2020/09/26 のログ
■神代理央 >
「…御明察です、というには現行犯で抑えられてしまいましたが。
しかし、応援ではなく邪魔しに来たのですか?」
クスクスと笑いながら彼女の言葉に応えつつ。
書類を一緒に退けてくれた事に礼を告げようとして――
「ええ。新入委員の訓練計画は、此方では草案程度のものです。
レイチェル先輩の方で、精査して頂ければ。
勧誘の企画は…総務や庶務とも打ち合わせが必要かもしれませんね。一通りの書類は、後で転送しておきます」
仕事モード、と言う様な口調で彼女に回す書類の簡易な説明。
何方にせよ、己のところで決済出来るものは少ない。
諸々は、彼女を含めた上級生に回る事になるのだろう。
「分かりました……あ、それお菓子だったんですか。
てっきり、新しい書類か仕事かと思っていました」
彼女の言葉に頷いて機械を操作しながら、返す言葉は結構真面目なな声色。
本当に書類かと思っていました、と言う様な声色の後――
「……でも、甘い物の差し入れは何時でも歓迎です。
これでも、甘味には目が無い方でして。
………というか、レイチェル先輩案外可愛らしいお菓子が好きなんですね?」
珈琲から緑茶まで。
来訪者を持成す飲料を常時提供するドリンクサーバーもどき。
温かな湯気を立てる紅茶が、質素だが上質なデザインのカップに注がれ、トレイに置かれるまでが全自動。
流石は扶桑印の絡繰りか、と感心しながら、トレイを持って彼女の下へ。
空いているスペースにカップを置きながら、広げられた紙袋の中身を見て、クスリと笑みを零すだろうか。
■レイチェル >
「おうおう、邪魔しに来た。
頑張り過ぎな後輩はちゃーんと先輩が邪魔しに来るさ」
悪戯っぽい性質を隠さない笑みを後輩に見せるレイチェル。
この手合は少々強引にやらねば、崩せない。
――きっと、自分と同じ頑固者だろうからな。
そんな風に考えながら、レイチェルは話を続けていく。
「ああ、そうしてくれると助かる。
しっかしまぁ、ほんとこうやって書類を
きっちり整理してくれるのはマジに助かるぜ。
お前、こういうとこしっかりしてるよな。
『信頼』してるよ、こういうとこさ。
オレがお前くらいの時は、こんなに上手くやれなかったよ」
手を離して、そう口にするレイチェル。
『神代 理央』の価値の一つは、こういう所にきっとある。
レイチェルはそう信じている。
「退院直後の後輩に書類仕事を持ってくる鬼畜に見えるか?
……いや、見えるかもしれねーな」
自らの顎に手をやり、少々じっとりとした視線を床に落とすレイチェル。
自分がどのように噂をされているか、知らぬレイチェルではない。
後輩風紀委員に鬼のような指導を行う、
そんなレイチェル・ラムレイであるが故に。
でも、それとこれとは別なのだ。
「お前の甘味趣味は、結構噂になってるぜ。
だから腕によりをかけてあまーいクッキーを作ってきたのさ。
……いやまぁ、可愛いもんは、おう……好きだぜ。
好きだが、別に笑うこたねーだろ……!?」
クスリと理央が笑みを零せば、
その形が整った頬とピンと立った耳をすっかり赤くして、
先輩は目を逸らすのだった。
■神代理央 >
「全く。先輩に邪魔されたとあっては、仕事を進める訳にもいきませんね。どのみち、少し煮詰まっていたところですし、火急の案件も今のところありません。
それに…私を邪魔すれば、提出期限ぎりぎりの書類が回るのは、最終的にレイチェル先輩ですしね」
最期の言葉は、図らずも彼女と同じ様な悪戯っ子の様なもの。
まあ流石に、其処までの悪戯はしない――のだが。
「流石に事務処理をメインでしていた訳では無いので、大体は先輩方に回す前の書類の精査や草案作りばかりですけどね。
御謙遜を。『時空圧壊』の二つ名だけで、百の書類に勝る功績が先輩にはあるじゃないですか」
此れは、世辞でも何でもない己の本心。
己が入学する前の彼女の活躍は、大凡ではあるが資料で目を通している。
公私の中でも『公』を重視してしまいがちな己からすれば『レイチェル・ラムレイ』という名が背負う業績と功績は純粋に尊敬すべきものであるのだし。
「そうへこまないで下さい。
レイチェル先輩が…というよりも、先輩の多忙さ故の感想ですから。
こっちに回す書類もあるのかなー、みたいな」
流石に、退院したばかりの後輩に書類を投げてくる様な鬼軍曹だとは思っていない。
個人的な感想としては、面倒見の良い善き先輩委員だ。
訓練場では、鬼軍曹かもしれないが。
「……噂になっているのですか。それは何というか…まあ、良いんですけど…。
先輩お手製ですか。それは色んな意味で、食べ応えがありそうですね。
……失礼しました。でもまあ何というか、先輩も普通に女の子らしいところもあるんだなって、ちょっと微笑ましくなってしまって。
先輩に言うべき感想では無いかもしれませんけど」
頬と耳を朱く染める彼女をニコニコと眺めながら、此方もカップを手に再び椅子に腰掛ける。
可愛らしい猫として形作られたクッキーを眺めながら、食べるのがちょっと勿体無いな、と思っていたり。
■レイチェル >
「任せろ。そうなっちまった時には、責任は負うさ」
あはは、と軽く笑い飛ばしながら。
後頭部に腕を回しながらレイチェルは笑う。
彼がそんなことを本気で言っている訳ではないことくらい、
きちんと読み取っているのだが、冗談めいた降参のポーズにも見えるだろうか。
「……功績、ね。正直、名のせいで色々と苦い思いをしたことも
あったけどな。今じゃまぁ……受け容れてるさ」
『時空圧壊』。落第街に繰り出し、違反部活と激しい戦いを
日夜繰り広げていた者の異能にして、二つ名だ。
気に食わないものを否定する。
あれはまさしく、どこまでも『己』であった。
そんな『己』の背に、人々は名を乗せた。
しかし、かつてのレイチェルには違和感があった。
偶々気に食わないと思っていた者達が、『公』が相手せねばなら
ない者達と共通していただけだったのだ。
そんな『己』を――『時空圧壊』を否定して、
『公』に身を寄せた時期もあったが、
今ではそんな『己』も受け容れることができるようになっている。
その筈だ。これも全て、周りの人々のお陰だ。
「なに、別にへこんじゃねーさ。まぁ……これから書類は
回すことになるかもしれねぇけど、お前はお前できっちりと
仕事分担しろよな――」
実際、別にその程度のことでへこむレイチェルではなかったが。
それでも、ちょっと思う所が無かった訳ではなかった。
それだけだ。
「――ま、フォローありがとな」
とはいえ、後輩のフォローはありがたく
受け取っておくのであった。
「……女の子らしい、だぁ?」
はぁ? と。眉を下げて顔を理央の方へ向ければ、じっとりとした視線を
向けるレイチェル。
別に、そういうことを言われてこなかった訳ではない。
華霧からだって、似たようなことを言われたのだ。
「ま、まぁ……女らしい生き方はあんまりしてこなかった
かもしれねーけど……こういうのは好きなんだよ、結構。
特に、クッキーはな――」
血と硝煙の中に在っても、忘れることができなかった、
そんな遠い過去の記憶。果てなき往日の夢。
その象徴こそ、レイチェルにとってのクッキーであった。
「――『クッキーには、人を幸せにする力がある』。
母親がよく言ってた。今じゃ笑い飛ばしちまうような話なんだがな、
昔は信じてずっとクッキーを作ってたもんだ」
魔狩人として血を浴びながら。殺し続けながら。
それでも、きっと『マイナス』は『プラス』で補えるのだと、
そんな甘ったるい夢を信じて。信じ続けた。
そんな幼少時の自分の姿を思い出して、レイチェルは少しだけ目を閉じた。
「……ま、そんな話はいいか。
さて、クッキー食べようぜ。
オレ達には、『日常』が必要だからさ」
にこりと笑って、レイチェルは紙袋の中に手をやるのだった。
■神代理央 >
「……苦い思い、ですか。レイチェル先輩でも、そんな事が有ったんですね。
それでも、私は戦うべき相手がいる限りは、風紀委員として在るべき姿を違反組織の連中に見せつけられればと思います。
私個人がどの様な思いを抱こうと、私は『風紀委員』で有り続けようと思います」
『時空圧壊』として名を馳せた彼女が抱える苦悩は、己の比では無いのだろう。
様々な出会いと別れ。戦いと喪失を、彼女は経ているのだろう。
だからこそ、彼女の言葉は重い。経験がある故の、言葉。
それでも己は『公』であり続けると彼女に紡ぐだろう。
己と彼女の違いは、人々が彼女の『己』に名を乗せたのとは真逆であること。
『鉄火の支配者』は断じて『神代理央』ではない。言うなれば、風紀委員として演じている姿。役目を果たす為に、被り続ける仮面。
それが名を成し、広まっているのならば。
其処に『神代理央』は存在しない。
『風紀委員会の鉄火の支配者』でしかない。――それで良い。
勿論、彼女を含めた己の周囲の人々の言葉には常に耳を傾ける努力をしている。
それでも、落第街に恐れられる存在で有り続ける為には。
己は未だに『公』としての一面を、強く持ち続けなければならないのだから。
「寧ろ、先輩の負担を考えれば回して頂けなければ困ります。
どのみち、最終的に先輩に回す事にはなってしまうのですけど…。
私も、流石に時間配分が難しくなってきましたので、割り振れる仕事は割り振っていこうかと思ってます」
へこんじゃいない、と告げる彼女に少しだけ苦笑いを向けながら。
時に彼女を頼り、時に彼女を支えられる後輩であろうとする旨を、真面目な表情で告げるのだろう。
「……此れでも褒めたつもりなんですけど…。
レイチェル先輩は見栄えも大変宜しいんですから、普段の凛々しさとは違うギャップも是非活かして頂きたいですね。
具体的には、勧誘活動とかで。こう、是非」
いけしゃあしゃあ、と言わんばかりに彼女のジト目を受け流す。
こういったやり取りが出来るくらいには、敬愛すべき先輩である彼女との交流も深まった――深まっていればいいな、と思う。
「『クッキーには、人を幸せにする力がある』ですか。
……素敵な言葉ですね。じゃあ、それを事実にしなければいけませんね。
レイチェル先輩のお母様の御言葉とあれば、それを違える訳にはいきませんし」
記録と資料によれば、彼女の母親は――既に此の世に居ない、らしい。
であれば、クッキーに込めた彼女の想いは、それ相応に『レイチェル・ラムレイ』を形作るモノの一つである筈。
ならば、それを尊重しよう。様々な想いを込めて彼女が作った、この可愛らしいクッキーにはきっと。
確かな幸福への願いが、込められているのだから。
「レイチェル先輩とお茶会、というだけで既に幸せ者かもしれませんけどね?
それじゃあ、同僚達には申し訳ないですが――『日常』をのんびりと、御一緒させて下さいね、先輩」
あのレイチェル・ラムレイと二人で紅茶とクッキーで一息。
落第街の連中よりも同僚から恨みを買いそうだ、なんてちょっとだけ笑みを零しながら。
彼女のお手製クッキーと、香り高い紅茶を合わせて――暫しの間、穏やかな時間が無機質な執務室に流れるのだろうか。
その合間合間で、つい仕事の話を零したであろうことはご愛敬。
■レイチェル >
そうして。
お茶会が終わったその後に。
執務室を去って扉を閉めたその後に、
レイチェルは一人目を細めて窓の外を見やるのだった。
それは他ならぬ、『魔狩人』の目だ。
「あの魔力――」
神代 理央から感じていたもの。
それはかつて、この世界に来る前に何度も対峙した、
忌まわしき力の波動。
随分と長い間、触れていなかった気配だ。
「――まさか、『奴ら』の力か?」
確信は持てない。
魔力は、ぼんやりと彼の内から感じ取ることができただけだ。
かつて対峙したことのある輩の持っていた
それと同質の力のように思えるが、
あの手の力をこの世界に来て感じたのは、初めてのことだ。
似て非なるものである可能性は、否定できなかった。
否。似て非なるもので、あって欲しいところだ。
「……気の所為であってくれればいいが」
静かにぽつりと呟いて、レイチェルは外套を翻して
歩き始める。
どうあれ、楽観視はできまい。
改めて時間のある時に、じっくり話を聞く必要があるだろう。
あの雰囲気ではどうにも言い辛かったが、
メールでまずは伝えるだけ、伝えるのは手かもしれない。
そんなことを思いながら、レイチェルは廊下を歩いていく――。
「いずれにせよ、あいつも支えてやりてぇな、本当に」
――その一言だけをぽつりと残して。
ご案内:「風紀委員会本庁 とある委員の執務室」からレイチェルさんが去りました。
ご案内:「風紀委員会本庁 とある委員の執務室」から神代理央さんが去りました。