2020/10/23 のログ
神代理央 >  
投げかけられた声に、おや、と視線を向ける。
向けた視線の先には、ちょくちょく顔を合わせる様になった先輩委員の姿があった。
投げかけられた言葉に、小さく肩を竦めつつ。

「ええ。今日は終日事務仕事ですよ。
警邏任務自体、人手が無い時に向かうくらいになるかもしれません」

くぴくぴ、と缶コーヒーを煽る。

「今は、違反部活の摘発が主な仕事ですからね。
それが警邏を兼ねる事になれば話は別ですが…以前より、前線勤務が多くなるでしょうし」

日下 葵 > 「ほほう?なんだか鏡を見ているような日程ですねえ?」

彼の今日一日の様子を聞いて、なんだか自分と似たような状態に笑ってしまう。
ロビーの一角に並んだ自販機に硬貨を入れると、点灯したランプの一つを押す。
ガコンッという音と共に吐き出された缶コーヒーを手に持つと、
彼の座っている近くの椅子まで移動して腰を下ろした。

「摘発ですか。
 神代君は特にどこかの部署に所属しているとかではないんでしたっけ?」

そういえば彼の所属を聞いたことはなかったな、なんて思って所属を問う。
様々な部署があるが、中には特定の部署に所属しない委員もいるとか。
彼もそんなクチなのだろうか。
そんな疑問が湧くと、興味津々といった様子で缶コーヒーを飲み下した>

神代理央 >  
「事務方も大事な仕事ですからね。前線でドンパチやっているだけでは、組織は回りませんから」

己の事を棚に上げている様な気がしないでも無いが。
腰を下ろした彼女に視線を向けながら、苦笑い気味の言葉を告げて。

「ああ、以前はそうだったんですけどね。
今は新設した部署に所属しています。特務広報部……と、聞こえは良いですが、現状私だけですけどね」

如何せん、部署としてまだ出来立てほやほや。
所属員も自分だけ。
それ故に、先程の様に他部署の委員達との打ち合わせも行っていたりするのだが。

日下 葵 > 「そうですねえ。
 ま、私としては埃っぽい路地裏とか、
 趣味の悪い病室とかで神代君を見るよりか、
 こういう何ともないただのロビーで目にした方が安心ですけどねえ」

安心――
そもそも彼に関して不安に思うような心があるのかどうかから疑問だが。

「ほう、新設の部署ですか。
 特務広報部……?名前だけ聞くと外向けの部署の様に聞こえますけど、
 所属が神代君だけ?」

まぁ、見た目だけは良い彼のことだ。
口さえ開かなければ目の保養にはなりそうなものだが……
まさかそんな頭の悪い人間が考えたような部署に入る彼ではないだろう>

神代理央 >  
「…路地裏はさておき。趣味の悪い病室は余計な御世話ですよ。
私があの内装にした訳では無いんですから。
………まあ、心配して頂けるのは素直に有難いですけど」

と、少し頬を膨らませつつ。
やっぱり表情に浮かべるのは小さな苦笑い。

「まあ、えーと…。特務、なんて大袈裟な名前がついている時点で、通常の広報活動とは別途の目的を有した部ではあります。
ざっくり言えば、違反組織に過剰な対応を取り、それを喧伝する事によって違反組織への委縮させる事を目的とした部署です」

「広報活動も、言葉を選ばずに言えばプロパガンダ的な要素が強くなるでしょうね。
その任務の性質上、どうしても所属要員を選ばざるを得ません。
新設したばかり、ということもあって、現状では私だけという事です」

尤も、特務広報部の本来の目的は別にあるのだが。
取り敢えずは表向きの設立理由を説明しながら、糖分の塊の様な珈琲で喉を潤す。

日下 葵 > 「でもあの内装で文句言わなかったんでしょう?
 私はあんな部屋に入れられたんじゃ怪我の治りが遅くなりそうで御免です」

怪我の治り、というのは恐らく私を含めて数人だけが使えるブラックジョークだ。
――聞いた側の人間が笑えるかどうかは知らない。

「つまり、
『率先して嫌われ役を演じて、
 そのうえで手段を択ばず幅を利かせるオラオラした部署』
 って認識でOKです?」

選んだ言葉こそひどいものだが、つまりはそういう部署なのだろう。
そこまで説明を聞いて、まだメンバーが彼ひとりであることに納得が行った。

「また傷を増やしそうな部署ですねえ……」

缶コーヒーを一口飲み下すと、まるで独り言のようにつぶやいた>

神代理央 >  
「…まあ、確かに文句は無いというか、普通の部屋ってあんなものだと思ってはいましたけど。
それと。余り笑えませんよ、先輩。そもそも、先輩の異能が幾ら死に難いとはいっても、怪我をしやすい環境にいて欲しい訳じゃないんですからね」

少し表情を曇らせるのは、彼女の冗談では残念ながら笑えなかった事を如実に表すものか。
一度、彼女を傷付けた身としては――断じて、笑えない。

「平たく言えばそういう事です。大分、私向けの部署でしょう?
神宮司先輩の肝入りです。御眼鏡にかなった、と喜ぶべきなのでしょう」

と、告げる言葉に喜色は無い。
唯淡々と、言葉を紡ぐだけ。

「……否定はしません。しかし、その傷は必要なもの。コラテラルダメージです。
無意味なものでは決してありません。決して、そんな事にはしませんとも」

カツン、と缶が椅子の淵に置かれて音を立てる。
その視線は彼女に合わせられる事無く、じっと良く磨かれた床を見下ろしているばかり。

日下 葵 > 「これは”育ちの違い”ってやつなんでしょうか」

ふと、私が”ペット”として飼っている少女の部屋を思い出した。
彼女も、彼も、いわばお金持ちという奴だろう。
そんな人が、治安のために異能を振るって怪我をしたり、
異能のために怖い思いをしてすがってきたり。
よくわからないことばっかりだ。

「でも、そういう環境に普通の人を送る訳にも行かないでしょう?
 神宮司、という方との面識はありませんが、
 神代君がその部署を”自分向け”と言うように、
 私の仕事もだいぶ”私向け”だと思います」

「皮肉ってやつですよ。そんなに落ち込まないでください。
 神代君だってなかなかキレのある皮肉を言う人じゃあないですか」

彼の表情にいまいち明るさがないのは、
一度私を殺しかけたからか、
はたまた自分の置かれた立場を呪ってのことなのか。

「そう来なくっちゃ。
 無駄とは言わせない、そんなことをいう奴はつぶして、
 全力の果てに死んでやる。
 それくらいの意気込みじゃないと」

――らしくないですよ。
どこを見ているのだろうか。
少なくとも、こちらには向けられない彼の視線に笑うと、
ぐいっと缶コーヒーを飲み干した>

神代理央 >  
「まあ、人より資産的に恵まれた生活である事は自覚していますから。そういった感覚は、確かに違うでしょうね」

と、所謂お金持ち、である事は否定せず。
彼女の疑問に気付く事はなく、小さく笑ってみせるだろう。
戦わずとも優雅に暮らせる立場でありながら、力を振るう事によって自ら危険な場所に立つ。
それは、育ちや環境ではなく、偏に己の成り立ちから現れる行動なのだろうから。

「…ああ、神宮司先輩はその…何といえばいいんでしょうね。
取り敢えず委員会の上層部に名を連ねる人です。
――先輩の仕事が、先輩向け、ですか。それで先輩が納得しているなら、私からも強くは言いませんが…」

「……私は、先輩ほど性格が捻じ曲がっていませんので。
皮肉を言うにも言葉を選びますよ。少なくとも、見舞いの品に鉢植えを持ってくることは無いですとも」

と、視線を下に向けた儘、小さく嗤う。
しかし次いで投げかけられた彼女からの言葉には、ゆっくりと視線を上げて彼女に向けるのだろうか。

「……何というか。先輩に慰められたり励まされると、明日は隕石でも落ちてくるんじゃないかって思いますね。
天文部に真偽を確かめておかないと」

「……でも、まあ。有難う御座います、先輩。
最近色々と悩む事も多かったので、ちょっとらしくなかったかもしれません」

此方を見て笑う彼女に笑みを返すと、己も同じ様に珈琲を飲み干して。
静かに椅子から立ち上がると、捨ててきましょうか?と彼女の空き缶に視線を向けるだろう。

日下 葵 > 「へえ?ま、そんなことを言ってしまえば、
 私の”育ち”なんかも相当変わってますしねえ」

そもそも、家庭環境も人それぞれだ。異能や魔術が一般的になってからは特に。

――それでもフレイヤには神代君のような感性は持ち合わせてほしくはないが。

「わお。重鎮じゃないですか。
 ずいぶんまた面倒なポストに目をつけられましたねえ?
 私の上司とか、そういうレベルじゃないですよ、それ」

神宮司という男の情報を耳にすると、素で驚いて見せる。
少なくとも、普通に生活していて関わりたい人間ではない。

「ねじ曲がってるのは性格だけじゃないですよ。
 もう内蔵から骨まで捻じろうと思えばいくらでもねじれますから」

――ハロウィンの仮装、ゾンビとかやろうかなぁって。

そういってはしゃぐ様子は、彼の皮肉や小言など意に介しませんよ、
と言わんばかりだ。

「……え?
 慰めているように聞こえましたか……?」

彼の言葉を聞いた瞬間、まるで意表を突かれたような表情を浮かべた。
マズい、らしくないことをした。
一瞬でも自分の状況や過去を重ねてしまったせいだろうか。
普段なら笑えない冗談の一つや二つ飛ばすところだが、
自分らしくない言動に動揺したのか、それすらできなかった。

「っと……これは私もらしくないことをしてしまいました。
 ま、安心してくださいよ。今週末の朧車の報告会ではちゃんと
 ”神代理央は仕事してました”って言ってあげますから。
 それ以外に何か悩んでいるっていうなら、私が相談に乗ってあげますよ?」

相談に乗る――とは提案したが、
その表情は弱みを見つけようと得物を狙う獣の眼そのものだった。

「お気になさらず。
 自分で出したごみくらい自分で片付けますよ」

そういって立ち上がれば、空になった缶をゴミ箱へ。
そのまま本庁の出口へ向かえば振り向きざまに手を振って帰路につくのであった>

神代理央 >  
「利害関係の一致、というやつですよ。風紀委員は、皆が皆善人という訳でもありませんしね」

言外に、後ろ暗い関係である事を仄めかしながら、力無く笑う。
嘗ては対等な関係であった筈が、今は――
…いや、それは彼女には関係の無い事。
話題を切り替えるかの様に、表情を幾分明るくする。

「捻じれた儘では健全な成長が望めませんよ?
なまじっか死に難いばかりに、妙な生活習慣病とかにかかって苦しむのは日下先輩の方ですからね」

「ハロウィン…仮装されるんですか。
火葬されない様に気を付けてくださいね」

はしゃぐ彼女も何だか珍しいな、と眺めつつ。
小さく肩を竦めてみせた。

「ええ。恐らく、他の者に聞いても先輩の言葉は慰めの部類に入るものだったと思いますよ。
らしくない、と思うくらいなら最初から言わなければいいのに」

クスクスと笑いながら、意表を突かれたような彼女の様子に面白そうに相好を崩して。

「先輩に相談するくらいなら、その辺りの自販機に話していた方が建設的かもしれませんね。
まあ、周りに自販機が無ければ相談させて貰いますよ」

弱味を掴もうと言わんばかりの視線と表情。
それに応えるのは、飄々としていながら何時もの様に尊大さと自尊心に満ちた表情だろうか。

「おや、余計な御世話でしたね。
それじゃあまた。…ああ、特務広報部は、何時でも先輩の様に優秀な人材をお待ちしていますよ」

まあ、彼女は此処には来ないだろうけれど。
少しだけ、来てくれたら嬉しいななんて思いながら。
手を振る彼女を見送った後、己も執務室へと戻っていくのだろう。
処理すべき書類は、まだまだ残っている。

ご案内:「風紀委員会本庁 ロビー」から日下 葵さんが去りました。
ご案内:「風紀委員会本庁 ロビー」から神代理央さんが去りました。