2020/09/22 のログ
ご案内:「学生通り」に雨見風菜さんが現れました。
雨見風菜 > 学生通り。
道沿いの建物前、植え込みの縁石に雨見風菜は座っていた。

「……まぁ、そりゃあ入院した事実がない、というのは分かっていたことですが。
 だからどうしたっていう話なんですよねえ」

先日、綿津見くらげの悪夢に潜った後に確認したこと。
存在しなかった噛み跡、考えにくい症状での入院。
通院している自称も含めて虚偽であることが確認はできたが、風菜の知識や情報網ではそこで行き詰まるのであった。

(先ず間違いなく認識がなんかされてますよね。
 これ以上は通院するらしいくらげさんを尾行すべきでしょうか)

そう考えながら、麦茶を飲みのんびり座っている。

ご案内:「学生通り」にジーン・L・Jさんが現れました。
ジーン・L・J > 「やぁお嬢さん。何か思い悩んでいるようだね、私にそれを紛らわせる手伝いをさせてはくれないだろうか?」
縁石に座る少女の前に立ち止まり、声をかける女。芝居がかった仕草で両腕を広げるその姿は、漆黒のスーツと白い肌と目を隠す包帯で包まれた、あまりまともとは言えないものだった。

「隣、よろしいかな?」ヒールを鳴らしながら隣に立ち、座る前に許可を願う。

雨見風菜 > 唐突に声をかけられて。
顔を上げれば珍奇な姿。
だが何処かで見覚えがあったような……。

「ちょうど今新たな疑問が湧いたのですよね。
 貴方を何処かで見たような……女子寮でしたか」

勿論声をかけたわけでもなければ視界の端を通った程度なのでうる覚え。
でも確かあの時の内装は寮、それも風菜は女子寮しか知らない。
それはさておき、続く問いにも応える。

「ええ、お隣座られるのでしたらどうぞ」

ジーン・L・J > 「貴女のような美しい方に興味をもってもらえるとは恐悦の極み。ええ、私は先日女子寮に越してきたジーン・L・ジェットブラック。ジェイ、イー、エー、エヌ、ミドルネームはアルファベット一文字でL、あとは一番黒い黒色のジェットブラック。」
では失礼して、と隣に座ると、空中に指で文字を書いてスペルを示す。

「何か力になれれば、と思うんだけど、生憎この島で目覚めたばかり、だから出来るのは君のおしゃべり相手ぐらい、それではご不満でしょうか、お嬢さん。」
おどけたように手を開き、何も持っていないとでも言うように振る。血のように紅い紅を塗った口元が人懐っこい笑顔を浮かべている。

雨見風菜 > 「ふふ、美しいだなんてありがとうございます、ジーンさん。
 私は一年生の雨見風菜です、よろしくお願いしますね」

はたから見れば珍奇な女性に清楚な少女という取り合わせ。

「ふふ、ありがたいお話です、と言いたいところですが。
 実は知人の秘密についてなので、それについてはおしゃべりするだけにはいかないんですよね。
 ごめんなさい、ジーンさん」

そう言って、人差し指を立てて自分の唇に付ける。
その顔は、申し訳ないと言わんばかりの色を見せて。

ジーン・L・J > 「お世辞ではないよ、私は嘘はつかない主義でね。こちらこそよろしく、ミズ雨見。」
まるで舞台のスターのような仰々しい礼とともに、だが指先まで一切の隙なく行われたそれは珍奇な中に優雅さを感じさせるかもしれない。

「それは残念、秘密を共通する仲というものはとても甘美だというのに。」
肩をすくめて軽く天を仰ぐ。
「では気を紛らわせるのはどうだろう、ミズ雨見。私はこの学園、島について知っているのは型通りの説明だけ。入学でもらったパンフレットと同じぐらい薄っぺらい情報さ。そこに君についてという鮮やかな色彩を加えさせてくれないかな。あるいは、美しい顔に苦悩の色を漂わせながら思索にふけりたくて、私が邪魔だというのなら今日の所はお暇させてもらうけれど。」
すぐに立ち直し、包帯の向こうに目があれば視線が合うであろう位置に顔が向き直る。本当に単純なお喋りの誘い。そして邪魔ならば立ち去るという選択肢も与えつつ。

雨見風菜 > 「おしゃべりのお誘いですか?
 ええ、頭を悩ませているよりはそちらのほうがいいですね」

眼を顔を逸らさず、誘いに応える。

「さて、それじゃあ何をお喋りしましょう。
 好きな食べ物だとか?」

くすくすと笑いながらそう提案してみる。
なお、風菜は魔術を習得してはいるが、目の前の女性が魔力で形成されていることには気付いていない。

ジーン・L・J > 「ああ、良かった。悩みを解決出来ないのが残念だけれど、少しでも楽しませられたなら勇気を振り絞って声をかけた甲斐もあるというものだ。」
承諾を得られれば、口元も笑みに喜色が混じる。

「やっと笑ってくれたねお嬢さん。思った通り、君には笑顔の方が似合う。それに好きな食べ物か、いいね。君の好きなものは何でも知っておきたい、そうすればプレゼントの内容や食事に誘う店に迷わなくて済むからね。でも誘ったからには私から話そうか、私は実はトウモロコシに目がないんだ、ああ、ちゃんと包帯の奥に目はあるから安心して、比喩表現だよ。ポップコーンはもちろん、コーンポタージュ、焼きトウモロコシ、粉にひいてトルティーヤからタコスを作ってくれたら猫にマタタビを見せるより喜ぶよ。」
気付いていないならば教える必要はない。美人との楽しい会話に自分の体が肉と骨で出来ているか魔力と禁書で出来ているかは関係ない。
トウモロコシ料理の名前を指を折りながら挙げていく時は本当に嬉しそうな声色で、そこに嘘偽りは感じられないだろう。何の裏もない事実なのだから。

雨見風菜 > 「ええ、流石にこの悩みは解決できそうな人でないと……ね」

誰彼かまわず喋った挙げ句、誰かが迂闊に本人に言って、彼女に巣食う何かの悪影響があれば困る。
詳細を開かせない以上、言い出せないその言葉を何食わぬ顔で飲み込んで。

「あら、とうもろこしですか。
 私もとうもろこしが好きなんですよ。
 コーンポタージュ、焼きとうもろこしに茹でとうもろこし。
 良いですよねぇ」

同じものを好んでいるという相手。
そこに嘘偽りはないだろう……風菜には、相手の嘘を見抜く自信はあまりないが。
それでもこれだけ嬉しそうな声色である以上は。

「そうだ、ちょうど先日買い込んでおいたんですよ。
 いかがですか?」

言って、魔力を集中。
『物体収納』しておいた、真空パック処理された市販のゆでトウモロコシを差し出す。
勿論自分の分ももう片方の手に持っている。

ジーン・L・J > 解決できそうな人、という言葉に首肯して同意する。自分はそこに含まれないのは確かだろう。この島、もっと言えばこの時代にすら新参者だ。なにか役に立てるとは思わない。

「おっと、君もなのかい、素敵だね、同じ料理で舌鼓を打てる相手は素晴らしい。」
両手の指先を胸の前で合わせて、これまた嬉しそうに何度も頷く。
そしてその大好物が目の前に突如出されれば。
「…!」
自身の言葉通り猫が目の前にマタタビを放られたように一瞬固まってから、それを食い入るように顔を近づける。
「い、いいのかい?こっちに来てからまだ一度も食べてなかったんだ、それを今、ここで、食べて良いのかい?」
許可を求めているが、手がそろりそろりと伸びている。このままなら何も言わずとも受け取って食べそうなほどに。

雨見風菜 > 「ええ、そのために出したのですから」

そろりそろりと伸びてくる手に、握れるようにとうもろこしを当ててやり。
ジーンが握ればそのままとうもろこしを渡すだろう。

「一緒に食べておしゃべりというのもいいでしょう?」

清楚な振る舞いで、そう促す。

ジーン・L・J > 押し当てられた茹でとうもろこしはまるで手入れの行き届いた鍵が鍵穴に差し込まれるように何の抵抗もなく手に収まり。
「ミズ雨見、私はこの恩を忘れないよ。帰りに日記帳でも買って1ページ目に書いておく。」
握りしめたパック入りのトウモロコシ、薄れつつある理性で最大限急ぎつつも手順通りにパックを剥くと、黄色く甘い匂いを放つそれに大きく口を開けて――そこには猛獣のような尖った犬歯が覗いた――かぶりついた。
味を噛みしめるように咀嚼しながら天を仰ぐ。

ジーンが最後にトウモロコシを食べたのは《大変容》の直後、その当時に良質なトウモロコシが出回るはずもなく、そして今食べているのは常世島で魔術や異能を惜しみなく使って品種改良されたトウモロコシ、その落差は十年や二十年ではきかないだろう。
砂漠で乾いた旅人の水筒の最後の一口のように、ジーンはゆっくりと口の中の甘露を飲み込んだ。
「美味しい……私の記憶のよりずっと……これ、実は凄い高級品だったりするかい?」

雨見風菜 > ジーンがとうもろこしを受け取れば、瞬く間にパックを開けてかぶりついた。
うん、相当好きであることに嘘はないなと内心頷きながら。

「大袈裟……とは私の感覚でしょうね。
 ふふ、お好きにどうぞ」

言って、自分もパックを開けてかぶりつく。

「百円均一のものとはいえ、美味しいものです。
 ……高級?いえいえ、安いものですよ?」

風菜のその言葉は、百円均一のショップで売られるまでに普及したことを物語る。
食に貪欲な日本人が、手を抜くことがあるだろうか?
いや、無い。
無かったらこんにゃくなんてこの世に存在すまいし、大豆加工食品の多くもまた然り。
……というのが風菜の認識である。

ジーン・L・J > 「百円?これが?桁が1つ2つ足りない、というのが正直な感想だよ。はぐ……ん…ごくんっ。」
言われてまた一口飲み込んでからパックを見直してみれば、どこにも高級感を醸し出すような装飾も文字もなく、ひたすらチープな色合いと、ゆるい絵柄の擬人化されたトウモロコシが”美味しいよ!”と同族を食らうことを推奨してくる。

「人類は随分……進歩をしたんだね。説明を受けてはいたけど、まさに自分の体で実感したよ。」
感慨深そうに、合間合間にかぶりつきながらなのでそこに何の貫禄や人生の深みはないが、呟く。

雨見風菜 > ジーンのその言葉に違和感を覚える。
そもそも、これを高級品と勘違いしている時点で気づいていないとおかしいのかも知れないが。
とうもろこしを味わっている彼女を微笑ましく眺めながら、こっそりと魔紡ぎの針を手の中に出す。

風菜は、この針を持っていなければ魔力の流れを見ることはできない。
そして、その魔力の流れが、彼女の姿は魔力で形成されていることを如実に知らしめる。

とはいえ、今目の前にいるのはとうもろこし好きの変わった人でしか無い。
特に危険とかはないだろう、きっと。

「まるで龍宮城から帰った浦島太郎みたいですね。
 いえ、そのものでしょうか?」

微笑ましく見守りつつ、かぶりつきつつ。

ジーン・L・J > 自分が探られていることには気付かない。能動的な探知をされたのではない上に、目の前のトウモロコシにまさに夢中であったから。
そして実際ジーンは狩人だ、狩人の獲物は獣であって人ではない。人である限りこの狩人が狙いを定めることはない。

「それだとこのトウモロコシを食べ終わったら、年老いてしまうのかな?ああ、美味しかった。ごちそうさま。」
一粒も残すことなく、ましてやこぼすこともなく綺麗すぎるほど綺麗に食べ終えたトウモロコシの芯をパックの中に戻す。
「いやぁ、《大変容》のあとに長らく眠りについていてね。目覚めたのは本当にここ数日なんだよ。だから浦島太郎っていうのは半分当たりさ。違いは竜宮城で贅の限りを尽くしてないところかな。ふぅ、本当に美味しかった。これが本当に百円なんてねぇ、すごいデフレが起きてたりしないよね?」
気付かれたようであれば、自分の境遇を話す。禁書であるとまでは明かせない、《大変容》直後の動乱は人外であるかを明かすことに慎重になるには十分すぎる理由だ。
「ファッションも変化したんだね、私の記憶だとそういうのって、あまり人間がつけるような物じゃなかったと思うんだけど。」
目線、というものが赤い首輪に向いたのが感じられるだろう。それは嫌悪や揶揄ではなく、純粋な好奇の視線。

雨見風菜 > とりあえず探りたいことは探ったので針は仕舞う。
そして、玉手箱とかけたジョークに。

「このとうもろこしで年老いたら、私はとっくにお婆ちゃんですね。
 せっかくですしもう一本いかがです?」

くすくすと笑いながら、そう返す。
ついでに、とても喜んでいたからもう一本勧めてみる。
これも、ジーンがつかめばそのまま渡すだろう。

「あら、やっぱりそうなんですね。
 デフレは起きてませんし、日本人の食への執着で頑張ってまた流通に乗せたんだと思いますよ」

実際デフレもインフレも起きては居まい。
常識的な価格で取引が行われている以上、まだまだ大丈夫だろう。

そして話が首輪に及べば。

「この首輪ですか?
 ふふ、個人的な趣味でして」

ジーン・L・J > 「この味の対価としては妥当かも、なんて思うけど、君が年老いていく姿はみたくないな。きっとそうなっても美しさは損なわれないだろうけど。ありがとう。」
二本目ともなれば余裕を取り戻して、軽口を言いながら悠々とパックを開けてかぶりつく。
「まだ世界に荒れているところはあるらしいだけど、日本人が味の探求を続けられる程度の余裕は残ったようで嬉しいよ。量が揃わなければ質は二の次三の次になるものだからね。」
二本目のトウモロコシも相変わらず記憶の中とは比べ物にならないほど美味で、ゆっくり味わいたいのだが早く口に入れたいという欲求と戦う必要があった。

「君の趣味、か。それを初対面の相手に教えるのは差し支えるものかな?ああ、ちなみに私のこれは趣味と実利を兼ねているものなんだけど。」
これ、と目を覆い隠す包帯を指でつついて示す。どうやら首輪は一般的なファッションとは言えないものらしい。その理由を聞く前にまず自分の奇異なものを説明した。