弁当を広げる彼女。
同じお弁当でも購買部に売られているものと違って
彼女のお弁当は随分と手が込んでいるようだった>
■水無月 沙羅 > 「えぇ、水無月沙羅です。
お久しぶりですね。 えぇ、BBQの時以来です。
一方的に書類上では拝見はしていましたけど。」
実際彼女関連の書類は意外と上ってくることが多い。
鋼の『地雷』を踏んだとか、普段の言動がよろしくないとか。
謎のムカデ大量出現の処理を手伝っていたとか。
一見おかしな人には見えないのだが。
「あはは、これ同居人が作っていて。
私も料理は勉強中ですけど、彼女ほどではないですね。」
もともと小食なうえに、食欲というものが基本的に欠如しているのも相まって、食べ方はげっ歯類のそれによく似ている。
小さい口でもぐもぐ、もぐもぐと。
子供用サイズの小さいお弁当でも30分は容易にかかるであろうその食べ方は火尾によってはイライラするかもしれない。
■日下 葵 > 「おっと……実は私、自分に関する報告書読むの怖いんですよねえ」
本来の所属は刑事部なのに警邏部のように巡回していたり、
僻地の巡回に回されたり、
ちょっと口を滑らせて謹慎処分を受けたり、
害虫駆除を手伝わされたり。
自分が自分について書いたもの以外を読むのは……正直胃が痛い。
「私も貴女のことはちょくちょく耳にしますよ」
この間あなたのお兄さんに会いました、なんて。
そういえば彼女――沙羅さんも”死に難い”人間だったか。
そんなことを思い出せば勝手に親近感を覚える。
「同居人ですか。
……それって、彼氏さんだったり?」
そういえば彼女には恋人がいたんだったか。
だとすれば恋人がお弁当を作ってくれているのだろうか。
さっそく人を揶揄う悪い癖が出てしまって、
ちょっとにやにやして質問する。
見たところ、確かに彼女はあまり食にこだわっている風ではなかったし、
家族と暮らしているなら家族が作ったというだろう。
わざわざ同居人というくらいだ。そんな推察をして>
■水無月 沙羅 > 「その気持ちはわかりますよ……、えぇ、よくわかります。」
自分がそれなりに大きな事件に首を突っ込んだり、問題を起こしていることは十二分に把握している。
おそらく一部の風紀委員や公安委員からは余りよくない目で見られることも多いだろう。
『鉄火の支配者』の恋人、という噂も随分広まってしまったし。
「でしょうね。」
人の口に戸は立てられない。
ともなれば耳にすることも当然増える。
何を言われているのかは正直あまり考えたくはない。
「あー、彼氏、ね。 少し前は同じ部屋に住んでましたけど。
今は別居中でして、知り合いの家に居候させてもらってます。」
住むところが無い訳ではないが、単純に今いる家が居心地がいい。
何より、彼の部屋に戻ったところで現状良いことは無いだろうと確信してしまっているあたり、案外自分たちは冷めているのではないか、と焦ったりもする。
いや、私達には私たちのペースがあるのだから問題はないだろう。
そんなことよりお弁当がおいしい。
食べかけのハンバーグを置いて、今度はプチトマトを口に放り込んだ。
流石に、プチトマトを噛み切ったりはしない。
以前やろうとして弾けた苦い思い出があった。
■日下 葵 > 「いやぁー。真面目に働いているつもりなんですけどねえ?
沙羅さんも意図せず大変な思いをしてそうで……」
それなりに働いているつもりだ。
周りの人間にできないことをやって来たつもりだ。
でも周りの目や評価はどうやら自分で思っているものとはずいぶん違うらしい。
「ほほーう?それそれでまた複雑そうですねえ?」
別居中で今は知り合いの家。
何だろう、うまくいっていないのだろうか。
彼女の恋人が件の鉄火の支配者なんて大層な名前で呼ばれている彼だとは露知らず、
まるで他人事の様に相づちを打つ。
「聞いたところ、私とあなたは異能というか、体質が似ているとかなんとか。
時々間違われたりするんですよねえ」
こんなに真面目な人と、たまにしか報告書を出すだけの人を間違うなんて。
とけたけたと笑う。
良くも悪くも異能で見られている感があって複雑な気持ちだ。
しかし当の本人、彼女とじかに会って話してみたいとは思っていた。
だから少し他の人には降りづらい話題を振ってみる。
”死に難い”という性質について。>
■水無月 沙羅 > 「まじめに働いてはいるんですけど、まぁ、その。
私の場合は意図して大変な思いをしているというか、あはは。
自分から面倒ごとに首を突っ込んでいるとはよく言われます。」
そういう性分で、何時でも全力疾走だったがゆえに、真面目には働いてはいても、大変な思いをするのは自分の意思だ。
ここら辺は彼女との大きな違いだろう。
いや、別に沙羅自身だってできれば平穏に暮らしたいとは思っているが。
なかなか自分の周りはそれを許してくれないのだ。
「まぁ、恋人が『鉄火の支配者』ともなれば複雑にもなりますよ。」
これはちょっとした愚痴。
恋人が彼であることに後悔をした事は無いが、それに付随するトラブルが自分の意を悉く痛めているのは実際確かだった。
それに、あの仕事人間は、『付き合う』という事をきちんと理解していない気さえする。
愛情自体は大きく感じられるのだが。
「あぁ、そうですね。
詳細は違いますけど、不死に類する異能という点では間違っていないでしょう。
そういう意味では親近感は沸きますね。
系統が全く違うように私は思っていますけど。」
少なくとも、自分より大きな問題は起こしてはいないだろう目の前の人物と自分を少し比べてみる。
自分より扱いやすく、さして大きく問題を起こすこともない。
少なくとも査問を受ける様な事は無い、似たような不死。
おや?
自分が意外と役立たずに思えてきたぞ?
少しだけお弁当を食べるスピードがまた遅くなった。
■日下 葵 > 「もしかして沙羅さんって結構抱え込んじゃうタイプなんです?
まぁ、私の場合余計なこと言っちゃってもめるタイプなので」
やっぱり私と比べると彼女は真面目だ。
いや、私が不真面目極まりないだけかもしれないが。
「私たちの共通点って多分死に難いってくらいですからね。
根本的な部分はだいぶ違うんでしょうけど」
プラナリアやクマムシやゴキブリの様に、
ただ死に難くてしぶといだけの異能。
特別強力な技も使えない。
人質の代わりになるくらいしか仕事が舞い込んでこない異能。
あれ?本当に同じか?
大分力量に差があるぞ?
「なるほど、鉄火の支配者ですか」
えっ?
お弁当のゴマの振られたご飯がぽとりと箸の間から落ちた。
「鉄火の支配者っていうとあの?神代さんです?」
聞き間違いだろうかと、間抜けな顔をして聞き返す。
他に誰がいるんだという感じではあるが。
あの?あの神代なんとかとかいうあの風紀委員の?
恋人が?今目の前にいる沙羅さん?
またまたご冗談を。
■水無月 沙羅 > 「まぁ、そういう事になるんですかね。
鋼さんとの一件はお聞きしてますので、まぁ。
その、気を付けて。」
抱え込む、というか、まさしく首を突っ込む、という感じかもしれないなと考えつつそう返す。。
問題を共有するという事は欠かさないようにしている。
多くの人に相談するし、共に解決していくと誓ったのだし。
目の前の人は、まさしく口は禍の元なので何も言えなかった。
「私の場合、死にはしないというか。
傷を自動的に時間遡行で修復する異能なので。
治る、というわけじゃないんです。
正確には、、元に戻るっていう感じ。
まぁ、それ故にいろいろ副作用もあるんですけど。」
おかげで体の中は自分が想像した以上にボロボロで、異能がなければ心臓発作で死んでいる位に中身がちぐはぐだったりする。
それも、主治医の保険医のおかげで完治する見通しも立ちつつある。
……先日の鋼さんとの一件で、その完治も少し遠ざかったかもしれないが。
「えぇ、神代理央です。
って、あれ? 庁内じゃそこそこ有名だったんですけど。
もしかして、ご存じなかったんですか?」
隠していないばかりか、あの傲慢な彼氏は自慢すらしているらしいので、自分たちのいるフロアでは基本的に知らない人はいなかった。
目の前に知らないという人物が現れたことの方が、此処ではレアケースだろう。
それ以前に、『殺し屋』事件の際に島中にネットでばらされてしまったというのも大きいが。
■日下 葵 > 「まー、治っちゃったりするとその。
怖いもの知らずになって自暴自棄にでもなるんですかね。
とはいえ、私が表立って”やらかした”のは鋼さんの一軒くらいなもんですよ」
謹慎明けで仕事に復帰したとき、
知らない風紀委員から向けられる
”これが噂のバカか”
という視線は今思い出してもつらいものがある。
「そうなんですねえ。やっぱり治るプロセスが私と根本的に違うんですね。
私はその、傷ついた細胞の数に比例して細胞が活発に代謝する能力なんですよ。
もちろん副作用もあるので薬を服用する必要があったりするので」
元に戻るとはいえ、それにかかる面倒も多い。
そういう意味でお互いに抱えているものも多そうだ。
「いやー、知らなかったですねえ。
神代さんとは現場でお話したこともありますけど、何も……」
殺し屋事件の時も報告書を読まない性格が祟って何も知らなかったし、
そもそも私自身庁舎にいる時間も短い。
そんなこんなで今の今まで全く知らなかった。>
■水無月 沙羅 > 「あぁ、そういえば同居人が言ってましたよ。
不死者は大抵、自分の死に方に頓着しなくなるって。
表立って……ですか。」
余りにも辛い時に、一度死ねばすっきりするかな、なんて時計塔から飛び降りようとさえ思った事がある自分にとっては、それはよくわかる話だった。
死なないからこそ、自分の死に焦がれてしまうようなものなのだろうか。
それは其れとして、聞き逃せない一言があったぞ?
「細胞の代謝が活発になる。 つまるところ再生力の底上げがされているようなものなんでしょうか。
それが元に戻らないから、暴走状態の様になっていわばがん細胞の様に、あはぁ、なるほど。」
確かにそれは考えるだけでも恐ろしい異能と言えるだろう。
言ってみれば細胞が無限に増殖し続ける様なものだ。
放置すれば異形の怪物になったとしてもおかしくはない。
本人からすれば溜まった物では無い訳だ。
「……ひょっとして、何ですけど。
葵さん、結構報告書とか、読まないタイプですか?
刑事課だとは聞いてるので、本庁に居る時間が少ないというのは分かりますが。」
この二人の事を、『風紀委員』の中で知らないというのはそれぐらいに珍しいと思っている。
それ故に、知らない理由も推測しやすい。
あ、この人は意外と不真面目なのかもしれない。
お弁当はもくもくと食べ続けている、
しかし、一向に減る気配はない。
■日下 葵 > 「自分の死に頓着しなくなる、ですか。それはあるかもしれませんねえ。
私は簡単に死ねる”普通の人”がうらやましいですよ。
私は他の人の命がショーウィンドウに飾られたブランド品の様に見えるので。
そんな素敵なものを、私の命で救えるなら良いことだと思うんですよね。
おっと、口を滑らせてしまいました。今のはオフレコでお願いします」
そう、命のクーポン券なんて自称している理由はそんなところにある。
死に頓着しなくなる。といったその同居人、死に難い人間の心理をよくわかっている。
「お、よくわかっているじゃないですか。
薬を飲まないと人の形を保ってられないんですよ私。
体の部位ごとに代謝の速度を調整する必要があるので、
お薬の量がすごいんですよねえ」
はっはっは、と笑ってご飯を一口食べると、
食後のお薬を入れた瓶を数個カバンから取り出す。
まぁ、薬を飲むだけで解決すると考えればこの代償も安いものである。
「あんまり読まないですね。
重大な事件があれば読みますけど、管轄外の報告書は基本読まないです。
あと終わった事件の報告書も」
サラっととんでもないことを言う。
この一言で日下葵という風紀委員が真面目ではないと見て取れるだろう。
しかし不真面目でもない。
最低限しか仕事をやらないのである>
■水無月 沙羅 > 「そう、自分の死に無頓着になる分、他人の命に過剰に敏感になる。
彼女は確かにそう言ってました。
だから葵さんのいう事もわかる気がします。
どうせ自分は死ねないのだから、死んでしまう人たちの為に傷ついたところで痛くはないって。」
沙羅のそう言った動きは、おおよそ表舞台には出る事は無く、基本的に『裏』の仕事ばかりだったゆえに記録に残っていることは数少ない。
その後と言えば、例の『鉄火の支配者』に死ぬことを許されなくなったので、そもそも自己犠牲の機会も少なくなった。
といいうか、やるといろいろな人に怒られる。
何だか理不尽だ。
口を滑らせた彼女の言葉にも、自分の理不尽にも肩をすくめて見せる。
「それは……やはり大変ですね。 お互いに。
私の場合は、まぁ、その。
これ、オフレコでお願いしますね?
体内の内臓年齢がとんでもないことになってて、代謝も満足に働かないんです。
だから、心臓発作とか簡単に起きるし。
血流に耐えきれなくて血管が破れたりとか。
異能が無ければ、まさに今目の前で死んでるみたいな。」
痛み止めを飲んでいるからこそ耐えられるが、本来であれば恐ろしい苦痛を味わっているはずだ。
もちろん、小さな鈍痛はいつでも受けているが、もう其れも慣れたものだ。
それでもにこやかに笑って見せるあたり、やはり不死者というのは何処か狂っているのかもしれない。
自分も同じように、いつもの様に痛み止めを口に入れる。
弁当はなかなか減らずに、もうお腹がいっぱいになりつつある。
さて、どうしたものか。
「まぁ、その。
絶対に読めって言われたもの以外はそれでいいと思いますけど。
少しは読んでおいたほうが良いですよ?
いざというとき、知らないでは済まされない、なんてこと、あっても困りますから。」
不真面目な風紀委員に苦笑いして、気楽でいいなぁと少し羨ましそうにつぶやく。
■日下 葵 > 「他人の命に敏感になる、かぁ。
私はそこまで大層な志なんてないんですよね。
昔は『なんでこんなつらい思いをしないといけないんだろう』って。
『お前が頑張れば将来救われる人が出てくるから』
って言い聞かされていたものでしたから。
大層な志はありませんが、意味があるんだと思ってここにいるだけです」
別に世界を守っているとか、大切な人のためとか、
そんな大層なものなんてこれぽっちもない。
さらに言えば善悪すらないかもしれない。ただ、そこに意味があればいい。
そう言っている間に、こちらはお弁当を食べ終わってしまった。
「そこまで満身創痍なのに死ねないというのもしんどいですねえ。
そのレベルまで行くと
”お大事に”とか”身体を大切に”なんてレベルじゃあないでしょう」
普通の人なら殺してくれと言ってもおかしくない。
でもそんな様子がないあたり、彼女もやはり随分と”ズレている”のだろうか。
「まぁ、そうですねえ。いざという時のために、ですか……。
私にとっての”いざという時”って、何なんでしょう?」
純粋な疑問。
自分のことばかりで、他人に役立つからと言われて仕事を回されてきた身。
いざという時の為に訓練してきた。
でも、いざという時を具体的に想定したことなんて、なかったなあなんて>
■水無月 沙羅 > 「なんだかそれ、嫌な話ですね。
せめて自分の命くらい、自分で使い道を選びたいものです。
意味は誰かに与えられるものじゃなくて、じぶんでつくりださないと。
私達の心は簡単に折れてしまうから。」
不死だって、心がある。 痛いことだって我慢はできるが感じないわけじゃない。
それは人間と変わらないものだ。 だから、それを蔑ろにする人たちを、今でも憎いと思う。
普通に生きる事を許さなかったこの異能を憎いとも思うが、今はその力のおかげでこの場所に居られる。
そしてそれが続いているのは、自分で意味を見つけたからに他ならない。
今はただ、生きる事を諦めるなと、そう言いたい人が居るから、この仕事を続けている。
「主治医からはそれ以上死ぬな、というか、戦闘事態止めてほしいと言われてます。
なるべく力を使うなって、まぁ、それでも使っちゃうんですけどね。
私たちの仕事上もそうだし、自分より大事な物ってあるから。
しんどくはないですよ、死にたくないって、今では思えますから。」
それは、誰かに生きるという事の本当の意味を教えてもらったから。
「んー……本当に大切な誰かを、救いたいとき、かな。
情報が無ければ動くこともできない。
私は、理央先輩の時に痛感しましたから。」
後で食べようと、諦めて目を伏せながらお弁当箱を閉じた。
残して帰ったら悲しむであろう同居人の顔が目目に浮かぶ様だ。
後で完食しよう、後で。
■日下 葵 > 「そうですねえ。命の使い方は自分で決めたいですねえ。
私の場合はとっくの昔に折れてしまっているのかもしれません。
沙羅さんは……痛いのとかは嫌いですか?
恐怖を感じたりとか、そういうのってありますか?」
痛みに対して特別な感情を抱かなくなって、
恐怖というものを抱かなくなって、本当に久しい。
他人に意味を与えられて、惰性で生きているのかもしれない。
「それは仕方ないですよ。
今まで使う前提で生きてきて、訓練してきたんですから。
それに、沙羅さんはどうか知りませんけど、
死なないで問題を解決する手段がひどく少ないんですよ。
死に難い以外、ほとんど普通の人間ですから」
「いやぁ、沙羅さんは何というか。
いい意味で頑固者、何ですかね?
決意が固まったら揺るがない、そんなしぶとさを感じますねえ」
しんどくはない。
その言葉を聞いて関心する。
死ねる身体を持っていて死にたくないと思えるのはうらやましい。
「大切な誰かですか。いいなぁ、私にも恋人ができれば、
そういう気持ちが湧いて来たりするものなんでしょうか」
けたけたと笑ってふざけた瞬間――
私の腕の中で泣く少女を思い出した。>
■水無月 沙羅 > 「痛みに、恐怖ですか?
痛いのは嫌いですよ、今でもできれば感じたくはないです。
でも、恐怖自体は無くなったかな。
もう、痛みは手段だと割り切っているから。
私の異能、不死だけじゃなくて、自分の痛みを周囲にばらまくっていうのもあるんです。
魔術を使って自分の体のリミッターを無理やり外して、限界以上の力を無理やり行使する、とかもやるので。
その、腕がちぎれたりとか脚が砕けたりとか、もう本当に手段なんですよ。
どんな怪我でも一瞬で治癒、が売りですから。」
だからこそ、大人数の作戦には向かず、単体で突入みたいな任務も多かった。
いうなれば人間爆弾、それも何度でも再利用可能な。
言いながら自分でも少しどうかと思う。
死に難い以外は普通の人間、その言葉がどこかうらやましく感じる。
自分もそうだったとしたら、自分も過去も変わるのだろうかと思った。
しかし、それは間違いだと首を振る、
彼女もまた、そうして狂ってしまっているのだから。
比べようなどないのだろう。
「あぁ、それは何というか。 よく言われます。
やると決めたらやる、助けると決めたら助けるみたいな。
性分、みたいなものですよ。
死にたくないって思ったのは、なんでかな。
たぶん、コキュトスで、本当の死を視たから、かな。」
それが災いして、今まさに自分の体は危機を迎えているのだが。
知り合いにはよくよく苦い顔をされるものだ。
死という概念の本当の意味を理解したのは、間違いなくあの特殊領域でのことだった。
彼女は知らないかもしれないが、あの現場はひどいものだったと今でも記憶している。
「恋人じゃなくても、出来ますよ。
さっき、あなた自身言ってたでしょう?
死に難い以外は普通の人間だって。
生きて居るなら、必ずできます。」
彼女が思い浮かべている人物が、自分の家庭教師の生徒🉅とは、つゆほどにも思ってはいないが。
■日下 葵 > 「痛いのは嫌いですか。なるほどねえ……
そこらへんは色々人に依るんですかねえ。
それそれは、随分と物騒な能力をお持ちで。
ただまあ、手段っていうのはよくわかります。
腕をくれてやって相手を黙らせられるなら私も折っちゃいますし」
周囲の人間に痛みをばらまく。
いいなぁ、そういう技があって。
彼女が私の”普通”をうらやましいと思っているなんて露知らず、
私は彼女の”異能”をうらやましいと思ってしまっている。
同じ死に難い人間でも、痛いのは嫌だったり、必殺技があったり、
真面目だったり、頑固だったり。
本当に十人十色で、隣の芝を見ているといった感じである。
ただ、一瞬で怪我が治るのがうり、というのは共通らしい。
「いい性格してるじゃないですか。
私みたいにほんわかぱっぱしてるよりずっとよく見えます。
本当の死、ですか。
私にもいつか、久しぶりの恐怖を与えてくれる存在が現れてくれるんでしょうか」
まるで白馬の王子様を待ち焦がれるかのような表情を浮かべて、
そんな存在を想像する。
後天的に異能を得た身としては、死の恐怖は知っている。
それを克服してしまったことを、今になって少し後悔してしまう。
「まぁ、そんな大切な人ができちゃったら気軽に死ねなくなるので考え物です。
報告書を読むのは……気が向いたら読むようにしますかねえ」
ちょっとふざけたように言うが、
内心では――ちょっと意識してしまった。
あの少女を私以外の人間が傷つけてしまう瞬間を。
「さて、私はそろそろ午後の仕事に戻りましょうかね。
とても興味深いお話を聞けて良かったです。またお話しましょうね。
そうそう、量が多いなら、『全部ちゃんと食べたいから量を減らしてほしい』と
提案するのも大事ですよ。
作る側としては無理なく全部美味しく食べてもらうのが一番でしょうから」
お弁当の容器を袋に放り込んで、書類を持って席を立つ。
そして去り際、まだ彼女のまだ残されたまま蓋の閉められたお弁当を見て一言。
そのお弁当を作っている同居人というのが、
よくちょっかいをかけている少女とも知らずに。
いつか、うっかり出くわすことがあるなら――
――それは別の話。>
■水無月 沙羅 > 「正直痛いとかいうレベルではないのでお勧めはしないです。
リミッター解除はほぼ私オリジナルなので……、まぁ。
教えることができないでもないですけど。
本当に、一人によりけりでしょうね。
そう多い訳でもないですけど。」
不死がそう何人もいてはたまらない。
単純な話人口が増えすぎて飢饉になることだって否定できなくなる。
死なないなんて言うのは、本当はいないほうが良いには違いない。
「私は、生まれつき不死でしたから。
その恐怖は新鮮で、恐ろしい物でした。
不死すら殺す死、それは、今でも恐ろしい。
いくらそれが目の前に現れたからって、飛び込んじゃダメですからね?
葵さん。」
あの時の恐怖は形容しがたいもので、今でも恐ろしく感じる。
少しだけ腕の震えを感じるほどには。
そんなものは味合わないほうが良い、とは彼女には言えなかった。
死ねない事の苦しみを分かっている人間には、言える台詞ではない。
だからと言って、死んでほしいとは微塵もおもわないから、釘だけは差しておく。
「気軽に死なないのが一番ですよ。
えぇ、そうしてください。
もし困った時は、相談に乗りますよ。
同じ不死人として。」
彼女にも、間違いなくそういう人はいる筈だ。
それは直感に似た確信の様なもの。
そうでなければ、一笑に伏して彼女の態度は変わらなかっただろうから。
「あ、はい。 お疲れ様です。
またお話ししましょう。」
こういう、似た者同士の会話は気を遣わなくて良い。
気楽に話せるし、に多様な苦悩を共有できるというのは自分たちにとっては得られ難いものだ。
だから、またお話ししようと言われればにこやかにもなる。
「全部食べたいから……か、その発想はありませんでした。
うん、そうですね。 今度頼んでみます。
彼女も、きっとその方が喜ぶ。
ありがとうございます、マモル。」
親愛の情を込めて、彼女を名前だけで呼ぶ。
自分だけではなく、同居人のことも考えて教えてくれるその優しさに、尊さを感じる。
自分たちは擦り切れていても、その優しさを忘れずにいられると、そう教えてもらえた気がしたから。
彼女と友人に成れたらいいと、そう思ったのだ。
友達の作り方は、依然わからないが。
自分の弁当箱をネコマニャンの袋に仕舞って、彼女の後を追いかけた。
書類の見かたくらいは教えてあげてもいいだろう。
ご案内:「委員会街・風紀委員会本庁」から日下 葵さんが去りました。
ご案内:「委員会街・風紀委員会本庁」から水無月 沙羅さんが去りました。