2021/11/17 のログ
ご案内:「風紀委員会本庁 レイチェルデスク前」にレイチェルさんが現れました。
ご案内:「風紀委員会本庁 レイチェルデスク前」に山本英治さんが現れました。
■レイチェル >
風紀委員本庁。その一室にレイチェル・ラムレイは居た。
金色の髪が艷やかに、窓から射し込む夕影に照らされて、
儚げに、そして鮮やかに光る。
椅子に座るレイチェルの手元に、一冊の分厚い本が開かれていた。
古めかしい大冊、その頁には細かな字がびっしりと羅列されている。
レイチェルはその書物に、真剣な眼差しを落としていた。
しかしそれは何も、手元の調査のみに向けられたものではないらしい。
レイチェルの右手――握られた携帯デバイスに向けて、彼女が発する言葉がそれを物語っていた。
「……島外に? その話は、随分前に断ったはずだぜ」
声は波立たぬ静けさを見せており、常のそれである。
しかしながら、表情はと言えば、怪訝そうなそれであった。
「……考え直せ? 断る。オレには――」
そう口にして、ふと視線を書物から逸らすレイチェル。
朱色の輝きが照らし出す、写真立て。
そこに左手を伸ばし、縁に手をかければ、親指でそっと
確かめるようにその写真の表面をなぞる。
「――此処に居る理由がある」
そう口にして、携帯デバイスの電源を切るレイチェル。
他に誰も居なくなった一室で、何も言わぬまま。
レイチェルは外套の内にデバイスを収めた。
目元で揺れる、金色の髪。
背後から彼女を包む斜陽すらも、彼女の顔をそっと隠して覆っていた。
静かな。
ただ、静かな時間が流れ続けていく――。
■山本英治 >
レイチェル・ラムレイの部屋。
それだけで緊張しない風紀委員はいないだろう。
レイチェル・ラムレイの名は。
それだけの意味を持つ。
俺にとっては、戦友で。
お互いに力を認めあった存在で。
…………恋敵だ。
ドアをノックする。
「失礼します、山本英治入ります」
入ると、大仰に形式張った敬礼をして。
すぐに表情を崩す。
俺は彼女のことを尊敬し、親しみを覚えている。
「いやぁ、バチカンとの時差8時間は堪えますよ」
そう言って胸の前で左掌に右拳を合わせる。
ニカッと笑って。
「久しぶりだ、レイチェル。健勝かい?」
友人にそうするように語りかける。
自分で言ってなんだが……お互いにベストコンディションとは程遠いのかも知れない。
■レイチェル >
ノックの音に、びくりと耳を震わせる。
瞬きを数度。
緩やかに思考と意識が現実へと戻るのを感じながら、
レイチェルは扉の向こうから聞こえる声の主を悟った。
間違えようもない、久々に聞いた後輩の――そして、戦友の声だ。
居ても立ってもいられないとばかりに、
椅子から立ち上がるレイチェル。
彼と最後に語らってから、短くない月日が流れていた。
「……ばーか。そんな畏まんなくて良いっつったろーが」
柳眉を下げながら、にっと。
白い歯と、少しはにかんだ笑みを見せて首を傾げるレイチェル。
そのまま細い指先を近場にあったパイプ椅子の背もたれへとかけ、
自らのデスクの前まで静かに引き、座るように促す。
「ったく……お前が突然バチカンなんざ行くっていうから、
こっちは心配してたんだぜ」
両腕を頭の後ろで組みながら、自らもデスクの椅子に腰を下ろす。
そうして、少しばかり顎を上げて口端を上げるレイチェル。
真面目な彼だ。しっかりと書類は提出している。
行き先も、彼女自身の目で確認済みだった。
「まぁ……お陰様で。
色々と皆に助けて貰ったお陰で悪かねーさ。お前の方は?
バチカンまで出向いて……何か、得るものはあったのか?」
彼の顔を正面に見据え、心配そうな表情を見せるレイチェル。
少しばかりデスクに身を乗り出して、真っ直ぐに彼を見つめる。
■山本英治 >
「いやぁ、これやるとレイチェルが良い反応してくれるからな」
ああ。戦友の声だ。
あの駆け抜けた夜を思い出す。
戦いの日々が、どこか遠く感じられていた。
失礼、と言って座る。
本来なら女性と会えば服装を褒めたりするところだが。
彼女は俺にとって戦友だ。
心を許した、並び立つ存在。
過剰な女性扱いをすることは俺の流儀に反する。
座ってから、これからの話をしようと思った。
……これまでの、話もだ。
「腕のいいエクソシストがいるって話でな……」
「確かに最高の人格者で、最高の除霊能力を持っていたよ」
自分の、少し細くなった腕を見る。
ゆっくりと拳を握る手は、我ながら弱々しい。
「でも俺の中にいる親友の亡霊は……“残響”らしい」
「専門外で、お手上げ……というのが先々週ようやくわかった」
親友。遠山未来。
俺がかつて、共に歩んでいた女。
違反部活生との戦いで、俺は殺害した犯人に呪いをかけられた。
その結果、彼女は惨たらしい血と肉の塊……その幻影になり。
当時のままの声で……俺を責め立てるのだ。
「今の俺は発狂していないのが奇跡、らしい」
「次に異能を使えば、どうなるかわからないとも」
親友の幻影は、異能を使えば使うだけ。
人を害すれば害するだけ。俺の精神を蝕む。
■レイチェル >
「けっ、性格わりーぜ」
軽くあしらう返答に、言外の親愛を込めて。
こういうものこそが、きっと日常なんだろう、と。
一人嬉しく思うレイチェルであった。
細くなった腕を見た。
痛々しさに、一瞬目を逸しそうになる。
それでも、レイチェルは視線を逸らさなかった。
唇を少し噛んで、そのまま語を継いでいく。
「……最高の除霊能力、ね」
除霊。退魔。
かつては自らも似たような稼業に身を置いていたレイチェルだ。
彼女自身の目で見ても、
簡単にどうにかできるものとは思えなかった。
それは最高位の者でも変わらぬ見解らしい。
思わず舌打ちをしそうになりながら、それでも笑みを向ける。
「……良かったじゃねぇか。少なくとも、除霊だの何だので
どうにかなる問題じゃねーことがはっきり分かったんだ。
ちゃんと前に進んでるぜ」
頷きながら、続ける言葉には力が籠もっていた。
いつものレイチェル・ラムレイだ。
「……そうか。なら異能を使うんじゃねぇぞ、と。
言いたいところだが――」
以前のやり取りを思い出す。彼には、どうしても討たねばならない
相手が居るのだ。
「――オレの力なら貸せるだけ、貸す。オレだけじゃねぇ。
お前の周りに居る皆も、きっとな。
だから、無茶すんじゃねぇぞ。オレみたいになっちまうからな」
そこまで口にすれば、窓の外を見やる。
夕日は、少しずつ落ちかけていた。
■山本英治 >
「こういう俺にも慣れてくれ」
白い歯を見せて笑う。
このキレのいい諧謔味。
安心する。日本に帰ってきたな。
そして、レイチェルに再会したんだ。
その実感が嬉しくてたまらない。
「そうだな、違う方法を試す時期にきたわけだ」
「万策尽きたわけじゃない、トライアンドエラーの範囲だ」
「レイチェルの力強い言葉を聞くのも随分と久しぶりだ」
窓から見える夕日。
強く、気高く、そして優しい言葉。
ああ……俺は。言わなきゃいけない。レイチェル・ラムレイに。
俺の罪の告白を。
「レイチェル」
「俺は園刃華霧が好きだ」
まずはこのことを話さなければならない。
「告白も済ませた」
「その上で、レイチェルに言わなきゃならないことがある」
軽蔑されても。仕方ないな。
それだけのことをしたという自覚がある。
「水族館で園刃と会っていたよな」
「その時、隣で盗み聞きしちまったんだ」
「すまない。謝って済むことじゃないと思う」
「一方的に謝って気持ちよくなりたいだけと思われても仕方ない」
「……本当に、すまなかった」
■レイチェル >
「さて、3年後くらいには慣れてるだろうが、
それまでにはきっちり元気になっといて欲しいところだ」
同じ空を見上げるその背中は、未来を語った。
前向きな彼の言葉を聞けば、笑顔も一層浮かぶというものだ。
ふっと可笑しげに息を吐くだけ吐けば。
窓の外を見ていたレイチェルはふと、立ち上がった。
本当に、綺麗に染まった朱色の暮だ。
「……好き」
山本 英治の告白。
「……好き、か」
その告白を聞いて。
「……華霧が、好きか。
……良いじゃねぇか、二人はきっとお似合いだぜ」
その顔を、窓の外に向けたまま。
ぽつりぽつりと。
少しばかり開いた彼女の口から言葉が紡がれる。
そこから彼女の胸の内を推し量ることは、
きっと誰にもできはしない。
そして。
「……そうか。水族館、お前も来てたんだな」
相変わらず。その背中を向けて。
レイチェルは言葉を紡ぐ。
その声色からは、あまり色を感じられないだろう。
何かを、噛み殺しているような気配は声の端に僅かにある。
少なくとも怒りでは、ないであろう。もっと弱々しい、何かだ。
「別に、謝る必要なんかねぇさ。なんにも、ねぇさ。
それにお前は、気持ちよくなる為にそういう言葉を使うような
奴じゃねぇ。それはオレだって、分かってることだから、さ」
穏やかに流れる風のように、優しげで。
そして儚げな声色が紡がれる。
そうして、少しばかりの沈黙の後。
レイチェルは、英治の方を見やった。
その表情は、普段のレイチェルのままだった。
沈みゆく陽光など関係なく、輝く太陽のように。
いつものように口元に柔らかな笑みを浮かべて、
レイチェルは口にする。
「……そうだ。オレも……。
いや、オレは。
華霧のことが……好きだ」
どうしようもないくらい、に。
そう紡ぐ筈の口は、そこで静かに閉じられた。
代わりに、レイチェルは問いかける。
真剣な表情で、目の前の相手を見据える。
■レイチェル >
「……なぁ、英治は。
華霧のこと、どれだけ知ってる?
あいつのどこが、好きなんだ?」
■山本英治 >
「園刃のことは、“トゥルーバイツ”の時に少しお互いのことに踏み込んだ」
「それ以外のことはあまり知らない」
「これから知っていけたらいいと思う」
座ったまま、レイチェルの言葉にまっすぐ答える。
「好きなところは、寂しそうに笑うところだ」
「自分が隣で穏やかな笑顔を添えられたらいいと思う」
「今は……そうすることもできないが」
「いつかの未来で、そうできたらいいと思う」
二人の間を沈黙が流れる。
それが不快ではない。緊張はもちろんする。
でも……不愉快に思うはずがない。だって、目の前にいる女は。
「俺たち、同じ戦場に立って」
「同じ目的のために戦って」
「同じ女を好きになったんだな……」
「レイチェル、あんたのことは恋敵になるが」
「絶対に嫌いにはなれない……」
立ち上がって、微笑む。
そうだ、真っ直ぐに人を好きになれる女を。
どうして疎むことができる。
「どうなるんだろうな、この恋は」
「きっと神様にもわからない未来だ」
「俺は“この先”が楽しみで仕方ねぇんだ」
精神は耗弱。
肉体は衰弱。
それでも、レイチェルの……園刃の。
大切な人たちの目の前に続いている道を。
守りたいんだ。全てを賭けて。
「……俺からも同じ質問をしても?」
■レイチェル >
「これから知っていけたら、か」
その返答に、ふっと笑みを零すレイチェル。
―――
――
―
ああ、そうだ。
彼女は、恋が分からない。
そういう気持ちも、分からない。
だから、あの時に伝えたんだ。
『「――もしよかったら、
オレと一緒にその気持ちを、探して欲しい。
オレは、華霧と一緒にその気持ちを探したい」
わからないことを、一緒に探そう。
悩んだって、いい。
困ったって、いい。
一緒にいればきっと。』
あの時。病室であいつに伝えた言葉を。胸の内に刻んだ言葉を。
気づけばオレは思い返していた。
そして、あいつの色んな顔を思い出していた。
そのどれもが愛おしくて、どうしようもなくて。
胸が、きゅっと。
痛くなった。
純粋な愛と、罪悪感。不思議な感覚だ。
英治が微笑む。オレもまた、微笑みを返す。
ちゃんと笑えてたかな、なんて。
こんなこと思ったの華霧《あいつ》の前以来、久々だ。
でも、きっと今回はきちんと笑えているはず。
だって、こいつは真っ直ぐオレの方を見てくれているから。
悪い気はしない。ああ、本当に良い出会いをしたもんだ。
ありがとうな、英治。
英治が居たからオレは。
お前が居たからこそ、オレは本当の気持ちに気づけたんだから。
■レイチェル >
「……華霧のことは、『知らない』。
色々と知ってるつもりになってた。
けど……」
そうじゃなかったと思ってる。
だから、これからもっとあいつのことを知っていきたいし。
ないもんは、一緒に探していきたいと思ってんだ。
「好きなところ……」
『「大雑把だし、危なっかしくて仕方ねぇし、仕事はサボるし。
セクハラはするし、いつだってちょろちょろしてるし――
でもって何より、オレの気持ちに気付いてくれねぇし――
――本当にどうしようもねぇ奴。
でも、さ。
向き合ってくれる時は真剣に向き合ってくれるし、
他人の問題を抱えてくれる。悩みも和らげてくれる――
我儘を真剣に聞いてくれる。馬鹿に付き合ってくれる――
そんでもって何より――」』
かつてなら告げられた言葉。そのどれもが嘘じゃない。
けれど、今は。
一緒に過ごす中で。
あいつのことを、前よりも少しだけ知ることができたから。
「……こんな馬鹿に付き合ってくれる、
どうしようもねぇ馬鹿、ってとこかな」
だから、放っておけねぇんだ。
絶対に守りきりたいと、そう願ってる。
オレ自身の呪いを断ち切って、必ず。
そうして、目の前のこの男のことも。
■山本英治 >
「……お互い、大変な状況で恋をしちまったな…」
「好きな気持ちを止められないのが、感情ってもんだからなァ…」
ふ、と笑って。
肩を揺らして笑って。
ああ、もうどうしようもなく。
俺たちが辿る未来が見たい。
そう思った。
「園刃にも謝らないとだ……」
「プライバシーの侵害だよ、良くないことだ」
そう言って、堂々と目の前の恋敵に。
園刃に会いに行くと宣言をした。
「……頑張ろうな、レイチェル」
頑張ろう。この言葉の空々しさを嫌っていた時期もあるが。
なかなかどうして……悪くない。
「今から松葉雷覇の情報収集に行きます」
「明後日付で現場復帰の予定だが、とても待ってはいられない」
「俺は俺の、レイチェルはレイチェルのケジメがある」
もちろん、お互いのために力を尽くす。
その言葉に嘘はない。
それでも……譲れないものだってあらぁな。
「ああ、そうだ」
去る前にと、言い忘れていた言葉を、戦友に。
「ただいま」
そう言って微笑んだ。
■レイチェル >
「……事実は小説よりも奇なり、ってな」
へへ、と笑って。
肩を竦めて笑って。
ああ、もうどうしようもなく。
オレ達が辿る道、絶対面白いものにして見せようって思えるんだ。
「ったりめーだ、とっとと謝ってこい」
あいつは傷つきやすいんだから、と小さく続けて。
ふ、と微笑んで見せる。
「ケジメもそうだ。互いに、つけりゃいい話だ。
だけどな、英治。お前に一つ言っとかなきゃいけないことがある」
■レイチェル >
「あいつは……今、オレ達が抱えてるような気持ちを受け入れられる
ような状況じゃない。
恋だとか愛だとか……そういうのじゃなくて、
もっと身近であたたかなものが、あいつには必要なんだ」
まずはそいつをオレ達で、埋めていく必要がある。
あいつの為にも。
最後にそう、告げたのだった。
■山本英治 >
「……肝に銘じておく」
自分が自分がと気持ちを押し付けても。
決して彼女の幸せにはつながらないってことか。
この言葉を、決して忘れないようにしよう。
「それでは、また」
「山本英治委員、現場復帰いたします」
そう言って去っていった。
■レイチェル >
「おう、おかえり」
優しくそう口にして。
そうして。
改めて、携帯デバイスに耳を当てるのだった。
ご案内:「風紀委員会本庁 レイチェルデスク前」から山本英治さんが去りました。
ご案内:「風紀委員会本庁 レイチェルデスク前」からレイチェルさんが去りました。