2021/10/12 のログ
■紫陽花 剱菊 >
「…………」
如何にも今が育ちざかり。
然れど、未だ芽は伸びず。
訴える"成長期"とやらは、何時来るのか。
さて、背丈に限らぬので在れば其れは今と言えるやもしれぬ。
「…………」
僅かに男の眉が動いた。
斯様な言葉が出てくるとは思わなかったものもある。
微細に揺れた心根に腕を下ろした。
「よもや、如何様な言葉を吐ける程とはな……。
賊であろうと、戦相手の事を慮るか」
気に掛けずとも灰に還せば良い。
賊である以上、情けなど書けるはずもなかった鉄火の支配者から聞ける言葉では無い。
或いは、支配者。即ち上に立つ者として漸く足元を気配る理由が出来たか。
何れにせよ、其の言葉を聞いた以上無碍には出来ぬ。
元より、影として動くつもりでは在ったとしても、だ。
「伊都波 凛霞が、個が全に与える影響はたかが知れている。
然れど、個に対してならば話も変わろうに。
吹き溜まりに火を付けんとする不遜な輩の足を挫く」
「布石としては十二分に効果を発揮したようだ」
明確な狙いとは断言出来ない。
然れど、火付け役は篝火さえ手に持てる状況ではない。
単なる足止めか。其れだけが目的とは考えづらい。
或いは、存外組織としてではなく、個人としての布告か。
思考を巡らせど、些か、霞を掴むばかりだ。
「……人質は価値が在ればこそ許される。
其方が下手を打てば、其の"価値"は無くなろう」
或いは、既にこうしている間にも死人となっているかもしれない。
然れど、其処まで手早いのであれば拉致する意味も無い。その場で殺せば良い。
即ち、伊都波 凛霞には今、敵にとって相応の"価値"を持っている。
恐らくでは在るが、其の価値を左右するのが鉄火の支配者に他ならぬのではないだろうか。
当たらずとも、遠からずか。無論、確証など無い。
故に、やる事は当に決まっている。
「わからぬので在れば、知れば良いだけの事。故に、我等公安がいる」
故に、影が動く時。
「……座して待つのは、歯痒いだろう。今が雌伏の時と見たが如何にする?」
故に、答えは相手次第。
■神代理央 >
「……………………」
何だか、賞賛半分、ものすごい失礼なこと半分、な視線を
受けている気がする。
まあ、言葉にされない以上此方も何も言う事は出来ないのだが――
…彼に向ける視線に、幾分ジト目が混じった。
「慮った、等と偉そうな事を言うつもりはないさ。
其処に至るには、私はまだ未熟だ。
正直、一歩間違えれば今夜にでも落第街を戦場に変えていた。
ただ、運よくブレーキをかける事が出来た…それだけだ。
それも、私自身の力ではないしな」
小さな溜息。それは、幾分自嘲も混じるもの。
未だ彼の評価を受けるには自分は至らない。
そう告げる様な、溜息。
とはいえ、凹んでばかりもいられない。
再び彼に向けた瞳は、しっかりと意志の力が籠ったもの。
「風紀委員会としては、確かに一人の委員でしかないかもしれない。
しかし、彼女は『常世学園』において非常に優秀な生徒でも知られている。
例え、その過去に何があろうともな。
であれば、組織にではなく――生徒達に与える影響の方が、心配だ」
それも、狙いの一つなのか。それとも。
兎に角、此方は完全に後手に回っている。
武力で解決できない事がこうももどかしいものなのか、と
忌々し気に舌打ちしようとした、時。
「………ほう。協力を要請したい、とは思っていた」
「風紀委員会は、言うなれば篝火であり松明。
漆黒を照らす光。けれども、その光は闇の果てには届かない」
「なれば、深淵に駆ける者と。闇に駆け、影を得意とする者達」
其処まで告げて、もう一度。
ゆっくりと、視線を剣客へと向ける。
「……私は。私の武力は未だ動く訳にはいかない。
私が十全の力を振るう為に、どうか力を貸してくれないだろうか。
紫陽花劔菊。公安の剣客。……風紀委員として、そして」
「………友人として、貴方に頼みたい」
深々と、頭を下げた。
■紫陽花 剱菊 >
「……其処に至っただけでも今は充分で在ろう。
……、……思い留まらせたきっかけはかくも、そう断じたのは其方であろう」
故に、敵であれば其れを手折るのだ。
…等と、ゆるりと出掛かった言の葉は飲み込んだ。
戦場での習わしを此処迄持ち出す心算は無い。
何れそうなるかもしれないとしても、今言うべきではない。
其の言葉が、彼を思い留まらせたものを"断つ"かもしれぬからだ。
「…………」
「全体では無く、個の心配か……」
如何に血生臭い戦が幾度此の島で起きた事か。
異人たる己には想像は付かぬが、呆気なく散る命を幾らでも見てきた。
あの時もそうだった。そして、吹き溜まりでは尚も簡単に吹いて消える。
然れど、小さな花にも名は確かにあったのだ。
咲く場所等関係無く、散った花にも名は合った。
其れを慮るのは、人として必定。
「…………」
だからこそ、金糸が揺れ、頭を下げた時に静かに目を伏せた。
踵を返し、僅かに顔を上げる。空を隠す、一枚天井。
「……元より友誼では無く、公安と風紀。
で在れば、私は動くのも必然の成り行き。
頭を下げる事では無い……」
「──────友として頼むで在れば、尚の事」
唯一言、其れだけで充分。
友ならばこそだ。
「……然るに、私も凛霞とは浅からぬ仲。
何を言われ、阻まれようと動くつもりでいた」
故に、友である。
「……後は任せよ。迅速に、奴等の真意を暴いて見せる」
あわよくば、彼女を助ける事も考えてはいるが、下手を打てば身も蓋も無い。
時に心を刃に忍ばせ、冷徹に成れるが故に戦人。
今は唯、一振りの刃で在った己を今一度思い馳せ、闇を断つのみ。
一足、踏み入れば戸が音を立て、男は影へと消えるのみ。
ご案内:「委員会街」から紫陽花 剱菊さんが去りました。
■神代理央 >
彼は、一度言葉を飲み込んだ…様な、気がする。
それは、己の未熟故だろうか。
それとも、彼にも何か思う所があったのだろうか。
…今は、それを聞くべきではない。
だって、目の前の男は――
「……それでも、良いんだ。必然であっても、当然であっても」
「お前は、私に話を聞きに来てくれて。私の頼みを、聞いてくれた」
ゆっくりと顔を上げる。
視線の先に捕らえた宵闇の様な男に、笑いかける。
「だから、ありがとう。劔菊。今回ばかりは、私だけではどうにもならなかったかもしれない」
それは、事実。
自分だけでは、きっと今までと同じだったかもしれない。
落第街を焼いて、敵を作り、増やして。
伊都波凛霞を、救い出せなかった…かも、しれない。
それでも、自分には手を伸ばしてくれる人がいた。
『手紙』をくれた先輩がいた。
こうして、会いに来てくれた友がいた。
ならば。
「……頼んだ。紫陽花劔菊。公安の剣客。
私は、破壊しか生み出さない。火焔と業火が、私の本質。
だから、頼む。頼りに、している」
影に消えた男を見送って――見送れたかどうか、怪しいものだが。
ふぅ、と小さく溜息を吐き出した。
自分に出来る事。破壊以外の事。
殺さずに、すむこと。
それを探す為に。少年は再びモニターと向き合った――
ご案内:「委員会街」から神代理央さんが去りました。