2020/07/01 のログ
ご案内:「学生通り」に山本 英治さんが現れました。
山本 英治 >  
授業も入っていない午後。警邏中。
学生通りでダンボールに捨てられていた子猫を見つけた。
一匹だけで、ニャアニャアと鳴いていた。

俺は急いで子猫用のミルクと餌を買ってきていた。
途中で考えはまとまった。
拾おう。うちでは飼えないかも知れないけど、飼い主を見つけよう。
そう決まったからには、善は急げだ。

そして小さなビニール袋を下げて子猫が入っていたダンボールに辿り着くと。
ダンボールは無残に破壊されていた。子猫はいない。

山本 英治 >  
息を切らせてあちこち探し回った。
胸騒ぎがする。
ダンボールは、子供の靴跡が残っていた。
多分、近所の子供がイタズラ心で蹴り壊したんだ。

それはいい。もういい。
でも……あの子猫はどこに行ったのか。

 
ふと、『嫌なもの見ちゃったわね』という誰かの声に振り返る。
すると、道路で。
さっきの子猫が。
血まみれで倒れていた。

ピクリともしない。魂の抜け殻。

子供から逃げてる途中で轢かれたのか………
俺は体から力が抜けていくのを感じていた。

ご案内:「学生通り」に持流 童男さんが現れました。
山本 英治 >  
俺はゆっくりと道路に歩を進めて。
もう動かなくなった亡骸を抱きかかえる。

「……怖かったな」

そう優しく話しかけると、通行の邪魔だと車の主が投げたペットボトルが頭に当たった。

何もかもが茶番に思えた。

持流 童男 > 「何が・・・ッ・・!!」

と抜け殻となった子猫を見る。

「・・・・」少し考えたように

「そこの優しき御仁、その子を埋葬しようでござる」
「痛くて辛かったのならば、せめて埋葬してあげるのが筋でござろう。」

と決意を持った瞳で。

「よく頑張ったでござるな」亡骸になった子猫に対して。

山本 英治 >  
「あなたは………」

道路から歩道に戻ってきて、話しかけてきた男性に気づく。
確か、最近刑事課に入ったっていう。

「持流さんか」

雨が降ってきていた。
梅雨だから。空が泣いていた。

「前に警邏で回ったペット霊園を知ってる」
「火葬もしてくれるところさ」

抱きかかえたまま歩く。
服に血がついたが、構うことなく。

「…ハッ、何がペットだ……この子は、捨てられてたんだぞ」
「親から引き離され、一匹で捨てられて………ったく」
「どうしようもねぇなぁ……」

どうしようもない。己の無力さ。俺は……熱を失っていくそれを抱えて。
死んだ親友のことを思い出していた。

持流 童男 > 「うむ、持流でござる。」

と歩道をあるきつつ。

雨が降ってきた。それにともに濡れながら

「そうでござるか。火葬もしてくれるとなれば、この子も無事行けるというものでござる」

優しく見ながら。

「どうしようもないなんてことはないでござるよ」
「お主は、それでもこの子を助けようとしたのでござろう」
「それならば、その行動自体に意味はあったのでござる」
真面目に横を歩きながら

山本 英治 >  
「意味なんてあるか」

吐き捨てた。
彼に当たっても、意味なんてないのに。
年上に、無礼に当たる言葉なのに。
心を堰き止めることができなかった。

「この子はもう、誰を許すこともできないんだぞ」

雨が降る。ただ、降り注ぐ。
手から下げた子猫の餌が入ったビニール袋を、雨垂れが伝った。
坂道を上がる。風と太陽の坂道と表現される学生通りの観光地も。
ただの処刑台へ続く階段にしか思えなかった。

持流 童男 > その心を受け止めながら

「それでも、この子をしっかりとこの子を助けようと、飼おうとしていたのでござろう。」

子猫の餌が入ったビニール袋を見ながら。
しっかりしかし意思を言いながら。

「この子は、確かにお主が言ったとおり、もはや誰も許すこともできないのだろう。だがしかし、それでもお主が、助けようとした『過程』。そして、「この子」が確かに生きていたという「記憶」を、覚えているのはお主だけでござるよ」

山本 英治 >  
「飼えない……一時の気紛れで助けようとしただけだ」
「教えてくれよ持流さん。苦しみがありふれているなら、ただ我慢すればいいのか?」

最低だ。俺は。相手がいい人なのをわかってて。
処理しきれない自己憐憫を押し付けているんだ。
重責。重荷。どれだけ力があっても、無意味なもの。

「…………そう、だな…」
「覚えててあげなきゃ………いけないんだよな…」

坂の上に霊園はある。
金と一緒にこの子を渡して終わりにしてはいけないんだ。

「すまなかった、持流さん。みっともない真似をした」

俺はこの世界に何を求めてきたのだろう。
希望とか、未来とか。そんなものより今は、具体的な『機会』が欲しかった。

持流 童男 > 「・・・某、初めての人だけど怒るでござるよ」

「人のパーソナリティとかわからないけどここは怒らなきゃいけないところでござる」

「だからいうでござるよ。苦しいなら苦しい!。寂しいなら、寂しい!。聞いてくれっていうなら聞いてくれ!って助けてくれって言えばいいでござろう!!!じゃなきゃ!人の心がわからないヒーローになってしまうでござるよ!」

珍しく本気で怒りながら

と頬を思い入り、ペチンとしようとするが自分にダメージが行き。うおおと言いながら。

「お主、一人で何でもできると思うなでござるなこのアフロかっこいいダンディズム!!!!。お主の周りには!『誰』がいるでござる!!!」

山本 英治 >  
しばらくキョトンとして彼の怒る姿を見ていたら。
泣きそうなくらい表情を歪めて。

「ああ……そうだよな…………」
「一人でできることなんて高が知れてて」
「仲間の手を取って進まなきゃ……なんだよな…」

歩いているうちに腕の中で位置がズレてきた死体を、あやすように抱え直して。

「坂道を一人で歩けるのは強さでも……誰かと一緒に登るのは弱さじゃない」
「俺の親友の言葉だ」

それからしばらく歩いた先のペット霊園で。
事情を話したら手早い書類仕事をしてくれて。
二人分のタオルまでもらってしまって。

なんだか、毒気が抜けてしまった。

「……持流さん、今日は悪かった…」
「いや、違うな………ありがとう」

持流 童男 > 「某は何もしてないでござるよ?当然のことをしただけでござる。それに対してお主が気づいただけでござろう。」

とヘヘッとまばゆいくらいの笑顔で笑いながら

「去ってしまった人たちは、戻らない。だからこそ背負っていくのでござるが、これがまた重い。ならば誰かに一緒に背負ってもらうか、それを枕にして考えてみればいいのでござるよ。お主が何をしたいか。」

と頭をタオルで拭きながら。

「頑張るでござるよ、若人」にカッと笑いながら

山本 英治 >  
「ああ……そうだな………」

去ってしまった人は戻らない。
本当にそうだろうか。

いつか、あの子猫とも。遠山未来とも。
信じた未来でまた会える。そんな気がする。

煙突から黒い煙が天上へ上がっていく。
雨は止んだ。けれど。
煙がすぐに紛れてしまうくらいの。
どこまでも広がる暗雲がこの島の空を覆っていた。

ご案内:「学生通り」から山本 英治さんが去りました。
持流 童男 > 煙突から黒い煙が天井へ上がっていくのをみて

「(また来世で会おうでござる)」

と思いつつ。見送りをしている。

ご案内:「学生通り」から持流 童男さんが去りました。