2022/11/14 のログ
神代理央 >  
「……質疑応答、及び面談に対する態度に問題がある様には見受けられないな」

少女に対面する風紀委員の一人。学年故、一番端に座っていた少年が僅かな苛立ちを含ませた声を上げる。

「かの歓楽街での事件以降、風紀委員会は多忙を極めている。勿論、獅子身中の虫を炙り出す事の意義は理解しているが…それを今、彼女に適用すべき状況であるかどうかは疑問だな」

風紀委員会の前線組、として質問席に座っていた少年は、少女──安綱への質問が煮詰まり始めた頃合いを見計らい、声を上げた。
同じ前線組として、彼女が詰問されている様なこの空気が気に食わなかった、というのもあるのだが。

「……安綱、だったか。刑事部からは君の奮闘と風紀委員会に対する忠心がきちんと報告されている。その上で、少しだけ簡単な質問をしよう」

さて、先輩方に向けていた傲岸不遜、尊大な態度から、安綱に視線を向け直す。
彼女に向ける視線は、穏やか…とはまあ、言い難いが、少なくとも敵意は無い。とても偉そうなだけだ。

「先程君は、学園生活に不満は無い、と言ったな」

「では、風紀委員会の活動は……『楽しめて』いるかね?」

尊大な笑みと共に、観察する様な視線と言葉が、向けられるのだろう。

安綱 朱鷺子 > 「はい?」

質問官のひとり、一見少女にも見える相手。
(なんやトシも変わらんクセして偉そうに…)って芽生えた感情はぐぐっとこらえた。
少年の気遣いに気づけるほどの繊細な観察力なんてあるわけなく。
次に来た質問が少し意外だったので眼をぱちぱち。

「…んっとぉ、たのしめてるかどうかですか」

考えたこともなかったので腕を組んで考える。
でもそこまで深く考えることが苦手なのもあり、とりあえずのこたえは出た。

「委員会のみんなと色々するのは楽しい…すね。
 うちは担当が担当なんで、いつもってわけやないですけど…あ、仕事ちゅう遊んでるてワケやなくてですね…」

あえて楽しいことを挙げるならという感じで解答してみる。
委員会活動そのものが楽しいか?ということに対しては…すぐに答えられない。

「…ぅ、あ、いや…普段の活動に楽しいて言うていいんかな…」

返答をしくじった気がする…。
委員会活動は業務だ、引っ掛け問題だったのかもしれないと気まずそうに視線をそらす。

神代理央 >  
はてさて、そんな杞憂を抱いた少女と、その答えを静かに聞いていた少年の方はと言えば。

「……別に、そこまで気負う必要も無い。此の場で、普段の活動を愉しんでいるという答えに揚げ足を取るつもりもないさ」

と、小さな苦笑い。尊大な態度も、幾分和らぐ。

「寧ろ、本心から楽しめていると言ってくれたのであればこの面談にも意味があったと言うものだ。
不平がある、不満がある。組織の内部で、そういった意見があればなるべく改善していかねばならないからな」

まあ、半分は本音。居並ぶ先輩方に対して『意味のある質問だっただろう?』と睨みつける為の。
そして、もう半分はと言えば。

「……だから、まあ。普段の活動が楽しいと言ってくれるのは、同じ風紀委員会で前線を共に戦う仲間として嬉しく思うよ」

「……ああ、自己紹介もせずに済まないね。私は神城理央。風紀委員会特務広報部の部長。二年生だ。宜しく頼む」

とどのつまり、自己紹介と『私は君の立場寄りだ』というアピールをしたかっただけ。
更に言えば、この発言で他の面談者に前線組として圧力をかけられれば尚良し、と言うくらいのものではあるのだが。

安綱 朱鷺子 > 「…なんや、そだったんすねえ」

ほっ、と肩を撫で下ろす。
けれどすぐに自分の考えもお見通し、ということに気づくとそわそわする。
自分はとてもわかりやすいほうだ。でも、そう扱ってくれると逆にやりやすい。

「知ってますよ、鉄火の支配者さんですよね。
 刑事部の安綱朱鷺子いいます、よろしくでーす」

深々頭を下げてみる。和気あいあいとお話していいのかな?
とはいっても大分やりやすくなったのも事実、余計なことを言えない空気は辛かった。
相手の厚意に気づけたかはさておき、肩の力が抜けたのも確か。

「不平、不満、でしたっけ?ええと…」

少し考える、むしろこの状況は積極的な発言が推奨されるような。
もしかしたら誘導されるままにすぅ、と腕をのばして挙手する、袖がずるりと下がって手首が露出する。

「はい」

神代理央 >  
肩の力を抜いて、穏やかな話をする事だけが正しい…とは言わない。
けれど、少なくとも同じ風紀委員であり、さして強く疑う材料が無いのであれば特段威圧的に接する必要も無い。
…まあ、こうして先輩方に『悪い警官』をしてもらった後だからこそ、自分が『良い警官』になりやすい、というのもある。
そういった意味では、先輩方には感謝しておかねばならないかも知れないが。

「…おや、知っていたのか。すまないな、此方は君の事は資料で読んで初めて、という有様だが…。とはいえ、同じ風紀委員として、仲良くして貰えれば嬉しく思うよ」

知っている、と告げる彼女に少し意外そうな顔を浮かべた後。
偉そうな態度は変わらないが、まあ、多少は人当たりの良い──とどのつまり、外面の良い笑みに切り替える。
所謂、同僚や仲間に向ける用の、ソレ。

「ほう、何か意見があるのなら是非聞かせてくれ。風紀委員会…もとい、学園をより良くしていく為だ」

その笑みのまま、手を上げた彼女の発言を促す。
露出した手首に一瞬視線を向ければ、サイズの合ったものを着れば良いのに…と内心首を傾げるが。
まあ、今は強く注意するべき場でもない、と思考を切り替えつつ、その視線は改めて少女へ注がれる。

安綱 朱鷺子 > 「にしし、うちは木っ端やし、気にしてへんよ」

同学年なんやったら、とくだけちゃうけど後で怒られるかな。
でも、自分の思うことを吐き出すならこっちも外面で話すのはやりづらい。

「最近二つの大きい事件が起こって、両方とも未解決ですよね。
 首謀者が二人ともつかまってへん…それで思ったことなんやけど」

両手を机のうえにおいてリラックスした語り口調。

「パラドックスってヤツがあちこちでテロ始めて…
 ノーフェイスってヤツがヒーローになれって焚き付けてきたでしょう」

どっちも朱鷺子が考える悪とはどこかずれた犯罪者たち。
だからこそ行動が読めないし見かけたら殴るという解決策しか取れない。
そもそも命令がないと動けない、以前のオダ・エルネスト不当逮捕と同じ轍は踏めない…。

「タイミングからいって、煽動があったからちゅうわけやないと思うんですが…
 えっと…ややこしいですね、すいません…そうやなくて…」

言葉がまとまらず、まだるっこしい間をつくってしまう。
深呼吸をしてから真っ直ぐに面談相手を見て、言った。

「おかしいこと言うてるかなとは思うんですが…
 風紀でもない一般生徒がテロリストと戦ったり犯罪取り締まったりちゅうのも…しっかり取り締まるべきやないですかねって」

神代理央 >  
一般生徒がテロリストと戦う事、犯罪を取り締まる事を、厳格化すべきだ。
そんな彼女の言葉には、ほぉ、と興味と好奇心を強く湛えた瞳を向けるのだろう。

「それは尤もな意見だ。一般生徒は、我々風紀委員会が守るべき者達であり、彼等に万が一の事があっては風紀委員会としての面目が立たない。
それに、犯罪者と対峙する武力が風紀、公安という"組織"から逸脱しているのも宜しくはない。我々は校則に基づいて違反部活を取り締まるが、彼等はとどのつまりフリーダムファイター。民兵と同義だからな」

生徒が運営する学園都市に、その表現が正しいかどうかはさておき。
僅かな間と、深呼吸の後で彼女が告げた言葉に返すのは、先ずはその言葉への肯定と同意だ。実際、その通りだと思うし、それに反論するつもりはない。正しい事だ、とは思う。

「だからこそ、と言うべきかな。風紀委員会の戦力増強の為にも、そのような生徒には風紀委員会に入って貰いたいと思う。
現場で見掛れば声をかける。普段の広報活動に力を入れる。
正義感で動いている生徒を厳罰に処すのは簡単であるし正しい事ではあるが……それは、場合によっては『受け』が良くない」

ぎしり、と座っている椅子が軋む。

「犯罪者や、落第街の住民がどれだけ死のうとも、生徒達の生活が変わる訳では無い。だから、多少の事は無視される。落第街で何人死のうと、生徒達の明日の授業の内容が変わる訳では無いからな」

「しかし、義憤に燃えた一般生徒はそうではない。取り締まり、退学…という事態にでもなれば、そのクラスメイトや関係者の日常が変化する。その変化は、風紀委員会にとって好ましいものではない」

訥々と語る言葉は…要するに『風紀委員会の社会的な評価』を意識したものだ。そんな意見を自分が発するのは、笑い話ではあるかもしれないが。

「君の意見は正しいし、その通りだと思う。しかし先ずは、厳格な取り締まりの前に風紀委員会への勧誘活動を強化すべきではないかな…と言うのが、私の意見だ」

「勿論、どちらが正しいと此処で決める訳でも無い。君の意見も、此の場の議事録に残して…きちんと、検討材料にさせて貰おう」

と、穏やかな笑みを浮かべたまま、言葉を締め括った。

安綱 朱鷺子 > 「『受け』ですか…そうなんですよね…。
 今回の事件では特に風紀の出動が後手になっていることが多い、うちらが頼りない連中って思われるのも、嫌や…。
 凄いって思ってほしいわけやないんですけど、お巡りさんはそういう時に頼られるもんじゃなきゃ…」

イメージ戦略のことも朱鷺子にはよくわからない。
少なくとも話は通じてるし聞いてくれているのはわかる。
頼られる存在でいるためには…『受け』る必要が、ある?

「でも、そういう人に賞状送ったら…そのまわりがフリーダムファイターに憧れ始めちゃうんじゃないですかね…。
 そのためにしっかり勧誘するのはわかりますけど、じゃあ断られたらどうすりゃええんでしょう…」

そこで思わず…手がテーブルを叩いていた。
バン、と激しく鳴ったことにも気にせずに朱鷺子は言葉を続ける。

「変わりますよ。誰かが死んだら生活は変わります。犯罪者や落第街の住民言うてもこの島にいる人です。
 一般生徒と知り合いかもしれないし、仕方なくあっちに行かざるを得なかった生徒もいるんやないですか。
 人助けのためにあっちに行ってる人もいます、ちょいとその物言いは極端なんやないですかね?」

拳を握ると、指がバターのようにテーブルの表面を削って掌におさめた。
無自覚に力が入ってしまっていて、首についた異能制御装置が少し圧迫される…警告を受ける仕組み。
深呼吸をしてからあらためて…

「死んでいい凶悪犯がいるのは落第街だけやない」

真っ直ぐ、神代理央を見つめて言う。

「…死んでいい、ちゅうのはよくないですね、殺害もやむなし…本来は逮捕できたら一番なんや。
 でも、正直うちはパラドックスが憎い…、殺してやりたい…。
 無抵抗の力のない弱者を一方的に暴力ふるって殺すなんて、絶対に許されちゃいけない悪党や。
 こいつは悪党ですって裁かれて、人に正義のなんたるかを教えるべきや…違いますか?」

どこまでも真っ直ぐに、神代理央を見つめて、言う。

「格好ええ言い方するなら義憤やけど、人が人を許せない、悪いって思う基準も人によって違う。
 悪だと思ったら罰していいっていう考えが許されたら…風紀委員会がある意味ないから。
 勧誘もしますし、巡回も…強化しましょう…多分まだ、うちら風紀委員会、そこまでしっかり一般生徒に注意していいほど、ちゃんと仕事できてないんすかね…」

正義が乱立するのが恐い、それは風紀委員会への否定だ…そんな考えと焦りが生まれている。
まだ、あの凶悪犯が…無辜の一般生徒を躊躇なく殺す存在を捕えることができていないからだ。
だがもし彼を倒したのが風紀委員会ではなくて一般生徒だったら…、その未来にも恐怖を覚えている。

神代理央 >  
「そうだとも。私の意見は極論だ」

机を叩いた彼女を、静かに見つめながら小さな溜息。

「だが、私は私の極論が間違っている、とは思わない。普通の…或いは、暴力や争いを好まない生徒は、そういった光景から目を背ける」

「確かに、落第街や違反部活生と関わりがある生徒はゼロではないだろう。だが、決して島の生徒の主流派ではない。そもそも、そういった生徒が主流であれば、風紀委員会も公安委員会も存在し得ない」

「私達は求められているから存在しているのだ。多くの生徒は校則を守り、規則を守り、その中で穏やかな日常と学生生活を謳歌している。その権利を害する者を裁くのが、我々の仕事だと思うがね」

此方を見つめる真直ぐな瞳と視線。
それに返すのは、穏やか──いや、『観察』する瞳。

「…話が逸れたな。さて、パラドックスについて、か。
本来であれば、風紀委員が個人の情念で動く事は好ましくはない。
我々は、良くも悪くも平等でなければならないからな。まあ、多少フレキシブルに動いても構わないとは思うが…」

「この犯罪者だけは絶対に許さない。絶対に殺す。というものを個人が決める事は良く無い事だ。そこは、君の言うように『個人の基準』で決める事は許されない、と言う事にも繋がるな。だが…」

そこで一度、言葉を区切る。


「私は君の憎しみも意見も受け入れるし、尊重しよう。好きにやりたまえ」


こういう思想の生徒に、無理に首輪をつけようとするのはまあ…上手くはいかないものだ。
ならどうする?様々な手があるとは思うが、先ずは懐柔しよう。その思想を肯定し、そこから発生する不利益は揉み消し、握り潰し、美談として湛えるプロパガンダを謳い上げよう。
そうすれば、義憤に燃える一般生徒も彼女に憧れて風紀委員会に入ってくれるかも知れないし…まあ、それ以上は捕らぬ狸の何とやら、だ。

「君は、君の正義感の通りに正しくあれば良い。私が間違えている、と思えば、私に剣を向けても構わない」

「君の正義は、私が保証しよう」

だから、この面談は終わりだ。と立ち上がる。
彼女の返事を、待つ事無く。

「では、私は次の予定があるので失礼させて貰う。
安綱朱鷺子。君の学園生活が健やかで楽しいものになる事を、祈っているよ」

最後だけは、穏やかな笑み。
そのまま、制服を靡かせた少年は先輩方の視線など気にする素振りも見せず────部屋を、後にするのだった。

安綱 朱鷺子 > 神代理央の語り口に妙な違和感を感じていた。
その理由を明確にできるほど朱鷺子は頭が良くないが、いわゆる野性的な勘は働くほうだ。
上手いこと話を逸らされたことは判ったが、自分の主義主張を曲げられるほど朱鷺子は器用じゃない。
神代理央以外の二人の面談相手の存在もまたこの場で舌戦を続けない理由になってくれた。

「…うちは常に、ちゃんとした指示を受けてから動きます。
 凶悪犯はその場で止めないと犠牲者が出る、もう、出とるから、現場判断を求められたらうちは迷わへん」

あまり普段から、他人に対してこう思うことはないのだが…気に食わない目をしている…と思った。

「あんたに保証されることやないよ、理央くん。
 うちに正義なんてものがあるなら、うちがきちんと責任を持つ。
 保証してくれたり、ただしいかどうかって教えてくれるひとがいるなら、きっともっと上の、高ぁいとこにいるおかみさんや」

甘言には…乗らない、乗れない。
神代理央が間違っているか正しいかなんて考えもしないが、少なくとも去り際に見せた彼の主張の言う通りにもなってはいけないと思った。
朱鷺子が神代理央に剣を向けることがあってもそれは…風紀委員としての使命と矜持に則った自分の意志でなければいけない。

「お互い、しっかり風紀やろな」

背中に警告をし返すには語彙も足りなくて締まらないが…風紀委員会にいるのは単純な味方だけじゃない。

「じゃえっと…警邏戻って、いいですかね、言うた手前、しっかりやりますから…」

ご案内:「委員会街」から神代理央さんが去りました。
ご案内:「委員会街」から安綱 朱鷺子さんが去りました。