2022/03/30 のログ
ご案内:「委員会街」にとある女生徒さんが現れました。
とある女生徒 >  
桜吹雪の只中をそぞろ歩く。
風紀委員会本庁を背にして。

穏やかな春の日だ。
まだ肌寒さこそ感じるが、過ごしやすい陽気は十分に心地良かった。
長い冬が終わって、これから溌剌とした季節が始まる。

とある女生徒 >  
今日もまた、ひとりの学生生活が幕を閉じる。
花束もなく、祝福もなく。
それでも任期を終えるという形で風紀委員会を退会した。
青春を一時期預けた場所から一歩一歩を遠ざかっていく。

今後またここに訪う時が来ても、
それは帰るのではなく、赴くだけの用事だ。
一秒一秒ごと、過去の己がいなくなっていくように。
振り返ったところで、あの日の自分はもういない。

とある女生徒 >  
気に入りの鼻歌は上機嫌に弾んでいる。

未練なく学生生活を終えられる者がどれほど居るのだろうか。
翻れば未練があればあるほどにそこに居たときの心が、
どれほどあたたかく満たされていたか証せるというものだ。
完全に納得しなければ離れられない――それはそれで不完全だと思う。

大人ぶった割り切りなのかもしれない。
思ったよりも、欲張りではなかったのかもしれない。
無駄ではなかった数年で手に入れたもの、それだけでいいと、
少ない荷物を並べたとき、笑える程度には前向きな門出だ。
自分にしては上出来だ。

時間と自由はどこまでも追いかけてくる。
距離を稼ぐことはできても逃げ切ることは不可能だ。
受け入れる準備をしてきた。逃避でも敗北でもなかった。
悩むことも苦しむことも、このさきだっていくらでもある。

去ることや離れることはただ悲しいことだけじゃない。
……それを、同じ屋根の下で暮らす彼女に、
まっすぐ言えるまでには、まだ何年もかかるだろうけれど。
その経験を、いまこの胸の奥に刻んでおく。

とある女生徒 >  
今までと同じように、この島の背景に溶ける。
その在り方が少しだけ変わるだけ。いや、進むだけだ。

変われないことと変わらないことは違って、
時に取り返しのつかないことも起こるけれど、
少しでも良くなろうとすることは悪いことではないはずだ。
気づかせてくれたものが居たのは望外の幸福だった。

罪深く晴れ渡る青空をみあげる。
舞い散った花弁を指先が空中でするりととらえた。
舌の上に塩味が蘇って、またすこし優しくなれた。

とある女生徒 >  
これから刻一刻と訪れる知らない時間を、
過ごすことのなくなった場所よ、さようなら。
かつて誰よりも熱いわたしがいた場所。

桜の花弁を口に含んで、湿ってほどける儚さに、
筆を握りたくなったてのひらの物寂しさを満たすために、
ゆっくりとした歩は、だが停まることはなく、家路をたどる。

ご案内:「委員会街」からとある女生徒さんが去りました。