2020/07/21 のログ
ご案内:「学生通り」に日ノ岡 あかねさんが現れました。
日ノ岡 あかね > 路面電車沿いにあるベンチ。
大きな街路樹の木陰の元、あかねはポラロイドカメラを路上に向ける。
人並みと路面電車が交錯する景色。
あかねも『昔』は使った通学路。

「まぁ、最初だけだったけどね」

シャッターを切る。
通常校舎に居た時期はあかねは短い。
それでも、ここの記憶はそれなりに鮮やかに残っている。
まぁ、まだ島に来たばかりの頃だったから。

「もう、大昔ね」

冗談めかすように呟いて、ポラロイドカメラから吐き出された写真を手に取る。
ゆっくりと現像されていく写真を眺めながら、あかねは笑った。

ご案内:「学生通り」に227番さんが現れました。
227番 > 時間つぶしに街を歩いて、そろそろ公園へ戻ろうとしたとき。

「っ……!」

青い瞳が、探していた姿を視界に捉える。
見つけた。やっと見つけた。

神出鬼没。ともだちが言っていた言葉だ。
本当に、どこにいるかわからない人。

「……あかね!」

小さな少女が、足音を立てて駆け寄る。

日ノ岡 あかね > 「あら、ニナちゃん、久しぶりね」

にっこりと笑って、黒い瞳で青い瞳を見つめる。
落第街、その路地裏の片隅で出会った頃と変わらない笑み。
日ノ岡あかねはいつも通りに笑って、ベンチの隣から荷物を退かした。

「元気そうで何よりだわ。こっちの生活はどう? 少しは馴染めた?」

ニコニコと笑って、進捗を尋ねる。
『こちら側』で出会うのはお互い初めてだ。

227番 > 「あ、えっと、ひさしぶり」

たどたどしい調子で、挨拶を返す。
"久しぶり"もともだちに教えてもらったもの。
相手の変わらない声になんだか安心を覚える。

ああ、何から話そう。
準備していないときに限って、予期していないことが起きる。
とりあえず、空けてもらった所に座ろうか。

「ぁ……うん。いまのとこ、たのしい」

馴染めているかは怪しいが、特に不満もない。
ええと、話そうと決めていたことは……

「えっと、ひとつ、謝っても、いい?」

日ノ岡 あかね > 「それならよかったわ。え? 謝る? 何かしら?」

あかねは不思議そうに小首を傾げる。
路地裏で会った時と同じように。
違いがあるとすれば、今は昼間で、場所が学生街の片隅というだけ。
お互いの顔が夜より良く見える。
それでも、良く見える顔は……いつもと同じ笑み。

「私、ニナちゃんに謝られるようなことは……されてないと思うけど?」

227番 > 「えっと。誘ってくれた、のに、答えてなくて。
 一緒に、行かなかったから……ごめん、なさい」

小さく頭を下げる。
相手が本気であろうが、そうではなかろうが、断った……
というより、考えるとだけ言って、なにも返事をしていなかったから。
ただ、根拠はないが、あかねは赦してくれるとも思っている。

言いたかったことを1つ言い切ったら、続けて。

「……今があるの、あかねのおかげ、だから、お礼もしたい……
 何か、私にできること、ない?」

昼間であるなら、猫のように細い瞳孔が顔をよく見ようとしている。

日ノ岡 あかね > 「はははは! 別にいいのよ、だって……自分で『選んだ』んでしょ? それなら、そっちのほうがいいわ。私の方は『良かったら』ってだけ。それを謝る必要はないのよ」

あかねは嬉しそうに笑った。
かつて、227番は『その自由すらない生活』をしていたように思う。
落第街の奥底での極限の生活。そこでは『選ぶ』などという贅沢は到底できない。
だから、少しでも出来る様にとあかねは思っただけのこと。
その方がきっと『楽しい』から。
だが、その手間も取らず、自ら選んだ227番は……むしろ、あかねからすれば『立派』なものだ。

「今のニナちゃんの境遇はアナタが掴み取ったもの……私は何もしてないわ。出来る事は……じゃあ、そうね」

一度、人差し指を頤に当ててから、あかねは微笑み。

「一緒に、写真を撮りましょう! それが私からのお願い……聞いてくれるかしら?」

そういって、ポラロイドカメラを取り出す。
古びたカメラ。
スマートフォンやデジタルカメラがある昨今、すっかり時代遅れになったそれ。

227番 > 笑ってくれた。安心で表情が緩む。

「……ううん。あかねが、教えてくれた、から、選べた」

薄暗い場所では見つけられなかった、道を照らしてくれたから。
たとえそれが、昼の日差しのような明るい光ではなくとも。

227は、すべてのきっかけが、あかねにあると思っている。

「しゃしん?」

見慣れぬ道具を見て、首を傾げる。
写真とはなんだったか。見えるものを絵のように残すもの、だったっけ。
であれば、断る理由は特に無い。

「……うん、大丈夫。帽子、とったほうがいい?」

日ノ岡 あかね > 「そのままで大丈夫よ、ほら、こっちに顔近付けて!」

二人で身を寄せ合って、顔を近付ける。
古びたポラロイドカメラには生憎タイマーなんて便利なものはついていない。
だから、スマートフォンの自撮りのように思いきり手を突き出して、にっこりと笑い、軽くウィンクをしながら。

「えいっ!」

シャッターを切る。
吐き出されたのは、まだ真っ黒な写真。
それをパタパタと乾かして、ゆっくりと現像させる。
現れた画は……あかねと227番のツーショット。
年頃の少女相応のそれを眺めて、満足そうにあかねは頷く。

「ん、いい感じ。はい、じゃあこれあげる」

それを227番に差し出して、あかねは笑った。
昼時の街中、差し当たり何の変哲もない一幕。
落第街の片隅ではない、昼の日差しの只中。

「私のお願いはこれでおしまい。ありがとね、ニナちゃん……今が楽しいなら、私はそれで十分よ。ニナちゃん、これから何かするとか……決まってる?」

まるで進学先でも尋ねるかのように、軽い調子であかねは微笑む。

227番 > 現像する様子を眺めていると、写真を渡される。

「あ……うん。ありがと?」

この時代にはあまり存在しない、白い縁の付いた写真。
写るのは不思議そうに見るいつもの自分の顔と、いつものともだちの笑顔。
それをじっと見つめる。

「……大事に、する」

渡された意図はわからないが、貰ったものは大事にする。
曲がらないようにメモ帳に挟んで、ポーチにしまった。

「……これから?……わたしは、わたしの、昔のこと、しらべる。
 そのために、べんきょう、もする」

少女の気持ちは決まっている。

日ノ岡 あかね > 「ふふ! 素敵ね、ちゃんとニナちゃんは『自分の物語』を持っているわ」

227番の境遇はあかねもある程度は察している。
全部知っているわけではない。だが、落第街の路地裏で『ああ』していたころの頃はよく知っている。
だから、『トゥルーサイト』の頃から気にしていた。
彼女はもう、覚えていないかもしれないけれど。

「なら、なおの事……私からアナタにお願いすることはないから、安心して。ニナちゃんはもう自分の目的と、これからやるべきことを自覚して……『選んで』いる。だから、そうね、強いて言う事があるとすれば」

ゆっくりと、頭を撫でる。
帽子越しに、優しく……ゆっくりと。

「一人でも多くの人と関わって、一つでも多くの事を試して……自分から、能動的に動き続けて頂戴。誰かに答えを与えられるまで待ってちゃダメ。誰かに救われるまで待ってちゃダメ……待つだけじゃ機会はやってこない。待つだけじゃ物語は『始まらない』……全部、それは、自分で掴み取って、自分で紡ぐものだから。だけど……それでも、辛かったら」

そっと、電話番号の書かれたメモを渡す。
ヨキという教師の電話番号。
この島にずっといる……信頼できる教師。

「この人に頼りなさい、きっと……助けになってくれるわ。私の……いいえ、私達の頼れるセンセだから」

困ったら大人に相談する。
基本的な事の一つ。
まして、相手は教師。
思いきり甘えていい相手。

「『助けて』って自分から誰かに言う事は……勇気のいる事。だけど、困ったらその勇気を振り絞ってみて」

そういって、立ち上がる。
笑いながら、いつも通りに。

「それさえできたら……きっと、誰もがアナタの力になってくれるわ」

日ノ岡あかねは、ただ笑った。

「『またね』、ニナちゃん。次はアナタの物語がもっともっと進んでいることを……私は『楽しみ』にしているわ」

そのまま、相変わらず足音もさせず、あかねは去っていく。
何処へなりと。野良猫のように。
その様も……路地裏に居た頃と、何も変わらなかった。

ご案内:「学生通り」から日ノ岡 あかねさんが去りました。