2020/06/30 のログ
ご案内:「学生通り」に日ノ岡 あかねさんが現れました。
■日ノ岡 あかね > 「おいしい」
夕暮れの学生通り。
あまり人気のない通りの隅で、タピオカを啜っている女子生徒、日ノ岡あかね。
あかねは軽く目元を擦りながら、Mサイズのタピオカに舌鼓を打っていた。
「……今日も夕日が綺麗ね」
空を紅く染める夕日を眺めながら、ベンチに座って休んでいる。
タピオカを勢い良く啜り、ついでに買ったチョコクレープを頬張る。
タピオカ屋はタピオカ以外にも色々売っているので、つい散財する。
■日ノ岡 あかね > 生クリームがたっぷり入ったチョコクレープをパクつく。
タピオカを啜る。
ついでに売ってたチュロスも齧る。
タピオカを啜る。
おまけして貰えたパックの杏仁豆腐も食べる。
タピオカを啜る。
「明日からダイエットね」
肩を竦めて、一人苦笑した。
カロリー計算は死んでもしたくないと少し思った。
■日ノ岡 あかね > ほとんどタピオカが無くなって、ほぼほぼミルクティーに零落したそれを啜りながら、おもむろにスマートフォンをいじる。
アクセス先は先日の『話し合い』の後に設置したネット上の簡易受付。
申し込みの数はそれほど多くない。
あかねが知っている名前に関してはゼロだ。
一方的に名前を知っている者ですらゼロ。
「ま、昨日の今日だし、そう上手くはいかないわよね」
ケラケラと笑って、スマートフォンをしまう。
風紀の腕章が、風に軽く揺らされた。
ご案内:「学生通り」に戌神 やまさんが現れました。
■戌神 やま > 「……自分、そんなかわいらしいもん頼むんやなぁ」
ほへ~、と少し間の抜けた表情を浮かべながら、からんころんと下駄を鳴らして近寄っていく和装の少女。
先日の『話し合い』にも参加した少女である。
「まあ偏見やけど、ちょっと意外やわぁ」
■日ノ岡 あかね > 「みんな私の事なんだと思ってるの?」
ケラケラと可笑しそうに笑いながら、最後のクレープを頬張る。
それも、またタピオカだったミルクティーで流し込んで、あかねは小首を傾げた。
「ずーっといってるんだけどなぁ、私は何処にでもいるダブりの女子高生だって」
軽くベンチの隣を空けるように移動する。
ついでに、クレープの包み紙を屑籠に捨てた。
■戌神 やま > 「いやそれは通じへんって。あんなガチの演説ぶつ女子高生、どこにでもおったらたまらんわ。アハァー♪」
おっもろ♪とコロコロ笑う。
「いやマジで、やまは反対の立場やけど、それはそれとしてあの演説、上手かったで。真の策士は戦う前に勝負を終わらせる言うけど、まさにそれやったわぁ」
おおきに♪と言いながら横にぺとっと座りつつ。
あの日のような強烈な瞳ではなく、よく笑ういつものやまの表情で賛辞を口にする。
■日ノ岡 あかね > 「ありがと。でも、あんなの技術と知識でしかないんだから、やろうと思えば誰でも出来るわ」
肩を竦めて笑う。
残りの杏仁豆腐も流し込むように食べて、そのまま容器を屑籠に放る。
「まぁ、戦うって男の子は大好きみたいだけど、非効率的だしね。私は出来る限りしたくないってだけ。それに、あれは元々予算も枠組みもあったものに私が相乗りしただけよ。私がやらなくても、そのうちカオルちゃんあたりが神輿になってやらされてたんじゃないかしら?」
カオル。赤坂薫子。
風紀委員会庁舎によくいる受付。
あかねは毎日報告書を風紀委員会に提出する義務があるため、顔見知りだった。
元々、そっち側の伝手から聞いた計画でもある。
「それに要約するなら『二級学生や違反部活生を仕方なくやってる人達を拾う新しい枠を作ります。興味ある人はこっちきてね。文句あるなら手伝うか無視してね』ってだけだし、大したことでもないと思うわよ? ……ま、一番『楽しくなりそうなタイミング』を見計らって発表したことだけは事実ではあるけどね」
少女……やまを見ながら、目を細めて笑う。
真っ黒な瞳はずっと、やまの顔を見ていた。
■戌神 やま > 「あのレベルやと、それこそ政治家の上等な方レベルちゃうん?確かに技術と知識やけど、あれだけのをどうして、どうやって身につけたんや気になるわぁ」
デバガメやけどな~、と笑いつつ。
「ああ、それはわかるわぁ。一々バトってたらキリないし、あぶい(危ない)もんなぁ。やけどやっぱ、やまは反対ではあるで。今更どーにもならんから止めはせんけどな」
ちゅーかあんなん考えるん他におったんかい、とケラケラ笑いながら。
風紀委員会、実はなかなかの魔窟なのかもしれない。本業がはかどりそうだ。嫌だけど。
「まあ、言ってまえばそうやねんけど、ちょっと丸投げ度高すぎん?しゃーなしでやってる奴らにとっては確かに犍陀多(カンダタ)の糸やけど、乗っかってくる奴が実は風紀に恨みのあるやつとか、その使い言う可能性切れへんし、同じことするにしても、その手の連中と反目しとる風紀でやるんはリスキーやとやまは思うで?風紀ちうんはある程度責任感がないとやれんと思うんやけど、そういう『上がり目があるから乗っかった』連中に『風紀としての責任感』求めるんは酷やしな。そこら辺の問題、青写真はあるん?」
先日のような、プランをねじ伏せよう、という意図ではなく、それをやるのはもう仕方ないとして、ならばどう実行するか。
そういう方向性で問いを重ねる。
赤いクリクリした瞳で、自分を見つめるあかねをじっと見据えながら。
■日ノ岡 あかね > 「『風紀としての責任感』なんて今の普通の風紀委員にないんだから、問題ないでしょ」
すっぱりとあかねは言い切った。
当然とばかりに。
「過去の資料を漁っても、風紀委員にそこまで責任感があった現場職員はほとんどいないわ。特に強力な異能者になればなるほどね。今の風紀委員だって、リオ君とか有名だと思うけど、ほとんど公然と『自己利益のついで』みたいなこといってるって記録にちゃんとあるわ。過激派の旗頭だし、何より強くて『便利』だから御咎めがないだけ。カギリちゃんとかも楽しそうとかが優先で『その場限り』の『鮮度』を重要視してるし、この前の会議も記録を見る限り一番盛り上がってたのは『全裸アフロの不祥事』なんて風紀全体の職務からみれば至極どうでもいい話。落第街の人達が盛り上がっている世間話と大差なんてない」
楽しそうに笑う。
何でもないように笑う。
「元々、愚連隊も同然の集団よ。風紀委員会なんてね」
目を細めながら。
「違うとしたらそれは風紀上層部。私達は顔も知らないし、名前も知らないし、具体的にどこに居るかも知らない『本当の権威者たち』だけど……彼等からすれば、それこそ現場の風紀委員の『問題児達』も、落第街で管撒いてる『不良』も、等しく同じ『子供』でしかないわ……だから、別にリスクなんて最初からないの。今の風紀委員だって、現状の風紀の体制に不満を持っている人は山ほどいる。恨み辛みなんて、治安維持なんてやってれば日常茶飯事。今更論じることもない些事。そも、デタラメに集めたって結局一度は監査の目を通るんだから、気にする必要なんてゼロ」
滔々と語る。
タダの事実を。
タダの現実を。
「アナタ……ヤマちゃんだってそうじゃない。アナタ、風紀委員会にそんなに愛着あるのかしら? 多分ないでしょ? それに、今まさに『一度は判子を押された計画に公然と反対の意を唱えている』わけで……それって、言い方変えれば立派な反乱分子よ?」
クスクスと、何でもないように笑う。
実際、それ自体はどうでもいいことだ。
やまよりずっと『危うい風紀委員』は腐るほどいる。
むしろ、公然とこう叫ぶだけ、やまはマシな方と言えるだろう。
「風紀委員会は怖いところよ。あの計画だって平気で『判子を押せる誰か』が少なくとも私以外にいるんだから……そんな心配しなくても平気よ」
涼しい顔であかねはそう言って、静かに笑った。
■戌神 やま > 「……いっやぁ、思った以上にアレやなあ、風紀委員」
ドン引き、という表情で言葉を絞り出す。
もしかしたら、風紀委員というものにちょっと幻想を抱き過ぎていたのかもしれない。というか、そんな無頼の集まりがよく機能していると本気で感心する。人員管理と言うのは、思ったより適当でもいいのかもしれないという学びを得た。得てしまった。
「なるほどなぁ。烏合の衆を風紀に混ぜ込むんがあぶいと思ってたわけやけど、既に今の風紀が割と真面目に烏合の衆っちゅうわけか。かなんわぁ、確かにこら、ツッコミの前提が崩れとるわ」
あちゃあ、と天を仰ぐ。が、そのあとの言葉には、ケラケラと笑って。
「アハァー♪ いや、まさにその通りやわ。いやまあ、やまはそれなりに真面目に風紀ってもん考えとるで?ちうても確かに、決まったもんにあーだーこーだ言うてるんは反乱分子、そらそうやわぁ。やまもそらそう処理するわ。一本取られてもうた。アハァー♪」
心底楽しそうに笑う。
実際、あかねに狂気を感じているのは間違いない。
ただ、その思考の広さは、素直に尊敬出来た。
■■として見てきた中にも、ここまでの傑物はそうそういなかったのだから。
「自分が死んだあとが楽しみやわぁ。いやまあ、やまは以前反対やで?あんなん判子押す阿呆の方が阿呆ちゃうか思うてるしな?せやけど……」
笑みを深める。
その笑みは、普段の愉快そうなそれではなく、凄みを帯びたものであり。
「協力したるよ。自分の言う通り、もう賽は投げられとって、話は上にも通っとる。なら、それを成功にさしたるわ。『ヤマ』の協力なんて、そうは得られへんで? あ、これイキりワードなっとるかな?」
おっもろ♪と笑いつつ。
「やけどまぁ、そうやなぁ。これはやまの我儘やし、『どうせ後で聞くことになる』んやけど……気ぃ向いたら、自分がなんで『そうなった』か、聞かせてもらいたいわぁ。興味あるねん、そういうの」
■日ノ岡 あかね > 「御協力はありがとね。嬉しいわ。ま、何も起きないと思うけどね。『風紀の内側』ではね……『外』は知らないけどね。面白くなってくれるといいけれど」
クスクスとあかねは笑う。
実際、あかねの目的はそちらにあると『話し合い』の場でもいっている。
誰もが『自己の在り方』について考え、『動いてくれること』を期待している。
結果は当然……まだわからない。
「私がこうなった理由? 風紀の記録にもあるでしょ? 元違反部活生。違反部活が壊滅したから捕まった。そのまま一年『補習』を受けて、出てきた後は見てのとおりよ」
両手を広げて、楽しそうに笑う。
そこまでは実際、書かれている通りのことでしかない。
だからこそ、あかねは何でもないように、それこそ普通に笑って。
「強いていうならまぁ……ちょっと『真実に挑んだ』だけよ」
そう、静かに呟いた。
「ま、結果は見ての通りだけどね」
そう笑って、自慢するように首元のチョーカーを指さす。
黒い首輪。
委員会謹製の異能制御用リミッター。
異能の使用を封じるモノ。
「大丈夫よ、本当にね。だって風紀委員会は私を『飼える』組織なんだから……屋台骨はしっかりしてるわよ?」
■戌神 やま > 「いやあ、おもろならん方がええけどなあ。ちうても、自分の目的はそこやもんなあ」
うへー、という表情でじとーっと見る。
変に引っ掻き回そうとした場合は頭どついたろ、くらいの気持ちでじとーっと見る。
「なるほどなぁ……自分、負けてもうたんか」
ぽつ、とそう呟く。
いや、実際は負けていないのだろう。『心が折れていない』のだろうから。
だが、敗北は、経験したのだろう。そう判断して。
「せやなぁ。自分みたいなんを飼えるんは確かにそこそこやわぁ。そこはある意味、信頼してもええんかもなぁ」
ふんふん、と頷きつつ首のチョーカーを見る。そして。
「嫌いちゃうで、何かに挑む奴は。『真実に挑む』なんて、なかなかおもろいやん。迷惑かもしれんけど、やまはそこそこ自分のこと気に入ったわ。それはそれとしてヤバイ思うけどな?せやからまあ、あんじょうよろしゅう♪」
コロコロと、いつもの笑みを浮かべながら、握手しようと手を差し出す。
■日ノ岡 あかね > 「こっちこそよろしく、私、友達少ないから仲良くしてくれるなら嬉しいわ」
とても嬉しそうに笑って、握手を返す。
もう片手に持っているタピオカは、既に氷が溶け始めていた。
「負けるのなんて日常茶飯事よ。さっきだって男友達誘ったのにフラれちゃったし、負けなんて私の人生じゃ普通の事……まぁでも、『勝負』する以上、負けも含めて勝負なんだから、そこに悔いはないわ。また挑めばいいだけなんだし」
明るく笑う。
登下校でたまたま会った同級生にそうするように。
教室の隅で流行物の歓談をする女生徒のように、
ただただ普通に、あかねは笑った。
そして、小首を傾げ。
「だけど、なんでヤマちゃんは『面白くならない』方がいいのかしら?」
少し困った顔で、あかねは呟いた。
そっちのほうが絶対いいのに、といったニュアンスを含めた顔。
「誰もがちゃんと……『自分の在り方』について考えてくれた方が……『面白く』ない? ヤマちゃんだって……自分の無い人や自我の無い人と喋ったって、『面白くない』でしょ?」
■戌神 やま > 「お、よろしゅうよろしゅう♪ まあそれとしてシバくときはシバくけどな?」
甘くはせぇへんで~?と笑ってから。
「おもろいなぁ、自分。いやまあ、言ってることはその通りやで?せやけど、人は『負け』をそれでも受け入れられへんことが多い。いやこれはマジで多いねん。そこんとこ、普通に納得しとるんは、おもろいなぁ」
笑う。コロコロと、ただの少女のように笑う。
だが、その後の問いには、少し困ったようにして。
「うーーーーーーーーーーん、これうちのことマジトークせなあかんからあれやねんけどなあ。まあ、雑トークで済む話でいうんやったらぁ……」
うーんと考えて少し言葉を切って。
「その方が、うちの気ぃが楽やからやよ。やまが見とるんは、表面的なとこだけちゃうくて、一歩先にあることやねん。中二ワードちゃうで?これはマジ話や。そこで、やまはしんどい気分になりたくないっちゅうだけや。まあ、エゴやよ、これも」
■日ノ岡 あかね > 「マジトークの方が嬉しいわね」
あかねは静かに笑う。
嬉しそうに。楽しそうに。
日ノ岡あかねは。
「私はいつだって『本気』よ」
――ただただ、笑う。
「何か不都合なのかしら? 人間が考える葦になることが。今まで無自覚だった人が自覚的になることが。仕方なく混沌を成すしかない人を仕方なく体制を成す人にすることが。落第街みたいなところで悪い事をすることに『覚悟を持つ人だけ選別する事』が」
日ノ岡あかねは。
「……何か、不都合かしら? 深層的に見ても、風紀の将来利益として見ても、なんだったら落第街の悪党達にとっても……まともな頭があるなら『好都合』なはずだけど?」
逆にいえば。
その『どれでもない悪党』からすれば……多少、不都合かもしれないが。
■戌神 やま > 「めんどくておもろないで?」
からからと笑う。
だって、マジトークと言っても単なる自語りだ。面白くはないだろう。
だが、まあ。
少しくらい語っても、良いのかもしれない。
「それ自体は、そう悪いことちゃうよ。せやけど……その過程で人は『罪』を宿しかねん。それを一々裁いて地獄送りにするんは、マジでだるいねん。気分的にな」
そういって、そこらにある枝を広い、そして文字を書く。
『夜摩』と。
「これ、やまの名前の本来の漢字やねん。
――人は罪深い。しょーもない罪をいくらでも宿すし、しょーもなくない罪も宿す。そしてそれは、今ある秩序をぶっ壊そうとするときなんかにも、極限に高まる。やまが見とるんは、自分らが『生きてる間』の話ちゃう。自分らが『死んだ後』の話や」
真面目な表情で、じっとあかねを見詰める。
そして、一つ溜息をついて。
「――やまは『戌神夜摩(いぬがみのやま)』。死後の裁きを担う閻魔の一柱やよ。信じるかは自分次第やけどな?」
中二乙って笑ってもええんやでー?とからからと笑って見せる。
■日ノ岡 あかね > 「別に何したって『罪』は宿すでしょ」
真面目な顔に……あかねは黒い瞳を向ける。
夜の瞳。宵の瞳。
真っ黒な瞳を一度もやまの目から逸らさず、あかねは続ける。
「秩序が壊れた時なんていうけど……『この程度』で秩序が壊れると本当に思うのかしら? 『この程度』でこの常世島に混乱が巻き起こるなんて……本当に思うのかしら? 起こったところでそれは『死ぬまでの罪』を数えるならそれこそ些細なこと……むしろ、アナタが本当の夜摩天だとしても……気にするほどのことかしら? そんなに六欲天ってコスいわけ?」
目を細める。
疑いの眼差しではない。
それを真と仮定するからこその……叱責の眼差し。
「八万由旬の表面積に、五千由旬の垂直距離がある世界を統べる大地主でしょ。三十二の領地を持ち、知ってか知らずか争いを避けた離諍天様の御言葉にしては……リアリティがないわ。私のやることはむしろ瞬間的に何かあったとしても、長期で見れば争いが減る事なのに……仮にアナタが本当に『そう』だとしたら、もうちょっと違うところで仕事しなさいよ。どこまで私のやったことが大きくなったところで、『こんな小さな島』の『一つの取るに足らない騒乱』でしょ。死んだ後の事を考えるなら、それこそすぐにでも貧民を救う手段になりかねる私の案に反対する意味がわからない」
質を問わず数だけでいうなら、最も罪を重ねるのは、『望みもせずに悪事を重ねねばならない貧困層』であることは間違いない。
そして、質を問うなら……これから残る悪党はあかねが『あんなこと』をしなくても無限に悪事を重ねる。
何も変わりなんてない。
何も変化なんてない。
これでむしろ、中途半端な悪党が浮足立って捕まるか死ぬなら好都合の筈。
『裁き』の手間も楽になる。所説あるとはいえ、地獄は一定以上の罪は全て平等に裁くと聞いている。
「分身とかでもないのなら、大陸にでもいったほうがいいわ。アナタの仕事は確実に『あっち』の方が多いわよ。この常世島だけの管轄だっていうなら……それこそ、風紀上層部に食い込みなさいよ。こんな現場で油売るのは無駄も無駄だわ」
故にこそ、あかねは語る。あかねは諌言を呈する。
もっといえば。
「地獄の閻魔なら、『面倒』くらいは負いなさいよ。君主の責務でしょ」
そう、言い放った。
■戌神 やま > 「そうや。人はテケトーに生きるだけで罪を山ほど宿す。罪を宿さん人間はおらん」
些細なこと。そう当人が思っていても、それが『罪』であることは多い。
そして、それをも裁くのが閻魔の仕事だ。
「コスいよ。うちはな。他の閻魔は知らんけど、うちはコスい。少しでも罪を減らして、少しでも多くのやつらを天道に送りたい。それが、戌神にして山神にして夜摩である、うちの我欲や」
我欲、つまり我儘であると全面的に肯定しつつ、それでもと言葉を紡ぐ。
「こまいことに口出しとるんは理解しとる。それでも、この島の影響力は見た目以上にデカい……そして、生前の倫理観と死後の倫理観は別物や。
動乱によって暴れた命は、余計な罪を宿す。そして、その先の罪と『そうならんかった』際の罪を、正確には比較でけん。そういうもんや。閻魔大王いうても、受け身の裁判官に過ぎんからな。十王様がキレたらすんません言うて謝るしかでけん存在や」
ここ笑いどころやで?と言いつつ、一切の笑みを浮かべずに。
「――うちはな、閻魔としても異端の下っ端や。他のまともな閻魔なら、自分の言う通り、総合で数が減る可能性があり、そして一つの島の些細な内乱でしかないなら、スルー安定やわな。せやけどな……これが裏目ったら、やまの見立てでは『本来天道に行ける奴が地獄道、修羅道辺りに堕ちる』可能性があるねん。それも、かなりな」
これは、それなりの時間閻魔として人を裁く業を重ね続けたが故の経験則。
これが裏目を引けば、本来つつましく生きていただけの人間が、取り返しのつかない罪を宿す可能性が極めて高い。それこそ、天道から地獄道、修羅道に堕ちる程度には。
そして。
この閻魔は……その役職を超えた、無謀で不遜な願いを宿している。
「やまはな……その可能性を嫌ってるだけや。笑えや。やまの視座は閻魔のものやが、やまの視野は自分より狭い。やまは、本質的には自分以下の我欲……『人を三悪趣に送りたくない』ちうクッソ甘い願いから、現世に干渉しようとしとるわけやしな。せやから、自分のいうことは最もや。いざとなったら全部背負う覚悟くらいは持っとるわ。せやけど……」
そこで言葉を区切り、ぎり、と歯を食いしばってから。
「――地獄の裁判官、閻魔としてちゃう。単なる『犬神夜摩』として、やまはその可能性を嫌う。本来天道にいけるような奴が、三悪趣に堕ちる可能性を。やけど、その可能性を一番に潰せるルートは消えた。自分が、消してくれたわ。せやから、やまは自分に協力する。
最善を、掴んだる。やまはやまのクッソしょうもない我欲のために、自分の計画を成功させる努力をする。
自分の計画はな、裏目った時はクソや。言い切ったる、クソや。そして、そうなる可能性も割とデカいとやまは見とる。
やけど、青写真通りいけば、実際理想的なんはそうやねん。そういかんやろうからやまは反対した。やけど、動いてしもうたなら……最善に導いたる。まあ、無理かもしらんが……全力は尽くしたる」
ボウ、と、蒼赫の炎をわずかに発しながら。
「それが、地獄の閻魔、自分らの命を裁き導く業を宿す『夜摩』の、クソしょうもない選択や。笑えや。自分にはそうする権利がある。そして、その結果はこのやまが背負ったる。自分の言う通り、それがやまの責務や」
動いた結果として、自分の心が刻まれようと、手間が死ぬほど増えようと、それは背負うと断言した上で。
「せやから、死ぬなや自分。自分が途中で死ねば、大筋でこの計画は『裏目』を引く。それは最悪や。やるならやりおおせてから死ねや。そんときは――側近として迎えたい思うとるくらいには、認めとるやつやしな」
■日ノ岡 あかね > 「だったら言う相手違うでしょ余計に」
あかねは目を細める。
叱責するように。
糾弾するように。
「さっきも言ったけどね、この計画は元々あった計画なわけ。私一人の独断じゃないの。確かに私は色々動いたわ、色々考えたわ、色々仕込んだわ。だけどね……最終的に『やる』っていったのは風紀上層部よ? 『外からも見える窓口』が私ってだけ。閻魔様っていうなら、もっと偉い人に直接文句いいなさい。クレーム対応の現場窓口でしかない私にごちゃごちゃ言っても何も変わらないわよ」
故に、普段はまったく気にしない。
誰に何を言われようがそれも含めて『あかねの仕事』だ。
それも承知で請け負った。
だが、今回は相手が自分を閻魔といった。死後を司る頂上の者だといった。
ならば、『わざわざ、現場のあかね』に文句を言う理由がない。
あかねが倒れたところで他の誰かがやるだけなのだから。
「裏目ったら? アナタ、何日和ったこといってるわけ? 裏目って大負けの可能性なんてのは『全ての政治判断』がそれよ。見えないだけ。発表されないだけ。むしろ、一発裏目ったらマジで『おしまい』なんて大事は生活委員会の方がよっぽど多い筈よ。インフラ飛ぶかもしれないんだから」
所詮は治安維持。所詮は犯罪者の相手だけ。
そんなものは非常時の相手だ。
常時を相手にしている生活委員会に比べれば、全てが些事だ。
「本来天道に行ける? それが裏目れば地獄に落ちる? それって、『そいつの本音を実行しなかったら天道に行けた奴が本性だしたら地獄でした』ってだけじゃないの? これ……アナタ視野狭いって自分でいうからもうそれ前提で話すけど……そこまで大事にはならないわよ? ただの無辜の民まで波及する大事になんてこれはならない……というか……『なれない』わよ」
肝の小さい閻魔に苦言を呈する。
これは博打ですらない。
博打で言うならもう負けている。
何故なら。
「風紀委員会どころか生徒会が黙ってるわけないでしょ、『そこまで』いくまえに『消される』わよ……トゥルーサイトがそうなったようにね」
胴元の勝利は最初から確定している。
利鞘だけで比較するなら、胴元に子が勝てるわけがない。
その胴元の『催し』なのだ。
勝ちも負けもない。
勝ち目がないんだから、裏目もない。
「アナタの言ってることは……悪魔の証明よ。私がやったのよりもよっぽど性質が悪い奴。だって、こんな『小さな騒乱一つ』に対して『もしかしたら地獄に落ちるから』なんて……例えるなら、ライター一つで『火事になるかもしれないから』で世界中から火種を取り上げるのと一緒よ。どうして……それで凍えて死ぬ人の事は考えないわけ? 飢えて死んでも清いままなら天道だから、それでいいわけ?」
あかねは引かない。
あかねは日和らない。
あかねは……真面目に、笑いもせず、真正面からその目を見て。
「側近なんて笑わせないで。アナタはそもそも上に立つ立場としての『覚悟』も『度量』もないわ。デカい博打打てる肝を持ってから出直してきなさい」
真面目に、ただ、真摯に。
閻魔などではない。知らない何かでもない。
戌神やまを真正面から見て……日ノ岡あかねは苦言を呈した。
■戌神 やま > 「っくく、っははははは!!ッハァー♪」
笑う。
笑う。笑う。笑う。
それは、相手がつまらないことを言ったから。
――ではなく。
「いやあ、自分の言う通りやわあ。堪忍なぁ、ぶっちゃけそこまでは見えとらんかってん。現世に出てくるに際して、浄玻璃の鏡は取り上げられとるしなあ。それがわかっとったら、上に文句言い散らかしてた……ってのは今更やなあ」
そこんところは弱体化不可避やねん、と笑って。
「自分、マジにおもろいわぁ♪腐っても閻魔やで?うちが死後の判決贔屓するっておもわんかったん?いやまあせぇへんけどな?それにしても自分、毛ほどもブレへんなあ」
からからと笑う。
ここまで芯の通った狂人がいたのかと、心から感心する。
その筋の通しっぷり、そして狂いっぷりは見事の一言だ。
故に。
「――負けや。やまの。論議ちゃう、器で負けたと認めたる。なるほど、やまは博打はキライや。それで身を持ち崩してクソみたいな罪を背負った阿呆を山ほど見てきたからなあ。それで、こまい可能性にビビりあがってたちうのも、認めたるわ」
アハァー♪と、いつも通りの、ただただ愉快そうな笑みを浮かべ。
「せやけどな、『それが地獄の倫理』や。清く死ねば天道、足掻いて醜く死ねば餓鬼道。それが死後の倫理や。人を罪で測る、地獄の見方や」
故に、現世での善行が死後認められるわけではない。倫理の根幹が、視座そのものが違うのだから。
「その上で、やまを『使え』や。自分の器は、なるほどやまのそれを超えとる。それが狂気に由来するものであっても、戌神夜摩はそれを認めたる。そして、その狂気を止める術をやまは持たん」
下っ端の雑魚やしなぁ、と笑ってから、真剣な表情になって。
「悪魔の証明とて、閻魔の視座からすれば見えうる可能性の一つに過ぎぬ。それを笑うも嘆くもさじ加減一つ、それが神という存在や。やまは嘆き、多くの閻魔は笑い、自分は志した。せやけど、もう嘆きはすまいよ。乗ったるわ、そのクソみたいな賭けに。その上で、自分の欲も、悲観する可能性も、全部乗り越えて、最善を導いたる。
――それが、臆病な閻魔の、やまにでける全てや。覚悟せぇや。
『自分のやること全てをやまは見ていて』『そのすべてを、やまは責任と覚悟を持って断罪したる』からな」
鋭い目で……やまなりに覚悟を決めた瞳で、あかねを見詰めて。
「――にしても惜しいわぁ。自分ほどの器があれば地獄でもええとこ行って……それ故に、それなりどまりになるんやろうなぁ」
そういって、笑った。
■日ノ岡 あかね > 溜息を吐くように、あかねも笑う。
「それでお為ごかし言って贔屓してもらおうと適当いったら、『嘘吐いた』って舌抜かれるんでしょ? 私は嘘なんて吐かないわ。相手が誰であろうとね」
肩を竦める、そして、空っぽになったタピオカのプラスチック容器も屑籠に投げ捨てる。
夕日が、微かに差し込んでいた。
「議論で勝ち負け言ってるうちは議論に向いてないわよ。議論には勝ちとか負けとかそもそもないの。より良い考えを生み出す為にやることなんだから……アナタ、そこからして上に立つの全然向いてないわ」
論破だのなんだのは程度の低い話だ。
それで「新しい知見」がどちらか片方でも得られたなら、それ以上の何を求めるというのか。
言い負かす、言い勝つという考え自体、あかねからすれば首を傾げる話でしかない。
「飢えて死んでも清けりゃオッケーが地獄の倫理がそれなら、なおのこと無視しなきゃ山ほど人死ぬって事じゃない。そんなの私じゃなくても喜んで無視するし、アナタの『得』なんて生きてる人間にとっては『損』ってことでしょ。無茶苦茶いわないで。アナタの見てる可能性は生きてる人間の損得とはズレ過ぎよ」
そもそも、地獄とやらだってあかねは信じていない。
今は一応「まぁ本人がそういうなら」で乗ってはいる。
とはいえ、「仮に全部真実」だとしたところで……信仰の違いで落ちる地獄の違いが説明できない以上、やまの語る地獄だって「数ある地獄の一事例」でしかない。
広い彼の世の片隅の「一個人」がいっているだけということになる。
死後が実在すると考えても、やはり些事でしかない。
このやまがあかねの裁きを確実にする保障すらないのだから。
死後を司る神なんてそれこそ腐るほどいる。
「アナタ、言う事が大きすぎてリアリティがないの。地獄がもし本当にあるなら、広報雇うといいわ……まぁ、計画に協力してくれるのは嬉しいけど、とりあえずアナタにその手の活動は頼めないわね。現場で困ってる人助けてあげて。それが一番いいだろうから」
まぁ、いの一番に現場に来る閻魔なのだから、結局それがいいだろう。
そも、上に立つ手段もこの常世ではほとんどないも同然だから、仕方ないともいえるが。
……逆説、地獄の閻魔でも下っ端から始めるしかないと思えば、この常世学園上層部がどれだけ『恐ろしい』のか伺う事も出来るといえないでもない。
「あと、もう一つ気に入らないことがあるんだけど」
これは、心底心外と言った様子で……あかねは笑う。
どこか、疲れたように。
「……これも何度も言ってるんだけど、私は正気よ。正気と狂気の境目が、誰にもわからないだけでね」
そう、呟いた。
手品を明かす少女のように。
少しだけ、寂しそうな顔で。
■戌神 やま > 「あいにく、正誤で何でもかんでも決めてきた身や。それ故に、そこを終着点とせん話には弱いねん。堪忍してぇな」
地獄の『正義』は決まり切っている。凝り固まっている。
故に論議の余地はなく、結論のみがそこにある。
――それに疑問を抱かなくなったのは、いつからだったか。
「器ちゃうもん。任せられたからやって、その中で最善を模索してるだけや。やまなりにな」
そもそも、戌神やまは本来閻魔になる器ではない。
死ぬ前に人を助けた犬が、崇められて戌神となり、そうなったからそれに応えたくて周囲を守っていたら山神となり、そしたら地蔵が作られて地蔵菩薩となり、そのまま閻魔にスカウトされたからその任を受けた。
それだけの、元をたどれば下等な神である。
神としても新米で、それ故に『神という機能』に染まり切れずにいた、はみ出し者。
上に立つ資格なんぞあるわけがない。
「せやけど、狭くていいわけやない。なるほど、全部言う通りや。すべてを認め、受け入れるわ。ったくもう、上の人に皮肉言われまくったの思い出すわぁ。きっつぅー」
言いつつ愉快そうに笑みを浮かべる。
なるほど言うとおりだ、新しい知見を得られればそれでいい。
『正しいことで断罪するしかしてこれなかった』やまには、それすらも新鮮であって。
それ故に、その後の言葉を笑い飛ばすことは出来なかった。
「あいにく、自分はやまの倫理観では狂っとる。敢えて言うなら『通常の枠組みから大きく外れた思考回路』をしとる」
これは、閻魔として告げる。
そこは揺るがない。ここまでのことを『自分が楽しいから』で出来る人間は、倫理で言えば狂っているとしか言いようがないからだ。
しかし。
「でもまあ、うちとしては、それもなるほど、一人の人間が至る先としては『ありうる』んやろなぁとは思わんでもないよ。狂っとるちうんは、そういう意味では取り消すわ。自分が正気かは知らんけど、自分はいろいろ思った上で、狂気に身を委ねたわけでもなく、そこに至ったんやろなぁ」
ある意味でそれが一番狂っているのかもしれないけれど。
それでも、それくらいはきっと、個人としてなら認めてやってもいいと思わなくもなかった。
目の前の少女は、きっと狂ってそこに至ったのではなく。
――正気のまま、狂気に近い結論を見出しただけなのだろうから。
それもまた、浄玻璃の鏡を持たぬ一人の少女の、思い違いなのかもしれないけれど。
■日ノ岡 あかね > 「そう、色々考えて……色々やってみて、色々覚悟したら、こうなっただけ。そんなに珍しい事でもないと思うんだけど……まぁ、これは私がそう思うだけなんでしょうね」
正気と狂気の境目は、誰にもわからない。
異能、魔術を含めたあらゆる近代技術の粋を凝らしたところで、結論は出ていない。
故にこそ、あかねの狂気と正気も相対的なものでしかなく。
多くが「狂気」というなら、それは確かに狂気なのかもしれない。
それでも、あくまで……日ノ岡あかね当人にとっては。
それは、確固たる理性と正気で手にした……『人として当たり前の覚悟』でしかなかった。
「まぁ、ヤマちゃんが味方ってことはわかったから、私、今後頼っちゃうわね? 期待してるわよ」
そう、悪戯っぽく笑って……あかねは踵を返す。
みれば、もう中々に良い時間。
あかねの寮の門限も近づいていた。
「それじゃ、私門限あるから、そろそろ帰るわね。またね、ヤマちゃん……安心して、私、死ぬつもりもなければ、アナタに裁かれる気もないから」
一度だけ振り向いて、そう楽しそうに笑ってから……あかねは去っていく。
真っ赤な夕日が、少しずつ……沈み始めていた。
ご案内:「学生通り」から日ノ岡 あかねさんが去りました。
■戌神 やま > 「どうしても結論で評価されてまうからなぁ。そこんところはしゃあないと思ってもらうしかないわぁ」
正気と狂気の境目は曖昧だ。
だが、強いて明言するならば『一般的な規範から大きく逸脱しているか否か』が境目であり、日ノ岡あかねのそれは、逸脱側であるというのは間違いない。
――何かを動かす者と言うのは、その基準で言えば基本狂人になるのではあるが。
「10:0で味方ちうわけちゃうけどな?大筋で手を貸したるっちゅう保証はしたるわ」
お手柔らかにな~?と笑ってから。
「――どうやろな。うちは自分の死後を見たい気持ちはあるよ。何をなして、何をなせず、総体として『どういう生き物として』死んだか。その時、うちは『どう裁く』のか。閻魔としての我儘やけどな」
そういう考えこそ、傲慢と断ぜられるのかもしれないが。
――この少女を裁く役目は、他の閻魔に譲りたくはなかった。
「ほな、さいなら。また今度な~。気ぃつけや~、大きな波を起こすやつは、しょうもない死に方しやすいからな~」
若干物騒な、されど真面目なことを口にして身を繰りながら。
「――うちも帰るかぁ。ちょーっといろいろ見詰め直さんとなぁ」
おっもろ♪と笑いながら、その場を後にした。
―――――沈む夕日を見てこう思う。
閻魔としての筋を曲げて、現世に干渉した。
それは、最善を目指すためだ。より多くを天道に導き、より多くを地獄から救い……そして、そのための見識を得るためでもあった。
その『選択』は正しかったのか、それとも神の傲慢でしかなかったのか。
否。
正しくすることこそが責務なれば、その責を果たそう。
決意を抱く。神ならざる、人間らしい小さな決意を。
それは何を導くのか。それは、神すらも知りえないことだ。
ご案内:「学生通り」から戌神 やまさんが去りました。