2020/09/09 のログ
伊都波 凛霞 >  
そう、警察機構という位置づけであるからこその、システム
法の駒と言い換えることもできるだろう
それに求められるものは機械的なものだけである

しかし求められるもの以上の働きができるのもまた人であることの利点だ
レイチェルの言うように、人であるからこその+αは、確実に存在する
そしてそれが重要である局面というのは…きっと少なくは、なかった

──会話の中で、その心の機微や、こちらに気を使っていてくれるのが伝わって来る
彼女を英雄としてしか知らない風紀委員達に自慢してまわりたいほど、距離感の近い彼女は、心地よかった

だからこそ…不慮の出来事で失うことはしたくない
以前の事故は…一際危なかったのだ

「異能の性質が精神に依存する、っていうのはそれなりに聞く話だから、驚かないです、けど」

「──じゃあ、あの時『殺すつもりで来い』と、言ったのは……」

どうしてだったのか…
心の在り方に問題があった、という彼女にとってそれは
何かに迷っていて、それを断ち切りたかった故か、それとも──

レイチェル >  
「ま、それくらいでなきゃお前の訓練にならねぇし……ってのは
 1つ本心でもあるが、あの時はどちらかと言えば。
 そうだな……断ち切る為だった、オレ自身の甘えを」

勿論、迷いもだ。
しかし、それだけではない。
システムに甘えてしまっていた己を。
持っていても良いのか分からなかったその気持ちを。
誰かの気持ちに応えられなかった自分自身を。
諸々の迷いを、甘えを、一度断って、整理するために。

それは、本来の自分を本当の意味で取り戻す為の在る種の、
儀式のようなものであったろうか。

「ま、それで倒れてちゃどうしようもねーがな」

これまで自身の異能が失敗に終わったことなど、一度もなかった。
当たり前にあると思っていたものは、簡単に消えてなくなる。
そのことを、改めて認識させられた。

――当たり前なんて、とんだ甘えた考えだよな。

自らの胸に手を置く。そうして、目を少しの間、目を閉じたのだった。

伊都波 凛霞 >  
その答えを聞いて、小さく息を吐いた
それは胸を撫で下ろすようにも、見えたかもしれない

「風紀委員のレイチェル・ラムレイ、といえば明確な格上」
「そんな貴方に殺す気で来い、と言われれば…それも当然の覚悟」

その言葉振りからは、既に彼女は自分の、伊都波凛霞の持つ戦力を見抜いて…
もしくは、風紀委員に報告してあるだけの戦力ではないと想定していたのか

「レイチェルさんの異能と、戦術及び使用可能武器種を想定しての"選び"だったんですけど、裏目に出ちゃいましたね」

爆薬の使用は浅はかだった
殺すつもりでといっても、本当に殺害できるわけが、するわけがない
だとしたら、手元を離れた時点で一切加減の効かない類のものは使用すべきではなかった

「──と、言うのも結果論なので何なんですけどね」

苦笑する
彼女の本気を鑑みれば、あの程度は牽制にしかならないのだから

「…実際のところ、どうなんですか?
 私は、時空圧壊《バレットタイム》なしでもレイチェルさんの戦力は前線の維持に足り得るものとして認識しています、
 でも、それはそれとして、別の問題として残りますよね
 ───もう、使えないんですか?」

不躾な問いかけ、だろうか
傷口に塩を塗るような言葉だろうか…
けれど、その口から聞かなければならない──あの事故の当事者として
何よりも、背を預け、預かる風紀委員の仲間として、である

レイチェル >  
その言葉を聞いて、レイチェルは頬を掻きつつ
小さくため息をついた。

伊達に、数多の者達と刃を交えて生きてきてはいない。
凛霞の持つ力を、見抜くくらいのことはできていた。

「オレが殺す気で来いと言ったんだ。
 爆薬を使う選択自体は間違いじゃなかった。
 オレもそのくらいは対応するつもりで居たからな」

だが、想定外の事態が起こった。
寄り添っていた筈の奇跡は胸の内になく、
その輝きを失っていた。

「時空圧壊《バレットタイム》は――今はもう、使えない。
 オレの内側から、もうあの力を感じねぇ。
 医者も、力の波動が消えてる、沈黙してるって……
 そう言ってたな」

確かに傷口に塩を塗る言葉だったかもしれない。
しかしレイチェルは、動じずにその事実を伝えた。
ただ静かにまっすぐに、凛霞を見据えて。
伝える義務があると、そう感じていた。
互いに背中を預ける仲間であれば。

伊都波 凛霞 >  
「そう、ですか──」

実のところ、異能の力を失ったところでこのレイチェルという人物の戦力が使いもにならない、などということはない
異界においても歴戦と呼べるだけの経験、鍛え上げられた洞察力、銃器火器、刀剣の扱い…
あらゆるものを総合した場合、異能の力はその一端に過ぎない…と、凛霞は判断していた
しかし……

「──後衛でのサポートに専念するというのも、納得いきましたよ」

そう言って小さく肩をあげる

「慣れた動作や直感的な部分から、『突然できなくなったもの』は簡単には抜けてくれませんから」

今後彼女がどうするのであれ、現場に赴く以上はそれに慣れないことにははじまらないのだ
頼ってきたもの、いざという時の芯となる部分、それが抜け落ちたとなれば…
それを補正する作業は計り知れない

「私も、浅はかだったなあ…」

視線を外し、デスクに頬杖をついて…

「身体のこととか、風紀委員の権限でちゃんと調べれば病院での診断結果含んで見つかった筈なのに、
 レイチェルさんってほら、私達後輩からするとなんか無敵感あるじゃないですか?
 ……言い訳がましいですけど、そう思っちゃってましたから」

理由を言わずに前線復帰をNOと断ったあの時に、気づくべき部分でもあった

「でも、そう聞いた以上は、私もより心構えができるってものです」

再び、向き直って

「古流武術・伊都波…次期継承者。伊都波凛霞。
 その力、隠し立てすることなく前線で発揮させてもらいます。
 遡ること戦国創世、数多の戦術・武器術を吸収し練り上げたそれが、
 異能犯罪に一切遅れを取らぬこと…我が背にてお見せします」

鈍色の瞳が、力強く、まっすぐ射抜くように…見据えていた

レイチェル >  
「納得して貰えたなら、何よりだ」

だからこその、後衛サポート。
自らの異能を失ったこと。
身体の損傷。

――そして、大切な人との約束。

それら全てを踏まえた上で、
風紀を支える為に彼女が選んだ道だ。

「そうだな、この学園に来てからオレの胸の内にあった力だ。
 失った中で立ち回ることに慣れるまで、まだ時間はかかるだろさ」

それでも、慣れるしかない。
元々、異能を持たぬ中で死線をくぐり抜けてきたのだ。
ただ元に、戻るだけ。そう考えることで、心の負担は随分と軽くなっていた。

「無敵、ね。そう在れたらどれほど楽だったか。
 悪ぃな、完全無敵の先輩なんかじゃない、情けない奴でさ。
 でも、そうだとしても――」

無敵。完璧。そんなものは、きっと存在しない。
でも、だからこそ支え合って、今よりもっと強くなれる。
成長が、できる。
凛霞の視線をまっすぐに受けて、レイチェルもまた視線を返す。
そしてその宣言を聞けば、レイチェルは静かに口を開いた。

「――オレは、レイチェル・ラムレイだ。
 異能がなくとも、戦場での経験は消えることなく刻まれてる。
 お前達の背中《いのち》は、オレが必ず守り抜く。
 魔狩人レイチェル・ラムレイの本領は前線のみで発揮される訳
 じゃねぇ。そのことを、見せてやるさ」

紫色の瞳が、返すように見据える。

伊都波 凛霞 >  
「"無敵"でなくっても…」
「頼りになることには、全く変わりありません」

椅子から立ち上がって

「──嬉しいですね。
 やっぱり貴方は私達、後輩にとっての"英雄"です」

鈍と紫が交差し、互いにその意思を確認すれば…
凛霞は自然と右の掌を掲げ、構える

握手?否、それは友情を確かめるサインである
これは、仲間意識…チームメイトの信頼を確かめ、互いの健闘を讃え、
称賛や祝勝を分かち合うことを約束する──

『ハイタッチ』

そんな動作である

レイチェル >  
「ははっ、そいつはまた……重いもん背負わされちまったな――」

英雄。その言葉に、レイチェルは力なく笑う。
でも、それも一瞬のこと。


「――だが、確かに受け取った」

真剣な眼差しで、笑みを浮かべる。
レイチェルはその在り方を、受け入れる。

向こう見ずに突っ込んで人を救おうとする在り方そのものが
レイチェル・ラムレイという英雄像を作り出している、と。

かつて、レイチェルを導いた五代という男から、、
そのようなことを言われたものだ。

その時は、否定した。英雄なんかじゃねぇ、と感情的に否定した。

今でも、自分は英雄なんかじゃないと思う。
そんな大それた存在には、なれない。
手の届く場所だけを守ることしか、自分にはできない。
格好悪く足掻く、ただの一人のレイチェル・ラムレイだ。

それでも。

その気持ちは確かに受け取って、向き合っていく。
それが、先輩としての義務だと、そう感じたから。
皆にとっての英雄にはなれなくても、後輩たちの英雄として在れるように。
彼らの心の支えとなれるように。
気持ちに、応えられるように。

凛霞の右掌へ向けて、自らの右手を伸ばす。
それは最も分かりやすくて、確かな証。
互いの在り方を認めて、それを互いに受け取った証。


――信頼の、証。


乾いた音が、風紀委員会の一室に響いた。

「へへっ」

照れくさそうに、それでも視線は逸らさずに。
レイチェルは凛霞へ向けて笑って見せた。

伊都波 凛霞 >  
そう、英雄やヒーローなどという言葉は…呪いである
その他大勢のために存在しなければならない、何よりも個人を無視した…都合の良い偶像
それが本質である

しかしそれでもあえてその言葉を使ったのは…
レイチェル・ラムレイという存在が新米の風紀委員達の憧れであり
自分たちもまたそう在るべくと目指すべき存在であるが故
それに憧れ育つ者が成り代わり、更に新しい力を育ててゆく──

ぱちんと乾いた、軽い音が響く
その掌に確かに感じた、彼女の存在と、強さ…
それを単なる憧れにとどめてはいけない
それこそが、英雄を殺す意思となる

故に、『呪い』と言い換えて差し支えないだろう
しかし人が覚悟をするには、道を違えぬと決心するには、往々にしてそういった"楔"が必要なのだ

「ふふっ」

笑い返す
彼女の在り方は自分達の誇りである
英雄視こそすれど、英雄として死なせるわけには断じていけない
彼女が自分達を死なせないとするなら、こちらも同じなのだ

「──すっかり話し込んじゃいましたね」

窓の外を見る、陽が落ち、星が瞬きはじめていた

レイチェル >  
重さを持つ言葉は人を蝕む呪いともなるが、確かな支えともなる。

どうしようもない程の『重荷』が、
荒波に流されぬ為の『錨』となるように。

送られた言葉。
飲み込み方一つで、考え方一つで、その在り方は変えられるのだ。
レイチェルは後輩からの重荷と錨、
その表裏をどちらも呑み込んだ。

「ああ、大分……話し込んじまったな」

そろそろ帰るか、と。
くぅ、と声をあげて大きく伸びをすれば、レイチェルは凛霞へと
ひらひらと手を振って見せた。

「じゃあな。色々話せて、良かった。
 明日は楽しもうな」

現地集合なー! と。
心底楽しそうに笑いながらレイチェルは去っていくだろう。

伊都波 凛霞 >  
明日、そう明日だ
オンとオフの差をはっきりさせるためにも、今日この話が出来てよかった

「はい、私もすぐ!」

手をひらひらと振り返して
忘れ物はないかなとテスクをチェック
ついでに見渡してみんな忘れ物はしてないかなと余計なお世話を終えれば
自分もまたバッグを担いで

パチン、と部屋の証明を落とす

最後に見せてくれた彼女のあのどこまでも楽しそうな笑み
ああいう表情を見るのはやっぱり、幸せな気持ちになれる
できるだけ多くの、ああいった笑顔を
改めて思うそんな気持ちを胸に、灯りの消えた部屋を後にするのでした

ご案内:「委員会街・風紀委員会本庁」からレイチェルさんが去りました。
ご案内:「委員会街・風紀委員会本庁」から伊都波 凛霞さんが去りました。