2023/01/03 のログ
ご案内:「地下教室」に■■■さんが現れました。
風紀委員 >  
「この学園に通う生徒たちの中には、
 "監視対象"という区分に属する子が居ます」

場違いに穏やかな声が薄闇の中に響く。
ぼんやりとした明かりが照らすのは、左右に等間隔に並ぶ扉を配した長い廊下だ。
足音が奏でる硬質な音は、不必要な音を排除したようなつくられた静寂を突き破って響き、
学園、と称された場所に似つかわしくない緊張感を演出している。
期末考査直前でもここまで冷ややかな気迫を醸し出す空間はないだろう。
まして、生徒が主導する場で。

「風紀委員会のとある部門によって行動や異能が示す反応をモニタリングされ、
 円滑な学園運営のために制限を課されている存在――とされています」

「されている?」

「なにぶん公に開示されていない情報が多いものですからね。
 言えないこともありますし、わからないこともありますよ」

頼りない言葉に思えたが、成る程と理解していた。
この巨大な都市は設立して間もないというのに、巨きくなりすぎている。
いち生徒が分かり得ることなんて殆どなく、円滑な運営というのもどこまでが事実かわかったものではない。

風紀委員 >  
「基準は」

「人それぞれです」

「制限の内容は」

「それも人それぞれです」

「……誰が決めているので?」

「さあ。ただ、再三言っていますように、生徒によって運営されている学園ですから。
 監視対象という区分を制定したのも、それを選出しているのも、
 制限の内容や彼らに課される役目を決めているのであって、
 ここ風紀委員会に属する生徒が必要だと判断してやっていること、
 ――だとは思いますよ?」

なんとも玉虫色な解答だが、異を唱えることは求められていない。それだけは判る。

「つまり、この先に居るのが」

「生徒によって認定された監視対象、ということになりますね」

「成る程、物々しい筋書きですね……」

ここは、学園に存在する"地下教室"のひとつ。
違反生徒の更生を目的とした施設で、いわゆる刑務所だ。
その成り立ちを問うことは無用なことだと、さっきの会話からよくわかった。

風紀委員 >  
「しかも、行き止まりの最奥の扉ときましたか」

「如何にもという感じでしょう。
 クリスマスの時期に学園に訪れて、その日のうちに認定を受け、
 青春の時期をこの闇のなかで過ごした存在が、ここにいる」

「いささかやり過ぎな気がしないでもないですが」

監視対象。
仰々しい物言いとは裏腹に、周囲に脅威が公示されない謎の存在。
その中でも、特定の十三人を指してまた特殊な区分があるということも知らされている。

「さて……もう承知のこととは思いますが、
 君の役目は"監視対象"の"監視役"です」

「はい」

面談の時点でわかっていたことだし、散々目をとおした書類にもうるさいくらいに書いてあったことだ。

「謹んで拝命致します」

「よろしい。成果を期待しています。
 どうされます?一緒に行動致しますか」

「――――」

専用のカードキーを掲げた手が停まった。

風紀委員 >  
「いえ、奪われるかもしれませんから、
 脱出も生徒の自主性に任せましょう」

失笑を禁じ得ない問いかけに、わざとらしく返しながら。
解錠の処理を行って、そのまま所定の手続きに入り、この場を辞することにした。

■■■ >   
「――――」

この扉の向こうに足音が遠ざかっていくのがわかる。
闇のなかで唯一の助けであるランプの色が赤から緑へと変じている。
扉のロックが解除されている合図だ。

「学生にやるような拘束じゃないよね……」

溜息とともに、両腕を拘束する最新式の手錠を翳す。
これまでは外していかなかったということらしい。
針金でどうにかするという古典的な作法が通じるアナログ手錠ではなく、
デジタルと魔術で施された拘束はおいそれと破れるものではなかった。

「……ったく」

椅子から立ち上がる。その両腕をひろげて、大きく伸びをした。
足元に、中央から"両断された"手錠が転がった。

■■■ >  
「…………」

景光夕蘭 様

エントランスの四番窓口で、風紀委員会への入会手続きを済ませてください。

「お腹減ったんだけど……」

扉の横の画面に表示されている事務的極まる画面に吐き捨てても、返答が返ってくるわけでもない。
腹ごしらえはその後だ。

景光夕蘭――それがあたしの名前。
風紀委員――それがあたしの職分。

奇怪な学園生活は、闇の底から、密やかに始まった。

ご案内:「地下教室」から■■■さんが去りました。