2020/07/18 のログ
ご案内:「学生通り」にフレイヤさんが現れました。
フレイヤ >  
先日聞いた洋菓子店。
メイドに買ってきてもらったそのお菓子は、充分に一流と言えるレベルの出来だった。
なので今日はパティシエの顔を見に来たのだが。

『……混んでるわね』

さほど大きくはない店内には大勢の客が詰めかけている。
店に入ったところで、独り言故に砕けた口調でボソリと呟く。
パティシエにお褒めの言葉を掛けようと思っていたのだが、この混雑ぶりでは難しそうだ。
とりあえず人の波が収まるまで入り口近くで腕を組んで待っていようか。

フレイヤ >  
『狭い店ね……もっと広く作ればいいのに』

母国語で呟く。
土地の限られた島だし、街の中心と言うこともあってそうそう敷地は広く取れない。
とは言えこうも狭くては買い物するにも一苦労だ。
現に先ほどから店内を歩く客とすれ違うたびに身を捩っている。
見動きが取れない、と言うほどではないが、かと言ってのびのび過ごせるほどでもない。
買い物客の多い夕方前と言うこともあるだろう。

『あぁ、もう。なんでこんなに狭いのよ……』

とは言え言うほど狭くはない。
自身の感覚がおかしいだけだ、と言うことには気付いていない。

フレイヤ >  
しかしいつまで経っても客足が途絶える気配がない。
どうやらそれなりに人気店らしい。
まぁ、あの味では仕方がないだろう。

『――帰ろ』

はあ、と溜息を付いて踵を返す。
パティシエに声を掛けるのは今度で良いだろう。
どうせ家も近所だし。
そのまま店を後にする。

ご案内:「学生通り」からフレイヤさんが去りました。
ご案内:「学生通り」に焔誼迦具楽さんが現れました。
焔誼迦具楽 >  
 真昼間の学生通り。
 土曜日であっても、学生は少なくない。

「ふんふーん。
 誰かちょうどよさそうなヒトいないかなー?」

 学生通りを歩きながら、右見て、左見て、ついでに上も見て。
 『ニラ』と凄まじく主張する字体で書かれたTシャツで、学生街を歩く。

「風紀さん、風紀さん、どこかにいないかなー?
 適度なお人よしさんでもいいんだけどなー」

 と、何かを探すように、うろうろとしていた。

焔誼迦具楽 >  
 昨日、スラムで収穫した、奇妙な結晶体。
 スライムという怪物から落ちたソレは、どうやら落第街では高値で取引されているらしい。

「そんなものが、まともなモノのはずがないしね」

 裏で取引されるようなものが、ただ魔力を宿している、なんてだけのはずがないのだ。
 ちゃんと、しかるべき相手に届けるべきだろう。
 しかし、迦具楽もまた、おいそれと風紀の詰め所に立ち寄れるような立場ではない。

 万が一、五年前の事を覚えている相手がいれば、面倒なことになりかねない。
 迦具楽としては、今更になって風紀と揉めるような事は望んでいないのだ。

ご案内:「学生通り」にスピネルさんが現れました。
スピネル > 心頭滅却すれば日もまた涼し…とはこの国における徳の高い人物の言葉である。
だが滅却した所で何も変わらんのではないかと、スピネルは日傘を持ったままだるそうに街を歩いていた。

今日は学生通りの書店でいつものように図書カードの残高に火を噴かせた。
気持ちよく買い物を終え、喫茶店にでもよろうかと思っていたところで所在なさげにしている少女をみかける。

「どうした少女よ。 何か困りごとか?」

月が出ていない時間帯は比較的テンションが低いスピネル。
いつもの高笑いは成りを潜め、物静かなな好青年…に見えるかもしれない。

焔誼迦具楽 >  
 ふらふらと、風紀の制服を探しながら歩いていたら、声を掛けられる。

「ん、んー?」

 そちらを見れば、ひとりの青年――だが、どうやら人間ではなさそうだ。
 まったく美味しそうではない。

「まあいいや。
 んー、ちょっとね。
 風紀委員か、お人よしさんでもいないかと思って探してたんだけど」

 と、また周りを見ながら青年に応える。
 そして、向き合えばわかる、やけに主張するTシャツの『ニラ』。

スピネル > 「ならば良い相手に巡り合えたものだな。」

日傘の少年は咳ばらいをして喉の調子を整えてから片手でマントを広げる。

「我こそ、高貴なヴァンパイアのスピネルである。
我は高貴な者の定めとして人々を助ける責務がある。
さあ少女よ、我に話すと良い。 …まあ、お主が良ければ先に喫茶店にでも入らんか。
この時間は直射日光が強くてな。 外での立ち話はなかなかに辛いのだ。」

一瞬、スピネルの赤い瞳が大きく見開く。
ニラ? なんのことだ? 人間達が食す野菜のことか?
わざわざ服に書く程のことか?

ううむ、わからん。 人間達のセンスは時々我には理解できん。

部下のチンピラにも独特のセンスを発揮する者達がおり、ここでも理解が追い付かなかった。

今も口を尖らせ、瞬いている。

焔誼迦具楽 >  
 日傘の少年の振る舞いに、おお、と拍手をする。

「へえー、あなたがヴァンパイア?
 へえー、へえー?
 ヴァンパイアの実物なんて初めて見たわ」

 へえー、ほおー、と繰り返しながら、じろじろ、不躾に興味津々に嘗め回すように視線を運ぶ。
 話を聞きつつ、確かにヴァンパイアなら日中は辛そうだなあなどと、伝承にあるイメージを浮かべつつ。

「んー、そんな改まって話すような事でもないのよね。
 というわけで、はい、これ」

 そう言って、少年へ向けて、乳白色の結晶体を差し出した。

「これ、今落第街で出回ってるモノらしくて。
 スライムって怪物が落とすものなんだけど、あからさまに怪しいじゃない?
 だからちゃんと調べてくれそうなところに届けてほしくて」

 そう言いながら、少し視線をそらして、頬を掻く。

「お願いできる?
 実は私、昔ちょっとやんちゃしちゃって。
 直接委員会街とか、詰め所とか行くのも行きづらくってさー」

 あはは、と笑いながら少年にお願いしてみる。

スピネル > 拍手を受けると気持ちがよい。
日傘を差したままウンウンと嬉しそうに頷いていた。

「そうであろう、そうであろう。
ヴァンパイアは希少であるからな。
この際によく拝んでおくが良い。」

舐めまわす様に視線に晒されるも、気にならない。
むしろもっと見ろとばかりに再びマントを広げる。

「ん、これはなんだ?」

片手で謎の結晶を受け取る。
手に取ってみただけでじんわりと魔力を感じるが。

「ほう、落第街でか。
なんだか不思議なモノだな。
ちなみにお主はどうやってこれを入手したんだ?」

自らの頬を触っている少女と結晶体、交互に視線を向け。

「事情は知らんが、我に任せると良い。
しかと届けておこうではないか!」

焔誼迦具楽 >  
 喜ばれたので、そのまま少年の周囲をぐるぐると回りつつじっくり観察。
 ついでに拝めと言われたので、手を合わせて拝んでみた。

「ちょっとスラムで、スライム退治?
 変な薬が出回ってるって聞いたから様子を見に行ったんだけど、そしたらスライムがわらわら出てきて」

 どこで手に入れたのかと聞かれれば、素直に事情を話す。
 とはいえ、迦具楽も大した事情は知らず、偶然に手に入れただけなのだが。

「ほんと?
 さすがは高貴なヴァンパイア様ね。
 頼りになるわ」

 そう、少年の自信ありげな様子に笑いながら。

スピネル > 「フハハハハハ。」

日中だと言うのに、拝まれたりと随分と気分が良い。
思わずいつもの高笑いが飛び出す。

「スライムか。 我も二度スライムが体に入っているらしい少女と出会ったが。
あの辺りはそんなにスライムがうろついているのか。知らなかったな。」

数日前までスラムの一部を縄張りにしていたが、今やそんなことになっているとは。
あの辺りは何が出てきてもおかしくないだけにスピネルも話していたそれほど驚きはしない。

「丁度我も一度風紀の連中とやらを見てみたかった所でな。
所で、調査結果は後で知らせに行った方が良いのか?
無論、お主のことは秘匿しておくが。

…ちなみにこの結晶は一般人に持たせても問題なさそうかわかるか?」

手の上で結晶を転がしながら少女に尋ねる。
少女の種族までは定かではないが、話しぶりなどから並みの相手ではないと悟っていた。

焔誼迦具楽 >  
「スライムの入った子?
 ふうん、そんな子もいるんだ」

 どうも妙な事になっていそうだな、と思いつつ。
 そんな少女がいたという事は記憶にとどめ。

「ああ、そこまで律儀にしてくれなくていいよ。
 一応、島の一市民として?
 報告の義務くらいあるかなーってくらいのものだし」

 一般人に対してどうかと聞かれると、さてどうだろうと首を傾げた。

「スラムのヒトが拾い集めてたのは見たけど。
 触るだけなら問題なさそう、かな?」

 体に取り込んでみれば、どんな物質なのか詳細までわかるのだが。
 この結晶が万一毒になるようなものであれば、大変、苦労をするハメになってしまう。
 だからこそ、調査できそうな機関に預けたかったのだ。

「まあもし、結果が分かって教えてもらえるなら、気が向けば異邦人街に遊びに来てよ。
 私はあのあたりに住んでるから。
 街の人とも仲良くしてもらってるし、誰かに聞けば家もわかると思うよ」

 「名刺とかいる?」なんて言いつつ、気楽な調子で。

スピネル > 「我はこっちに来るまでスライムとやらをまともに見ることは無かったのだが。
なかなかやっかいな存在の様だな。」

スラムでうろついていたりと、ひょっとしたらスラムのチンピラなんぞより遥かに危険そうである。

「そうか? ならば我は勝手にこれを持って風紀とやらの前に向かうぞ?
我としても学園に対して恩を作っておく必要があるからな。」

市民の義務と言われ、スラムの連中とは随分と違うなと少し驚いていた。
学生通りに出入りするタイプは真面目なのだと言う印象が強くなっていく。

「わざわざコレを拾い集める連中がいるのか。
となると、換価性が高いか気持ちよくなる類なのだろう。」

スラムに一定期間居たスピネルは彼らが利益のないモノをわざわざ集めはしないと思っている。
結晶を目の前にやり、マジマジと見つめる。
流石に体内に取り込むことはやらないが。


「異邦人街か、結果が分かり次第邪魔するとしよう。」

触っても問題なさそうとのことだったので、近くでジュースを飲んでいた部下のチンピラに声を掛け。
結晶を根倉まで持ち運ばせることに。

フリーになった片手を差し出して。

「名刺とな、頂こう。
この国では両手で受け取るのがマナーと聞いたが、生憎今は傘を差していてな。
ちなみに我は名刺を持っておらんぞ。」

冗談で言ったとは思っていないようだ。
少年は少女の名刺に期待している。

焔誼迦具楽 >  
「あ、そっか。
 この結晶が噂の薬、って可能性もあるわけね」

 思いつかなかったというように、少年の言に両手を打って。

「ん、じゃあコレね。
 破壊神の助手やってます」

 と、冗談めかして言いながら、まるで手品のように手を握って開くと、そこには一枚の名刺。

『破壊神の助手
 焔誼迦具楽
 異邦人街 宗教施設群 〇〇〇〇』

 これもまた、一昔前に流行ったようなゴシック体のやたら主張が強い文字で作られていた。

スピネル > 「あの界隈は薬が多いだろう。
特に効き目が良く量産しやすい薬はよく出回るからな。
お主も妙な物は口に含むなよ。」

少年は名刺を待っている間、少々説教臭い事を口にしている。

「頂こう。」

本で読んだ通り、腰を曲げて受け取る。
名刺入れは無いので財布に仕舞うことになるが。
手品のように突然現れた時には首を傾げた。
どういう仕組みなのだろうかと。

「すまんが、2~3程質問をしていいだろうか。」

名刺を眺めながら、相手が返答をする間もなく口を動かす。

「お主の名だが、これはなんと呼べばいいのだ?
それと、この島には破壊神がいるのか?」

焔誼迦具楽 >  
「ほむらぎ、かぐら。
 読めないよね―この字。
 わかるわかる」

 うんうん、と頷きつつ、さて、と少し遠くをみる。

「居た――って言う方が正しいのかな。
 もう四年くらい会ってないや。
 まあきっと、そのうち、気が向いたときにふらっと帰ってくるんじゃないかしら」

 気まぐれで、なぜか風紀委員をやっていた意外と情に厚い破壊神。
 大切な友人を思い出しながら、そう答える。

「うちでも祀ってるから、もし来てくれるなら軽く手でも合わせてあげて。
 っと、それじゃあ私はそろそろ帰るね。
 夕方から特売があるの!」

 「卵がお一人様一点半額!」と、やたら所帯じみた発言をして。

「じゃ、ソレの事はお願いねー。
 またね、素敵なヴァンパイアさん!」

 そう言うと、手を振りながら学生通りを駆けていくだろう。

スピネル > 「ほ、ほむらぎ?」

読めないだけでなく発音も難しかった。
どの字がどの発音なのかもスピネルには難しい。
独学での限界を早くも感じてしまった。

「四年とはまた随分と長いな。
その間ずっと待っているお主も律義ではないか。」

事情はよく分からないが、元々部下が多数いた存在だけにちょっと心が温かくなる。

「宗教の類はあまり興味がないのだが、寄った時には手を合わせるくらいはしてやろう。」

ある意味でヴァンパイアらしい発言。
自らが一番尊いとの見解だからである。

「またな、かぐら。
後のことは我に任せると良い。」

名刺を仕舞ってから、少女に手を振る。
後姿が小さくなった頃、スピネルも姿を消した。

ご案内:「学生通り」から焔誼迦具楽さんが去りました。
ご案内:「学生通り」からスピネルさんが去りました。
ご案内:「学生通り」に日ノ岡 あかねさんが現れました。
日ノ岡 あかね > 人気のない、住宅街。急勾配の坂の上。
学生街の大通りが一望できるスポットで、シャッターを切る。
ポラロイドカメラから写真が吐き出された。
夏空に浮かんだ入道雲をバックにした街の遠景が、ゆっくりと現像される。

「ん、いい感じ」

バス停のベンチに勝手に座りこむ。此処のバスは一時間に数本も来ない。
この時間帯は利用者も少ない。
休憩所には丁度良かった。

ご案内:「学生通り」に紫陽花 剱菊さんが現れました。
紫陽花 剱菊 >  
そんな斜面を静かな足取りで登る男が一人。
炎天下の日差しの中、汗もかかずに昇っていく。
普段なら持ちえないビジネスバックを片手にただ黙々と、足を進めた。

「…………。」

登り切った先のバス停で、足を止める。
忘れるはずも無い、宵闇の少女の姿。

「……あかね……。」

自分が前回何をしたかは、覚えている。
表情はいつもと変わらない仏頂面。負い目はある。
だが、まずは物怖じせずに何時もの様にその名を口にし、会釈した。

日ノ岡 あかね > 「……」

一度だけ顔をみてから、溜息を吐いてカメラを傍らに置く。
わざとらしく返事しないで一度自販機でペットボトルの紅茶を買ってから元の席に戻り。

「なに?」

横目で一瞥だけして、そう問い返した。
普段より刺々しい。
笑ってない。

紫陽花 剱菊 >  
「…………。」

普段の誰にでも見せる笑顔さえ、今の自分にはない。
其れだけの事をしたと、今は自覚している。
視界に入っているかは定かでは無いが、最初の言葉は決めている。

「────済まなかった。」

先ずは、謝罪の意を言葉にした。
静かに深く、頭を下げた。黒糸のような黒髪が揺れる。
届かないのなら、其れは"彼女の意志"。
自らがとやかく言う事ではない。
夏風が髪を揺らし、其れ以外は微塵も動かず、頭を下げたまま静止。

日ノ岡 あかね > 「なにが?」

眉間に皺を寄せ、眉を下げた半目。
恐ろしく珍しい表情。普段滅多にあかねがしない顔。
両手でもったペットボトルの紅茶を啜りながら、剱菊の顔を覗き込む。

「まぁ、こういったら、たぶん、こまるとおもうけど」

普段よりたどたどしく、ぶつ切りに喋る。
どこか拗ねた様子で。

「でも、なにが、どうわるいと、おもったのかは、ききたい……かな」

吐息を零すように。
『それ』をしていい相手だとは思っている。

紫陽花 剱菊 >  
静かに、顔を上げる。
覗き込む剱菊の顔は、申し訳なさに眉を下げていた。
其れでも、彼女の視線から、目を逸らしたりはしない。

「……嗚呼、心得ている。」

元より其のつもりだ、と小さく頷いた。
ゆっくりと口を動かしていく。

「先刻の事……君の言う通り、恋に恋い焦がれていた。
 ……君の事、をあの屋上で話してくれた事を覚えていた。忘れるはずも無く、……と、思っていたが……」

「あの有様……返す言葉も無い。私は"君"が見えていなかった。」

「せっかちで、破廉恥な男だと誹られて当然だ……。」

あの屋上の出来事。彼女は勇気を振り絞って話した事
自分が其処に暗れ惑う少女を、そう、"ただの少女"を見つけた日。
己の首元を、静かになぞる。其れは、あかねが付けているチョーカーと同じ位置。

「紛れも無くあれは、"私の都合"だ。君の気持ちを、愛していると言ったにもかかわらず、無視をした、……と、思う。」

「少なくともあのような扱いを、君が望んでいたはずもない。」

「済まなんだ……読心の心得は無く、些か潔しとしない物言いでは在るが……。」

思い返せば思い返す程、口に出せば口に出す程、己の情けなさを自覚する。
人の心の複雑怪奇さを理解した心算でいた己を、少女の気持ちを、あかねが如何なるものを抱えていたか知っていた上で
あのような行いをした自分が、何をしたか。
ありありと口に出す言葉には、未だ不器用さが垣間見える。
事実、ある程度は推察の域を出ないが、多分……

あの時、俯いた彼女の顔は……─────。

「……君を悲しませた、……"怖がらせた"とも、"泣かせた"とも思う。」

「君の信頼に背いた、愚かな男だ。」

「……済まない、あかね。」

全てを言い終えると、再び深々と、頭を下げた。
……此れが正しいのかはどうかも未だ分からない。
無論此れだけでなく、己の悪い所を上げれば其れこそ日が暮れるまで何時までも挙げられる。
本当に、欠かかれた男だと思う。我ながら何とも、器用にいかぬものかと思う。
故に、"許しは乞はない"。其れだけの、女性に対して其れだけの事をしたと自覚したからだ。

日ノ岡 あかね > 「べつに、こわくもないし、ないたりも……しなかったわよ」

溜息を吐く、軽く後頭部を掻きながら。
そして、一度だけ横目で明後日の方向を向きながら……あかねは呟いた。

「がっかりしただけ」

実際、それが強かった。
言い訳にされた気がしたし、アクセサリにでもされた気分だった。
全てが欲しいだなんて言葉、良く男が使う言葉だ。
でもそんなのだいたい、「抱かせろ」でしかない。
そんな言葉を「プラトニックに」といった直後に言われた事もがっかりだったし、「まだ始まってもいない」と何度もいったのに理解されていなかったのもがっかりだった。
まぁ、こんなの脳内当ても同義なのだから当然でしかないが。
実際、あかねも普通の相手にこんなことされても「いつものこと」としか思わない。

なにせ、普通の人には「狂ってる」だの「怖い」だの平然と言われるのだから。
それこそ、いつものことだ。

でも、彼には……

日ノ岡 あかね >  
 
紫陽花剱菊には……まぁ、ワガママ言っても良いかなと思ったのだ。
 
 

日ノ岡 あかね > 『察しろ』なんて最大級のワガママ。
此の世で一番度し難いワガママ。
それでも……それを求めるくらいには、『理解してくれたんじゃないか』と勝手に幻想した。
それは……あかねの咎だ。
なので、あかねは申し訳なさそうにいつも通り笑ってから、改めて、剱菊の顔を見て。

「まぁ、私も『ワガママ』言って『無理』させたんだから悪いって事で……お互い仲直り。それでいいかしら?」

右手を差し出した。
気易く、いつも通りに。

紫陽花 剱菊 >  
「……失望足りうる要素は如何様にでも存在した。
 君の事を理解した心算で、微塵も理解出来ていなかった……。」

「……何も考えず、事実君の言われるままに、時間の無さを嘆いて、手を出そうとしたのも事実……。」

「是非も無く、割腹を以て詫びるべき事態で在る事は、理解しているつもりだ……。」

"がっかりしただけ"。
其れだけでも充分、咎められるべきで当然だと考えている。
確かに最終的には『抱かせろ』という考えだっただろう。
時間の無さを言い訳に、彼女に迫った。
事実、言われた事の意図をくみ取りもせず、無視をしたのだ。
大層生真面目な男だ。事実、差し伸べられた右手を見て、目を丸くし、あかねの顔と交互に見やった。

「……"我儘"……?」

些か、呆気を取られた。
そんな事を、"我儘"とも思っていなかった。
己の過ちの事をただ考えた。彼女は悪くない、と、自分が扱いを間違えた、と。
其れは事実だ。彼女を"がっかり"させたのだから、間違いはない。
だが彼女は、笑って自分の我儘だと、言った。

「…………。」

「……あ、いや……。」

何だか、あっという間に気まずい感じになった。
あれは我儘だったのか。
わからない。
ただ男は珍しく、其の表情は困惑し、恐らく誰にも見せた事も無い
"困惑する姿がそこにはある"。

「……其の、何だ……。」

「……あかねが、良いので在れば……御随意に……。」

おずおずと、差し出された右手を優しく、何時もの鉄の様に冷たい体温で、手に取った。

日ノ岡 あかね > 「私だって好きで喧嘩したりするわけじゃないんだけど?」

可笑しそうに笑ってから、右手を取って立ち上がる。
空のペットボトルを屑籠に放り投げて、伸びを一つ。
夏の日差しが、屑籠に落ちるペットボトルに反射して……強かに煌めいた。

「言いもしないで誰かに察しろとか勘付いてなんて言うのは全部ワガママよ。まぁ私は全部言ってたつもりだったけど……『つもり』で終わってたんだろうしね。伝わってなかったんだから」

伝わらなければ千の言葉も万の言葉も何の意味もない。
ただの文字の羅列だ。
意味が伝わらなければ……耳障りなノイズにしかならない。

「誰かと誰かが揉めたら片方だけ悪いなんてことは基本的にないの。だから、私もごめんなさい!」

頭を大きく下げて、笑いながら顔を上げる。
ニコニコといつも通りに。

「じゃ、その件はこれで終わりってことで」

一応、そう区切りはつける。
本当に区切れるかどうかはわからない。
まぁでも、言葉に出すことは大事だ。
お互い意識できるから。

「ま、『俺の女』みたいな面するならもうちょっとしっかりしてね。現状だと私、『彼氏いますか?』とか聞かれたら『いません』って答えるからね」

人差し指を突き出して、眉根を下げてそう叱責する。
半分冗談。半分本気。
まぁ、それくらいにはあかねも腹に据えかねたということだ。

紫陽花 剱菊 >  
「……其れは、……そうだな……。」

自分のいた世界では好き好んで喧嘩する連中のが多かった気もする。
然れど此処は乱世に非ず、己も好き好んで喧嘩したりはしない。
……人の心は複雑怪奇、十人十色とは言うが……。
何一つ分からない。まともに人として、ましてや女性と向き合った。
……こう言うものなのか?こう言うものなんだろうか。
乱反射する日の日差しより、彼女の方がより眩しかった。

「……そう言うものなのか……あ、いや……済まなんだ……そんな、……。」

"謝る必要もない"、と言いかけたが嚥下した。
言う前に、気づいた。
こう言うケジメの付け方なんだ、と。
だとすれば、其の言葉は余りにも無粋だ。
彼女の言葉に、はにかんだ。

「此方こそ……ありがとう、あかね……。」

お互い様、と言う事で一件落着。
ともすれば、ほとんど彼女のおかげだ。
彼女に大きく助けられた。まだまだ情けない男だ。
そんな自覚が有るから、叱責はしかとその胸に受け止めた。

「……肝に銘じておく。」

強く、頷いた。
本当に生真面目な男だ。
少なくとも、あかねが『腹を切れ』というのであれば躊躇いも無く腹を切る。
そう言うずれた堅い考えだからこそ、彼女の慈悲だと深く感謝している。
事実、そう言う部分が在るのは間違いない。
再び見えた彼女の笑顔に、安堵した。

「……ついで、と言う訳では無いがあかね……今、大丈夫か?」

「君の事に……正確には、君の今後『やる事』について、話がしたい。」

「……無論、不都合が在れば後程でも構わない……。」

日ノ岡 あかね > 「別に全然かまわないけど、何聞くの?」

小首を傾げる、もういつも通り。
先程のような不機嫌な様子はもうない。
夜で出会う時のようにニコニコとあかねは笑う。

「私の『やりたい事』と『これからする事』はだいたい説明したと思うけど……何か、詰めたい事でもあるの?」

実際、大筋は喋っているが、実際にやることなどは防諜などの都合もあって細かくは言っていない。
それだって、大筋分かってるなら十分とあかねは思っているからでもあるが。
実際、やることなど、『まず成功しない挑戦を、それでも願いのために行う』でしかないのだから。
例えるなら前人未到の冒険だ。
なので、心配されるのは仕方ないと思うし……詰めておきたいと思うのも道理である。
あかねは快く頷く。

「ま、何でも聞いて? 答えられることは全部答えるから。今まで通りね」

夏の日差しを半身に受けながら、柔らかく微笑む。

紫陽花 剱菊 >  
あかねの笑顔を見てから、小さく頷いた。
そして、一度目を瞑り、ゆっくりと開けば水底の黒は鋭くなる。
刃の如き鋭き眼光、即ち"戦人"の顔である。
彼女が行う大一番。其れは、自らにとってもだ。
刃では無く、"自らが選択人としての戦"である。

「……私は君に『待つ』と約束し、『共犯』も約束した。然もありなん……。」

「だが、私は常に『日ノ岡 あかねの隣』に居たい。無論、君の帰りを『待つ』事も役目だろうが……」

「……我儘と誹られても良い。だが、『共に行く』と決めた以上は確実を求める。」

「……君の"それ"を"追憶の絵"としたくはない……君自身の言葉を信じてる以上、君も其のつもりは無いだろうが……。」

其の挑戦が如何に無謀な事だとは聞いた。
成功率の低さ、何せ一度失敗している。
其の理由も、彼女が此処にいる理由も。
全て、全て、彼女自身が話してくれた。
彼女を大事にする余りに受け身になっていた部分も在った。
其れではいけない、と気づかされた。
故に、『共に行く』道を『選択』する。
だからこそ、彼女のカメラの事を一瞥し、指摘した。

「……では、順を追って。君にとっては嫌な事を思い出させるやも知れないが……。」

「同じ相手に無策で挑む程、君は愚かではないと思っている。……直入に言えば……」

「先ず一つ、君の"勝算"が知りたい。」

一度負け戦を経験した上での最大の一手。
負け戦を一割の勝ち戦にする秘策。
先ずは勝たねば意味がない。
此の無謀なる挑戦の勝ち筋を問いかける。

日ノ岡 あかね > 「ないけど」

あっさりと、あかねは言った。
当然のように。
むしろ、首を傾げながら。

「そりゃあ、前より準備はしてるし、成功率はあげてるわよ? それでも前にも言ったでしょ。成功率は1%未満。だから委員会は私を見逃してくれている。1%を超えたら介入されると思うわ。『危ない』から」

いくら小規模かつすぐに閉じるとはいえ、意図的に『門』を開くことに違いはない。
そんなこと、委員会や生徒会が通常なら看過するはずもない。
それが看過されている理由など……『尋常に考えれば土台不可能』と分かり切っているからだ。
今回も、恐らく『そういう結果』になるだろう。
だが、それは結局のところ下馬評に過ぎない。
だからこそ、あかねは。

「だって相手は……『真理』よ? ハッキリいって勝算無し。だけどね、これもいったはずだけど」

目を細めて……尋ねる。

「『他の代案』なんてあるの? あれば私、すぐにでも今の全てを放り出してそっちに注力するけど」

そう、他の手段などない。
最後の手段。正真正銘、『最後』の手段なのだ。
あかねだって、出来ればやりたくない。
……だが、他に『願い』を叶える手段がないのなら、もう仕方がない。
負けて元々で挑むしかないのだ。
これは本当に……それだけの話。

「勝算ないと勝負できないなら……博打はしないほうがいいわよ? 命の取り合いだってしないほうがいいわ。『そんなのない』のが普通なんだから」

クスクスと……あかねは笑った。
いつものように。

紫陽花 剱菊 >  
「…………否、前よりも勝算は在ると聞いたが故に、何か秘策の一つでも在るものと思っただけだ。」

剱菊は百戦錬磨で在れど、百戦百勝の猛将では無い。
多くの負け戦を経験したが、其れでも尚生き残り、二度目の刃が用心を以て対策し此れに勝つ。
戦場で生きるものとしては当然の事。
ともすれば、彼女も秘中の秘が在ると思っていたが、見当違いだったようだ。
だが、彼女の言う言葉にも一理ある。
委員会が目を光らせているからこそ、其れ以上の準備も出来ないと言うのも。
男は静かに、彼女の暗い瞳をじっと見据えている。

「……『真理』、か……。」

思えば、そんな途方の無いものを相手にすることは無かった。
元居た世界に居た魑魅魍魎も、神を自称するものも
須く"生命"で在った以上、悉く斬り伏せる事が出来た。
ともすれば此れは文字通り、神への挑戦。
"生命を越えたもののへの反逆"か。

「…………。」

「友人に言われた……"愛しているので在れば、何故止めない"。"お前は、あかねを見殺しにしたいのか"、と……。」

「返す言葉も無かったが……『代案』が在る訳でも無い。そして、何より、私自身が止めないと決めた。」

だからこそ今、此処にいる。
あかねの隣、ずっと暗がりで泣いていた少女に刃では無く、手を差し伸べた。
此の純粋な『願い』に共感したからこそ、此処にいる。
だが、あの陽の拳と友垣が語る言葉も事実。
本来ならば、彼女を止めるべきでは在るが……"秘中の秘"は、彼等のおかげで可能性が出来た。

「……三つほど、確認だ。」

「一つ、君から見て、『真理』とはどのように見えた?あれに、"生命"は在る様に見えたか?所感で結構。」

「二つ、"覆水盆に返らず"……仮に、君の……
 "君達"の願いを叶える手段を手に入れたとして……
 其れは"奇蹟"だ人の身に耐えうるものでは無い。
 其れは、願い"のみ"を手にしたとして起こりうる事か
 其れとも、そもそも『真理』に触れた時点での咎なのか……
 此れも、所感で結構。」

「三つ、失敗した時の人的被害、及び周囲の被害について、だ。」

「……どれも、答えれる範囲でいい、教えてくれ。」

静かだが、其の声音にはハッキリと何か、決意のような強い意思を感じるだろう。

日ノ岡 あかね > 「秘策はあるけど、秘策で攻略できるほど安い存在じゃないでしょ『真理』。まぁそれじゃあ一つずつ答えるわね」

あかねも出来得る限りの準備はしている。
それでも、それでも恐らく『まるで届かない』のだ。
前より足掛かりがいくつか増えただけ。
焼け石に水。
それでも……やらないのはただの怠惰。千里の道も一歩から。
以前はそれでも一歩どころでなく稼いだつもりだった。
それでも、ダメだった。
それを踏まえ……前回、千里の道が一歩だったところが、今度は三歩か五歩程度からのスタートができる。
三倍から五倍のアドバンテージと言えばすさまじく思える。
だが、そんなものは言葉と数字の詐術でしかない。
だからこそ、あかねは……大言壮語はしない。
事実だけを告げる。

「一つ目。生きてるとか死んでるとかそういうものじゃないわ、『アレ』は概念。だから私も頼っても良いかと思った」

そも、『そういう物』なのだ。タダの怪物かもしれない。
だが、少なくともこの世界の知性体が定義できるようなものではない。
過ぎた存在だ。存在と言っていいかも怪しいかもしれない。
そういう『何か』でしかない。

「二つ目。私達は願いを『叶えてもらう』わけじゃない、『実現可能な範囲での願いの叶う手段を尋ねる』だけ。『なんでも願いを叶えてくれる存在』なんて……いるわけがないし、いたとしても生徒会や委員会がそれへの接触を許すわけがないわ。だから、私達は聞くだけ……『解なし』って言われるかもしれない事を覚悟の上でね……で、その『解なし』を聞くだけでも『死ぬかもしれない』わけ。実際、『トゥルーサイト』はみんな死んだわ。みんなが何を聞いて死んだのかは……私は知らないけどね」

成功したところで願いを叶える手段が分かるとは限らない。
円周率を全桁表す手段がないのと同じように、不可能は不可能と言われて終わるかもしれない。
だが、そうじゃないかもしれない。
だから、まずは尋ねてみる。
それだけ。

「三つ目。挑んだ『トゥルーバイツ』の人員が死ぬだけよ。他に被害が拡大するなら生徒会に一秒掛からず今すぐにでも鎮圧されるわ。だから……失われる命は博打を打つ人たちの分だけ」

この島の強固さをあかねは良く知っている。
生徒会が本気を出したら、こんな計画は一秒どころか『存在していた痕跡』すら残されないかもしれない。
それほどまでに……この島の運営者達は恐ろしいのだ。
無数の怪物のような異能者ですら、彼等には何もすることができない。
そういう途方もない存在。
……そんな途方もない存在ですら、あかねの『願い』は助けなかった。助けてくれなかった。
故に、あかねは『もっと途方の無いもの』に頼るだけ。
この話は、至極単純な話でしかないのだ。