2020/09/22 のログ
ご案内:「風紀委員会事務室」に幣美奈穂さんが現れました。
幣美奈穂 >  
昨日は不覚をとったのです。
朝から風紀委員の事務室にきました美奈穂。
ふんすふんす。
ちょっとお怒りなのです。

椅子に、クッションを置きまして準備。
そして紙を机の上に、横に硯と筆もおいておきます。
そして椅子に上り、クッションの上に正座をします。

墨をすりながら精神統一・・。

幣美奈穂 >  
昨日、ボランティア活動として浜辺の清掃をしていた時に。
獣人さんに襲われたのです。
穢れ、は感じませんでしたが。
乱暴な男の子だったのです。

くわっ!
目を開きますと毛筆を取りまして。
さらさらっと紙に書いていきます。

その相手は、170・・いえ、180cmぐらいあったかもしれません。
美奈穂が抱えあげられたとき、足が付かなかったですから。
対象は180㎝の大柄な獣人さん。
髪の色は灰色、目は赤い色でした。日に焼けた肌をしており。。

さらさらさらと毛筆で書いていきます。
髪は長くて、わんこさんのお耳とお尻尾。

左手をわきわきうごかしてみます。
感触を思い出します。

「ブラッシングが足りず、トリートメントしてないのか色艶もう少し。
 少しぼさぼさっとしてましたけど、指で梳いたので少しふわっとさせてます・・」

かきかき。
なんとも感覚的な説明なのです、

幣美奈穂 >  
被害届として、ごみ拾いのトングを取られたことを書いておきます。
何度も返してって言ったのに返してくれなくて。
美奈穂では手が届かないような高い位置に・・。
――その時を思い出すと。180cmは高すぎかもしれません。
175cmに修正しておきます。

ぎゅっと抱えられて、お腹が苦しかったことも記載しておきます。
でも、トングは自力で取り戻しました!

しゃしゃっと下にその時の獣人さんの似顔絵を描いておきます。
ちょっと目つきを悪く描いてしまうのは、その時の心象のせい。

この子を見つけましたらご連絡ください。
と、署名つきにしておきます。
捕まえて、お説教しませんと!

ぷんぷん。
あの乱暴な男の子が謝らないと許してあげないんだから!
と、美奈穂さんはお怒り中なのです。

幣美奈穂 >  
出来上がったものを、満足気に眺めます。
墨が乾きましたら、これを委員会の提示版に張っておくのです。

乾かしている間にと、するりと椅子を折りますと。
鞄から取り出しますお茶セット。
大体、用意しておくのです。
今日は茶うけに練り切りを用意、紅葉をかたどったものです。

机の上にセットしましてから。
お抹茶セットを持ってぱたぱた、湯沸かし器の方に。

幣美奈穂 >  
天目茶碗にお抹茶を入れまして。
そして湯沸かし器からお湯を・・いつも手間取ります。
こうして、こうして・・なんか手間取りながら。
慎重にお湯を入れるのです。
茶柄杓が使えないので、入れますお湯の量が難しいのです。
入れすぎても入れられなくても、せっかくのお抹茶が台無しです。

ぴっ!

気合を込めて操作。
今日はまずまずなお湯の量で出来ました。
お湯が冷めないうちに、と急いで茶碗を机の上にと運びまして。
そして、また椅子に上ってクッションの上に正座。
・・クッションがないと、高さが合わないのです。

幣美奈穂 >  
茶碗を引き寄せまして、茶筌でしゃかしゃかしゃか。
手早くです。
最後に切るようにしましてから、茶筌をおきまして。
両手で茶碗を持って、一口。

・・ほっ

とするのです。
委員会の事務室で茶をたてる委員などほぼいないでしょう。
事務室にお抹茶の匂いが広がります。

幣美奈穂 >  
練り切りを竹楊枝ではむっ。
はむはむ。
そしてお抹茶を少しいただきます。

描いたものを見るのです・・確か、そう、その上に何かいた方がいいのではないでしょうか。
ここは、ハイカラに英語で・・
「~を求む」というのを手配書に書くのはどうでしょうか。
どんな言葉だったか、茶碗に口を付けたまま悩んでしまいます。

「たしか・・うぉん・・ん~~・・」

茶碗を置いて、天井を見ます。
ハイカラはちょっと苦手です。島に4年きてもなかなか慣れません。
多少なら覚えたのですが、日ごろ使わないようなものはなかなか難しいです。

幣美奈穂 >  
う~んう~んと悩みながら。
お茶請けとお抹茶を頂きます。
茶筌など共に、洗い場でそれらを綺麗にしながら。
そして拭きながらも思い出そうと悩むのです。

そして、それをお茶セットに詰めて鞄に入れました時。
天啓のように思い出すことができました。

「――そう、ウォンバット!」

いそいそ、椅子に上り正座すれば。
筆を執りまして、書いた紙の上に仮名で書いておくのです。

「ウ、ォ、ン、バ、ッ、ト。と」

文字を大きく書いて手配書が完成です。
残念、英語辞書より動物辞典のほうが軍配が上がったのです。
でも、その違和感に気付かない美奈穂は、その手配書(?)を委員会の提示版に張っておきます。

届かないのもありますが、個人的なものでもありますので。
その張り紙は提示版の下の隅のほうに張っておくのです。

幣美奈穂 >  
かくして。
謎な提示物が張られましたが。
美奈穂は鞄の鍵をかけ、クッションも所定の場所に。
そうして、次の用事と外へと向かうのでした。

ご案内:「風紀委員会事務室」から幣美奈穂さんが去りました。
ご案内:「風紀委員本庁 レイチェルデスク前」にレイチェルさんが現れました。
ご案内:「風紀委員本庁 レイチェルデスク前」に山本 英治さんが現れました。
レイチェル >  
風紀委員会本庁の一室。
レイチェルのデスクが置かれているそこは、普段であれば
レイチェル以外にも凛霞をはじめとした風紀委員のメンバーが
仕事をしている場所なのであるが、本日残っているのはレイチェル
のみ。

「さて、まぁ……こんなところかね」

新人風紀委員達の書類の不備をチェックして、
必要とあらば改善すべきポイントを別紙に書き記し、クリップで
留めておく。全て自分でこなしてしまうこともできる。
だが、それでは次に続かない。繋がらない。
こういった仕事をこなすのは、嫌いではなかった。

そうして。

『おつかれさま』と書いた、デフォルメされた猫の顔の
シルエットをした付箋をぺたりと書類に貼れば、
クリアファイルへとしまう。
これは明日に渡すとしよう、と。
そんなことを思いながら、見やれば既に外は暗くなり始めていた。


「さて、そろそろ来るかな……」

今日は、デスクに英治を呼んでいた。
ノートPCに表示された時計に目をやれば、
約束の時間まであと5分、といったところだ。

山本 英治 >  
ドアをノックして、失礼しますと声をかけて入室。

「遅参などありませんよう留意したものの、五分前の入室の許可をいただき………」

謎すぎる固い挨拶をして、あー、思いつかないと発言を止めて。

「どうも、レイチェル先輩。報告書に不備でしょうか?」

そう言って柔和に口元を歪めて笑った。

 
レイチェル・ラムレイ。
尊敬する上司。風紀委員の生きる伝説。
数多の異名を持つ女性。そして……

俺の恋のライバルなわけだ。

「それとも俺に何か聞きたいことが……?」

見れば見るほど。不思議な雰囲気のある人だ。

レイチェル >  
「いやいやいや……どんだけ畏まってんだよ英治」

それは途中で打ち止めになったものの、あまりにも堅苦しい挨拶に
入室してきたその男――英治に向けて、苦笑いをするレイチェル。

前にここへ来た時も、頭の先から爪先まで、
整然たる姿勢を十分過ぎるほど見せつけてくれた彼である。
予想はできていたが、それでも口から自然と笑みが溢れてしまうのだった。

――真琴風に言えば、あいつの在り方は温文爾雅……ってとこかね。

などと、頭の中でふわりとした思考を浮かべつつ、
言葉を返していく。

「いや、お前の報告書には何の不備もなかったぜ。
 ばっちり、問題なしだっ!」

親指を立てて、片目を一瞬ぱちりと笑みの形で閉じる。
両目が揃っていれば、ウィンクの形になるだろうか。

その身に流れる血が幻想種のそれであるが故か、山本が感じている通りに
少しばかり不思議な雰囲気を常に纏っている。
それが、レイチェル・ラムレイという女である。

しかし、そんな空気すらもちょっと突き破るような、
勢いのある指立てとウィンクであったことだろう。

無論、この場で気を遣わなくていい、というサインである。
今まで、山本には見せたことのなかった顔であった。

「……一緒に戦場に立ったんだ。あんまり距離を置かれるのも、
 ちょっと寂しいぜ」

冗談っぽく笑いながら、目の前の椅子に座るように手を差し出すレイチェル。
彼女にとって、共に戦場に立つというのは大きな意味合いがあるらしかった。

「ま……色々とな。報告書も読んだし、羽月先生からも聞いたからな。
 お前のこと……」

そうして、重々しいそれを噛み殺したような軽いため息をつきながら、
レイチェルはちらりと山本を見やるのだった。

山本 英治 >  
「そりゃあ、本庁での立場の差とか………」

フフフと可笑しそうに笑って。
ギャップで彼女が笑ってくれることまでは狙い通りだ。

レイチェル先輩は……フランクに接してくれる。
だから、時々畏まった態度を取って初対面の時を再現したくなる。

俺が一方的に感情をぶつけた、あの時のことを。

巻き込んだ側と、巻き込まれた側。
今は戦友だ。わからないもんだな。

「そりゃ何よりです、俺のインテリジェンスもレベルアップしたかな?」

思えば。我武者羅に取り組んできた。
だからこそ、書類の書き方も仕事への態度も。
少しは慣れてきたのかな。

全裸アフロとして女子勢から忌み嫌われてきた頃から、よくここまで来たもんだ。

サムズアップとウィンクに、思わず吹き出して。

「うはははっ先輩……わかりました、わかりましたって」
「そこまでされてこっちも頑なにカッタい態度取るわけにゃいかねぇや」

椅子に座って、表情を戻した。
ディープブルーとの戦い。羽月さんと神代先輩との共闘。
そして、結末と………

「はい、書面の通りです。犯人を殺して異能で呪われました」

デッドブルーを書いた。そして、今も呪いは継続している。
俺個人の問題は何も終わってはいない。

レイチェル >  
「ほんとはもうちょっと、他愛もない話でも交わしてからそっちの話に入ろうと、
 そのつもりで居たんだけどな」

そうだ。本当ならば、最近の刑事部の様子だとか、旬のスイーツの話だとか、
そういった話題から入るつもりだったのだ。
それも見越した上でのサムズアップだった筈なのだが。

「悪ぃ、やっぱお前のこと心配でさ、つい……」

結局。彼を前にして心の中の蟠りの方が、僅かに勝ってしまった。
申し訳ないな、と思いつつ視線をやや右下に逸らすレイチェル。
長耳が少しばかり垂れた。

「大丈夫――」

山本を視界の内に収めたまま、小首を傾げるレイチェル。
傾いた頬にさらりとかかった金の髪が、陽光を受けて輝く。

「――な、訳ねぇよな」

一瞬、確認するかのように問いかけるレイチェルであったが、
途中で首を振って、その問いかけを否定する。
淡々と語っているが、彼にとっては大きすぎる出来事だった筈だ。

「……すっげぇ心配してたんだ、ほんと」

セヴラン達との戦いから間を置かずに飛び出し、
そのまま入院する形となった。
それだけでも随分と慌てたし、心配だったが。
何よりも心に曇りをかけたのは、報告書と羽月先生が語った彼の『呪い』。
苦しんでいるであろう後輩を、レイチェルが心配しない訳がなかった。

山本 英治 >  
「……そりゃ申し訳ないな、レイチェル先輩」

表情を歪めた。戦友に心配をかけるなんて、ろくでなしだな俺。
小首を傾げる姿は、なんというか年頃の少女という感じがした。
────年下という感じがした。

「マリーさんは助けられたけどディープブルーは大半が逃走済」
「逮捕しようとしたら死ぬ」
「話は通じない」

「どうにもまともじゃない連中なんだ………」

くしゃり、と表情を歪めたまま語り始める。
自分から見た、ディープブルーのことを。
そして自分が呪いで死んだ親友の幻影に罵られ続けていること。
そして山本英治の肉体は弱っていっていることを……包み隠さず告げた。

窓から夕日が差し込む。
本当に良い季節だ。本当に。

「……戦います」

ぽつり、と告げた。

「ニーナという少女を助けた時に戦った相手と」
「決着をつけます」

松葉雷覇の名前は出さなかった。
言ってしまえば私闘。言ってしまえば……風紀委員の戦いではないから。

レイチェル >  
「……良いってこった。
 先輩に心配かけるのは後輩の特権だ。存分に心配かけな」

少し困りながら見せていた悲しみの色も、
いつの間にかレイチェルの顔から消えていく。
歪んだ英治の表情に対して、レイチェルがそう口にしながら
代わりに見せたのは、笑顔だった。
思っていたよりも、彼は平気そうだった。
おそらくここに来るまでに、彼を支えてくれる誰かが他にも居たのだろう。
そのことをレイチェルは察したのだった。
少し開け放ってある窓から、穏やかな涼しい風が吹いてくる。

――本当に、良い季節だ。本当に。


そうして山本が改めて口にするディープブルーの情報を、
真剣な表情で呑み込んでいく。時折頷き、時折細顎に白い指をやりながら、
一切口は出さずに、ただ彼の話を聞いて、受け止めた。

「ディープブルーの危険性は、改めて伝わった。
 報告書と……そこからの予想通り、一筋縄じゃいかねぇ連中って訳だ」

やはり当事者から話を聞くと、新たな事実も分かってくる。
山本の生きた感情を通して、レイチェルの中で改めて事件の詳細が色と形を伴って
刻まれる。そう、机の上で目を通す報告書には、あまりにも余白が多すぎるのだ。

「お前自身は呪いを受けて、身体も弱ってるときてる。
 そんな調子で、戦いに行くだと?
 もっと効率的なやり方は、いくらだってある筈だ。
 そして何よりも、お前自身に危険が及ぶ。はっきり言って、自殺行為だ。
 風紀委員の『先輩』としてそいつは認められねぇ。
 認めていい訳がねぇ。そいつは、ここで止めなくちゃいけねぇ」

真剣な眼差しを、山本へ向ける。
落ちかけている日差しを受けた彼女の紫色の瞳が、鋭い光を湛える。

レイチェル >  
「……だが、な」

口にしながら、目を閉じるレイチェル。
柳眉は、少し逆立ったとて均整のとれたまま微塵も崩れることがない。

「決着をつけるというなら。
 お前が、お前の戦いをするというなら。
 『山本 英治』が戦いに行くというなら、話は別だ」

そう口にしたレイチェルの口元は、穏やかに笑みの形を作っていた。

「他の誰がどうこう言おうが、関係ねぇ。
 オレが、『レイチェル・ラムレイ』が、
 全力でお前の背中を押して、支えてやる」

オレがそうしたいからな、と。レイチェルは小さく付け加えた。

山本 英治 >  
「さすがレイチェル先輩だ……色んな人が先輩に憧れてるの、わかるな」

秋風を感じる。今まで死ぬような暑気の中を警邏していたのが。
どこか懐かしい。
どこか………遠くに思える。

ハッ、ガラでもねぇし、縁起でもねぇ。
死ぬなら無難に畳の上って決めてんだよ、俺は。

 
「そのディープブルーの調査にも加わらず……」
「毎日の自分の仕事で手一杯……」
「授業は身も入らず、漫ろ…………」
「呪いで今にも死にそうで、頼みのフィジカルは弱っていく」

「そんな男ができることって……少ないじゃないですか」

弱々しく笑って、頭を振る。
死ぬ気は毛頭ない。それは励ましてくれたみんなを裏切る行為だ。
それでも……どんな状況でもやれることをやるのが漢だ。

そして鋭い眼光で射竦められて、止める…という言葉を聞いて。
どう返すか悩んでいる一瞬に。
秋風と、柔らかな言葉が響いた。

「……ありがとうございます、レイチェルせんぱ………いや」
「レイチェル。あなたを女と見込んで頼む」

「力を貸してくれ………」

俺一人じゃ、戦いの場までたどり着けないかも知れない。
それでも……彼女や、マリーさんがいてくれたら…

残酷な結末しか待っていないかも知れない。それでも、笑った。

レイチェル >  
「ありがとよ。……ま、情けねぇ先輩でもあるがな」

否定はしない。彼の称賛を無碍にする訳にはいかなかった。
しかし、自身の在り方に思うことはある。
後輩に心配をかけることもあった。
だからレイチェルは、それだけ小さく付け足したのだった。

「すり減っても突っ走るお前を見てると、他人の気がしねーのさ。
 だからこそ、支えたいと思える。
 お前の気持ち、全部じゃねぇけど分かるところがあるから、さ。
 ま、こいつはオレの我儘だ」

支えなきゃいけないから、支えるのではない。
支えたいから支えるのだと、レイチェルは告げる。

「あったりめーだ。
 時空圧壊《バレットタイム》のレイチェル・ラムレイが、お前の味方なんだ。
 絶対、死なせやしねぇよ――」

冗談っぽく笑った後に、
少しばかり右手で外套に触れるレイチェル。
そのまま立ち上がれば、レイチェルの右拳が
彼に向けて勢いよく突き出される。

「――絶対に。その為にオレの力を貸す。女の、約束だぜ」

その言葉は、力強かった。

山本 英治 >  
「強さも弱さもあるから、本当に強いんだ」

ふ、と微笑んで膝の上で両手を組んだ。
視界の隅に未来がいる。
また来たようだ……見ないように努力をした。

「……公私共に風紀に捧げることは、正しいけど間違ってる」
「そんなもんさ……レイチェル、ありがとう」

向けられた拳に、右拳をコツンとぶつける。
こうした相手を裏切ったことは一度もない。
おそらく、レイチェル・ラムレイという女も。

「松葉雷覇………書類上、セカンドヘヴンに目覚めた時に戦った相手だ」
「重力と斥力を使う異能を持っていて、人の命をなんとも思っていないフシがある」
「恐らく、洗っても何も出ない………証拠もない、聞いても言動が怪しいだけだ」

「でも、俺はあいつと戦う」

見損なうかい? と言った時。
視界の隅で未来が嘲笑っていた。

レイチェル >  
「いいや」

レイチェルは立ったまま、その首を横に振る。
ゆっくりと、静かに。
そうして真正面から、彼の目を見上げて口の端を緩めた。
それはかつて、戦いを前にした時のレイチェルが見せた――。
そして、先日の共同任務の前にレイチェルが彼に見せた――。

――どこまでも不敵な、笑みだ。
――呪いも覚悟も、一緒に背負って支えてやるという、自信に満ち溢れた笑みだ。
――『レイチェル・ラムレイ』の笑みだ。

「見損ないやしねぇさ」

それは、何処までも力強い否定の言葉だった。
否定こそが、レイチェル・ラムレイの力の根源《ルーツ》。
かつて、自ら折っていた心の牙。

「嘲笑《わら》いやしねぇさ」

無論、未来の幻覚はレイチェルに見えている訳ではない。
しかしながら、レイチェルの力強い否定は彼の内に宿る呪いを――
ほんの一瞬だとしても――消し飛ばすかのように、鋭く放たれた。

「お前がお前の信じる道を進むなら、オレはそいつを――」

握った拳をくるりと上向きにして、掌を開く。

「――『正解』にする、その為の支えとなるさ」

その中に収まって居たのは、小さな漆黒の物体だった。
ポケットにも簡単に入るであろう、小さな筒のような形をしたそれは――

レイチェル >  
「――こいつは試作品だが、手製の虚弾《ホローポイント》……いや。、
 『虚榴弾《ホローグレネード》』だ。
 投擲すれば、一瞬だが奇跡を殺せる。
 お前自身の奇跡も、例外なく殺すだろうが――」

そうして、レイチェルは優しく微笑んで見せる。

「――使い方次第だ、持っときな」

窓から吹いてくる心地よい風が、
信頼の目で男を見上げるその少女《せんぱい》の外套を、静かに揺らしていた。

山本 英治 >  
小さな筒を受け取る。
これが……奇跡を殺す力。
掌に収まる最終手段。

彼女の否定の言葉を聞いた時。
視界の隅で邪悪に笑っていた親友の姿は掻き消えていた。

呪いを消し飛ばす、強い意志。
今の俺に必要なものを、二つもくれた。

「ああ……使わせてもらう」

ちっぽけで、どこまでも心強いそれをポケットに入れる。

「正解にしてもらうなら、貫き通すだけだ」

そう、漢を。自分が信じた未来を。後悔しないために。
偽りの未来を打ち破るための意思を。
この手に。

「ありがとう、レイチェル」

静かに放ったその言葉は。
不思議と自分の心にも浸透した。

最近、ありがとうって言う度に。自分が救われてる気がするのは。
なんでだろうな………